ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ 作:不知火新夜
『綾小路篤臣元議員が運営していたとされている違法施設『ホワイトルーム』について速報です。ホワイトルームに関する方針を記載したと思しき資料が発見されたと、捜査関係者への取材で明らかになりました』
このところニュース番組や新聞、ネット記事等を賑わせているホワイトルームの件に関する速報を知らせるアナウンサーの声が聞こえる中、清隆達は今日もまた授業を受けたり友達と駄弁ったりと世間一般的な高校生とそれ程変わらない日常を始めようとしていた。
その中の1つである体育の授業、今日は敷地内にあるプールでの水泳だ。
まだ4月なのに水泳の授業?と疑問に思う読者もいるだろうが其処は国立高度育成高等学校、プールも屋内の温水タイプで1年中使用出来るように設備が整っているのである。
「おはよう山内!」
「おはよう池!」
「いやぁ授業が楽しみ過ぎて目が冴えちゃってさぁ」
「なはは。この学校は最高だよな、まさかこの時期から水泳があるなんてさ!」
「水泳と言えば、女の子!」
「女の子と言えば!」
「「スク水だよなぁ!」」
何故そんな話をしたのかと言うと、その水泳の授業を巡ってDクラスで厄介な問題が発生したからだ。
清隆が教室にたどり着くか着かないかのタイミングで、一部男子の配慮も何もない猥談が聞こえてきたのだ。
話の中心になっていたのは、入学初日の自己紹介で「小学校の時は卓球で全国へ行き、中学校は野球部でエースで4番、だけどインターハイで怪我して今はリハビリ中」という誰が聞いても嘘だと分かる発言をした
案の定と言うべきか水着姿の女子を想像して性的欲求をむき出しにした彼らを見る女子生徒達の目は厳しい、下心丸出しな事に対する軽蔑、自分もそういう目で見られた挙句襲われるのではという恐怖等の色を隠そうともしないのだがそれを意に介していないのか、胸の大きさでランキングを作成するとか、その作成の為に男子の1人を見学させて測らせるとかと、猥談はヒートアップするばかりだったが、
「皆、もし今の山内達の言葉を聞いて出たくないと思ったら遠慮なく見学席に回って良い。『水着姿になりたくないです、一部男子による重度のセクハラがトラウマになったからです』と言えば査定に響かない筈だ。何なら診断書も申請する、必要ならオレに言ってくれ」
『なっ!?』
女子達への呼びかけという名の『爆弾』を投下した清隆、そしてその言葉を受けて診断書の申請を依頼した16人もの女子達によってその望みは打ち砕かれた。
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「でけぇプールだな、中学の倍以上はあるんじゃねぇか?」
「そうだな。『未来を支える人材を育成する』という触れ込みなんだ、どの分野においても国際的な競争で勝てる様に土俵は合わせていく、その為なら金に糸目はつけないって事だろう」
「という事はテレビとかでやっている水泳大会のプール位には大きいって訳だね」
そして午後の水泳の授業となり、プールへと移動した清隆達、少なからずワクワクしていたのか真っ先に着替え終わった清隆達は、その大きさ、一般的な学校で採用されている25mの短水路ではなく、公式大会での標準となっている50mの長水路を採用したが故の大きさに驚きを隠せなかった。
…尤も先に集合した男子の中で表情がさえない者達は少なくない、彼らにとってはプールの大きさなどぶっちゃけどうでも良く、女子達の水着姿や、プールに着水してずぶ濡れになった彼女達を見たかったのだが、清隆による『横やり』によって大半が見学に回る事が確定してしまったのだから。
中にはその機会を台無しにした清隆を憎たらし気に睨みつける者もいたのだが、隣に立つ大柄でガタイの良い体格の健と、それにも引けを取らない位に鍛え上げられた理想的な細マッチョ体形を有する清隆の前に突っかかれる者はいなかった。
