今日から霊夢の残機   作:大体三恵

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第五話 帰れない道

 翌朝、台所と物置を改めて確認した結果、前日に衣類だけを優先した判断は正しかったものの、生活を続けるには足りないものが予想以上に多いことが分かった。

 

 作業用の手袋、虫除け、日焼け止め、常備薬、懐中電灯の予備電池、掃除用の洗剤とごみ袋。台所用品は一通りそろっていたが、保存容器と水筒も欲しい。

 山の中で暮らす以上、停電や断水へ備えて携帯できる照明と飲料水を確保しておく必要があり、絆創膏や消毒薬だけでなく、捻挫や軽い火傷へ対応できる程度の救急用品も用意しておいた方がよい。

 

 紫が生活に必要なものを準備したと言っていたが、必要最低限という言葉をかなり狭く解釈していたらしい。

 あちらの生活には無駄がない。私からすれば余裕がない。

 

 もっとも、食料と寝床があるだけでも、突然放り込まれた先としては恵まれている。最初から快適な生活まで期待する方が間違っているのだろう。

 

 朝食を終えると、前日に買った白い半袖シャツと黒いカーゴパンツへ着替えた。足元は白と黒のスニーカーで、薄手のパーカーは腰へ巻く。

 日差し対策、擦過と虫対策にパーカーは忘れてはならない。

 髪は作業の邪魔にならないよう低い位置で結び、財布、携帯電話、手帳、小さな飲料水をショルダーバッグへ入れた。

 

 鏡の前で全身を確認する。

 

 衣服の乱れはなく、動きを妨げる場所もない。前日より見慣れたせいか、白黒の服を着た霊夢が鏡の中にいることへ、いちいち意識を取られることも減っていた。

 

 それは慣れという意味では望ましい。

 

 同時に、霊夢の姿をした自分を日常として受け入れ始めているということでもあり、その点だけは考えない方が精神衛生上よさそうだった。

 

 昨日と同じ道を歩いて山を下りる。

 

 途中までは人の姿もなく、住宅地へ入ってから犬を散歩させている男性とすれ違った。相手はこちらを見ると、軽く会釈してから二度ほど振り返ったが、巫女装束ではないため、反応は極々自然だ。

 

 町へ近づくにつれて、視線を向けられる回数が増えた。

 服装を変えても大きな差がなかった以上、原因は巫女装束だけではないらしい。

 

 見慣れない人がいて珍しい……ではないだろう。そんな小さい街ではない。

 やはり……霊夢の魅力だろうか?

 

 現在の外見が周囲の注意を引く程度に整っていることは、知識として理解している。霊夢が可愛いかどうかと聞かれれば、迷わず可愛いと答えるし、顔だけでなく、髪も、目も、少し不機嫌そうに見える口元も魅力的だと思う。

 

 ただし、それは霊夢を外から見ていた時の評価だった。

 

 同じ顔が自分についているからといって、自分まで同じように評価されるという感覚には、まだうまく結びつかない。人間は鏡に映ったものを目で確認できても、それを他人から見た自分として認識するには別の慣れが必要なのだろう。

 

 ……もしかしたらこの姿の活動に支障がないように、霊夢がこの街で知られている人物と紫が仕込みでもしたのだろうか?

 そんな疑いを持ってしまう。

 我ながら紫を信用してないな、私。

 

 まあ、こんな姿にされたのだから、信用するのがおかしい。

 責任を取らせるため頼りはするが、いまいちあの人は信用できない。

 

 昨日利用した商業施設ではなく、駅の反対側にあるホームセンターへ向かった。地図で見れば商店街を抜けて十五分ほどで、途中には大きな交差点が一つある。

 

 ……この街、ちょっと不便な気がする。

 

 在来の鉄道路線に新幹線の高架、江戸時代に築かれた堀と堤防、さらに後から通された高速道路が、いずれも似た方向へ市街地を横切っている。地図の上で見ると、街全体が複数の線によって、ほとんど二つに分けられているようだった。

