ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ   作:不知火新夜

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7話

それはこの学校の様々なシステムの正体が判明し、最初の山場と言って良い中間テストの実施が発表されてから数日後の事、この日も『とある用事』を済ませた清隆と健が寮へと向かっていると、クラスメートである1人の女子生徒が、寮からは違う方向へと早足で向かう姿を目撃した。

 

「あれ、櫛田か?どうしたんだアイツ、何かイラついているみてぇだが?」

 

櫛田(くしだ)桔梗(ききょう)

性別やクラス、学年の違いなど関係なく学校中の皆と友達になりたいと入学初日の自己紹介で宣言し、その可愛い系の容貌とナイスバディ、天使と言われる程の気配りの良さから人気が高く、宣言通り幅広い交流関係を築いている。

言わば、清隆と洋介が男子側のリーダー的存在ならば、桔梗は女子側のリーダー的存在、プールでの一件もあって清隆と洋介には敵愾心を隠そうともしない春樹達も桔梗相手ならば話を聞いてくれる、清隆も自分だけでは纏め切れないDクラスの運営について彼女も関わらせる等、頼りにしているのだ。

 

「そういえば健には関わりの無い話だからと伝えていなかったな。実を言うと今日、櫛田からクラスの勉強会を欠席すると連絡があったんだ。山内と池の2人と独自に勉強会をやると堀北が名乗り出て、櫛田がそのセッティングをする事になったんだとか」

「あのクソガキコンビといけ好かねぇ女で勉強会?失敗する気しかしねぇんだが…」

「櫛田のあの様子だと案の定だな。頼まれて勉強会をセッティングしたのに依頼人が台無しにしたんだ、誰だって平静ではいられないさ。内面的に参っていないか心配だ、ちょっと様子を見に行く」

「だな。この後は暇だし、ついて行くぜ」

 

依頼を受けて春樹と寛治を勉強会に呼び寄せたにも拘わらず失敗され、メンツを潰される格好となった桔梗を案じ、彼女の後を付いて行くことにした2人。

と此処で、展開が色々と省略され過ぎなせいで、まるで意味が分からんぞ!とツッコまれそうなのでこれ迄の経緯を説明しよう。

小テストの実施が発表されてから少し経ったある日の昼休み、洋介がクラス単位での勉強会の開催を発表した。

テストでの赤点による退学の回避と、個人で使用出来るポイント――ppt(プライベートポイント)の毎月の支給額やクラスの上下関係を決める基準となるcpt(クラスポイント)のプラスを目的として参加を要望したのだが、小テストで赤点相当な者達など学力に不安のあるクラスメート達はともかく、学力上位の講師としての参加を求められる者達は鈴音みたいに人との関わり合いをしたがらなかったり、六助みたいにそもそも人から命じられて何かするのを良しとしなかったりと不参加が相次ぎ、そして小テストで唯一満点を獲得するなど髄一の学力を持つが故に講師としての参加を強く望まれた清隆は然し「健との勉強会があるから参加出来ない」と此方も不参加を表明した。

実は茶柱からポイントの支給に関わる評価等が伝えられ、それを受けての清隆の呼びかけが行われてから、茶柱からの呼び出しを受ける迄の間に健から勉強を教えて欲しいと頼まれていたのだ。

小テストでぶっちぎりの最下位という結果に終わった健が、それでも清隆の呼びかけ、その前に感謝の意を述べた際に真っ先に返答した挙句コーレスに躊躇なく参加したのは何故かと言うと「テストなんて一夜漬けで何とかなる」という甘い考えがあったからなのだが、この前の小テストみたいに抜き打ちで実施されたら一夜漬けは通用しないと気づき、もしそれをされてしまったらこの学校にはもういられなくなってしまうという恐怖を抱き、此処での最大の親友にして学力も完璧な清隆に泣きついたという訳だ。

それを聞いた清隆は当初、バスケ部との両立は大丈夫かとか、誰かに教えた経験が無いのにやれるのかとか、そもそも勉強嫌いな健が続けられるのかとか、様々な理由で難色を示していたのだが、頼み込む健の本気振りを感じ取って承諾、その日から、クラス単位での勉強会の呼びかけが行われる数日も前から『とある用事』…マンツーマンでの勉強会をやっていたのだ。

それ故に参加を渋る清隆に洋介達も合流すれば良い等と食い下がるも「他との理解度の差もあるし、そもそも健が机を囲んでというのが嫌みたいだ」等の理由を並べた為に断念、代わりとして健みたいに皆との勉強会という形はちょっと…等の理由で参加しないクラスメート達へのフォローを担当する事となった。

こうして始まった1年Bクラスの勉強会は、清隆不在とはいえそれでも清隆と双璧を成すイケメンとして人気の洋介と、天使として皆を魅了する桔梗、クラスのまとめ役で学力も上位に位置する2人の存在もあって女子を中心に半数以上が参加、不参加の生徒達も鈴音等の学力的には十分な者達はスルー、それ以外の勉強会という雰囲気に引け目を感じる者達もプールでの一件等で清隆と少なからず交流のある者達であった為、フォローも滞り無く行われた。

