にいさん、だいすき   作:マルマル4世

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いっしょのおふろ

ガリガリガリガリ。

俺が自分の部屋でゲームしている中、鉛筆削りの音が反響するように響く。

 

 

「あっ」

 

 

その音で後ろから迫ってくる敵の音を聞き逃し、俺の操作しているキャラはやられてしまった。

 

 

「おい暁葉(あきは)【あきは】!やる時言えよ!」

 

「別にいいじゃないですか」

 

「よくないって、俺に呼びかけるくらい手間でもないだろ」

 

 

勝手に俺の部屋の机を使い、中学の教科書を開いて勉強している妹の暁葉に俺は呼びかけた。

 

暁葉は中学一年生の俺の妹だ。

髪型は黒髪のロングで、座っている腰までその髪が伸びている。

その体は俺が持っても重さをさほど感じないほどすらっとした軽量級で、顔立ちは涼し気で良く、結構モテそうな見た目。

なんだけど浮いた話は聞いたことがない。

 

俺の机の上を見ると、授業の範囲を赤線や図を使って綺麗にまとめたノートが置かれている。

勤勉な事にもう中学の宿題は終わっているのか、横のファイルに収納済みだ。

 

 

「宿題サボってゲームしてる兄とは違って勉強してますから、むしろこっちに配慮してもらえませんか?」

 

「俺は追い込み型だからいいんだよ。てか、ここ俺の部屋でお前が使ってるの俺の机だろ...」

 

「私はちょっと人の目線と音がある方が勉強できるんですよ」

 

 

俺の文句に対して、微笑で憎まれ口をたたく暁葉。

 

なんでか分からんが、暁葉は勉強する時はよく俺の部屋を利用する。

てか、人の目が欲しいなら学校とか図書館とかあんだろ。

 

 

「あっ...くそ負けた」

 

「また同じところでやられてるじゃないですか、下手ですね」

 

「うるへえ、7割くらいボスの体力削ってたろ...見てろよ次は勝つ」

 

 

しばらくゲームしていると暁葉の勉強は終わったのか、キャスター付き椅子のムキとは逆向きに座り、背もたれに首と腕と髪を乗せて、俺のゲーム画面をニヤニヤと見ている。

 

 

「...見てましたけど、そのアイテム今の動きの時に使うと思いますよ」

 

 

暁葉がやられまくる俺を見かねてか、アドバイスをしてきた。

 

 

「えっマジ?次やってみるわ」

 

 

使い道のないものだと思っていたが、ボス戦で使うのかこれ。

 

 

「ホントだわ、これでいけんじゃね?」

 

 

俺がそのアドバイス通りにアイテムを使うと、ボスが怯んで動きが悪くなる。

ずっとプレイしていた俺より、途中からゲームを覗いてた暁葉の方がゲームについて分かってた。

 

 

「さっき無しでだいぶやれてましたしね」

 

 

暁葉のヤツは目ざといというか、細かいことに気が回るよなあ。

岡目八目なんて言葉もあるが、普段からそういう注意力がある。

 

 

「おっし、楽勝」

 

 

というわけで、次のボス戦は苦戦することなく勝利した。

 

いやまあ...アイテムのこと知った後一回凡ミスでゲームオーバーになったが。

 

 

「苦戦してましたけどね、結構」

 

「難しいボスだったんだよ今のは」

 

 

難関ボスに勝利を収めたが暁葉の言葉でしょげる。

勝った時くらいほめてくれてもいいだろ。

 

 

「道は...こっちか」

 

 

ゲームのボスを倒すと、暗い西洋風の街道が開けたので進む。

次のステージは少しおどろおどろしい雰囲気だな。

 

 

「そういや前やってた格闘ゲームどうしたんですか」

 

「誕生日プレゼントに貰ったやつか。あれ飽きたんだよ全クリした」

 

 

流行りのゲームだから何となしに母ちゃんに買ってもらったけど、すぐにやる気を失ったんだよな。

まあ割とやってた気もするけど。

 

 

「ネット対戦ゲームに全クリなんてあるんですか?」

 

「最高ランクまで行った」

 

「全国一位になるまでが全クリですよ」

 

「俺に何求めてるんだよ...」

 

 

無茶ぶりが過ぎるだろそれは。

 

 

「あきは~!?そっちの部屋いるー?ごはーん!」

 

 

階段の下から、母ちゃんの晩御飯の支度が出来たことを伝える大声が。

暁葉の所在を確かめるように言ったのは、1階の暁葉の部屋にいなかったからだろうな。

 

 

「「はーい」」

 

 

俺たちはその声に反応して声を同時に返した。

ゲームの電源を切ってドタドタと階段を下り玄関前を通って居間へ。

 