 

 広域交通や物流の拠点として見れば優秀なのだろう。しかし、実際に暮らす側からすれば、線路や水路を越えるたびに生活圏が切り替わる。学校区や商店街、祭りの範囲まで異なっているなら、市民の地域帰属意識も、同じ街の中で二つに分かれている可能性があった。

 

 そんなことを考えながら信号を待っていると、隣に立っていた若い男性が何度かこちらへ視線を向けた。

 

 二十代の前半くらいだろうか。帽子を被り、耳には無線式のイヤホンをつけている。最初は偶然かと思ったが、三度目には明らかにこちらを見ていた。

 

 目が合うと、男性は気まずそうに視線を逸らした。

 

 害意は感じない。声を掛けようとしている様子もなく、撮影しているわけでもなかったため、こちらから反応する理由はない。

 

 信号が青へ変わる。

 

 男性は少し先を歩き、交差点を渡ったところで、道路沿いのコンビニへ入っていった。私も同じ方向へ進んだが、店へ寄る予定はなかったため、そのままホームセンターへ向かった。

 

 店内では、買い物リストの順番に品物を集めた。

 

 作業用の手袋は、現在の手に合う小さな寸法を探す必要があった。一般的な女性向けでも指先が余り、子供用では掌の幅が窮屈だったため、いくつか試した末に薄手の園芸用手袋を選ぶ。

 

 霊夢の手へ傷をつけたくないという考えが一瞬浮かんだが、これは現在の私の手でもある。作業中の怪我を避けるために手袋を買うのであって、誰かの所有物を保護しているわけではない。

 

 そう言い聞かせなければならない時点で、考え方の順番に多少の問題がある気はした。

 

 虫除けと日焼け止めを籠へ入れ、救急用品の売り場へ移動する。消毒薬、包帯、テープ、冷却材、鎮痛薬を選び、使用期限を確認した。残機を失った場合の症状に市販薬が効果を持つかは分からないが、通常の怪我や体調不良へ備える意味はある。

 

 懐中電灯は片手で持てるものと、頭へ固定できるものを一つずつ購入することにした。夜間に飛行を使う予定はないものの、山中で停電や設備故障が起きれば、両手を空けたまま移動できる照明は必要になる。

 

 最後に収納用品と日用品をそろえると、籠の中身はかなり増えていた。

 

 一度で運べない量ではないが、現在の身体で山道を登ることを考えれば、無理に大きな容器や予備を買い込むべきではない。非常用の飲料水など重量のある品は後日、配送を利用できるか確認した方がよいだろう。

 

 会計を済ませ、品物を二つの袋へ分けてもらった。

 

 店を出た時には、昼を少し過ぎていた。気温は朝より明らかに上がっており、アスファルトから照り返す熱が足元に溜まっている。

 

 近くの自動販売機で飲み物を追加し、日陰で数分休んでから帰路についた。

 

 ホームセンターの前を西へ進み、大きな交差点を渡り、商店街を抜ける。その先の住宅地から坂道へ入り、山へ戻る。

 脳内に地図を思い浮かべる。

 帰るべき博麗神社のある北の山。それを避けるように、鉄道は東へ、古い堀は西へ分かれて伸びている。街を二つに割る堀と鉄道を、居座る山が東西へ押し分けていた。。

 街を人の手で割る線が、自然の山に逆らえず避けていた。

 そんな印象を抱いた。

 

 昨日も通った道であり、地図を確認する必要もない程度には覚えていた。

 

 最初の違和感は、大きな交差点へ着かないことだった。

 

 ホームセンターから十分ほど歩けば、交通量の多い県道と歩道橋が見えるはずだった。しかし、進行方向にあるのは低い住宅と小さな駐車場ばかりで、車の走行音も遠い。

 

 一本、道を間違えた可能性を考えた。

 

 知らない町で、見覚えのある景色だけを頼りに歩けば、似た交差点を取り違えることは珍しくない。携帯電話を取り出し、地図を開く。

 

