レクイエム・フレーム   作:momomotototo

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第一話 見つかった

 キィィィィィ――――。

 

 頭の奥で、細い金属音が鳴り続けている。

 

 ようやく、思い出した。

 

 天井が落ちた。

 

 そこから先の記憶は、ない。

 

「……だ……か……」

 

 喉から、掠れた音が漏れた。

 

 誰か。

 

 そう呼んだつもりだった。

 

 けれど、途切れた声は言葉にならず、誰にも届かなかった。

 

 悲鳴も足音も、もう聞こえない。周囲に人の気配はなかった。

 

 崩れた天井の穴から、赤い空だけが見えていた。

 

 ギチ。

 

 瓦礫の向こうで、何かが鳴った。

 

 海斗の身体が強張る。

 

 ギチ、ギチ。

 

 骨を擦るような音。

 

 人間の足音ではなかった。

 

 赤みを帯びた煙の向こう。

 

 “それ”はいた。

 

 四足。

 

 異様に長い前脚。

 

 裂けた口。

 

 白濁した複眼。

 

 黒く脈動する筋肉が剥き出しになった、獣のような異形。

 

 CHORUS(コーラス)。

 

 授業で何度も聞かされた、人類の敵。

 

 けれど、教本の映像と、目の前のそれはまるで違った。

 

 本能だけが理解していた。

 

 アレは、人間を殺す。

 

 粘ついた唾液が、瓦礫の上へ落ちる。

 

 ぬちゃり、と湿った音がした。

 

 海斗の喉が引きつった。

 

「……ぅ……」

 

 声が出ない。

 

 俺は、まだ何もできていない。

 

 こんなところで、死にたくない。

 

 逃げようとしても、身体は瓦礫に押し潰されたまま、上体を起こすことすらできなかった。

 

 異形が止まる。

 

 白濁した複眼が、ゆっくりと海斗を捉えた。

 

 見つかった。

 

 胸の奥で、浅い息だけが震えていた。

 

 異形の四肢が低く沈む。獲物へ飛びかかる直前の獣のように、剥き出しの黒い筋肉が不気味に収縮し、長い前脚の爪が瓦礫の表面を削った。

 

 異形が跳ぶ。

 

 重さを感じさせない速さだった。

 

 裂けた口。

 

 白濁した複眼。

 

 それらが一直線に迫ってくるのを、海斗はただ見ていることしかできなかった。

 

 逃げられない。

 

 脚も、左腕も、瓦礫の下で動かない。

 

 せめて顔だけでも庇おうと、反射的に右腕を上げる。

 

 死ぬ。

 

 その言葉だけが、ひどくはっきりと脳裏を掠めた。

 

 その刹那。

 

 灰色の閃光が、海斗と異形の間へ割り込んだ。

 

 ズバンッ――!!

 

 海斗の目の前で、異形の上半身が宙に浮いた。

 

 斬られたのだと理解するまでに、一拍遅れた。黒い肉体は空中で真っ二つになり、生暖かい何かが海斗の頬に貼りつく。

 

 それが異形の血なのか、肉片なのか、考えたくなかった。

 

 遅れて、重い音が響く。

 

 異形の残骸が地面に落ちた音だった。

 

 その向こうに、灰色が立っていた。

 

 煙と火の粉の中で、その姿だけが異様なほどはっきりと見えた。

 

 胸部装甲に、白い文字が刻まれている。

 

 《STRIKER》

 

 海斗がずっと追い続けてきた灰白色のFRAMEが、今、目の前に立っていた。

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