ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ   作:不知火新夜

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6話

その日の放課後の事だった。

 

『1年Bクラスの摂津清隆君。茶柱先生がお呼びです、職員室へお越し下さい』

 

突如として流れ出した、清隆を呼び出すアナウンス。

何か呼び出される様なやらかしをした覚えは無かったが、行かなければ指導拒否として罰則が適用されるかも知れない、そう思い職員室へ向かったのだが、

 

「あれ、君は確かサエちゃんのクラスの生徒だよね?放送で呼び出された生徒は君だったりする?」

「ええ。で、その茶柱先生は一体何処に?」

「それが今席を外しているみたいなんだよねぇ。ねえねえ、サエちゃんには何で呼び出されたの?」

「オレも知りません。問題行動とかはしていなかったと思うんですが」

(星之宮(ほしのみや)知恵(ちえ)、確か元Bクラスの担任教師だったな、元Bクラスと言えば彼女が配属されたクラスか)

 

当の呼び出した本人は不在というまさかの事態、代わりに応対したのは茶柱よりも背は低めだがよりメリハリが強調された体躯、ライトブラウンの長髪、明るくフランクな雰囲気の女性教師――星之宮知恵。

その彼女が担当するクラスが、目当ての生徒が所属していると清隆が気づいたのを他所に、高校時代からの親友で下の名前にちゃん付けで呼び合う仲だった等と昔話をし始めた星之宮、だったがその親し気に話す様子とは裏腹に何処か警戒心がにじみ出ているのを清隆は察知、何かしら茶柱との因縁があるのかも知れないと推察した。

其処へ、

 

「何をしている、星之宮」

 

戻って来たのだろう、星之宮の背後へ現れた茶柱が、頭へ手にしていたクリップボードを振り下ろす。

スパァンという良い音に見合った威力だったのか、一撃を食らった星之宮が頭を押さえて蹲っていた。

 

「いったぁ、何するの!」

「うちの生徒に絡んでいるからだ」

「サエちゃんに会いに来たって言うから、いない間相手してあげたのにぃ」

「放っておけばいいだろ。さて摂津、生活指導室まで来て貰おうか」

「オレ、何かしました?悪い事した記憶は無いですが」

「口答えはいい。ついて来い」

 

まさかの攻撃に抗議の声を上げる星之宮だったが茶柱は取り合う事無く、生徒指導室へついて来るよう清隆へと指示を飛ばす、その内容、というより生徒指導室に悪いイメージしか持っていない清隆が真意を問いただすも答える事なく向かおうとしたが、

 

「て、お前はついてくるな、星之宮」

「えー、いいじゃなーい」

「これはDクラスの問題だ。さっさと持ち場へ戻れ」

「冷たい事言わなくても良いじゃない。聞いても減る物じゃないでしょ?だって、あのサエちゃんがいきなり新入生を指導室に呼び出したんだし…何か狙いがあるのかなぁって」

 

其処に星之宮もついて行こうと歩みを揃えた。

 

「もしかしてサエちゃん、この勢いのままAクラスでも狙う?いや、サエちゃんにはそんな事無理だよねぇ」

 

拒否の意を示す茶柱に対してやけに粘着する星之宮、先程推察した因縁もそうだが、恐らく入学からたった1月で自分の担当クラスがCに降格したのに対して、Bへとジャンプアップ、逆転した茶柱に対して脅威と感じているのかも知れない。

自分の受け持ちがAクラスで卒業し、生徒全員が思い通りの進路へと進められれば、必然的に担当教師としての指導手腕を内外に示す事となる、それを踏まえたら星之宮もまた自分のクラスを昇格させるべく、教師としての一線は守りつつクラスの一員として動いているのだろう、と、今尚続く茶柱と星之宮のやり取りを通じて清隆は感じ取ったが、それはとある介入で終結となった。

 

「星之宮先生。少しお時間宜しいでしょうか?生徒会の件でお話があります」

 

ストロベリーブロンドの長髪、茶柱達にも引けを取らないグラマラスな体躯の女子生徒が星之宮に声を掛けた事で、これ幸いと茶柱は追い払うかの様に対応を促した。

 

(一之瀬(いちのせ)帆波(ほなみ)…生徒会への加入志望か。そこを呼び出しのネタに使えるか?いや役員じゃないオレが話題に出しても怪しまれるだけか。どう切り出せば良いか…?)

