ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ 作:不知火新夜
「リーダー役に、オレは高円寺を指名する」
突如として開始された無人島で1週間サバイバル生活をする特別試験、その拠点となるスポットの選定及びトイレ等の物資購入の方針策定を終わらせた清隆率いる1年Cクラス、次にポイントを増額させる手段の1つであるスポットの占有、それに必要なカードキーを使用出来るリーダー役を誰にするかの段階となったが、此処で清隆は自分と同等以上の身体能力を見込んでか六助を指名した。
が、
『えぇぇぇぇ…』
そんな清隆の指名を、クラスメートのほぼ全員と言って良い程の面々が嫌がった、清隆の側近的な立場となっている健ですら「お前マジで言ってんの?」と言いたげな様子だ。
入学してから今日までの4ヶ月間、春樹や寛治みたいなセクハラ間違いなしな言動も無ければ鈴音みたいな人の心無いんかとツッコまれる発言もしていない等其処までクラスメートからのヘイトを集めている訳では無い、それでも唯我独尊で協調性の「きょ」の字も無い性格は同じクラスで知らない者はいない位知れ渡っている、故にこの試験中で最も重大な役目であるリーダーに六助を指名した所で引き受ける筈が無い、強行した所でサボるに決まっていると誰もが考え、清隆の指名に嫌そうな反応を見せたのだ。
指名された六助も「酷い言われ様だな、まあ事実だからしょうがないけど」と言いたげに肩を竦める状況だが、清隆もそれが分からない訳では無い、故にその反応に取り乱す事無く話を始めた。
「まあ、皆が何で高円寺をリーダーに指名するのか、と思うのも当然だ。そんな反応が返って来ると分かり切っている中で何故オレが高円寺をリーダーに指名するか、その訳を説明する前に何件かオレの質問に答えてくれ。まずはこの無人島での特別試験におけるオレ達の目標は?」
「そりゃあ、出来るだけ多くのポイントを残して、スポット占有とかで稼いで、1週間乗り切る事だろ。そうすりゃあ夏休み明けにcptが大量に手に入るんだからよ」
「ああ、その認識で合っている。次にトイレの購入を巡って口論してまでcptを稼ごうとする目的は?」
「さっきから何を聞いているんだい?cptを稼ぐのは、それが他のクラスを上回る事で、僕達のクラスがAに上がるからだよ」
「まあ最後まで話を聞いてくれ。続いて、オレ達がcptで他を上回り、Aクラスへの昇格を目指す理由は?」
「それは、卒業時点でAクラスに在籍していなかったら、此処に入学する前の触れ込みにあった卒業後の進路にほぼ100%応えるという話が無くなるからだ」
「そうだ。じゃあ最後に聞きたいんだが、本当に今在籍しているクラスをAへ上げるしか進路保証を得られる術は無いのか?」
「そ、そんなのそれしか無いに」
「中間テストの時に言った筈だぞ、今在籍しているクラスを上げる以外にAクラスへ行くやり方がある、と」
が、何処か勿体ぶった様子でこの特別試験の目標、その大本と言って良いAクラス昇格を目指す理由を確認する清隆、その中で核心的部分と言って良いAクラスの特権、卒業後の進路保証を得る術が自クラスの昇格以外にもあると断言し、半数以上の者が驚いたが、以前にもその話題を口にしたのを覚えていた一部の者はその術に直ぐ気付いた。
「原則としてこの学校で、pptで買えない物は無い、そう、pptを他のクラスへ移籍する権利を買える位貯めてしまえば何時でも、それこそ卒業直前でもAクラスへ移籍出来る、卒業後の進路保証を得られるという事だ」
「だが摂津、その話を中間テストの折にお前から聞いて調べたが、2000万掛かるそうだぞ」
「ああ、余りにも高過ぎて実行した生徒はこの学校が創立して以来1人もいないらしい。法律とか校則とかに抵触する手段でpptをかき集めていた奴は移籍する前に所業がバレて退学させられたそうだし。
だが高円寺は、それを校則的にはグレーだが合法的に行える手段を有している」
2000万という大量のpptを用いたクラス移籍の権利購入、手段として存在こそしているものの余りにも高すぎるハードルもあり、有名無実化していたのだが、六助ならそれを合法的に成し遂げられると清隆は言い放った。
「卒業時に所持していたpptは学校が回収するというルールがあるのは知っている奴もいると思う。だからクラス間競争の趨勢も決まり、使い道が日々の暮らしや偶の贅沢位な生徒達は使い切ろうとする、持ったままにしていても勿体ないからな。其処に高円寺が「pptを譲渡してくれたら卒業後に同等の金額を渡す」契約を持ち掛ける、所謂リアルマネートレードだ。普通だったらそんな話は信用ならないと一笑に付す物だが「高円寺コンツェルンの跡取り」という肩書を持ったコイツなら必ず払ってくれるだろうと信用し、契約してくれる」