とはいえ全く問題ありませんでしたと断言出来る状態ではない、そのどれにも該当しない者がごく少数ながらいたのだ。

やっぱりかと思うがそれは春樹と寛治、当初の健と同じく一夜漬けで乗り切る積りなのもそうだが「女子からキャーキャー言われている平田がいけ好かない」という理由で勉強会に不参加、清隆のフォローもプールでの一件もあって突っぱねている為かテストに向けての対応を決めあぐねていたのだ。

そんな状況下で清隆は、生徒指導室での一件以来やたらと絡んで来る鈴音に対して独自に勉強会を開催して2人に教えてやれと密かに指示を飛ばした。

結局あの後、学校側に試験官の評価不備を問い質したが突き返された鈴音はその後、Aクラスへの昇格を目指してリーダー格である清隆に何かと協力を要請するも、健との勉強会等での多忙さや、鈴音がやろうとしている事の効果や具体性等への疑問、そもそもその遠慮のない物言い故の不躾な態度から断っていたのだが、対応に気に食わない事があれば睨みつけたりコンパスを出して突き刺そうとしたりと攻撃的な行動をしてくる彼女には清隆も手を焼いていた。

其処に同じく清隆の意に沿わない春樹と寛治、それを見て鈴音に2人を押し付けようと思いつき「そんなに手を貸して欲しいのなら、まずはあの問題児2人の学力を何とかして見せろ。Aクラスに相応しいのならそんな事は朝飯前だろ?話はそれからだ」と挑発的な言葉を交えて指示を飛ばしたのだ。

この日の、鈴音を講師役とした春樹と寛治2人の勉強会の開催、そのセッティングに桔梗が駆り出された為にクラスの勉強会を欠席したのはそういう経緯があったのだが、今の桔梗の様子からして失敗した模様だ。

勉強会実施初日にして失敗に終わった様を目撃して内心「まあ、そうなるのも必然か」と納得していたが表に出す事なく、それに巻き込まれた桔梗を案じて後を追っていると、その身は校舎の屋上へと向かって行った。

まさか屋上から飛び降り自殺でもするんじゃないか、最悪な状況を想像し顔を青ざめさせた健と、それを想定してもしもの事があれば助けに入ると決意した清隆、そんな2人が後ろにいる事など知る由も無く屋内と外を隔てる扉へと桔梗はたどり着き、

 

「ふっざけんなぁ!」

 

ガァン!という強烈な打撃音が響き渡った。

先の件で潰されたメンツ、それに対する怒りをこの一撃に込めましたと言っても過言じゃない位のキック力を発揮した蹴りが扉に炸裂したのだ。

予想外の展開を目の当たりにし、ハトが豆鉄砲を食らった様な顔で固まる健に対し、清隆は懐から端末を取り出してビデオアプリを起動しつつ「録画を任せる。オレが呼んだら保存してくれ」と小声で言い残し、桔梗の背後に近づいた。

 

「マジでウザい、ムカつく。死ねば良いのに、自分が可愛いと思ってお高く止まりやがって。あんたみたいな性格の女が、勉強なんて教えられるわけないっつーの」

 

背後に近づいた清隆、その後ろで己の醜態を録画している健に気付く事無く、メンツを潰した鈴音への負の感情むき出しな暴言を吐きまくる桔梗。

 

「あー最悪。ほんっと、堀北ウザい、ほんっとにウザい!」

 

それでも怒りが収まらないのか、鈴音への怒りを込めたキックが再度扉へと炸裂した。

だがその際に響き渡った金属音で流石に我に返ったのか、目撃者がいないか後ろを振り返るも、其処には背後に忍び寄っていた清隆がいた。

 

「…何してんの、摂津君?」

「寮に帰ろうとしたら、校舎に早足で向かう櫛田の姿を見かけたんだ。山内達の勉強会が失敗したのかと心配になって後を追って見たら…相当闇深いんだな、お前」

「最初から聞いていた訳ね…今聞いた事、誰かにバラしたら容赦しないから」

 

普段とは180度違うと言っても過言じゃない裏の顔を目撃されたと知り、口封じを図る桔梗、その後ろで録画している健には全く気付いていないのか、清隆の口さえ塞げばどうとでもなると思っているのだろう。

 

「バラしたら、何だ?」

「此処であんたにレイプされたって言いふらす」

「見事な冤罪だな」

「大丈夫、冤罪じゃなくなるから」

 

恐らく己の服に清隆の指紋を付ける事で、身体を触られた証拠とする腹積もりだろう、口論を交わしながら距離を詰め、清隆の腕を取ろうとしたその時だった。

 

「健!」

「っ!?」

 

呼んだら保存しろ、そう予め指示を飛ばしていた清隆が、そのトリガーとなる声を上げた。

それを受けてピッという音と共に録画が停止、動画を保存した健に対し、清隆以外に人がいたと思わなかったのか、声と機械音に驚愕して固まってしまった桔梗。

 

