ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ 作:不知火新夜
国立高度育成高等学校。
前話でも話した通り鬼島首相肝いりの教育政策の一環、未来を支える人材を育成するという名目で設立された全寮制の国立高校で、3年間外部との連絡は遮断され、夏休み等の長期休暇も含めて敷地の外に出る事を禁じられるものの、一方で卒業後の進路にほぼ100%応えるという触れ込みから各所から注目されている。
尤も幾ら卒業後の進路が確約されているからといって3年間外に出られない上に連絡も出来ない*1という閉鎖的な中で娯楽も無かったら勉強に対するモチベーションも上がらないだろう、という事で60万平米*2という広大な敷地には校舎や体育施設、生徒及び関係者達の寮の他にも、大型ショッピングモール『ケヤキモール』等の一通りの商業施設が入っており、最早ちょっとした市街地と化している。
そんな他の教育機関とは一線を画す学校に今日から籍を置く事となった清隆は、己が在籍する1年Dクラス、その窓際の1番後ろの席で、
「zzz…」
寝てた。
バスでの睡眠だけでは寝足りないと言わんばかりに、自分に割り振られた席に着くや否やその意識をシャットダウンしていた。
今後クラスメートとなるであろう、入室してきた生徒達は初日早々熟睡している清隆の姿にびっくりするも「今日が楽しみだったのかな」としてやはり流された。
流石にバスの時みたいな騒動は起こらず、初日のホームルームが始まる2、3分前に清隆は目覚めた。
起きてからの清隆はこれからの学校生活を共にする時間が一番多いであろう級友達の姿をみやり、その中にバスでの騒動の当事者である少年がいた事で「アイツもこのクラスか」と渋い顔をして…といった感じで残りの時間を過ごした。
「新入生諸君、私はこのDクラスの担任をする事となった
そうしている内に入室してきた、女性としては長身且つグラマラスな体躯をきっちりと着用されたスーツで覆い、長めな黒髪をポニーテールにした、所謂クールビューティーな雰囲気を纏う妙齢の教師――茶柱が、自らがこれから受け持つ生徒達に挨拶を行った。
その冒頭の説明を聞いた清隆が「アイツと3年間一緒なのか」と絶望感を露にするも特に気付くことなく、この高度育成高等学校のシステムについての説明に移った。
箇条書きにすると下記の通りだ。
外の世界みたいに「円」ではなく「ポイント」が通貨として用いられ、1ポイント=1円の価値がある。
学生なら誰もが所持する学生証、それにはクレジットカードと同じ様な機能があり、物の売買や施設の利用の際に認証させる事でポイントが消費される。
入学祝いに「相応の価値と将来性がある」として1人につき10万ポイントが支給されている。
ポイントは毎月1日に支給される。
ポイントの使い道は自由だが、使用する目的が無いとあらば譲渡も可能、ただし恐喝等による物には厳しく対処する。
卒業のタイミングでポイントは学校側に回収される。
そして、この学校は「実力で生徒を図る」。
「はい」
「名前は?」
一通り説明を終えた茶柱は、質問タイムだと言わんばかりに教室を見回すが、誰も彼もが10万ポイントという大金に戸惑いを隠せないのかその様子に気付かない…清隆を除いて。
「摂津清隆です。今、オレ達に相応の価値と将来性があるとして入学祝いに10万ポイントが支給されたと言いましたね、そしてこの学校は実力で生徒を図る、とも。つまり、
高い実力の持ち主と判断されて毎月の支給額が上昇する事も、しょうもない奴と判断されて支給額がカットされる事もある。そこら中に、それこそデスノートにてLが仕掛けた策を参考にしたと言わんばかりに設置された監視カメラは今言った恐喝行為への対処の他、実力の判断材料を得るための物でもある、という訳ですね?」
誰も行かないならオレが行く、と言わんばかりに挙手した清隆は、茶柱が応じたのを受けて盛大に切り込んだ。
清隆は気づいていたのだ、敷地内のそこかしこ、今いる1年Dクラスの教室に至っては数十という過剰と言って良い程に設置された監視カメラの存在に。
其処に茶柱からの「実力で図る」という説明、これで事の仔細を理解した清隆は確認するかの様に投げかけた。
「…すまないが、その質問に対しては答えられない」
「沈黙は是ですか、良く分かりました」
それに対して黙秘権を行使した茶柱だったが、この質問が確認の為の物に過ぎない清隆にとってその回答は肯定も同然である、確信した様子の彼に対し、10万の大金を貰って浮かれ気分だったクラスメート達、その中の半数以上は清隆の話が理解出来なかったのか唖然としたり困惑したり、というか話を聞いていなかったのか雰囲気の変化に戸惑ったりといった様子だが、監視カメラに言及した彼の視線の先に一部が目を向けると案の定それが見つかった、その存在を把握した者達は清隆の言っている事は本当なのだろうと思い知り、普段の生活態度も「実力」の判断材料の1つかもしれないと居住まいを正した。
