ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ 作:不知火新夜
「皆、まずは拠点候補の場所へ行くぞ。ルールの関係上早い者勝ちだからな、話は拠点が決まってからだ」
突如として実施が通達された特別試験、当然と言えば当然ではあるのだが生徒達からは非難の声が上がった。
それも無理もないと言うしかない、事前連絡では無人島に建てられたペンションで1週間バカンスと聞いていたのに、やってきた無人島にはペンションの姿形が見当たらず、奥まった場所にあるのかなと思ったものの其処への案内をいつまでもしないばかりか携帯を回収したまま炎天下に暫く待たせて、やっと真嶋が言葉を発したかと思えばその内容は試験の実施、しかも8人入ったら一杯になる大きさのテント2つに懐中電灯2つ、マッチ1箱分と所謂段ボールトイレとその覆い用の簡易テントの1セット、後は日焼け止めと生徒全員分の歯磨きセットが支給されるだけの状況で1週間過ごせというサバイバルかよとツッコみたくなる物だ、ブチギレるのも仕方ないだろう、1年Aクラスのリーダー的存在の1人で頭髪の無い男子生徒――
だが真嶋はそんな非難の声をのらりくらりと躱し、或いは言い包めて試験説明を滞りなく進め、詳細説明を各クラスの担任に引き継いだ。
その説明の際にトイレとして支給される段ボールトイレの使い方等も話されたのだが、使えるトイレがそれだけだと言う事実に女子達の不満が爆発、それを咎めた一部男子と口論になり掛けた。
が、拠点も決まっていない状況で仲違いしていてはこの特別試験を乗り切れる訳がない、そう思い立った清隆が支給された物資を纏めつつ声を掛けて仲裁、今までリーダー役としてクラスを引っ張って来た信頼もあってか双方共に一旦は矛を収めてくれた。
「健、洋介。運ぶの手伝ってくれるか?目的地へ向かいながらマニュアルの内容を頭に叩き込んで置きたい」
「あいよ。俺が持っていく分はテント一式で良いか?」
「僕はトイレとそれ用の簡易テント、後は懐中電灯とマッチで良いかな?」
「十分だ。皆、心配しなくても何処を拠点とするかは目星を付けてある。船で周っている時に選定しておいた」
その物資の量は流石の清隆でも1人で持ち運ぶのは無理がある位の物だったが、試験ルールや購入可能な物資の内容を記載したマニュアルの熟読も考慮して物資運搬の分担を、クラスの中で誰よりも頼れる健と洋介に依頼した事もあって準備は滞りなく進み、他のクラスが話し合い、それを通り越して口論になっているのを尻目に、1年Cクラスは拠点候補として目星を付けていたとする場所へと一直線に進んで行った。
事前に選定したという言葉の通り迷いなく歩みを進める清隆の姿に、さっきまでトイレを巡って険悪なムードになっていたのも忘れて信頼し切った様子で後を付いていくクラスメート達、その気配を背に受けつつ、先程茶柱から渡されたマニュアルに目を通した。
・各クラスには試験開始時に300の専用ポイント(病欠者が1人出たAクラスは270、停学者が6人出たDクラスは120)が支給され、マニュアルに記載の物資はこのポイントを消費する事で行える。残ったポイントは2学期開始時点でcptに加算される。
・配布された腕時計は1週間装着が義務付けられ、許可なく外した場合にはペナルティが課せられる。
・無人島内にはスポットと呼ばれる地点があり、占有したクラスのみ使用可能になる。
・スポットを占有するには専用のキーカードが必要で、使用出来るのはリーダーとなった生徒のみである。
・1度の占有につき1ポイントを得られ(物資の購入には使用不可)、占有したスポットは自由に使用出来る。
・スポットの占有権は8時間しか効力を持たず、更新しないと自動的に権利が切れる。
・正当な理由無くリーダーを変更する事は出来ない。