「えーと、診断書を提出した見学者は16人、未提出の見学者は…よし、ゼロだな。
早速だが、準備体操をしたら泳いで貰うぞ」
「あの先生、俺あんまり泳げないんですけど…」
「俺が担当するからには、必ず夏までに泳げる様にしてやる。安心しろ」
「いえ、別に無理して泳げる様にならなくても良いですよ。どうせ、海になんか行かないんだし」
「そうはいかん。今は苦手でも構わんが克服はさせる。泳げるようになっておけば、必ず後で役に立つ。必ず、な」
そうこうしている内に見学に回らなかった女子達と、水泳を担当する教師がやって来たので整列、それを受けて教師が、授業開始前に提出された診断書と見学席に回った生徒達を見回し、所謂ズル休みがいないのを確認すると、いきなり泳げと指示を飛ばした。
それに対して『楽しみ』を奪われたが故のテンションの低さも相まって乗り気じゃない男子の1人が泳げない事を伝えるも教師は「泳げる様にする」「克服させる」「必ず後で役に立つ」と何が何でも泳ぎを習得させるぞと念押しするばかり。
そんな姿に清隆ら一部生徒は「…もしや?」と言いたげな表情となったが、何時までもプールサイドに留まっているわけにはいかない、一通り準備運動を済ませ、各自プールへと入って行き、思い思いに泳いでいた。
「とりあえず殆どの者が泳げる様だな。では早速だがこれから競争をする。男女別、50m自由形だ。一位になった生徒には、俺から特別ボーナスで5000ポイントを支給しよう。一番遅かった奴には、逆に補習を受けさせるから覚悟しろよ。女子は人数が少ないから一発勝負だ。男子は各組で1位になった5人で決勝をやるぞ」
そんな生徒達の泳ぎを一通り眺めた教師はその後、競争の開催を宣言、優勝した者にポイントを支給するという話を聞いて泳ぎに自信のある者達がやる気を高める一方、自信の無い者達は補習の話を聞いて嫌そうな顔をしていた。
因みに清隆と健は前者の方で、その自信が自惚れでは無いぞと言わんばかりに予選の其々の組で24秒台というタイムで1位通過を果たし、決勝へと駒を進めたのだが、
「フフッなかなか面白いショーだったね。だが、本番はここからさ。諸君、仲良く見ていたまえ。真の実力者が泳げばどうなるのかを!」
此処で5000ポイントを獲得する上で最大の脅威と言える存在が登場した。
入学初日のバスで優先席を占有した挙句、イヤホンから音漏れするレベルの音量で音楽を聴いていたという自己中な行動をしていてなお悪びれる事なく、自分こそが世界の中心だと言わんばかりの態度をとる男子――大企業グループ「高円寺コンツェルン」の跡取りだとする
「私は勝負などに興味はないが、負けるのは好きじゃないんでねぇ」
そうしてスタートした六助のいる組だったが、彼がロケットスタートを決め、そのまま他を圧倒する速度を出して突き進んで行き、
「は、速ぇ!」
「摂津や須藤より早いんじゃねぇか!?」
「せ、先生、タイムは!?」
「23秒22…だと…!」
「いつも通り私の腹筋、背筋、大胸筋は絶好調のようだ」
そのままの勢いでゴール、それまでトップ層だった清隆や健を1秒近くも上回るタイムを叩き出し、驚愕する周囲を気にすることなくプールを出た。
その姿に「此処で何としても奴の天狗っ鼻をへし折ってやる」と謎の決意を固めた清隆は、教師に質問を投げかけた。
「先生、1つ良いですか?」
「摂津か。どうした?」
「今更の話ですが、
この競争に競泳の競争規則って適用されますか?」
その質問に教師は一瞬何を聞いているのか分からないと言わんばかりに困惑したが、
「それは公式大会とかで適用されるルールの事か?それに関しては良識の範囲内であればあれこれ口出しする積もりは無いぞ」
「そうですか、分かりました」
そう答え、それに満足した清隆は決勝レースへの準備に戻った。
六助の圧倒的タイムに対する驚愕が残っていた為か、清隆が教師に投げかけた質問の事を知るものは殆どいない為にそのまま決勝レースが始まる事となった、その顔ぶれは清隆と健、六助の他、洋介と、健と同じくバスケ部所属の
