竜牧場へようこそ!   作:かりん2022

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私の竜を見るのです

 格好いい竜に育つのは千年後だから。

 1000年大事に大事に育てていこう。そんな和やかな空気と、細やかな我が竜自慢。

 平和な時間はわずか三年で終焉を迎えた。

 

 時は遡り、竜選びの時。

 陛下から竜の権利を一匹だけ無理やり譲らせた妃殿下は、偏食で痩せた子を「なんて哀れな姿! ママが守ってあげるわ!」と選んだ。妃殿下はママではない。

 その事に苦言を呈すが、なんのその。この子が運命なのだと、妃殿下は押し切った。

 

 それから、妃殿下は目に入れても痛くないほどその竜を可愛がった。

 そもそも、鶏大の卵から生まれる竜である。

 最終的には乗れるほど大きくなるが、最初は余裕で一緒に寝れるほど小さく可愛らしい。

 もちろん、妃殿下は臣下の苦言も耳に入れず、そうした。

 

 手ずから餌をやり、好き嫌いを直すのではなく、何が食べたいか探し、竜の好むように食べさせた。珍しい魔物の肉、魔力を持った果実、魔石、美味しい野菜から自分の食べるパンに至るまで。竜がお腹を壊さないかとハラハラする周囲の心配もどこ吹く風、帝国の財力で好きなものだけ食べてもたっぷり食べられた竜は、すくすくと育った。

 そう、すくすくと……。

 

 豚竜と言われるだけあり、始祖竜は通常、桃色の丸まっこい姿のまま成長する。

 

 妃殿下の竜は違った。

 魔を司る魔神と美を司る芸術神の加護を得た両親から産まれ、人懐こさを誇る商売神の加護を得た子は、青くほっそりしたフォルムと鋭い翼を持ち、アイスブレスを放って花を氷漬けにしては貴婦人にプレゼントする、お洋服に一家言あるちょっとオシャレで紳士な子に育った。名はプリンス。

 

 交配時期に行われる交流会で、一体だけ服を着て(それも燕尾服だ!)、氷の花を口に加え持って妃殿下に捧げる、流線型のフォルムのプリンスは王子様並みに目立った。

 桃色の中で、一体だけ海のように真っ青なオーシャンブルー。

 目立たないはずがない。

 

 竜達はぽかんとプリンスを眺めた。飼い主達は驚愕の眼差しを持って妃殿下のプリンスを見た。

 

「さ、さすがは竜騎士を作った国の帝妃様ですな」

「随分と優美な……」

 

 ズル? ズルしてないか? そんな事を思ってしまうほど、妃殿下のそれは浮いていた。

 なにせ、うちの子は他の子よりも500グラム体重が重いとか、顔がこころなしか凛々しい気がするとか、色合いが濃いピンクだとか、そんな事で争っていた中に爆弾投下である。

 妃殿下はのほほんと子竜について話す。

 

「もう、うちの子は偏食で偏食で。この前も、騎士団に態々魔物を捕らえさせたのですよ。本当にオシャレで、着る服にも煩いし。でも、氷漬けの花をプレゼントしてくれるから、何でも許してしまうの」

 

 マウントである。マウントである。何を言ってもマウントになってしまう悲哀。

 竜達もブルブル震えている。飼い主達もブルブルと震えている。

 まあまあと、遊びに来ていたルイが笑った。

 

「始祖竜は進化しやすいとは言え、随分尖った育て方をしたね。竜は育て方によって千差万別になるから、面白いよね。初期からここまで寄せちゃうと、もうアイスドラゴンの道を邁進するしかないかな。交配による裏技もあるけど、生半可な相手だと氷属性が勝つね。それはそれで面白いと思うよ。もう、卵も水や氷の魔石だけで包んで、突っ走っちゃえば良いんじゃないかな? 偏食って個竜の特性も加護も最大限活かしているし、超短期で見るなら君が優勝かな。超短期で見るならね。他の竜達は、まだ可能性をたくさん残しているってことだから、焦る必要はないよ」

 

 焦らないわけがなかった。

 作戦会議である。

 なお、種付けが人気になりそうって思うじゃろ? 思うじゃろ? ――プリンスは、メスである。

 

「プリンス、お婿さんにしたい人はいる?」

 

 プリンスは、首を振った。

 

「なら、仕方ないわね。来年の繁殖期には、格好いいお婿さんがいると良いわね」

 

 勝者の余裕。勝者の宣言。

 参加者たちは、こぞってハンカチを噛むのだった。

 

 

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