道路も家も全てがコンクリート特有の灰色で彩られた街。
町を歩く人間に笑顔なんて存在しなく、無表情に歩いていくだけ……
少し目を凝らせば、遠くに高さ30Mほどの幾何学模様の壁がこの町を取り囲むように建っている。
本来なら、青に彩られている空ですら……灰色の雲で覆われており、この町を一層暗くしている。
そんな街の名称はレイラク国第二人間統制セクター
妖怪が人間を徹底的に管理し、統制するための場所……いわば、家畜農場の人間バージョンである。
そんな、ディストピアド定番の街を見回しながら俺は呟く。
「さて──
──これからどうしようか……」
いやね、違うのよ。目的自体ははっきりしてるよ?このディストピアの体制を変える事。それは、はっきりしてる……
ただ、その計画が一ミリもないんですわ。
いやさ、ついさっきまで只の一般人だった俺が、こんな世界でどうしろと?
俺に何か神様得点的なチートパワーが、あるとするなら話が変わってくるんだろうけど。
そんなもんねぇよ、畜生。
今の俺にあるのは、四季のこの貧弱な体一つ。
創作物にありふれた異能力なんてものは無いし、天才と言われるほどの頭脳もない。家を持ち上げるほどの怪力もない……
何なら、この身体は人間としてかなり貧弱の部類である。
異世界憑依でパワーアップどころか、逆に弱体化してるわけ。
こんな状況でどうしろと……
普通に考えて無理。
だけど、四季に宣言した手前やらなくてはならない。
目的とその実現に足りないものははっきりしている。
ただ、その手段と計画が皆無……
ならば、その足りないもの……要は力を得るために動けば?
と、言われるかもしれないがこの世界得る方法が限られてるし。
その方法も四季が諦めるほどの無理難題。
おまけと言っては何だが、四季の顔は政府に露見して追われている。
将棋でいう王手、チェスでいうチェックそんな現状……
はっきり言って、不可能である。
……でも。
「なんか行動しないと、現状が変わることもないのも事実」
それなら、やってみるしかない。
力を得る方法は主に二つ。
一つ……人間が妖怪と戦争していた時に、唯一妖怪群を一度だけ退けたという伝説の剣を取得する事。
ぶっちゃけこれに関しては、俺は不可能だと思っている。
所持者に妖怪の群れを退けるほどの力を授ける剣。妖怪にとって、そんな害にしかならないもの……見逃す筈がない。
恐らく探し出して、破壊……もしくは国の中枢で管理しているはずだ。
そんな、存在するかどうかも不確かな物を探すために国の中枢に入り込む?
無理おっしゃい。
それならもう一つの方がよっぽど現実的だ。
そして、力を得る方法その二。
その前にとある存在のことを言っておこう。
この前人間は妖怪に絶対に敵わないと言っただろう?
それは間違いではないし、それは絶対的な物なんだが。
例外と言う言葉があるように、この世界においてもそんな存在が一人だけいたらしい。
数百年と前の話なんだが、人間でありながら妖怪のような異能力を使う存在が突如現れたらしい。
そいつは、炎や風。おまけにレーザーなんてものも放てるようで。
そいつが生きていた時代は妖怪と人間の力が拮抗していたようだ。
……その存在のおかげで。
その事から、人間はその存在の事を畏怖し、敬意を払ってその存在に
だが、そいつも人間である以上。寿命と言う絶対の理から逃れられないようで死んでしまった。
問題はその後、そいつの遺骸は如何やら死後数十……数百年とたっても腐らず。
その遺骸は人間にその力の一部を授けてくれるらしい。
それだけなら、また国に管理されていると思うだろう。
だが、最近その魔女の力と思わしき物を使う人間が出没しているらしい。
つまり、魔女の遺骸は人間側が所有していると言う可能性が高いと言う事。
四季はそれを諦めていたようだが、力を得る方法としては伝説の剣より幾らか可能性がある。
それならやる事は一つ。
──魔女の遺骸を手に入れる。
それが今現在、俺にとって力を手に入れることが出来る最短近道。
伝説の剣を手に入れるよりかは、よっぽど現実的だ。
……だが、それでも難易度が高い。
いま一度言うが、俺の顔は恐らく政府に割れている。
下手に行動すれば、政府直轄の執行官に捕らえられる……もしくは殺される可能性が高い。
そんな中、現在の遺骸所持者と接触するのは危険すぎる。
……いや。
逆にそれを利用できないか……
政府に目を付けられる可能性が高いのに、魔女の遺骸なんてものを所持している奴らだぞ?