 現在位置を示す印は、ホームセンターと大きな交差点の中間にあった。

 方角も間違っていない。

 画面上では、このまま直進すれば数分で県道へ出る……はずだ。

 

 私は歩き続けた。

 

 五分ほど進むと、右手に青い屋根の住宅が見え、その先に自動販売機が一台置かれていた。住宅の門柱には、白い陶器製の犬の置物がある。

 

 それをしっかり確認して通り過ぎ、さらに五分ほど歩く。

 

 やがて右手に、青い屋根の住宅があった。

 

 門柱には白い犬が置かれ、その先には同じ自動販売機が立っていた。

 

 おかしい……と、私は足を止める。

 

 同じような住宅が二軒ある可能性は否定できない。しかし、犬の置物の首に巻かれた赤い布まで同じで、自動販売機の左下には同じ場所へ錆が浮いている。

 

 改めて携帯電話の地図を見る。

 

 現在位置の印は、先ほどより交差点へ近づいていた。衛星測位が正常なら、少なくとも同じ場所へ戻ってはいない。

 

 私は来た方向を振り返った。

 

 直線の道路が、住宅の間を百メートルほど伸びている。曲がった覚えはなく、道の形にも異常は見えない。

 

 荷物を足元へ置き、手帳を取り出す。

 

 時刻、現在位置、周囲の特徴、歩いた時間を記録する。携帯電話の方位磁針を起動すると、西を示しており、地図上の進行方向とも一致していた。

 

 念のため青い屋根の住宅を撮影しようと考え、すぐにやめた。

 住居を無断で撮る必要はない。代わりに、屋根、門柱、犬の置物、自動販売機の特徴を文章で残す。

 

 道を間違えたのか、似た場所があるのか、それとも認知に何らかの異常が起きているのか。

 

 現時点では判断できない。

 

 確認する方法はある。

 

 来た方向へ戻り、ホームセンターへ戻れるか試す。往路と復路で同じ異常が起きるか、地図上の位置と実際の景色が一致するかを確認する。先へ進んで異常の原因を探すという選択肢もあるが、荷物を持ち、土地勘もなく、現象の条件も分からない状態で行うべきではなかった。

 

 分からない場所へ、分からないまま踏み込まない。

 

 私は袋を持ち上げ、来た道を引き返した。

 

 数分後、前方に青い屋根が見えた。

 

 今度は左手にある。

 

 門柱の白い犬と、自動販売機の錆の位置も同じだった。

 

 通過する際、住宅の窓へ視線を向けたが、カーテンは閉まっており、人の気配はない。庭には洗濯物もなく、車庫も空いている。

 

 そのまま歩く。

 

 また五分ほどで、同じ住宅が左手に現れた。

 

 時間や距離の感覚が狂っている可能性を考え、携帯電話の時計と歩数を確認する。時刻は正常に進んでおり、歩数も増えている。身体の疲労も、実際に歩いた距離に応じて蓄積していた。

 

 幻覚だけなら、身体の移動量と一致しない可能性がある。

 

 空間そのものがつながり方を変えているのかもしれない。

 

 そう考えた瞬間、背中へ冷たいものが流れた。

 

 幻想郷では、道に迷うという現象が必ずしも地理的な問題とは限らなかった。妖怪や境界に触れた結果、同じ場所を歩き続けたり、入った時とは違う場所へ出たりすることがある。

 

 こちらは外の世界だが、私をこの姿へ変えた存在が八雲紫であり、外の世界にも博麗神社が存在する以上、常識だけを根拠に超常的な可能性を排除することはできない。

 

 飛ぶことを考えた。

 

 建物の上まで上がれば、現在位置と周囲の地形を確認できる。道のつながりに異常があるだけなら、上空から直接山へ戻れるかもしれない。

 

 しかし、ここは住宅地だった。

 