その5人がスタート台に立ち、教師の笛と共にプールへと飛び込み、程なくして水面へと浮かび上がり、其々の泳法でゴールへと目指していった、が、
「あ、あれ?摂津君は?コースに浮かんで来ないんだけど…」
「出遅れた?でもスタート台にはいないから飛び込んでいる筈…」
其処に清隆の姿は無かった。
まさかの事態にスタートしなかったのではないのかとスタート台に目を向けるも其処にも清隆はいない、じゃあどこへ行ったのかと探す生徒達だが、ある男子生徒が驚いた様子でとある地点を指差した。
「い、いや、よく見ろ!摂津の奴、潜ったまま泳いでいるぞ!」
その男子が指差した先には、プールの底面付近を潜ったまま、イルカやシャチの如く下半身をしならせてゴールへと突き進む清隆の姿があった。
彼が披露したのは所謂『潜水泳法』、水中に入ったまま泳ぐ事で、水面近くで泳ぐ時と比べて波の抵抗を受けず推進力を高められるメリットがあり、オリンピックのリレーメンバーに選ばれた事のある日本の男子選手が50mをこの泳法で泳ぎ切った際、50m自由形の日本記録*1を上回るタイムを叩き出した事がある。
一方で、一切の息継ぎをしないまま泳ぐという危険性も相まって、世界水泳連盟が定めた競泳競技規則ではスタート直後及び折り返し地点から、平泳ぎ以外の種目では15m、平泳ぎでは二かき目までに頭を水面に出さなければならないとされており、これを踏まえると清隆の今回の泳ぎはガッツリとルールに抵触している、教師に国際ルール適用の有無を事前確認したのはこの為だ。
そんな、ルール無用の泳法を敢行し、先頭に立つ清隆に気付き、他の4人も負けてなるものかとペースを上げるも、水面近くにいるが故の波の抵抗というハンデは大きく、かと言ってもう1回潜水する余裕もない、そうこうしている内に清隆は後続との差をどんどん広げ、ゴールへとたどり着いた。
「20秒97、21秒を切った、だと…!」
そのタイムは、流石に50m自由形の世界記録*2には及ばなかったものの日本記録を1秒近く上回る物、公式大会では失格になる泳法とはいえその圧倒的な速さにプールサイドに居た者は皆驚愕し、見学席にいた女子達は「摂津君かっこいー!」「凄いよ摂津君!」と黄色い声援を飛ばし、ゴールして顔を出すや否やタイムを確認していた清隆は「しゃぁ!」と声援に応えるかの如くガッツポーズをした。
「おま、潜ったまま全力で泳ぐとか正気か!?何で其処まで…」
「ポイントが欲しかったのもそうだが、あの自分こそが世界の中心だと言いたげな、此処へ向かうバスでのやらかしや天罰等記憶にありませんと言わんばかりに態度を正そうともしないあのクソボケに敗北の味を絶対味合わせてやると気合が入ったんだ」
「お、おう。清隆、お前クールに見えて割とガキっぽい所もあるんだな」
「これでもまだ15だぞ、誰だってガキっぽい所の1つや2つ位はあるだろ」
そんな清隆から遅れる事数秒でゴールした健は、何でそんな危険な事までして勝ちたかったんだと清隆に問うたが、帰って来た答えはかなり子供じみた物だった。
それを聞いて、入学してから初めての友達である清隆、冷静で洞察力が鋭く、クラスメート達に親身に接する彼にも子供っぽい一面があったんだなと言いたげな反応を見せた一方、同じく数秒遅れでゴールした六助は、そんな清隆を複雑そうな表情で見ていた。
「公式大会のルールを基にあれこれ指摘する気は無いと言ったのはこっちだし、やった事も妨害の類じゃなくて皆して行っている事の延長だ。摂津、1位のお前には約束通り5000ポイントの特別ボーナスだが…50万ポイントやるから、本気で水泳部に入らないか? お前なら頂点を狙えるぞ」
「お誘い、有難い話ですが色々やりたい事があるので、謹んでお断りします」
そんな視線に構う事無くプールを出た清隆に、教師が水泳部へ勧誘するも、帰って来たのはお断りの挨拶だったのは余談である。