「録れているか?」

「おう、バッチリだ」

 

程なく姿を現した健に録画の確認を取った清隆の一方、桔梗は気が動転したのか、まさかの行動を取った。

健もまた己の裏の顔を目撃したという事に気付いているのかいないのか、助けを求めんと駆け出したのだ。

 

「す、須藤君助けて!摂津君に襲われt」

「オラァ!」

「が!?あ…!」

 

その瞬間、ごすぅ!という強烈な音と共に、桔梗の腹部に猛烈な衝撃と痛みが響き渡り、彼女は崩れ落ちた。

健に助けを求めんと近寄って来た桔梗の腹部に向けて、渾身のボディブローをぶち込んだのである。

 

「何も悪くありません的な顔して近寄んじゃねぇよ、クソ女」

 

腹部を襲う強大な苦痛等があって蹲ったままの桔梗、そんな彼女に向けて今しがた一撃を撃ち込んだ健はそう吐き捨てた、今しがた桔梗の本性を目撃していたが故か、その表情には侮蔑や嫌悪、清隆を嵌めようとした事への憤怒等、負の感情を隠そうともしていなかった。

一方で清隆は冷静さを失う事無く、桔梗が崩れ落ちた際にポケットから落ちた彼女の端末をキャッチすると共に懐からUSBメモリらしき物体を取り出し、端末に接続。

 

「健、櫛田の腕を抑えつけろ」

「分かったぜ」

「ぐぅ!?は、離せ…!」

 

それと同時に、健に抑え込みを指示、それを聞いた健は、抵抗する桔梗を物ともせず彼女の左腕を床に抑えつける。

こうして無抵抗となった彼女の左手、その甲に、懐から取り出したカッターナイフで傷を入れ始めた。

 

「いっ!?や、止めろ!」

 

左腕を襲う鋭い痛みに抵抗を強めるも健の抑え込みはビクともせず、清隆の作業は止まらない、そうして入れた傷が満足いく物となったのを確認した清隆は、懐から何かチップの様な物を出して傷口の中へと捻じ込み、絆創膏で塞いだ。

 

「櫛田、端末が落ちていたぞ」

「っ!」

 

一連の作業を終えた清隆は健に指示を飛ばして解放させた後、落とし物拾いましたと言いたげな様子で端末を差し出した。

それに対してさっきまで酷い事をしてどの面下げてそんな事をという怒りのままに差し出された端末を引っ手繰った桔梗だったが、無論この状況で、ただの善意で端末を返したりしない。

 

「そうそう、その端末に遠隔操作アプリをインストールさせて貰った」

「なっ!?」

「今お前の端末はアプリの機能によってカメラやマイク、GPSが常時起動した状態、お前が何を話しているか、何処にいるか、端末で何を映しているか、全てがオレの端末で確認出来る状態だ。ああ、削除しようとしても無駄だぞ、スマホとかにプリインストールされている重要アプリみたいにアンインストール出来ない設定にしているからな」

 

桔梗の怒りに水を差してやると言わんばかりに、清隆は冷や水をぶっかけた。

桔梗の端末に搭載されたカメラやマイク、GPS等にアクセス出来る遠隔操作アプリを組み込んだのだ。

先程のUSBメモリは一連のアプリのプログラムやインストーラーを保存した物、これによってインストールや削除出来ない設定への改変を行ったのである。

が、それだけでは桔梗の動きを縛るのには不十分として、もう1つ仕込んだ物を言い放った。

 

「あと、端末の電源を切ったり、部屋に置いて行ったりして監視の目から逃げる事の無い様、お前の左手に、発信機を埋め込ませて貰った」

「な、なぁ…!」

「これでお前の端末とお前自身との位置情報の距離によって、端末の電源が切れているか、部屋に置いて出ているかが一目で分かる、という事だ。無いとは思うが左手を抉って取り出そうとか思うなよ?」

 

海外で一時話題になっていた、会社への入室の際に使用するICカードのチップ部分を手の甲に埋め込むというニュース、それを応用して、桔梗の左手の甲に発信機を埋め込む事で、端末が手元に無い状況をいち早く察知出来る様にしたのだ。

 

「監視アプリでお前の行動は逐一監視させて貰う、左手の発信機で位置情報は分かるから忘れたりするなよ。流石に風呂みたいなセンシティブな状況で置いていく時なら目を瞑るが。それでもし良からぬ事を仕出かそう物なら、今の醜態を全校にばらまく。分かったな、櫛田?」

 

こうして己の首根っこを掴まれた形となってしまった桔梗、清隆からのその指示には力なく頷くしかなかった、歯向かって清隆達の気を悪くすればその瞬間に裏の顔をバラまかれるのは必然だからだ。

 

「じゃあな櫛田、気を付けて帰れよ」

「二度と清隆を嵌めようとすんじゃねぇぞ、クソ女」

 

その後、屋上を後にしていった2人、残された桔梗は抵抗する術を奪い去られた悔しさから拳を震えさせる事しか出来なかった。

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