ようこそCODEエージェントが住まう実力主義の学校へ 作:不知火新夜
桔梗の本性を目の当たりにして、証拠映像を捉えた事で他学年や他クラスとの接点を持つ彼女の首根っこを掴み取ったり、鈴音と学の只ならぬ兄妹関係をも目の当たりにした事で当初より接触を図っていた帆波との接点を持てたりと1日にして想像以上の成果を得られた清隆、それ故に当初は「ニッコニコ」という擬音が漏れ聞こえそうな位にご機嫌だったのだが、この時は一転して「自分キレてます」と言わんばかりの不機嫌さを隠す事なく、同じく怒りの感情を吹き出しまくっていた健と共に職員室へと向かっていた。
何故その様な事態になったのか、経緯を説明しよう。
学との邂逅から一夜明けたその日の放課後、帆波との生徒会役員加入に関する話し合いを済ませてから程なく、要求していた1年1学期中間テストの過去問、それも学が在籍していた一昨年及び去年の物だけでなくその更に2年前からの分も清隆の端末に送信された。
頼んでから一夜で送ってくれた対応の速さに清隆も流石に驚きを隠せなかったのだが、元々この時期のテストにおける『カラクリ』――『過去問』を入手する事を、入学早々に赤点となっての退学を回避するのと高得点をゲットするのに必要な『攻略法』とすべく4月の最終週に行われた小テストも含めて開校当初からずっと同じ問題が出されているという仕組みは学も体験した身だ、故に清隆が早々に気付いた事にこそ驚きを示したが『カラクリ』その物に気付くものは必ず現れると想定して用意はしていたのだろうと結論付けた。
そうして入手した中間テストを確認すると案の定、過去4年分の問題はどれも一字一句違う事の無い、丸写しと言うしかない位に同じ内容だったのだが…一方で清隆は重大な問題に気付いた、茶柱から聞かされていた出題範囲と過去問で出題されている範囲、それがどの教科にも大きいズレがあったのである。
1回でも赤点を取ってしまえば退学処分が下されるこの学校の定期試験において、出題範囲はそれを回避するだけでなくcptを増やす上で重大なファクターだ、その範囲が変更されたという連絡が無い以上は、今回のテストでは過去問とは違う問題が出されるという事となるが、そうなると中間テスト実施連絡の際に茶柱が言い残していた「赤点を取らずに乗り切れる方法はあると確信している」という言葉と矛盾する、清隆が推測した「乗り切れる方法」というのがこの過去問以外あり得ないからだ。
中学レベルの簡単な問題が大半の小テストですら健達7人が赤点を取っていたのに、其処から1段2段どころじゃない位に難易度が上がる中間テストを僅か3週間余りで実施して、何の不正も無しに全員が赤点を回避する等無理難題も良い所、カンニングや問題用紙の盗難等の不正行為も厳しく罰せられる中で使える『インチキ』となると過去問しかない以上、今回も同じ問題が出される筈なのだが…と考えていた中でふと、テスト実施の連絡があってから1週間位、クラス単位での勉強会が始まってそんなに日数が経っていなかった頃の朝のホームルームの時間帯で、B以外の1年のクラスで不満の声が大きく聞こえて来たのを思い出した。
まさかあの不満の声は出題範囲が変更となった事へのブーイングでは無いか、だとしたら何故自分のクラスには何の連絡もないのか、まさか茶柱が連絡を怠っていたか、いや然し知っているのと知らないのとでは退学回避の成否及びcptの増減が大いに違って来る重大な連絡項目を伝えないなんてあり得ない…と考えた末、桔梗に「数日前の朝のホームルームでの騒ぎ、その原因を他クラスの知り合いから聞き出せ」と命令を飛ばした結果、返って来た答えは案の定、出題範囲変更に対する不満の声だったのである。
清隆から命令されて聞き出すまでそれを知らなかったのか狼狽える桔梗に対しては「先生から裏を取るからそれまで黙っていろ」と追加で命令しつつ、桔梗の首根っこを掴んだ事を唯一知る健に事の仔細を説明しつつ「昼休みに職員室で茶柱先生にこの事を聞くから、お前は録音を頼む。オレが呼んだら理事長室に向かって、理事長に録音データを聞かせるんだ」と指示を飛ばし、そして今、不機嫌さを露にしながら茶柱を問い詰めんとした。
「此処で録音の準備を頼む。誰かに呼び止められたら、包み隠さず説明しろ」
「おう。ガツンと言ってやってくれ、清隆」
職員室前へと辿り着き、健を残して中へ入っていと、其処には案の定と言うべきか、茶柱はいた。
「茶柱先生。中間テストに関して1つ、お聞きしたい事があります」
「摂津か、一体何の用だ?」
「他クラスの知り合いから、全教科で出題範囲が変更となったと聞いたのですが、それは本当ですか?」
