南ことり&ピカチュウ ~キミといた夏の奇跡~   作:あいライス

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南ことりちゃんとピカチュウが出会う、ちょっと不思議な夏のお話。


第1話「不思議な出会い」

金曜日

 

◇東京都

 

蝉が鳴いてる。

 

 

(BGM:トキワへの道-マサラより(1997-1998M18B))(/xsmall)

 

 

◇秋葉原駅 3番線

 

山手線が止まってる。

 

人たちが乗り降りしてる。

 

 

◇電気街

 

たくさんの人が歩いてる。

 

 

◇松住町架道橋

 

総武本線が走ってる。

 

総武本線「【警笛】【走行音】」

 

 

◇万世橋交差点

 

人も車もたくさん通ってる。

 

車「【クラクション】」

 

 

◇昌平橋架道橋

 

中央本線が走ってる。

 

中央本線「【走行音】」

 

 

昌平橋を歩いてる一人の女子高生。

 

 

ことり「………」

 

 

主人公:南ことりは、音ノ木坂学院への通学路を歩いていた。

 

 

ことり「(ふぅ…)」

 

 

軽く額の汗を拭く。

 

 

ことり「(いい天気。 昨日の雨が嘘みたい)」

 

 

◇音ノ木公園

 

公園の近くを歩くことり。

 

公園の前には、近所に住んでる小学生2人がいた。

 

 

子供A「稲毛、津田沼、船橋、市川、新小岩、錦糸町、馬喰町、新日本橋、東京順に停車いたします」

 

ことり「…?」

 

子供A「右よし、左よし」

 

 

左を向いたら、ことりと目が合った。

 

 

子供A「あ! ことり姉ちゃん! おはよう!」

 

ことり「おはよう」

 

子供B「おっはー!」

 

ことり「おはよう。 んっ? ねぇ、そのシャツ、ボタン、取れかけてるよ?」

 

子供B「えっ? あ、ホントだ…。やべ…、気づかないで落とすところだった…」

 

ことり「ちょっと待ってて」

 

 

ことり、スクールバッグから裁縫セットを出す。

 

 

子供A、B「…?」

 

ことり「動かないでね」

 

子供B「うん」

 

 

屈み込み、手際よく針を通して、ボタンをつけ直してあげた。

 

 

ことり「はい、これで大丈夫♪」

 

子供B「すげぇ~!さすがことり姉ちゃん!  サンキュー!」

 

ことり「どういたしまして。学校に遅れないようにね」

 

子供B「は~い!」

 

子供A「じゃあね~!」

 

 

子供2人は去る。

 

 

子供A「稲毛、津田沼、船橋、市川、新小岩、錦糸町、馬喰町――」

 

ことり「……」

 

(BGM:ほのかな記憶)

 

 

ふとことりは、公園の中を見る。

 

 

ことり「この公園、小さい頃、穂乃果ちゃん、海未ちゃんとよく一緒に遊んだっけ」

 

 

滑り台、ブランコ、ジャングルジム。

 

誰もいない遊具たちが、朝の日差しを浴びて静かに佇んでいる。

 

 

ことり「なんだか懐かしい」

 

 

夏休み前のこの時期、さっきの子どもたちは、まだ登校日。

 

公園には誰の姿もない。蝉の声だけが響いていた。

 

ことりも学院へ行こうと歩みを進めようとしたとき…。

 

 

???「ピカ……」

 

 

とてもかすかな、小さな鳴き声が、公園の中から聞こえた。

 

 

ことり「えっ?」

 

 

足を止めた。

 

 

ことり「(今、声がした?)」

 

ことり「誰かいるの?」

 

 

もう一度、耳をすましてみる。

 

 

???「ピカ……」

 

 

今度は少し、切なげな声だった。

 

 

ことり「…!?」

 

ことり「(やっぱり声が聞こえる…。 動物の鳴き声?)」

 

 

何か胸の奥がざわっとする。

 

 

ことり「………」

 

 

ことりは躊躇うことなく公園の中へ入り、足音を立てないように、そっと歩く。

 

 

ことり「どこだろう…?」

 

 

目を凝らして耳を澄ます。

 

 

???「ピカチュウ…」

 

ことり「…!」

 

ことり「(また聞こえた…!  ブランコの後ろから?)」

 

 

その声は、公園の奥にあるブランコの後ろの植え込みから聞こえた。

 

 

ことり「え……!?」

 

 

そこから見えた植え込みの隙間から、小さな黄色い体が見えた。

 

小さくうずくまる、黄色い……なにか。

 

 

ことり「…?」

 

 

ことりは小走りに近づき…。

 

 

ことり「ん~~?」

 

 

植え込みを覗き込む。

 

そこにいたのは……。

 

 

ことり「っ!?」

 

???「ピカ……?」

 

 

見たことのない動物だった。

 

ふわふわした黄色い毛並みに、長い耳は先端が黒く染まっており、背中には茶色い二本線、頬には丸い赤いほっぺ、尻尾はギザギザしていて、まるで雷のような形をしている。

 

 

ことり「なに…? この子……」

 

???「ピ……」

 

 

その子は、どこか怯えたような表情をしていた。

 

でも、ぬいぐるみみたいに、小さくて、なんだかとっても。

 

 

ことり「か…、かわいい…♡」

 

 

不思議な姿なのに、どこか愛らしくて、胸の奥がきゅんとする。

 

 

ことり「誰かのペットかな?」

 

 

辺りを見渡すが、公園に飼い主らしき人はいなかった。

 