正方形のテーブルに乗った晩御飯からいい匂いがしてくる。味噌汁、ごはん、キャベツ多めのサラダ、肉じゃがと...何だろうこれ、火を通したイカがそのシルエットのまま輪切りにされてる。

 

 

「なにこれ?」

 

「なにこれとは何よ、前言ってたじゃないレシピ本覗いて食べてみたいって。イカの輪切り焼きよ。」

 

 

俺の軽口に母ちゃん怒りながら、この見た目が独特のイカの輪切り焼きを作った経緯を話した。

よく覚えていないが、過去に俺はそんなことを言っていたらしい。

 

 

「私はイカよりタコの方が好きですけどね」

 

「黙って食べなさい」

 

 

二度もしょうもない事を言う俺たち兄妹に母ちゃんが軽く頭にチョップする。

 

 

「「はいはーい」」

 

 

懲りずに不真面目な返事を返す暁葉と俺。

まあとにかく、口では興味なさげだったが、俺も暁葉もテーブルの上のよく分からないイカ料理に興味を持った。

よく分かんないけど...海鮮のいい匂いがしてうまそうだし。

 

 

「「いただきまーす」」

 

 

食前の挨拶を済ませると、イカリングのように輪切りにされたイカを大きい器から直接箸で口に運ぶ。

 

ん、マヨネーズと醤油で味付けしてるのか?イカの味わいとマヨ醤油のしょっぱさが俺にはちょうど良くてうまい。

中々いける味だ。

 

「うん、おいしいわ」

 

「そう?作った甲斐あったかも」

 

 

さっき失礼な感じだったから、一応褒めておく。

今度も作って欲しいし。

母ちゃんは淡泊な反応だけど、笑みがこぼれていて内心かなり嬉しそうだ。

 

 

「ちょっとしょっぱいですね」

 

 

暁葉のやつにはどうやら味付けが濃かったようだ。

同じ飯を食ってる兄妹なのに味覚が違うの不思議だよな。

 

 

「黙って食べなさい」

 

「いてっ」

 

 

再び母チョップが暁葉と────

 

 

「いてっ」

 

 

────俺の頭に下った。

しかも今回はちょっと強めの母チョップ。

 

いや、今のは全く関係ないじゃん...なんで俺まで。

 

 

 

────────────────

 

 

 

 

チャポン

 

 

「はぁ~...」

 

「じじむさいですね」

 

「ほっとけ」

 

 

先に風呂場で身体を洗った俺は、浴槽に入ってた暁葉と入れ替わりで浸かる。

うちの風呂場は狭いから、交互に身体を洗わんと体同士でつまる。

もう、中学生と高校生の体格だしなあ。

 

既に俺は体を洗ったのだからある程度浸かったら風呂から上がってもいいのだが、暁葉の事は待ってやる。

暁葉のヤツは体洗う時間が長くて長湯になるが仕方ない。

 

 

...時々思うけど、普通の兄妹ってこれくらいの歳になったら一緒に入るの嫌がるもんじゃないか?

“兄妹”どころか“兄弟”でも。

 

俺なんかもう高校生で、暁葉は中学生になってる。

幼稚園の頃から惰性で一緒に入るのを続けてるけど。

 

 

「なあ、もう俺コーコーセーデビューしたしさ、風呂って俺たちくらいの歳になったら一緒に入るのって恥ずかしくなったりしないか?」

 

 

なんとなく暁葉にそんなことを聞いてみる。

いつか、風呂に入るのが兄妹で別々になる時も来ると思ったからだ。

 

 

「別に。なんでそんなこと聞くんですか?」

 

 

暁葉は身体にボディソープをつけながら、微妙にへの口で返答する。

やべ、暁葉が反応が変に短くて質問を聞き返すときは不機嫌になった時だ。

 

 

「あーー...すまん何でもない、いやもう入るには風呂場狭く感じないかって思っただけで...」

 

「全然。」

 

 

全然かあ...。

 

火に油だったかもな今の言葉。

 

 

シャー

 

 

シャワーの音が静かに響く。

丁寧にボディソープが付けられた暁葉の細い体をお湯が過ぎ去っていく。

 

 

 

 

............。

 

 

 

 

 

うーん、沈黙が気まずい。

 

 

「...久々に髪を洗ってくれませんか?」

 

「え?あ、ああ」

 

 

え...!?

流石に俺達でも今の歳でお互いの体洗ったことなんて全然ないぞ...?