・7日目の最終日、点呼のタイミングで他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられ、他クラスのリーダーを的中させることが出来た場合、的中させたクラス1つに付き50ポイントを得る。ただし他クラスのリーダーを間違えた場合、マイナス50ポイントされてしまう。
・他クラスにリーダーを言い当てられたクラスは50ポイントを支払わなければならず、スポット占有で得られたポイントは失われる。
・著しく体調を崩したり、大怪我をしたりして続行が難しいと判断された生徒はリタイアとなり、1人につきマイナス30ポイント(A、Dクラスの開始時ポイントが少ないのはこの規定が適用された為)。
・環境を汚染する行為を発見した場合、マイナス20ポイント。
・他クラスが占有しているスポットを許可無く使用した場合、マイナス50ポイント。
・毎日午前8時及び午後8時に行う点呼に不在の場合、1人につきマイナス5ポイント。
・他クラスへの暴力行為、略奪行為、器物破損などを行った場合、対象者の所属するクラスは即失格となり、対象者のpptも全て没収される。
上記のルール、そして購入可能な物資とその値段を頭に叩き込みながら足を進めていく清隆、やがて、
「着いたぞ」
「おぉ、洞窟か!実の採れそうな木が一杯生えていて、川も近くで流れていて良さげな所じゃねぇか!」
「この音、滝が近くにあるのね、水に困る事は無さそうだね!」
拠点候補と当たりを付けた場所、実の採れそうな木々で覆われた森と、川の水源たる滝が近くにある洞窟にたどり着いた。
サバイバル生活において水が必需品なのは言う迄も無いだろうし、食料となり得る木の実が採れるのも大きなアドバンテージ、この暑い盛りな状況で日差しをシャットアウト出来るのも有効性は高いだろう。
正にこの試験においてベストスポットと言って良い地点を発見した事でクラスメート達はもう勝利したかの様な歓喜に沸き立ち、清隆への支持が更に強まる事となったがまだ試験は始まったばかりだ。
「さて、さっき話題になったトイレ等の物資購入に必要なポイントの使用についてオレからも言わせて貰うが、仮設トイレとテントは2つずつ、仮設シャワー室は1つ購入する、これは絶対するべきだ」
先程揉める原因となったトイレの件を持ち出しつつ、清隆は物資を購入すべきと自らの判断を伝える。
その言葉に女子達は自分達の要望を酌んでくれたと笑顔を浮かべる一方、その女子達と口論していた一部男子は夏休み明けに増えるcptが減ってしまうのもあって納得していない様子だった。
それは是非も無い、清隆が絶対買うべきと言った仮設トイレと仮設シャワー室は其々1つ20ポイント、最初に支給されたのと同じ物であるテントは1つ10ポイント、清隆の言う通りに購入すればその時点で80ポイントが消費されてしまうという安くない買い物である、上位であるAとBとの差を踏まえたら物資購入に使いたくない、と彼らは思っていたのだ。
だがそんな反発が出て来るのを想定していない清隆ではない、苛立つ事無く説得に当たる。
「まずトイレだが、普段使っている物とは勝手が違う段ボールトイレ1つをオレ達40人が利用すると言うのはどう考えても無茶だろう。出し終わった後の片付けを考慮すると6、7分は掛かると考えて良い、それを40人が1回ずつ使うと仮定すると4時間以上は掛かる計算だ。人間が昼間にトイレへ行くのは平均して3~5時間おきと言われているがこの環境下ではそれも狂うだろう、トイレが空くのを待つ内に耐え切れず漏らす奴も出て来る。そうなったら環境汚染で20ポイントのマイナス、仮設トイレを買って置いた方が安く済む結果となるぞ」
「待て摂津、その仮定に意味は無い。お前が話していたトイレの間隔はあくまで平均的な、統計的な話だろう。現実的に大勢が同時にトイレへ行きたくなる事態なんて頻発する物じゃない。学校側も、十分回せると判断したから1つしか支給しなかったんだ。上手く使えば1つでも行ける」