 昼間で人目があり、防犯カメラや窓から見られる可能性も高い。さらに、異常の性質が分からない状態で飛行を使えば、上空でも同じ現象が起こる可能性がある。地上なら立ち止まれるが、空中で方角や高度を失えば危険は大きい。

 

 簡単に使える手段だからこそ、条件の分からない場所では使うべきではなかった。

 

 私は道路脇の日陰へ入り、荷物を下ろした。

 

 呼吸を整え、水分を取る。焦って動けば、熱中症や判断ミスまで加わる。携帯電話には電波があり、緊急通報も可能な状態だったが、「同じ住宅へ繰り返し戻る」という説明で警察や消防へ助けを求めても、現在位置を特定できなければ対応は難しいだろう。

 

 まず、異常が発生する条件を切る必要がある。

 

 来た道と反対へ進んでも戻るなら、左右の路地へ入った場合はどうなるのか。建物を目印にするのではなく、太陽の位置や方位だけを基準に動いた場合はどうか。

 

 いくつかの検証方法が浮かんだが、すぐに実行する気にはなれなかった。

 

 気にはなったが、自分に言い聞かせる。

 これは仕事ではない、と。

 調査を依頼されたわけでも、誰かを救うために原因を確かめる必要があるわけでもない。現時点での目的は、自分が安全に神社へ戻ることだった。

 リスクを確認したからといって、自分で踏みに行く必要はない。

 

「一度、町へ戻りましょう」

 

 声に出して方針を決める。

 

 神社の方向へ戻れないなら、人の多い場所へ退避する。駅や商店街へ出られれば、休憩と情報収集ができる。

 日が暮れるまでに異常が解消しなければ、宿泊先を確保し、紫への連絡方法を試すことも考える。

 

 私は青い屋根の住宅を正面に見て、そこから右へ伸びる細い路地へ入った。

 路地は二軒の家の間を抜け、その先で少し広い道路へ出た。見覚えのない道だったが、通行人の姿があり、自転車に乗った女性が横切っていく。

 

 十数メートル先には、商店街の入口を示す看板が見えた。

 

 あまりに簡単に戻れたため、しばらくその場から動けなかった。

 

 地図を確認すると、現在位置は最初に道を間違えたと思った場所から、ほとんど離れていない。直進していたつもりの時間と歩数が、地図上では存在していなかったことになる。

 私は手帳へ現在時刻を書き、異常が終わった可能性と、路地へ入ったことで抜け出した可能性を分けて記録した。

 

 その場で原因を確かめに戻ることはしなかった。

 

 帰路を確保できた直後に、再び不明な領域へ入るのは調査ではなく危険である。

 

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 見えた危機に背を向けて商店街へ向かい、冷房の効いた喫茶店か飲食店で休むことにした。

 

 大きな交差点の近くまで来ると、朝に見かけた帽子の男性が、コンビニの前に立っていた。イヤホンを片方だけ外し、携帯電話を見ながら誰かを待っているらしい。

 

 男性は私に気づくと、また一度顔を見た。

 

 今度は目が合ってもすぐには逸らさず、何かを確かめるように数秒だけ見つめてから、気まずそうに頭を下げた。

 

 こちらも軽く会釈を返す。

 

 目を逸らされるよりはいい。気まずさはあっても、後ろめたさや害意がないとわかるから。

 

 昨日から、知らない人間に見られることが続いている。霊夢の顔である以上、完全に避けることは難しいのだろう。

 それでも、先ほどの道で感じた視線とは違った。

 誰かに見られている感覚があったわけではない。姿も声もないのに、進む先だけを選ばされていたような気味の悪さが残っている。

 

 交差点の信号が青へ変わった。

 

 私は男性より先に横断歩道を渡り、商店街へ入った。

 

 背後で、車のクラクションが鳴った。

 

 短く一度ではなく、何台もの音が重なり、その直後にタイヤが路面を擦る甲高い音が響いた。

 

