レクイエム・フレーム   作:momomotototo

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第十七話 条件

「謀ったな、黒鷺」

 

 白峰創は、会議室に入るなり言った。

 

 席にはつかない。

 

 白い照明の下、会議卓の前に立ったまま、黒鷺玄真だけを見据える。

 

 黒鷺は、黒い研究服の袖口から覗く細い指を組み、死人のように白い顔をゆっくりと白峰へ向けた。

 

「何のことでしょう」

 

「天音海斗が第七封印体に反応することを――貴様は知っていたな」

 

 黒鷺は、すぐには答えなかった。

 

「白峰司令」

 

 やがて、静かに口を開く。

 

「第七管区内で適性測定を行う。そう判断したのは、あなたです」

 

 白峰の眉が、わずかに動く。

 

「中央へ移送せず、現地管理下で測定する。中央の解析施設ではなく、第七管区の設備を使う。そう提案したのは、私ではありません」

 

 その瞬間、白峰は理解した。

 

 黒鷺は、知っていただけではない。

 

 待っていたのだ。

 

 こちらが海斗を中央へ渡さず、第七管区内で測定することを。

 

 海斗を守るために下した判断そのものを、利用した。

 

「……嵌めたな」

 

「いいえ」

 

 黒鷺は淡々と返した。

 

「私は、白峰司令の判断に従っただけです」

 

「言葉を選ぶな」

 

 白峰の拳が、会議卓の上で強く握られた。

 

「今度は、中央へ連れて行けと言うつもりか」

 

「中央移送案は撤回します」

 

 黒鷺は即座に答えた。

 

 白峰の眉が動く。

 

「……何?」

 

「第七封印体との接触後、対象は隔離区画を破り、制圧部隊を退けた。研究施設での継続拘束は現実的ではありません」

 

 黒鷺は淡々と言った。

 

「今後は第七管区の管理下で、CHORUS接触下での段階的な実戦観測へ移行すべきです」

 

 白峰の目が細くなる。

 

「……閉じ込められないと分かった途端、今度は戦わせるのか」

 

「接触下でなければ、得られない反応があります」

 

「天音海斗は、ただ巻き込まれただけだ」

 

 白峰は言った。

 

「第十三戦術学園の生徒だった。それを今度は、データ収集のためにCHORUSの前へ立たせるのか」

 

 黒鷺は、ゆっくりと端末へ指を滑らせた。

 

 会議室のスクリーンに、天音海斗の個人記録が表示される。

 

「天音海斗。十九歳。第十三戦術学園FRAME候補生。適性ランクはSILENT」

 

 黒鷺は、表示された記録を見る。

 

「実戦課程への編入見込みなし。両親は過去のCHORUS戦役で死亡。第十三戦術学園も壊滅し、現在の所属先もない」

 

「黒鷺」

 

 白峰の声が低く沈む。

 

 だが黒鷺は止まらなかった。

 

「通常戦力としての価値は低い。にもかかわらず、ORIGIN-07に反応した」

 

 そこで初めて、黒鷺は白峰を見た。

 

「データを得る対象として、これ以上の適任はいません」

 

 白峰の手が、会議卓を叩いた。

 

 重く、鈍い音が響く。

 

「黒鷺……!」

 

 白峰の顔に、明らかに血が上った。

 

 灰狼が命をかけて守った青年を、今度は利用価値だけで値踏みする。

 

 司令官として押し殺してきた感情が、その一瞬だけ表へ出ていた。

 

「黒鷺」

 

 そこで、鷹司玲央が口を開いた。

 

 低く、抑えた声だった。

 

「話を急ぐな」

 

 黒鷺の視線が、わずかに動く。

 

「現時点で優先すべきは、実戦観測ではない。天音海斗を第七管区で管理できるか、その確認だ」

 

 鷹司は白峰へ視線を向けた。

 

「条件を満たすなら、中央は現地管理を認める」

 

 白峰の表情が、わずかに動く。

 

「条件は」

 

「全観測記録を中央へ提出しろ。加えて、常時監視役を置く」

 

 短い沈黙が落ちた。

 

 白峰は鷹司を見据えた。

 

「……条件を受け入れます」

 

 低い声だった。

 

 だが、その言葉に迷いはなかった。

 

「監視役は、こちらで決めます」

 

 ◇  ◇  ◇

 

 白い天井だった。

 

 最初に見えたのは、何の汚れもない天井パネルと、そこに埋め込まれた細い照明だった。

 

 眩しいわけではない。

 

 それなのに、海斗は目を細めた。

 

 ここはどこだ。

 

 そう思った瞬間、胸の奥で何かが脈打った。

 

 どくん。

 

 自分の心臓の音ではない。

 

 いや、自分の鼓動に、もう一つ別の鼓動が重なっている。

 

 呼吸をするたび、胸の奥と、部屋のどこかが同じ間隔で震えているような気がした。

 

 海斗は喉の奥を小さく鳴らす。

 

 反射的に身体を起こそうとして、胸元に重みを感じた。

 

「……え」

 

 視線を下げる。

 

 ベッド脇の椅子に座ったまま、上半身だけを投げ出すようにして、一人の少女が海斗の胸元のシーツに額を預けて眠っていた。

 

 淡いミントグリーンの髪が、白いシーツの上にさらりと流れている。

 

 見覚えのある色だった。は

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