何時調べたんだとツッコみたくなる、トイレに纏わる様々なデータを土台に説得していく清隆だったが、女子達と口論していた1人で、清隆と六助に次ぐ学力を有する男子生徒――
そんな輝彦に対して清隆は、呆れた様子を隠す事無く、とって置きと言って良い話題を出した。
「幸村、この試験の仕組みを考えたのは無人島に建てられたペンションで1週間過ごすとか大嘘こいた教師達が巣食う上層部だぞ。テントの時点でオレ達の半分も入れない数しか渡さなかったんだ、ある程度の物品購入を前提にこの試験のシステムが構築されていると考えるべきだ。大体、このトイレを覆う用として簡易テントが支給されているが、一般的なトイレのそれみたいな鍵が付いていないんだぞ。もし誰かが入っている状況で他の奴が乗り込んで来たら、それこそ女子が真っ最中な所に男子が入って来たら…」
「嫌!絶対、嫌!」
「摂津君もこう言っているんだからトイレの購入は絶対よ、絶対!」
「ま、まあそういう事だから男子用と女子用1つずつ、計2個のトイレは絶対購入し、支給された段ボールトイレは仮設トイレが使用中だけどもうどうしようもない時用とする。良いな、皆」
鍵の不備による侵入リスク、其処から引き起こされるであろう事態を想起させるかの様な清隆の口ぶりに「引き起こされる事態」に行き着いたであろう女子達がヒステリーを起こしたかの如く仮設トイレ購入を声高に主張、その圧力に仕掛け人の清隆も引き気味になりつつトイレの運用方針を通達、女子達が先頭に立つ形でそれは賛成された。
トイレを巡って女子達と口論していた一部男子、殊に清隆へ反論していた輝彦も「分かったって言え。言わなかったら、どうなっても知らないぞ?」と言いたげな女子達の殺気に屈して、頷くしかなかった。
「次にシャワー室だが、この炎天下だと発汗も多発する、それを放置する事による臭い等での拠点環境の悪化を考慮するとこれも1つは必要だ。そしてテントだが…済まんが男子4人と女子4人で、火の番を置きたい。トイレやテントの時点でこれだから懐中電灯の電池残量も心配だ。そんな中でも夜中にトイレやシャワーへ直行出来る様に火は常に灯したい。となると夜中に外で火の管理をする者を置かなければならないが、テントの節約も兼ねて出来れば男子4人、女子4人配備したい。無論言い出しっぺのオレと、リーダー役に指名する男子を火の番に入れる積りだ」
「お前がやるってんなら俺もやるぜ。何、体力には自信がある、徹夜も普通に行けるだろ」
「2人が、いや3人がか、真っ先にやると言ってくれたんだ、僕もやるよ」
「平田君が出るなら、私も行くよ」
「私も体力なら一杯あるから、やるよ!」
「せ、摂津君がやるなら私も…!」
仮設トイレ等の物資購入に関して論理立てた上で説得して見せた戦略観と、火の番にいの一番に立候補するその献身的な姿勢、それを目の当たりにして最初は反発していた者達も感心するしか無い。
その後に募った火の番の担当は、既に確定していたらしい清隆とリーダー役に指名予定の男子の他、健に洋介で男子の4人は確定、一方の女子は愛里の他、水泳部所属で4月の水泳授業での競争で女子部門優勝を果たした
「まあ幸村達の、cptを増やしてAクラスへ上がる為にもポイントは使いたくないという意見も分かる。AやBが物資を浪費するとは考えにくい以上、この段階で大きく差を詰められないのはもどかしく思うだろう。
だったら、此処から一気に稼げば良い」
「か、稼ぐってどうやって」
「スポットの占有だ。1つのスポット占有を更新し続ければ18ポイント、それを2つに増やせば36、3つなら54、10個占有し続ければ180だ。Bクラスの一之瀬もAクラスの葛城も堅実なタイプだし、Dクラスは空中分解状態だから論外、拠点以外のスポットに攻め込む余地は十分だ。此処で荒稼ぎするぞ。
それを担うリーダー役に、オレは高円寺を指名する」