ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ 作:不知火新夜
高度育成高等学校に入学してから数日、1年Dクラスの教室は他の学校のそれとそう変わらない様子で授業が行われていた、未来を支える人材を育成するという名目で設立されたにしては至って普通な授業だった。
当初は悪い意味で他の学校とは違う感じになり掛けた、入学前からそういう傾向があったのか私語や居眠り等をする生徒がおり、教師達も注意したりせず只何かを書いている素振りを見せるのみだったのだが、
「ちょっと。今は授業中だよ、集中して」
「おい、授業中に余計な事してんじゃねぇ」
その代わり、実力によって支給ポイントが上下する事を見抜いてクラスメート達に呼びかけた清隆と、大量の監視カメラを見つけた事で彼の言葉が本当であると感じ取った者達のうち数名、入学初日に自己紹介を呼びかけた好青年な雰囲気の生徒――
殊に如何にもヤンキーだと言いたげな風格の健が風紀を正す側に回った効果は大きい、清隆や洋介らが最初に注意した際には「証拠がない」等と言い訳して反発しようとした者達も健が睨みを効かせた為に強く出られず、表面上は行いを正していた。
…尤も健も健で「何を言っているのかさっぱり分かんねぇけどせめて授業を聞いているフリだけでもしとかねぇと」というスタンス、然も入学から僅か1日という物凄く早い時期に入部したバスケ部での練習に時間を割いていて寝不足なのも相まって眠気に抗うので精一杯で、授業の内容など右から左に受け流している状態なのだが。
尚、健が最初から取り締まるスタンスだったかと言うとそうではない、これは清隆にも言える話なのだが、当初実力評価によるポイント支給額の増減は個人単位だと思っていた。
が、入学式等の定例式典でありがちな学校の偉い人達による長い話の中に仕込まれていたヒントに気付き、実力の査定がクラス単位だと見抜いた清隆と、彼からの助言を「清隆がそうだと思うんなら当たりだろ」と別件も相まって絶対的に信頼していた健がクラスメート達へ注意喚起する方向へシフト、最初から日頃の行動に注意を呼び掛ける積もりでいた洋介達と合流、クラスの秩序は維持されていた。
――――――――――――
そんな他の高校と一見変わらない日常を過ごしたその日の晩、清隆はとある高層ビルの屋上にいた。
どうした急にと言われそうだが、まず前提として高度育成高等学校に今清隆がいる様な高さ100mを優に超える高層ビルなど存在しない、建物の高さが最も高い学生寮でも半分に届くかどうかしかない、という事はつまり清隆は外出禁止な筈の高度育成高等学校の敷地から出ているという事になるが何故そんな事を、どうやって外に出た、それを防止する筈の警備は何をしているんだといろいろツッコみ所が出てくる。
だが清隆はそんなツッコみ所満載な状況を意に介す事なく、
「
『WING!Meztzamelo!Meztzamelo!』
そう、己の成すべき仕事を確認するかの様に呟きながら胸部に装着されたベルトらしき物体――ゼッツドライバー、そのバックルと思しき部分に空けられた穴に桃色のガシャポンみたいな球体――カプセムを装填、バックル上部に設けられた引き金を思わせる形状のスイッチ――トリガムを押し込んだ。
するとカプセムの名称を読み上げるかの様な音声と共に、ヒーロー物アニメ等で良く聞くBGMの様な音楽が流れ出した。
「
それを耳にした清隆は、今しがたトリガムを押し込んだ右親指で唇をなぞりながらそう呟くと、
「変身!」
『Good Morning!Rider!Zeztz!Zeztz!Zeeeeztz!WING!』
フィンガースナップと共に掛け声を発し、ゼッツドライバーに装填されたカプセム中央の帯状パーツ――ロータムウインドーを回転させた。
