沢田綱吉はダメダメのダメ。いじめられっこで、いつも何かを押し付けられる。
それでいい。僕はこのままでいい。誰も巻き込まないように、このままで良いんだ。そう決意したから、グラウンドのトンボがけも別に苦だと思ったことは無い。最近は体力もつけてきたし、そんなに時間も掛からず終わらせられるから気にすることも無い。
……と思っていた。
「助っ人とーじょー!」
そういえば、そんな事もあったかもしれない。笑顔で登場する山本にはいつも助けられていたから、その顔を見ると思い出してつい顔を背ける。
「僕一人でやるから、山本は戻ってなよ」
「そんなこと言うなって! お前一人だと大変だろ? 俺も手伝うぜ」
「できるよ」
「つれねーな、俺の注目株」
その言葉に僕は一瞬反応する。剣道の試合も、球技大会でも結局僕のせいでボロ負け、リボーンは何か手を打って来るという事はしなかった。僕が山本の注目株になることは無かったはず。
リボーンのせいか?
「最近さ、お前性格変わったよな。なんつーか……ぼや~としたのがビシッて感じになったってか」
「……そんなことないよ。山本も知ってるだろ? 僕はダメダメで何をしても取り得の無いダメツナだって」
「でもさ、俺見ちゃったんだよな。お前が獄寺と校舎裏で……会話は良く聞こえなかったけど、身のこなしとか、あの獄寺がツナに懐いたのもスゲーって思った」
「そんな! たまたまだよ! 獄寺くん、あの時足捻挫してたみたいで、そのせいで蹲っただけだって」
「……なるほどな! でも、ツナのあの身のこなしは俺の見間違いじゃねーって思ってるぜ」
俺がボンゴレボスだったとき、気づいたことがあった。山本は天然に見せかけて、めちゃくちゃ頭の切れる奴で、本当は心のそこで全部理解してる。そういうときの山本は一瞬眉を動かすんだ。
「たまたまだって」
「ツナがそう言うならそうなんだろうな。……なぁツナ、突然打率落ちてさ、野球始めて初のスタメン落ちして、俺さ、どうすりゃ良いと思う?」
「……なんでそれをダメツナに相談するんだよ」
「なんか、ツナなら何か分かるんじゃねーかなーってさ! ハハッ……ごめん、忘れてくれ」
明るく振舞っているが、その内心ストレスでイライラしているのを僕は知っている。笑顔に影がさしているのがその証拠だった。
この頃の山本は、まだ野球一筋で。今からなら、野球選手になる道もあるかもしれない。それなら、ここで腕を痛めてしまう練習法を改善するしかない。
誤っても僕の道に進まないように、適度な距離感で、絶対に。僕が山本を正しい道へ導かないといけない。
「たまには休んでみることも必要じゃないかな。山本はずっと野球に打ち込んでるから、気分転換して、そしたら何か見えてくることもあるんじゃない?」
「……そっか。んじゃツナ、今日ちょっと付き合ってくんね?」
「……それは」
「いーじゃねーか、お前もなんか落ち込んでるみたいだし、二人で気分転換しようぜ」
そんなことない、と否定したかったけど、否定できるほど元気が無いのも事実だった。僕が再び沢田綱吉として生活し始めてから、どこか遠いところを見つめている時間が増えていたかもしれない。この間も恐らく、獄寺くんにバレていた。今度は、俺のことなんか殆ど見てなかったはずの山本にまでバレている。……山本は細かいところに気づくのが上手い、というのも特技の一つだからかもしれない。
結局、そのまま山本に引きずられるように学校帰りに並盛商店街へ足を運んだ。山本は野球道具を見て目を輝かせていたが、その後は軽く買い食いをして穏やかな時間を過ごすだけだった。
バッティングセンターを見た山本が無意識のうちに足を運びそうになったのをそれとなく押さえつつ、たいやきやジュースを買って遊んだ。
「それでさー、俺の親父が言うんだよ。『武、俺はお前が生まれる前は海を横断してマグロを獲って暮らしてたんだ』てさ! 流石に信じられねーっつったら、親父次の日出てっちまってよ、夜中に帰ってきたと思ったらでっけーマグロ持っててさー」
「なにそれ、とんでもなさすぎ! 山本のお父さんって山本に似て頑固だなー」
「そーそー、俺もあん時はびっくりしたな」
久々に笑ったかもしれない。たまに山本が話すお父さんの話はどれも面白くて、自然と笑いがこぼれてくるものばかりだった。そうやって父親の話をする山本がまた楽しそうで、笑顔で話してくれるから自然とリラックスさせられる。
「やっとツナ笑ったな。ずっと落ち込んでるみたいだったから心配したぜ」
「そんな落ち込んでるように見えた? もしかしてそのために?」
「いや、ツナが真剣に俺の話を聞いてくれたから気分転換もいいかなって思ってよ、ツナも落ち込んでるみたいだったし、ついでに遊んじまえばって思ってさ」
「山本……ありがとう」
俺の雨の守護者だった山本。今の僕の心も落ち着かせてくれる山本は本当に凄いと思う。山本がいたから冷静に対処できた仕事も多かったし、この山本は知らなくても、いつも心の底から尊敬して、感謝を伝えたい相手だった。
「俺も随分リラックスできたし、お互い様ってな! 俺こそ付き合ってくれてありがとな、ツナ」
「うん」
「っと、そろそろ家にもどらねーと。親父の手伝いがあったんだ」
「そっか、頑張ってね」
「おう、また明日な!」
「うん、また明日」
変わってしまった僕の事も、変わらず接してくれる山本が改めて大切だと思う。
だから、絶対に巻き込んじゃいけない。山本は山本の夢がある。野球選手として生きていく道が絶対にあるはずだ。
こっそり僕を尾行していたリボーンに目を向ける。一瞬しか目に入らなかったが、それでも存在は確認できた。リボーン、僕は絶対に彼らをマフィアにはさせない。
空になったジュース缶をゴミ箱へ投げ入れ、僕も家に帰った。