「ああ、そういえばそうだったな。テストの出題範囲は、先週の金曜日に変更となっていた。失念していたな」
その姿を見るや否や一直線に向かい、出題範囲の件を問いただす清隆だったものの、茶柱の反応は「今思い出しました」と言いたげな、とぼけているのかそれとも出題範囲の重要性を理解していないのか、悪びれる様子を微塵も感じられない物だった。
そんな平然とした様で変更後の出題範囲を渡そうとする茶柱だったが、無論それで清隆が帰る筈も無い。
「いや、それだけですか?」
「まだ何かあるのか?」
「まだ何か、ではありません。先週の金曜日に決まったのであれば丸一週間、決まってからのテスト期間の半分も無駄にしてしまう形となったんですよ、Bクラスにとって。赤点1つで退学となってしまうこの学校の定期試験で、これが致命傷になる生徒も少なくないのを分かっているんですか?」
「そんな事は無い、たった一週間だ。遅れなど十分に取り戻せる。それをクラスの皆に渡しておけ」
出題範囲のズレというこの学校での生活において致命的な状況を一週間放置していたにも拘わらずこの「自分は何も悪くありません」と言いたげな返しである、清隆が過去問という中間テストの攻略法を入手していたからBクラスは事なきを得たものの、仮に入手するどころか気付く事すら出来ずに同様の状況に陥ってしまったら…それを想像し、茶柱に対する憤怒等の負の感情はどんどん膨れ上がっていった。
「忘れた事に関して罪悪感も何もなしですか、分かりました…健!」
「ああ、行って来る!人をコケにするのもいい加減にしろよクソ先公が!」
「なっ!?」
その抑える気すらない負の感情をぶちまけるかの如く、後方の健へ次なる行動のトリガーとなる呼びかけを行った清隆、まさか清隆以外にも来ていたとは気づかなかったのか驚く茶柱を他所に、清隆から予め指示を受けていた健は録音を終了させつつ、茶柱に対して捨て台詞を言い放ちながら理事長室へと急いだ。
「見ての通り、茶柱先生の教師としてあるまじき行いを糾すべく行動させて貰いました。ああ、健を追いかけようとは思わないで下さい。オレから茶柱先生に問いたい事が山程ありますので」
まさかの事態に健を追いかけようとした茶柱だったが、その前に怒りのオーラを吹き出しまくる清隆が立ちふさがる、他の教師は勿論にして監視カメラも設置されているこの場で伝家の宝刀の如く振り回していた退学処分を突きつける事も出来ず、というか負の感情全開な清隆の威圧感に充てられて口を開けなかった。
「さ、今一度お話ししましょうか、茶柱先生。高校退学という、この日本で生活するにおいて大き過ぎる転落を常に意識させられる中、それを回避する上で必要不可欠な術を忘れて一切教えないというのは一体どういう了見なのかを…!」
その様は文字通り、蛇に睨まれた蛙であったと、その場に居合わせた教師達は口を揃えたそうだ。
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その後、時は流れて放課後のホームルームの時間となり、茶柱が教室に入って来たのだが、その様子はまるでゾンビだと言わんばかりに憔悴しきっていた。
幾ら攻略法があると言っても試験範囲変更という重大事項を連絡しない免罪符にはならないとして健から話を聞いた相手――高度育成高等学校理事長の
「皆、これから帰りのホームルームの時間なんだが、見ての通り茶柱先生はそれを進行出来る状態じゃない。よって連絡事項を預かっているオレが今日は担当する。そもそも何で教室に来させたんだとツッコみたいだろうが其処も含めて説明する」
とはいえそれは告発者である清隆達しか知らない話、明らかにホームルームを進行出来る状態じゃない茶柱に驚きを隠せないクラスメートに事情を説明するべく清隆は前に出た。
「皆も知っての通り中間テストまで後一週間となった訳だが、実は今から一週間前、テストにおいて重大要素である出題範囲の変更が決定された」
『え、えぇぇぇぇ!?』
やはりと言うべきかBクラスの誰一人それを知らなかったのか驚きの声が広がった。
声を上げないのは鈴音や六助といった元々学力に絶対の自信がある者達だが、それでも普通は知らせるだろうという考えなのか、その眼は驚愕で見開かれていた。
「皆が驚くのも無理は無い、オレだって最初に聞いた時は信じられなかった。だがその話が本当であれば試験に向けて復習すべき範囲を誤った結果分からない問題が続出、次の中間テストで赤点を取って退学となるクラスメートが続出する危険がある。そう思ったオレ達は事の真相を茶柱先生に問い質したのだが…何と返したと思う?