それによってロータムウインドーに描かれていた、翼が生えた悪魔の様なキャラクターが羽ばたくアニメーションと共に清隆の身体を侵食するかの如く赤黒い靄が覆い、それが晴れた後に、漆黒のライダースーツらしき被膜――ゼッツエグゾスキムに覆われ、腹筋や大胸筋を模したエメラルドグリーンの装甲――フィジカムコンバーターが着いた体躯、その胴体から銀色のライン――ゼッツゲイムラインが走り、其々銀色の装甲――ノンレムアーム及びノンレムレッグで保護された両腕両足、背中にはキャラのそれと同じく赤基調の翼――レムウイングを生やし、頭部にはキャラそっくりな造形のヘルメットらしきマスク――フィジカムマスクを装着した姿――仮面ライダーゼッツ フィジカムウイングへと変身を遂げていた。
そんな異形と化した清隆――ゼッツはレムウイングを羽ばたかせて空へと飛び立ち、目的の書類が保管されている施設へと向かった。
「あそこか。さて、センサー類の配置は…」
程なく目的地へと到達したゼッツは、何かしらの侵入を阻止する仕掛けがあるだろうと踏み、ICカードを入れるパスケースの様なアイテムを取り出し、カバー部分を開いた。
その瞬間、ただ周囲の風景を透過するだけだった筈の透明なカバー部、其処から透けて見える施設を縦横無尽に囲う様に張り巡らされた赤い線が現れたのだ。
「赤外線センサーか。抜かりないな、ウイングでの上からの潜入は無理か」
その線の正体は侵入者を検知する為のセンサーから放出された赤外線、この手のセンサーは、所謂スパイ物等ではまさか空や天井から侵入しては来ないだろうという侵入される側の考えから上部ががら空きになりがちなのだが、この施設は其処も抜かりなく配置されていたため、上空からの突破は無理と判断したゼッツは止む無くセンサーの配置が及んでいない外周部へと着地した。
「解除する暇も、身体を縮めてすり抜ける余裕もない、となれば、コイツか」
『TRANSFORM!Good Morning!Rider!ZeZeZeeeeztz!TRANSFORM!』
此処からどう潜入して目的の書類を入手するか思案したゼッツはやがて打開策を思いついたのか、橙色のカプセム――トランスフォームカプセムを取り出し、変身した時と同様の流れでその力を解放した。
するとロータムウインドーに描かれていたキャラクターが異様な姿へと変貌するアニメーションと共に、背中のレムウイングが消失、代わりに両手両足のノンレムアームとノンレムレッグが赤色に染まっていき、ラインを増設したかの様なデザインの装甲――トランスレムアーム及びトランスレムレッグへと変化した。
「其処だ」
新たなる姿――フィジカムトランスフォームとなったゼッツは、まるで某海賊漫画の主人公である全身ゴム人間と化した船長みたいに右腕を伸ばしたり、赤外線の網を掻い潜るかの様に細くしたり、かと思えば樹木が枝分かれするかの様に分裂したりといった方法で施設内を飛来していく。
最も右腕だけ潜入させても見えていなかったら意味ないんじゃ?とツッコまれそうだが其処は抜かりなかった、先程赤外線の網を暴いたパスケースのカバーは此処でも威力を発揮、壁が殆ど透過された状態で映し出された施設の全貌を基に右腕を動かし、やがて目的の物が保管されていると思しき厳重そうなキャビネットへと辿り着いた。
「此処だけは堅実な鍵タイプか、形状こそ複製の難しいディンプル型だが…オレの前には無いも同然だ」
そう言いながらキャビネットの鍵穴に指を差し込み、手を捻ると何の抵抗も無く鍵は開錠され、扉は開かれた。
そして目的の書類を確認するや否やそれをがっちりと固定して右腕を引き戻し、
「
ゼッツは俯きながらそう口にした。
――――――――――――
清隆が目を開けると、其処は先程の施設、ではなく彼が住処としている高度育成高等学校の学生寮、その401号室の天井。
――そう、清隆が昨晩、ゼッツに変身してスパイの如き任務に当たっていたのは、彼が見ていた夢の話。
「さて、行くか」
そんな昨晩の夢の事などもう終わった話だと言わんばかりに清隆は立ち上がり、己が纏う衣服を高度育成高等学校が制定したそれに着替える。
シャワーを浴びて洗い流した己の身に、まずはアンダーウェアを着用し、清隆の体躯よりも1周り位サイズの大きいYシャツを羽織る…前に、左手に持っていたゼッツドライバーを装着、その後改めてYシャツを着用した。
――但し、夢の中の出来事全てが非現実の物とは限らない。