俺は獄寺隼人。ボンゴレ十代目候補と呼ばれる人間がどんなものなのか見たくて観察していたが、特に変わり栄えの無い一般人の一人だって印象だった。
物静かで、特に発言するわけでもなく、上級生からの暴力にも抵抗しない、軟弱な奴だと思った。
……その目を見るまで。
クラスに転入して初めて面と向かって対面したそいつの目には、どこか底知れないものを感じて恐怖した。見かけは怯えている一般人。そのはずなのに、俺の本能が危険だと騒いでいた。ガンをつけて何とか視線を逸らし、退屈な授業が終わるのを待つ。
リボーンさんの助言も借りて、校舎裏へ呼び出したそいつは見るからにひ弱そうで。こちらに物怖じしない態度だけは褒めてやりたかったが、ただ抵抗する気力さえ削がれている可能性もある。決して口には出さなかった。
とりあえず力量を見ない限り、俺はコイツを十代目だとは認めない。そう思ってボムを出したらあっさりとかわされた。意地になってボムの数を増やしても、相手に傷一つ負わせられない。それどころか、コイツはタバコの火を奪って消した。
何度も何度も挑戦したが、アイツは絶対にタバコを吸わせようとはしなかった。確かに、俺はタバコ以外でも着火方法を持っている。ただし、威力に関してはやはり精度が落ちる。何が何でもタバコを咥えてやろうと意地になって抵抗しても、あっさり消されてしまって勝負にならない。
力量差は圧倒的だった。俺はこいつ……この方には勝てない。そう思って、タバコが無くなった時点で膝をついた。この強さこそ、ボンゴレ十代目に相応しい。そう思ってついていこうとしたら、あっさりと断られた。
それでも俺はこの方についていきたい。どうしてか意地になってすがり付こうとしたとき、背筋も凍るほどの冷たい視線が俺を突き刺した。
全く動けない。こんな経験は初めてだ。冷や汗が垂れるのを感じる。
二度と十代目と呼ぶな、そう言って十代目……沢田さんは学校を後にした。
今日だけでも何度か睨まれたが、今のが一番強烈で、寒気を覚える。何か、どこかを見つめているのに、瞳の中には俺が映っていない。凍りついた瞳が脳裏に焼きついて離れなかった。
リボーンさんは、沢田さんの瞳について何か知っているだろうか?
そう思ってリボーンさんを見ると、リボーンさんも驚いているのか表情を動かさずにじっと沢田さんの背中を見つめていた。
俺は、沢田さんのことは温室育ちの、何も知らない、ぬくぬくしたガキだと侮っていた。なのに、実際にあった沢田さんは全く違って。絶望を知っているような姿で。
沢田さんのことがもっと知りたいと思う自分と、恐怖で関わりたくないと思う自分が頭の中でバトルを始める。俺はどうすればいい。どうしたら良い。勝ったのは、沢田さんのことがもっと知りたいと思う俺だった。
とにかく、沢田さんについて俺はもっと調べることにする。
翌日、学校に来てみると沢田さんは既に登校なさっていた。どこか遠くを見つめるように窓の外を眺める沢田さんは、昨日のような気迫は感じられず、あれらが本当に現実だったのか疑ってしまうほどだった。
ボーっと立ち尽くす俺を不審に思ったのか、沢田さんはこちらに視線を一瞬だけ移し、つまらなさそうに机に伏せる。その時見た瞳は、確かに昨日を変わらない冷たい瞳だった。
「さ、沢田さん、おはようございます!」
「……おはよう、獄寺くん」
礼儀として挨拶をすれば、ぶっきらぼうにだが返事をしてくださる。
昨日殺しに掛かった俺に対して、まだクラスメートとして扱おうとしてくださる。沢田さんは俺のタバコに関しても、ずっと身体を心配した言葉を掛けてくださっていた。沢田さんは言葉や振るまいこそ冷たいものの、心の中では暖かい方なのだ。
俺がそう信じるのに時間は掛からなかった。
もっともっと沢田さんのことが知りたかったが、リボーンさんからの提案で、一度日本を離れることになってしまったのが残念だった。
待っていてください沢田さん。俺は直ぐに戻ります!!