「摂津の他に質問のある者は?…無い様だな。では良い学生ライフを送りたまえ」
清隆の質問を切っ掛けに浮かれ気分が鎮静化したクラス、それを受けて新たなる質問が出来たかどうか確認する茶柱だったが清隆の他に手を挙げる者は無く、そのまま教室を去った。
「皆、少し良いかな?僕らは今日から同じクラスで過ごす事になる、だから今から自己紹介を行って、1日でも早く皆が友達になれたらと思うんだ。入学式までまだ時間もあるし、どうかな?」
「なら、オレがトップバッターで良いか?さっきの話を詳しく聞きたいと言わんばかりに皆してオレの事を見ているし」
「君さえ良ければ頼むよ、僕も気になっていたし。そしたら摂津君、で良いんだよね?」
「ああ、分かった。改めて、摂津清隆だ。あ、摂津と言っても福岡のブルペンから良く電話で呼び出されるセットアッパーじゃないぞ。あっちとは漢字も違うし」
ひょっとしたら毎月10万貰えると思い込んでいた所にそうはならないかも知れないという事実を突きつけられたのだろう、茶柱が去った後清隆から詳しい話を聞こうとし、じゃあ誰が切り出すんだと尻込みする中、如何にも好青年な雰囲気を漂わせる生徒がそのファーストペンギンとなった。
清隆もそれに乗る形でトップバッターとなり、自己紹介の際に何故か某実況掲示板のネタを入れていた。
案の定と言うべきか大半のクラスメートはネタの意味が理解出来なかったのかポカンとしていた、ぶっちゃけて言えばスベっていた。
「さて、どうもその様子から毎月10万振り込まれると思っていたのが多かった様だが「入学祝いとして10万ポイントが振り込まれた」のと「ポイントは毎月振り込まれる」のは別の話として茶柱先生は言っていただろう。そして「10万は入学時点での実力と将来性を加味した物」であり「この学校は実力で生徒を図る」とも言っていた。茶柱先生のこれらの説明、そして校内至る所に設置された監視カメラという証拠を踏まえたら、答えは見えている。その図った実力、単に実力と言っても学力や運動能力は勿論、コミュニケーション能力とか常識感覚とか色々あるだろうが、それらの要素によって毎月振り込まれるポイントは、10万を優に超える事もあれば10万から減給、下手したら振り込まれないなんて事もあるという訳だ」
とはいえ清隆のすべり芸かとツッコまれそうな自己紹介が本題ではない、先程茶柱に対して投げかけた質問の真意が本命だ、それを分かっているのか清隆はより分かりやすく説明をした。
それを聞いたクラスメートの反応は様々だ、監視カメラの存在を通じて本当なのだろうと信じた者達は減点になる様な真似はしないと背筋を正す一方で、10万からカットどころかゼロ支給もあり得るという話を聞かされて動揺する者達、中には清隆の話を眉唾物だと、出鱈目だと思う者も少なくなかった。
「納得していないと言いたげだな、確かにオレが言った事はあくまで、状況証拠の積み重ねに基づく推論の域を出ない。だが出鱈目だと、有り得ないと言い切れるか?未来を支える人材を育成するという触れ込みなんだ、卒業後の進路を100%保証するにしても、出来うる事なら学力や運動能力は勿論、礼儀作法やマナーを弁え、報連相や意見発信、周囲とのコミュニケーションをしっかり行える学生を学校側は送りたいだろうし、進路先に選ばれた所もそういう学生に来て欲しいに決まっている。それが出来ていない奴らばかり送り込んでいたらこの学校も進路100%保証も22年続かないだろ。まあ、信じるか信じないかはお前達次第だがな」
清隆もそう思う者達がいるのは見抜いていた、故にそう釘を刺しつつ、それでも真偽の判断はクラスメート達に委ねて説明を終えた。
余談だが実を言うとこの高度育成高等学校は創立から20年余りが経過しており、教師を始めとした学校関係者の中にはこの学校のOBOGもいるらしい。
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「どうやらカメラによる監視範囲に、決して小さくない死角のエリアがあるな。経費削減の為の苦肉の策か、或いは…」
その後クラスメート達の自己紹介は、清隆の釘刺しが功を奏したかトラブル無く行われ、その後の入学式も終わり、そのまま解散となった。
新入生達はそのまま此処での住処となる寮へ向かったり、新たに出来た友達と目的地へ向かったりと思い思いの時を過ごす中、清隆もまた敷地内を散策していた。
尤も彼の場合は浮かれ気分による物だけではない、先ほどクラスメート達に突きつけた「実力による支給ポイントの増減」、その根拠の1つである監視カメラの視覚範囲に、決して小さくない「穴」があるのを見つけたからだ。
経費が足りず止む無く設置を諦めたか、いや教室内にあそこまで過剰に設置して置いてお金が足りませんは通らないだろう、ならば何かしらの思惑がある筈、そう思い至った清隆は懐から何かを取り出し、
『PROJECTION!』
その何か――空色のガシャポンの様な球体、その中央部にあるキャラクターが描かれた帯状のパーツを回転させた…