 

気まずい雰囲気を引きずってなんとなく了承してしまったけど。

 

昔は確かに暁葉の体を洗ってやったことはある。ただしそれは小学校にあがる前の話だ。

目に泡が入って痛いからってシャンプーハットを被せてやるようなレベルで幼かった頃の。

 

よく分からんが...乗り掛かった舟だ、久々にやってやるか。

 

 

「頭の上通るぞ?」

 

「はい」

 

 

身をよじり、暁葉の身体の隣にある棚上シャンプーをプッシュする。

 

ううっ、やっぱり二人だと狭いな、暁葉の身体は小さいから何とかはなったが。

 

友達から聞く話だと女の子はシャンプーもこだわって家族と別にするやつが多いそうだが、暁葉も俺も家族共通のシャンプーだ。

体は丁寧に洗うのに意外とそういうの無いよなあ。

家族じゃ母ちゃんの方がそういうの選んでるくらいだ。

 

 

「髪...触って大丈夫か?」

 

 

いくら妹とはいえ、女の子の頭なんて中々触ることなんてないから変に緊張する。

こう...デリケートなガラス製品を触るような気分。

 

 

「触らないと洗えないと思いますが」

 

「そういうのじゃなくて...その、俺がお前の頭を触っていいのかなって」

 

「それくらい気にすることでもないですよ、家族ですから」

 

 

暁葉は当たり前のことだとキッパリと言い切った。

 

 

「そうか...」

 

 

俺は自分が気負い過ぎていたのかもしれないと、考えを改める。

そうだよな、本人がいいって言っているんだから余計な気づかいだった。

 

そう反省した俺は、自分の時ではやらないくらい存分に手同士で泡立ててから、そっと暁葉の髪に触る。

艶が良く、手触りも滑らかな綺麗な黒髪だ。

 

腰に届くほどの髪は当然毛量が多いので、少し掻き分ける形になりながら奥へと泡を付けていく。

 

 

「雑ですね」

 

 

そんな俺の不慣れな手つきを暁葉が笑った。

 

 

「悪かったな雑で」

 

 

こっちは初めてなんだよ、こんな毛量を扱うのは。

洗ってやってた小っちゃい頃はもっと──

 

 

「そういやお前、幼稚園の頃は髪伸ばしてなかったよな?いつの間にか伸びてたけど伸ばした理由とかあるのか?」

 

「ありますよ」

 

 

そんな過去話をしながら長い髪に泡がいきわたるよう、櫛をすくように泡を付けていく。

 

 

「あるのか、どんな理由よ」

 

「子供の頃、髪の長いアニメキャラに憧れまして、その時に髪を伸ばすことを決意しました。まあ、伸びたころにはそのキャラへの思いとかはもう無くなってましたけどね」

 

 

案外そんな理由だったんだな。

確かに子供の頃はグッズとかたくさん集めてたな。

 

あの頃の俺は正義のヒロインのやられ役としてよく魔法のステッキで叩かれていた。

もう、そのオモチャに関しては押し入れ行きどころか母親が捨ててしまったが。

 

 

「あこがれが無くなったって...。その割には今も髪ロングだよな?長い髪の管理めんどくさいって聞くが」

 

「別にいいじゃないですか、あくまで切っ掛けはそれというだけです」

 

 

少し誤魔化すように暁葉はそう告げた。

 

 

「そういうもんか」

 

「そういうものですよ」

 

 

俺が暁葉と風呂に一緒に入ってることのように惰性で続けてることなのかな。

いや、暁葉のヤツには何かこだわりがありそうだったが。

 

 

「よし、こんなもんか?」

 

 

他愛のない会話の間に、暁葉の髪全てに泡を行きわたらせた。

正面の鏡の曇りを軽くふいて確認するが問題はなさそうだ。

 

 

「流すぞー」

 

「どうぞ」

 

 

警告してから、髪の上にシャワーのお湯を落とす。

シャンプーの泡落としの細かい部分は自分でやるようで、さっと髪を流すように手を動かしていた。

 

俺もシャワーヘッドの角度を変えて、全ての泡を落とせるように満遍なく当てていく。

前へ、後ろへ、側面へ。

 

 

「これでいいか?」

 

 

あらかた泡を落としきったところで暁葉に声を掛ける。

 

 

「っふう、久々にしては上出来だと思いますよ」

 

「どこから目線なんだ」

 

 

なんでいちいち上からの口調なんだ。

俺を褒めてるのやら、けなしているのやら。

 

 

「妹...いえ女の子としての意見ですよ」

 

 

妙に意味深な事を言う暁葉。

そんなこと言われてもな。

 

 

「はぁ、まあ俺は床屋じゃないし、女の髪洗う機会なんてもうないと思うけど」

 

 

今日やったのも、暁葉の気まぐれからくるものだろうし。

 

 

「またお願いするので安心してください」

 

「マジ?」

 

 

またやんの?これ。

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