 

そうして清隆達から離れて行った星之宮達、その姿を見やった清隆は目当ての女子生徒――元Bクラス所属の一之瀬帆波と直接では無いにしろ邂逅出来た事に軽く笑みを浮かべながら、どう接触を図るべきか思案していた。

 

「さあ、邪魔者もいなくなったし、ついて来い」

 

そんな清隆の様子を知ってか知らずかそう呼びかけて生徒指導室へと向かう茶柱、その案内に従うと程なくして目的地へ辿り着いた。

 

「それで、オレを呼び出したのは一体どのような理由でしょうか?」

「それなんだが…話をする前にちょっとこっちへ来てくれ」

 

が、部屋へと入って程なく、今度は指導室内にあるドアを開け、そっちへ来るように声を掛けた。

中を覗くと給湯室の様で、コンロの上にはヤカンが置かれていた。

 

「お茶でも湧かせば良いですか?」

「余計な事はしなくて良い。良いか、私が出て来て良いと言う迄、此処で物音を立てずに静かにしているんだ。破れば退学にする」

 

職員室へと呼び出したかと思ったら生徒指導室への同行を命じ、かと思えば退学処分をちらつかせて給湯室での待機を命じた茶柱は、返事を聞く事無く指導室へ戻って行った。

だが退学処分の話は単なる脅しに過ぎないだろう、幾らテストの赤点1つでこの学校から追い出される等、退学のハードルが低いこの学校であってもクラス担任程度でしかない茶柱の考え1つで処分が下されるのは越権行為で認められないと清隆は判断、指示に背いて懐から水色のカプセムと、それを装填する穴が設けられたシューティンググリップと思しきアイテムを取り出し、そのままカプセムを装填、とある作業を開始した。

それを行いながら聞き耳を立てていると、程なく生徒指導室のドアからノック音がし、それを受けて茶柱が入室の指示を出し、誰かが入って来た。

 

「それで私に何の話だ、堀北?」

「率直にお聞きします。何故、私はDクラスに配属されたのでしょうか」

「本当に率直だな」

「先生は今日、クラスは優秀な人間から順に上位のクラスに選ばれると仰いました。そしてDクラスは落ちこぼれが集まる最後の砦だと」

「そうだな。間違った事は言っていないと思うが?」

「私は、入学試験の問題は殆ど解けたと自負していますし、面接でも大きなミスをした記憶はありません。Aクラスとは言いませんが、少なくともDクラス所属になるとは思えません」

 

堀北(ほりきた)鈴音(すずね)

黒い長髪、クールビューティーという言葉が当てはまる端麗な容貌、数日前の小テストで清隆に次ぐ2位タイとなった優秀な学力、そのまた数日前の水泳競争でトップにこそなれなかったが好タイムを記録した抜群の運動能力、と此処迄なら非の打ち所の無い、何でDクラス所属になったのかが分からない位に優秀な女子生徒だが一方で、人とのコミュニケーションをとるのが嫌いなのか孤独を貫き、たまに口を開いても無愛想で遠慮のない物言いからか周囲から浮きまくっていた彼女については、席が隣である清隆もどんな人となりかは十分に理解していなかった。

2人が会う場所はほぼ教室のみであり、清隆は基本的に登校してから授業が始まるまで仮眠しているし、鈴音は鈴音で人付き合いなど必要ないというスタンス故に話し掛けて来ないからである。

その致命的と言って良い程のコミュニケーション能力及び姿勢の欠如以外は完璧な彼女が、清隆が『試験官の不当評価』の話題を出すまでも無くこうして抗議に出向くのは当然の摂理だったかと納得しつつ、作業と盗み聞きを続ける事にした。

 

「ああ。お前の入試結果は見立て通り、同率4位の成績を収めている。面接でも、特別注視される問題点は見つかっていない。寧ろ、高評価だと聞いている」

「ありがとうございます。では、何故?」

「先程も言ったが、学力だけで優秀だと誰が決めた?我々はそんな事は一言も言っていない」

「それは、世の中の常識の話をしているんです」

「常識、ね。その常識とやらが、今の駄目な日本を作っていると何故分からない? 普通の学校であれば、確かに勉強が出来る事は一つのステータスだ。しかし、この学校は本当の意味で優秀な人間を生み出す学校だ。冷静になって考えてみろ。仮に学力だけで優劣を決めていたなら、須藤達が入学出来ると思うのか?」

「それは確かにそうですが、摂津君も言っていた筈です。この一か月、私達のクラスが、多少のしくじりもあったとは言え守るべき事を守っていたのを他所に、元Cクラスでは無断での欠席や遅刻、授業中の居眠りや喧嘩等の素行不良が度々発生し、その結果としてポイントが半減してDクラスに転落したと。摂津君の言う事を素直に聞き、守るべき事を守っていた私達のクラスよりも、そんな事も守ろうとしない元Cクラスが1つ上と事前に評価されていたんです、試験官の評価が的外れなのは明らかだと言わざるを得ません」

