朝起きると、いつもの如くポーカーフェイスの笑みを貼り付けたリボーンが視界いっぱいに広がっていた。
何か言いたげなその瞳に完全無視を決め込んだら、背後から蹴りが入るが避ける。
「ツナ。昨日ボンゴレ本部に勝手に連絡したんだってな」
俺を咎めるようにリボーンが口を開く。その声は普段の人を小馬鹿にした声ではなく、真面目な話をする時の低いトーンだった。
リボーンに一度視線をやり、肯定の意思を示す。
「一体そんなものいつ知った? 家光からか?」
「話す気は無い」
「そうか。まあいい……お前をボンゴレ十代目にするのは俺の役目だ。絶対に退かねぇ。だが、九代目はそうでも無いようでな……俺は一年の猶予を貰った。一年でお前が成長しないようなら撤退するようにってな」
「……そうか。僕は何もしない。成長する気もないし、十代目になる気もない。この決意は変わらない」
「おめーがなんと言おうと必ず育ててみせる。俺はお前の家庭教師だからな」
ニッと笑って、リボーンはまたいつもの見透かしたような表情を浮かべる。前世で、あんなにもお世話になったリボーンと全く変わらないから、どこか心の奥底で頼ってしまいたくなるのをぐっと堪える。
ダメなんだ、僕が十代目になったら。僕のように舐めた人間はマフィアのボスを継ぐのに相応しくなかった。
今にして思えば、D・スペードと同じ状況だったと思う。被害状況に関してはあの頃の更に上で。手薄になってしまった所に、敵が攻め込んで。
あんな思いは二度としたくない。エゴだと思う。知ってる。それでも、俺が巻き込んで半ば無理矢理マフィアにしてしまった彼らを無残に殺させてしまったのは俺で。
それこそザンザスが継いでくれれば、あんな悲劇は見ないで済むんだ。
より多くの血が流れるとしても、仲間を失うよりずっと楽だったのかもしれない。
そんな会話をして少しすると、イタリアからの転校生。僕の為に呼ばれた、あまりにも一途で盲目な番犬。どんなに強い番犬でも、飼い主が見極めて動かしてやらなきゃ無残に殺されるに決まってた。分かってたのに、あの時の僕はそれが出来てなくて。
HRも終わっていない中、僕は強く手を握りしめ興奮を抑える。不甲斐ない自分に腹が立って、どうしようも無くなりそうで。
まだ随分と幼い獄寺くんにガンを飛ばされながら机を蹴られるが、何事も無かったように振る舞う。出来るだけ獄寺くんには雑魚として見られたい。そしたら僕に興味なんて抱かないはず。
「てめぇ、ちょっとこい」
そうだった、こんな事もあったんだった。遠い記憶を遡りながら、他人事の様に空を眺める。
確かこの後、果てろって言われながら爆弾を投げられるんだっけ。で、うっかりした獄寺くんは自分の周りに落として……。落とさせないようにすればいい。うん。攻略法はこれでいける。
「お前がボンゴレ十代目なんて認めねぇ! 果てな!」
出来るだけ爆弾は消化しつつ、どうしようもない爆弾は放置する。多少暴れてもどうせボンゴレが隠蔽するんだろう。そういう事は多くしてきた。
「なかなかやるじゃねぇか。2倍ボム!」
「中学生はタバコなんて吸っちゃダメだよ」
散らかった爆弾の被害に合わないよう避けながら、獄寺くんのタバコを奪い取る。さすがに服の内側にあるストックは取れなかったけど。
「てめぇ! 俺を馬鹿にしてんのか!」
「してないよ。ただ、やっぱり若いうちからヘビースモーカーは体に悪いんじゃないかな」
「うるせぇ!3倍――」
「ダメだって」
火の着いたタバコをすぐさま奪い取り、爆弾に着火出来ないように邪魔をする。
タバコに火をつける火種はあるだろうが、その火種で爆弾に着火するには少々時間がかかるはず。量を出せないなら、今の僕にとっては安全だとも言える。
それから何度も何度もタバコを奪い取って、ストックのなくなったらしい獄寺くんは膝を着いた。足元には無数の吸殻があって、虫みたいでちょっと気持ちが悪い。
「お見逸れしました……」
「え?」
「お見逸れしました! 十代目! 今までの非礼を許してください! 俺、十代目がどれほど強いのか知りたくて、試しただけだったんです!」
忘れてた。獄寺くんは、こういう男だった。僕が勝ってはいけなかったんだ……時すでに遅し、獄寺くんは僕の前に跪いている。
「これからは十代目の右腕として――」
「要らない」
「……え?」
「聞こえなかった? 僕にキミは必要ない」
「で、ですが……」
食い下がってくる獄寺くんに、睨みを利かせて念を押す。
拒絶。僕が俺だった頃には、殆どすることが出来なかった、絶対的な拒絶。俺が頼りにしていた獄寺くんだけあって、下手に媚びてくる事は無かった。
「いいや、獄寺はお前に必要だぞ」
「リボーンさん!」
「言っただろ。僕はボンゴレ十代目にはならない。獄寺くんも早く国に帰ったほうが良いんじゃない? こんなところで時間潰すより、もっと有意義なことに使うべきじゃないかな」
「いいえ、十代目についていくこと以上に有意義なことなんて存在しません!」
「うざい。うるさい。僕に関わらないで。僕は十代目じゃない。次その称号で呼んだら……暫く口の利けない身体になってもらおうかな」
殺気を込めて獄寺くんを睨みつけると、いくらリボーンの前であったとしても、僕に食い下がってくることはしなかった。獄寺くんは息を呑んで、僕がその場から離れるのを見つめていた。