何らかの目的を持っているに決まってる。
このディストピア世界で支配される側の人間が、力を得てまでやりたいこと……
そこまで考えれば、自ずと答えは出てくる。
この国の政治の在り方を否定する事。この国を根本から変える事。
つまりは──
──国家反逆」
そこまで考えて、思わず口元がにやついた。
ディストピアの物語でド定番中のド定番、反乱軍……その存在が居るかもしれない事にほんのわずかの希望が見えた。
物語の定番すぎて思考から外していたが、この世界は創作物のようなものがありふれた世界だ。
妖怪、魔女、ディストピア……そんな物が実現する世界に反乱軍だけ存在しないと考えるのも不自然な物だろう。
ならば、やる事は決まった。
この町のど真ん中で、騒ぎを起こす。
それ自体は、驚くほど簡単だ……
道のど真ん中で適当な問題を起こせばいい……例えば妖怪に対する暴言を叫ぶ事とか。
そうすれば、執行官が国家反逆の意志ありと突っ込んでくるだろう。
執行官の本部真正面だと、より効果的だ。
その時、反乱軍が来ることを祈りながら出来るだけ粘る。
この国にとって、妖怪に反逆を考える奴らはかなり少ない筈だ。
ならば反乱軍の戦力は枯渇している筈。
大きな騒ぎを起こして、反乱軍の目を引けばきっと俺を取り込みに来る。
そうなれば、きっと遺骸を手に入れられる可能性がぐんと高くなる。
勿論、今考えたことの全てが仮定や予想の、あるか不確かな物だ。
反乱軍なんてものが存在しなければ俺は必ず殺されるだろう。
もし存在したとしても、必ず来るとは限らない。
失敗する可能性が高く、命を賭けた賭博。
余りにも分の悪いものである……だが。
「やる価値はある」
このまま何もしなかったら、物語は何も進まない。
それなら、命でも何でも賭けてやろうではないか……
そこまで考えて、俺は夜の闇に紛れる。
明日実行する賭けが成功するように神に祈りながら……
◇◇◇◇◇
「ついにこの時が来ましたね」
月の光だけが、光源となる世界で私は目の前の男に言う。
「ああ、ようやく…ようやくだ……!俺らの雪辱を…果たす時がきた」
私の言葉に彼ははまさに待ちきれない……と言った感じでその体を震わせた。
「まず手始めに執行官の本部を叩く」
そして……と言葉を続けて。
「そこに常駐してる妖怪を──
──殺す」
妖怪殺し……人間にとって最も不可能に近い、その言葉を宣言する彼は眼光を鋭くさせる。
妖怪に対する憎悪が詰まりに詰まったその瞳は、鬼すらも殺しうるかもしれないと私に思わせるほど鋭利だった。
「妖怪に殺意を向けるのは全然いいですけど、もう少し抑えてください……魔力が漏れてます」
「おっと。すまんすまん」
稲妻のようにギラギラと光る白銀のオーラ──魔女の遺骸所持者特有の魔力──を纏う彼は私の言葉にハッとしたように魔力を抑えた。
「幾らここが隔離された空間だとしても、妖怪を相手に絶対察知されないなんてないんですから」
「そうだな……」
私の言葉に気恥ずかし気に頬を掻く彼に私は言葉を続ける。
「それよりも準備は出来てますか?」
「もちろん、俺の部隊は全員闘志を高ぶらせて待ってるさ。遺骸の方も良好……いや、今までにないほどの絶好調だ」
「そうですか」
つい先ほどまでの様子と、うって変わり心底真面目に言う彼。
「お前の方も準備は怠るなよ。妖怪を相手にするんだ、油断するとすぐ死ぬ──」
それに……と言葉を続けて。
「顔見知りが奴らの腹の中に納まるなんざ、もう御免だ」
彼の過去に何があったのか、そんな事は正確には知らない……
ただ、彼の口ぶりとこの組織にいる事を考えて。
恐らく、身近な人間……たとえば家族を妖怪に──
「ええ。それを言うならあなたもですよ継さん」
「ああ。互いに気を付けようぜ草薙の嬢ちゃん」
互いにそんな言葉を吐き出した。
「明日の正午……俺らの怒りを知らしめるぞ」
「もちろんです──
……そして……
──互いに生き残りましょう」
そうして、私たちは決意を固めるのだった……