「だが須藤が言っていたそうじゃないか、摂津が指摘していなかったら居眠りや遅刻でポイントを減らしていたかも知れないと、クラスメート達もきっとそうであり、山内と池を中心としたあのやらかし等氷山の表出した一角に過ぎないと。逆に言えばCクラス所属となった者達も、誰かが摂津の様に指摘していれば素直に聞いて、取り組んでいたかも知れないぞ。つまり今回クラスの順位が、評価がひっくり返ったのは摂津みたいな奴がクラスにいるか否かの違いでしか無く、生徒達の個人評価を揺らがす物ではない。お前もまた然りだ、Dクラスになるべくしてなったという事だ」

 

彼が盗み聞きしているとは知る由も無く、試験官による不当評価でDクラス行きになったのではないかと抗議の声を上げる鈴音だったが茶柱は様々な理由を並べ、評価の正当性を主張するのみ、やがてクラス担任でしかない茶柱と話していても意味が無いと判断して生徒指導室を後にしようとした。

 

「まあ待て堀北、会わせたい奴がいる。出て来い摂津、出て来なければ退学にするぞ」

 

其処で茶柱は、引き止めを兼ねて清隆を呼び出した、相変わらず退学処分を脅し文句に使って。

まさか他に誰かがいると思っていなかったのか驚き、退室する足を止めた鈴音に対し、給湯室での作業を終えたらしい清隆はシューティンググリップを懐にしまいつつ、生徒指導室へと戻った。

 

「…最初から聞いていたの?」

「まあ、な。この場合は茶柱先生に聞かされた、と言うべきか?」

「…先生、何故この様な事を?」

「必要な事と判断したからだ、おっと、出て行こうとするな。さっき言っていた通り入学初日にこの学校の仕組みの大半に気付き注意を呼びかけてBクラスへと昇格させた、今やクラスのリーダー格である摂津についての話だ。最後まで聞いていれば、Aクラスへ上がる為のヒントを聞けるかも知れないぞ?」

 

この場に清隆を留め、自分の話を聞かせた挙句同席させた茶柱の意図が分からず、付き合ってられんと言わんばかりに再び退室しようとする鈴音だったが茶柱がそれを止め、話が始まった。

 

「さて摂津、お前は素晴らしい生徒だな。入試も先日の小テストも満点と文句なしの学力、水泳の授業で行われた競争で泳法違反とはいえ日本記録を軽く上回った抜群の運動能力、入学初日に監視カメラの存在を見抜いた挙句に私の説明の節々からこの学校の大方の仕組みを見破った洞察力、その情報をクラスメート達に的確に伝えつつ所々でフォローも忘れない協調性とコミュニケーション能力…

お前はこの学校が始まって以来の、最高の生徒だと言っても過言では無いだろう」

 

その中で茶柱は今日までの清隆の人となりを振り返りつつ称賛するも、当の本人は平然としている一方で、鈴音は尚の事試験官の評価が的外れだったんじゃないかとの疑いを深めたが、

 

「そんな欠点など何一つ見当たらない、文字通り完璧なお前が、落ちこぼれのDクラスに配属された事は流石の私も何かの間違いではないかと疑ったぞ。もしかしたら今の人となりからは想像もつかない『何か』があるかも知れないと思って調べさせて貰ったが、

 

 

 

 

 

何も無かったぞ。そう、何もかも、が、だ」

 

其処で茶柱は爆弾を放り込んだ。

能力的に問題が無いどころか高水準にも拘わらずDクラスへ配属すべきと判断した要素があるんじゃないかと調べたが、そういった物、どころか『摂津清隆』という学生の履歴情報すら存在しなかったと、鈴音に向けて「分かっているな?」と言いたげな視線を向けつつそう捉えられる表現で言い放ったのである。

その言外に込められた意味を即座に察知して「てめぇ何バラしてんだゴルァ」と言いたげに目を細めた清隆だったが茶柱は素知らぬ顔で退室を促し、2人は生徒指導室を後にした。

 

「摂津君、貴方は、一体何者なの…?」

 

生徒指導室を出た2人、その1人である鈴音もまた茶柱の言葉の真意に気付き、眼前の頭脳も身体能力もリーダーシップも物凄い男子生徒という認識だった清隆が途端に何処か得体の知れない存在に見え、思わずそう呟いていた。

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