キィィィィィ――――。
頭の奥で、細い金属音が鳴り続けている。
ようやく、思い出した。
天井が落ちた。
そこから先の記憶は、ない。
「……だ……か……」
喉から、掠れた音が漏れた。
誰か。
そう呼んだつもりだった。
けれど、途切れた声は言葉にならず、誰にも届かなかった。
悲鳴も足音も、もう聞こえない。周囲に人の気配はなかった。
崩れた天井の穴から、赤い空だけが見えていた。
ギチ。
瓦礫の向こうで、何かが鳴った。
海斗の身体が強張る。
ギチ、ギチ。
骨を擦るような音。
人間の足音ではなかった。
赤みを帯びた煙の向こう。
“それ”はいた。
四足。
異様に長い前脚。
裂けた口。
白濁した複眼。
黒く脈動する筋肉が剥き出しになった、獣のような異形。
CHORUS(コーラス)。
授業で何度も聞かされた、人類の敵。
けれど、教本の映像と、目の前のそれはまるで違った。
本能だけが理解していた。
アレは、人間を殺す。
粘ついた唾液が、瓦礫の上へ落ちる。
ぬちゃり、と湿った音がした。
海斗の喉が引きつった。
「……ぅ……」
声が出ない。
俺は、まだ何もできていない。
こんなところで、死にたくない。
逃げようとしても、身体は瓦礫に押し潰されたまま、上体を起こすことすらできなかった。
異形が止まる。
白濁した複眼が、ゆっくりと海斗を捉えた。
見つかった。
胸の奥で、浅い息だけが震えていた。
異形の四肢が低く沈む。獲物へ飛びかかる直前の獣のように、剥き出しの黒い筋肉が不気味に収縮し、長い前脚の爪が瓦礫の表面を削った。
異形が跳ぶ。
重さを感じさせない速さだった。
裂けた口。
白濁した複眼。
それらが一直線に迫ってくるのを、海斗はただ見ていることしかできなかった。
逃げられない。
脚も、左腕も、瓦礫の下で動かない。
せめて顔だけでも庇おうと、反射的に右腕を上げる。
死ぬ。
その言葉だけが、ひどくはっきりと脳裏を掠めた。
その刹那。
灰色の閃光が、海斗と異形の間へ割り込んだ。
ズバンッ――!!
海斗の目の前で、異形の上半身が宙に浮いた。
斬られたのだと理解するまでに、一拍遅れた。黒い肉体は空中で真っ二つになり、生暖かい何かが海斗の頬に貼りつく。
それが異形の血なのか、肉片なのか、考えたくなかった。
遅れて、重い音が響く。
異形の残骸が地面に落ちた音だった。
その向こうに、灰色が立っていた。
煙と火の粉の中で、その姿だけが異様なほどはっきりと見えた。
胸部装甲に、白い文字が刻まれている。
《STRIKER》
海斗がずっと追い続けてきた灰白色のFRAMEが、今、目の前に立っていた。