スーパーマーケットの二階は霊安室   作:haku728

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※この話は実話をモデルにしています。


ス―パ―の二階の部屋

泉州佐野市(せんしゅうさのし)。

 

 

大阪府の南端に位置し、海と山に挟まれた細長い市街地が続く風光明媚な地方都市である。

 

 

10年前にこの地の沿岸に人工島の国際空港が開港し、その影響で都市開発が目覚ましい。

 

この市街地の中央を国道27号線が貫く。

 

車を走らせれば和歌山まですぐである。

 

 

この南北をつなぐ大動脈沿いにCUマート・泉南国道店がある。

 

CUとはCooperative union(生活連合組合)の略である。 

 

 

ドラッグストアも併設された、地域では最大の店舗である。

 

広大な駐車場を備え、品揃えも豊富で、地方特産品コ―ナ―やイ―トインスペースも並ぶ。

 

明るい照明の下、呼込み君のメロディが絶え間なく鳴り響き、特売のアナウンスも頻繁に流れる。

 

朝の開店からどっと来客が押し寄せ、夜の閉店時間まで人は途切れることがない。

 

 

 

山田 果穂(やまだ かほ)は2ヶ月前にこの店舗にアルバイトとして入店したばかりである。

 

 

最初は商品の陳列や 整理整頓、清掃業務などを行っていたが、ここ最近はレジも任されるようになった。

 

勤務時間帯は主に夕方五時から晩十時までの夜間シフトである。

 

「あなたが来て助かるわ。ほんまに!」

 

店長の若槻は顔をほころばせる。

 

 

アルバイトは高校生が多く、パートの主婦層は家庭優先の為、夜間シフト要員が不足している。

 

二十才の大学生である彼女はうってつけなのである。

 

 

しかしこの時間帯は特に忙しい。

 

地元や近隣エリアからの来客が集中する。

 

 

それのみならず、最近は周辺のホテルからも外国人の観光客がどっと押し寄せるのだ。

 

彼らは食事を外食せずスーパーの食料品や惣菜で済ます場合が多い。

 

 

酒類やお菓子などもこれでもかというぐらい大量に購入する。

 

そんな中には言葉の通じない客も多い。

 

そんな時には身振り手振りも交えて大汗をかきながレジ業務をこなすことになる。

 

コミュニケーションの齟齬からクレームになることもある。

 

 

館内に《ホタルの光》のメロディーが流れる頃には クタクタだ。

 

 

 

「ハァ!今日もやっと終わった」

 

八月の最終日も閉店時間を迎えた。

 

 

果穂がバックヤードで一息ついている時である。

 

店長の若槻から声を掛けられた。

 

 

「山田さん、ごめん!二階ホールの照明消してきて」

 

「二階!照明ですか?」

 

「うん。《フラワールーム》の入口の横にスイッチが並んでいるから」

 

「あ、はい。分かりました」

 

 

果穂は言われるまま、二階へ続く階段に向かった。

レジ横の袋詰めコーナーを抜け、ATMが置かれた小さなホールへ。

 

手すりに手をかけながら、ふと思った。

 

「そういえば二階に上がるの……初めてかも……」

 

 

ぼんやりと段上を見上げてみる。

 

多数のダウンライトが天井に並んでいる。

 

 

「あれ……霞んでるんかな……」

 

白い靄でも掛かっているのか……

 

それとも目が疲れているだけなのか……

 

彼女は目を擦った。

 

 

(まあ気のせいか……)

 

気を取り直して階段を昇り始めた。

 

 

カツ―ン カツ―ン

 

静寂に包まれている中、靴音がやけに響く。

 

普段の販売エリアの喧騒との落差に、何故か気持ちが落ち着かない。

 

 

一段、一段と上がる度に冷気が肌にまとわりつく。

 

(エアコン……付けっぱなし?)

 

彼女はブルッと肩を震わせる。

 

そして階段を上がりきり二階ホールに立った。

 

右がわには大きな両開きのガラス張りのドアがあった。

 

外側に車数台分程度の駐車場が見える。

 

(来客用とちゃうよね。でも職員用は別にあるし……)

 

彼女は首を傾げながら左側に視線を移した。

 

多目的トイレの入口が見える。

 

彼女は近付いて折戸を開けて中を覗いた。

 

 

「え!広!」

 

彼女は思わず声を上げた。

 

中は縦長で奥行きは5メ―トルほどもある。

 

最奥部に洋式便器やオストメイトが並んでいるが、手前にはベッドでも置けそうな空間が広がっている。

 

横側には手洗器の他、シンクが2台も並んでいる。

 

 

(あんなに蛇口……何で?あ!消毒の臭いもきつ!)

 

顔をしかめて思わずトイレの折戸を閉じる。

 

そして彼女はホールの最奥の壁に視線を移した。

 

 

鋼鉄製で両開きの大きな黒いドアが目に入る。

 

ドアの中央には金色の蓮花の模様が描かれている。

 

(あれがフラワールームか……)

 

そう思った瞬間キーンと耳鳴りが走った。

 

 

(え!やだ!どうして?)

 

彼女は両手で耳を塞ぎ、うつむいた。

 

 

 

 

キィ………クゥ…………

 

 

 

 

「誰!?」

 

彼女は顔を上げた。

 

その瞬間耳鳴りがすっと消えた。

 

 

辺りは静まり返っている。

 

 

唇がかすかに震える。

 

 

(何か変……。早く照明を消して帰ろう)

 

胸の鼓動が喉の奥から響いてくる。

 

彼女はキュッと唇を噛みしめると、小走りに黒いドアの横に駆け寄った。

 

(え!スイッチがない!)

 

慌ててキョロキョロするが、壁の左側の入隅近くにスイッチパネルを見つけて安堵する。

 

整然と並んだスイッチには全て青いランプが点灯している。

 

切れば赤ランプに切り替わる仕組みだ。

 

 

彼女はパチンパチンとスイッチを落としていく。

 

ホールの照明が端から順に消えて行く。

 

しかし駐車場入口の上に非常口の緑のランプが点灯しており、階段踊り場の1階からの漏れ光もあるため、完全に真っ暗になるわけではない。

 

(よし……これで全部よね)

 

 

全てのスイッチが赤ランプに切り替わったのを確認して、引返そうとしたその時であった。

 

 

コン……コン……

 

 

フラワールームの中より扉をノックする音がした。

 

 

彼女は全身が硬直した。

 

(う、嘘……誰かいるの?)

 

 

コン……コン……

 

 

絶対に気のせいでは無い。

 

「だ、誰ですか?どなたかいらっしゃるんですか?」

 

彼女の問い掛けに反応は無い。

 

しかし、数秒ほどすると又ノックの音がする。

 

 

(どうしよう……中に人が閉じ込められたのかも)

 

扉のハンドルを見ると、ホ―ル側からロックする仕様になっている。

 

まるで中の者を閉じ込めるかのように……。

 

 

(万が一のことも……とにかく確認するしか……)

 

 

果穂は震える手でサムターンを捻った。

 

ガチャンと解錠の音が響く。

 

 

黒いドアがゆっくりと開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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