六助が行えるという方法、それは高円寺コンツェルンの財力に物言わせたリアルマネートレード、卒業時点でのpptを回収するというルールを無効化するそのやり方は当然認められていないが、pptの譲渡その物はお互いに納得した上であれば問題ない為「卒業後に現金化する契約を交わした」という事実が表に出ないと処罰出来ない、其処を上手く突いたグレーなやり方でpptをかき集められるという事だ。
「分かっただろう、日常的な振る舞いも査定の対象になると言われて尚自分勝手な言動を改めなかったり、勉強会にも全く協力しなかったりだったのは、既にAクラスへ確実に行ける術が確立した以上、クラス間の競争に関わる必然性が無かったからだ。ぶっちゃけ言えば勝つ事が決まっているヌルゲーをやらされる様でつまらなかった、という事だ」
『ふざけんなぁぁぁぁ!』
正に六助にしか出来ないやり方、然も其処で使う物が学力でも運動能力でも知略でも話術でも無く「実家の資金力」という個人の力ではどうにもならない物、その事実を突きつけられて膨れ上がった六助へのヘイトは、案の定爆発した。
もうAクラスに行く事が確定しているから競争には関わりませーんという六助が非協力的だった訳を聞かされて堪忍袋の緒が切れたクラスメート達は、とても本文中で書ける物じゃない罵詈雑言を六助に浴びせまくった。
「落ち着いた様だから話を続けるぞ。だがそんな高円寺も此れ迄の態度を改めざるを得ない事態が発生した。この中に最近ニュースを見聞きしたり新聞を読んだりした奴はいるか?」
「そういやぁ此処最近の新聞で良く見るな、確かコイツの実家の関係企業?で粉飾決算が指摘されたとか、安全管理を怠って重大事故が発生したとか」
「ゑ、健、お前、新聞を購読しているのか?」
「別に良いだろ、俺が毎朝新聞を読んでても。Bリーグの結果とかが乗ってるから読んでんだよ、色々勉強になりそうな事も乗ってるかも知れないし」
この辺りは入学時点で最低評価を受けた者達の巣窟と言うべきか、聞くに堪えない罵詈雑言が飛び交う事数分、クラスメート達が落ち着いたのを見計らった清隆は、とある事情によって六助がこれ迄の振る舞いを改めなくてはならない事態が発生した事を切り出した。
その事態に真っ先に思い当たったのが、学力面で最低評価だった健で、その情報源がまさかの新聞と言う事実に清隆達が意外そうな反応を見せて健の機嫌を損ねたのは余談である。
「話を戻そう。健が今言った通り、高円寺コンツェルンの関係企業で、この所粉飾決算や重大事故と言った不祥事が相次いでいる。1年近く前からニュースを賑わせているホワイトルーム事件と並んで、テレビやラジオのニュース番組や新聞で見聞きしない日は無いと言って良い位の大スキャンダルだ。当然の事「高円寺コンツェルンの跡取り」という肩書の信用性は崩れ、リアルマネートレードに応じてくれる人は一気に減る、もしかしたら契約破棄を突きつける人も出て来るだろうな、何せ卒業後に払ってくれる筈のお金が受け取れなくなる可能性があるんだからなぁ」
それはさておき、ここ最近、高円寺コンツェルンと密接な関係にある企業を中心として様々な不祥事が発生しており、それを聞いた生徒達からリアルマネートレードを断られたり、一度交わした契約の破棄を要求されたりといった事態が起こっていた。
卒業等によってこの学校の生徒で無くなるまでは外部との連絡が一切不可能という校則もあり、六助もこの事態をニュース等でしか知る事が出来ず、そういった生徒達に確信を持って説得する事が出来ないでいた。
「こうして2000万pptを使ってのクラス移籍という手段は使えなくなった。となればこのクラスをAへと上げるしか、卒業後の進路保証は得られない。故に今までの自分勝手な振る舞いを改め、クラス間競争に協力すると約束してくれたんだ。尤も、今までのコイツの振る舞いは皆も知っての通り、急に協力すると言われても信用ならんと思うのは当然だ。ただ其処は、今回の働きぶりを見て判断して貰うしかないな。
思う存分、働くと良い。遠慮する事は無いぞ」
これによってクラス移籍という手段を潰された六助は、やむなくクラス間競争に協力する事となった。
それを聞いたクラスメート達も渋々ながら納得する一方で六助に対しちゃんと働けと言わんばかりに厳しい視線を向ける、その反応から六助をリーダーとする事に賛同してくれたと判断した清隆は後方へと振り向き、六助以外誰も顔を見ていないのを良い事にデスノートの夜神月ばりのゲスい笑顔を浮かべながら圧を掛けた。
「良いとも、存分に力を振るわせて貰うよ、
クラス間競争に協力する≒クラスのリーダー役である清隆の方針に従う事と、見下した態度で「リーダー」としての多大な働きを命じて来る清隆に対して、六助は他人を呼ぶ際の独自ルールに滲ませた精一杯の罵倒を口にするしか、そんな反抗と言えない反抗を行うだけな自分への不甲斐なさに拳を振るわせるしか出来なかった。