伝えるのを忘れた、らしい」
『ふっざけんなぁぁぁぁ!』
その騒然となった教室に、清隆は更なる爆弾を投げ込んだ。
その結果としてクラスメート達は怒りを爆発、茶柱が憔悴している事など知った事じゃないと言わんばかりに、聞くに堪えない罵声を浴びせまくった。
清隆も筆舌に尽くしがたい激情を抱いて茶柱を問い詰めていたので気持ちは分かると言わんばかりに制止せず、やがて落ち着きを取り戻した所で処分内容を発表、
「その出題範囲変更を、今日オレが指摘するまで連絡するのを忘れていたという教師としてあるまじき失態を犯した茶柱先生に先程懲戒処分が下された、その内容だが…その補足も兼ねて、オレ達が普段の生活で使っているであろうpptの重要性を改めて説明しよう」
する前に、勿体ぶるかの様にpptの説明を始めた。
「一言で言おう。この学校において、余程の無理難題でも無ければpptで買えない物は無い。それは他のクラスへの移籍、欠席や遅刻早退の権利、果ては…退学回避やテストの点数すらも」
とはいえ清隆が口にしたのは今まで知られていなかった物が大半だったのか、驚き騒めきに包まれる教室、その中で一部の生徒が何かを察した様な表情と化した。
それを察知した清隆は、此処がタイミングだと処分内容を発表した。
「察した者もいるだろうが此処で懲戒処分の内容だ…
今回の中間テストで赤点となったBクラスの者の退学回避に必要な点数分を、茶柱先生の所有ppt及び今後受け取る給与、ボーナスからの先払いで支払う」
「え!?という事は…!」
「そうだ。今回の試験でオレ達に退学は無くなった。赤点を取っても茶柱先生の自腹で補填するという事だ」
『やったぁぁぁぁ!』
「摂津君サイコー!」
「清隆!清隆!清隆!清隆!」
今回の事態に対する処分内容、それは「Bクラスの生徒が赤点を取った場合の点数補填」だった。
これがどれ位の処分かと言うと、茶柱の様に公立高校に勤める一般的な教師の平均月給は35万から43万と言われている一方、定期試験にて1点を買う為に必要なのは10万pptだ、つまり1点の補填だけでも「減給1月、減給額は月給の23%~28%」という懲戒処分としては少し重た目な物となる、そして誰かが名前の書き忘れ等で0点となってしまえば…
中間テストでの退学が無くなったと分かって歓声が上がる教室内とは対照的に、名前の書き忘れという初歩的なミスで自分の年収が吹っ飛ぶという事態に晒される事となった茶柱は、顔を青ざめさせていた。
「尤も補填するのは退学を回避する分、赤点の1つ上までだ。態と0点を取ればその分クラス平均は下がり、貰えるcptは減らされ、月初めに貰えるpptも上がらず、Aクラスも遠のく。だから茶柱先生を困窮させようと白紙で出すなんて真似は止めろよ?」
『おう!』
『はい!』
それを察して気遣った積りこそ微塵も無いが、この機に乗じて白紙提出などされたらAクラスを目指す上で大ブレーキとなる為、その辺りの釘差しも忘れなかった。