 振り返った時には、交差点へ入った乗用車が大きく進路を変え、対向車線の車両へ衝突していた。後続の車が止まりきれず、横からさらに一台がぶつかる。金属の潰れる音とガラスの割れる音が連続し、歩道にいた人々が悲鳴を上げた。

 

 荷物をその場へ置き、交差点へ戻る。

 

 最初に衝突した車は歩道へ乗り上げ、信号機の支柱へ前部を押しつける形で止まっていた。道路上には車体の破片が散らばり、白い煙のようなものが上がっている。

 

「救急車を呼んでください。車には近づきすぎないで」

 

 周囲へ声を掛けながら、火や燃料漏れの有無を確認する。

 

 すでに携帯電話で通報している人がいた。動ける人間には事故車両から距離を取るよう促し、車道へ出ようとする者を止める。

 

 帽子の男性が見当たらなかった。

 

 視線を動かすと、歩道の端に人が倒れていた。

 

 見覚えのある帽子が数メートル離れた場所へ落ちている。

 

 駆け寄ろうとして、足を止めた。

 

 車両から液体が流れており、近づけば二次事故や火災に巻き込まれる可能性がある。負傷者のもとへ安全に到達できる経路を探している間に、近くの店から消火器を持った男性が出てきた。

 

 救急車と消防車のサイレンが、遠くから聞こえ始める。

 

 私は通行人と協力し、動ける負傷者を安全な場所へ誘導した。自分に何ができるかを考えれば、医療行為へ踏み込むより、周囲の危険を減らし、救急隊の動線を空ける方がよい。

 

 数分後、消防と警察が到着した。

 

 誘導を引き継いだ警察官から事故を見たかと聞かれたが、私は衝突直前には背を向けていた。聞こえた音と、振り返った時の車両の位置だけを答える。

 

 最初の車がなぜ急に進路を変えたのかは分からない。

 

 運転手の操作ミス、体調不良、歩行者の飛び出し。考えられる原因はいくつもあった。

 

 歩道に倒れていた帽子の男性は、救急隊によって担架へ移された。顔には布が掛けられ、現場で処置を続ける様子もない。

 

 それが何を意味するのかは、確認するまでもなかった。

 

 少し前まで、彼は私を見ていた。

 

 視線を向けられたことと事故に因果関係があるはずはない。私を見た人間はほかにも大勢おり、その全員に何かが起きているわけではない。

 

 偶然である可能性の方が圧倒的に高い。

 それでも、同じ道へ何度も戻された直後に事故が起き、その場に朝から何度か見かけた人物が巻き込まれている。

 

 無関係だと断定するには、出来事が近すぎた。

 

 警察官へ連絡先を伝え、必要なら後で事情を聞くと言われてから、交差点を離れた。

 

 買い物袋は、商店街の入口へ置いたままだった。幸い盗まれてはいなかったが、片方が人に蹴られたらしく、救急用品の箱が少し潰れている。

 

 私は袋を持ち上げ、神社へ向かう道を見た。

 

 このまま帰るべきか迷う。

 

 道の異常が続いている可能性はある。事故との関係も分からない。日が高いうちに帰路を試す方がよい一方、疲労と動揺を抱えたまま再び同じ場所へ入ることには危険があった。

 

 危険が見える。

 今日は撤退する。

 

 ただし、何もなかったことにはしない。

 

 まず休息を取り、記録を整理し、帰路は人通りのある別経路を選ぶ。異常が再現するなら神社へ戻ることより、町中で夜を越すことを優先する。

 

 そう決めてから、私は商店街の中へ歩き出した。

 

 店の窓ガラスに、白と黒の服を着た少女が映る。

 

 霊夢の顔は、事故現場から目を逸らせないまま、強く眉を寄せていた。

 

 この町では、何かが起きている。

 

 その何かが私を狙っているのか、町の人間を狙っているのか、それとも誰も狙わず、ただ災いだけを引き寄せているのかは分からない。

 

 分からない以上、今は追わない。

 

 しかし、次に同じことが起きた時、偶然という言葉だけで処理するつもりもなかった。

 

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