 

ことり「もしかして、迷子?」

 

 

ことりが近づくと、黄色い小さな体がびくっと震えた。

 

体を低くして、尻尾をぴんと立てて、明らかに警戒している。

 

 

ことり「あ…!」

 

 

黄色い生き物の毛には、うっすらと泥がついていた。

 

きっと、どこかで転んだのか、あるいは昨夜の雨に濡れたのかもしれない。

 

 

ことり「怖くないから、ねっ?  ちょっとだけ、触ってもいい?」

 

 

ことりは、しゃがみ込んで、そっと手を伸ばした瞬間…。

 

 

???「ピカッ!?」

 

 

黄色い生き物が、ビクリと震え――

 

 

???「ピ~~~カ~~~…ヂュウウウウウウウ!!!」

 

 

(BGM:M28(2002~2005(AG)))

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリッッ!!!

 

黄色い電撃が、その黄色い生き物から出され、その電撃はことりに直撃した。

 

 

 

ことり「きゃあああああああっ!! うぅ~! な、なにこれぇ~!? しびれるぅ~~!!」ビリビリビリ

 

 

数秒後、ようやく放電が収まった。

 

 

ことり「はぁぁ~…、し…、しびれたぁ~……っ」

 

 

ことりは、へなへなとその場に尻もちをついた。

 

 

ことり「びっくりしたぁ…! あれ? でもケガは…してない、みたい?」

 

 

自分の体を見るが、幸い痺れるだけで、特に火傷やケガをしてないみたいだ。

 

 

ことり「…?」

 

 

目の前の小さな生き物は、小さく震えていた。

 

まだ怖がっているようだ。怯えた顔で、後ずさりして数歩、ことりから距離を取る。

 

 

???「ピカ……」

 

ことり「あ…、ごめんね。びっくりさせちゃったよね」

 

 

ことりは、もう一度ゆっくりとしゃがんで、目線を合わせた。

 

 

ことり「私は南ことり。 あなたのこと怖がったりしないよ」

 

 

その子に手を伸ばした。

 

今度は触れようとせず、手のひらを上に向けて、ただそっと、そこにいることだけを示す。

 

 

ことり「大丈夫だよ。ほらっ、私、動かないから」

 

???「ピ…?」

 

 

その子はしばらくの間、じっと動かずにことりを見つめていた。

 

 

ことり「………」ニコッ

 

 

やがて黄色い子は、ほんの少しだけ前に足を踏み出した。

 

 

ことり「…!」

 

 

(BGM:M42(1997~1998))

 

 

ことりの胸が、ドキンッと跳ねた。

 

さっきの電撃とは違う意味で、彼女の体を震わせた。

 

 

???「………」ソロリソロリ

 

 

黄色い生き物は一歩。

 

さらに、もう一歩とゆっくり、警戒しながらも、ことりとの距離を詰めてくる。

 

 

ことり「来てくれるの? 嬉しい♡」

 

 

そして、その子がことりの目の前まで来たその瞬間、小さな鼻をくんくんと動かして、ことりの手や膝あたりを確かめるように嗅いだ。

 

 

ことり「……?」

 

 

ぽすん。

 

 

その小さな体が、ことりの太ももの上にそっともたれかかった。

 

 

ことり「………っ!♡

 

ことり「(可愛い~♡)」

 

 

その子の黒い瞳には、まだわずかに警戒心が滲んでいる。

 

けれどそれ以上に、何かを求めてるような、まるで助けを求めるような、そんな光も宿っていた。

 

 

ことり「(……この子、きっと、ずっと一人だったんだ?)」

 

 

ことりは、ゆっくりと、そのふわふわした背中を優しく撫でた。

 

その子は一瞬びくっとしたが、すぐにことりの手のぬくもりに気づいたのか、そっと目を閉じた。

 

 

???「ピカ…♪」

 

 

あたたかくて、やわらかい。

 

 

ことり「ねえ、あなたの名前、なんていうの?」

 

???「ピカ?」

 

ことり「本当に見たことない動物さん。そもそも何の種類の動物なのかな? パッと見は、うさぎさんみたいだけど、もしかして、まだ名前のない新種の動物さんなのかな? なんてね。 でも、名前がないと、呼ぶときに不便だし…」

 

???「ピカチュウ!」

 

ことり「っ!?」

 

 

ことりは思わず、微笑んだ。

 

 

ことり「そういえば鳴き声、『ピカピカ』とか、『ピカチュウ』なんだね?」

 

 

その子は、ぴくりと耳を動かす。

 

 

???「ピカチュウ」

 

ことり「うん、じゃあ…“ピカチュウ”って呼んでもいい?」

 

ピカチュウ「ピッカ♪」

 

ことり「ふふっ。 それじゃ、ピカチュウ~♡」

 

 

ピカチュウは嬉しそうに頬を赤らめ…。

 

 

ピカチュウ「ピッカァ~~~!!」

 

 

(BGM:凛の戸惑い)

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリッッ!!!

 

 

ことり「きゃあああああああっ!!」ビリビリビリ

 

 

再び、電撃が走った。

 

 

ことり「もぉ〜……ピカチュウ~……」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

ピカチュウはぴょん、とことりの膝から降りて、心配そうに覗き込んでくる。

 

 

ピカチュウ「ピ~カ?」

 

 

その仕草があまりにも可愛くて、ことりは小さく笑った。

 

 

ことり「ふふっ、大丈夫、怒ってないよ。 きっと名前呼ばれたのが嬉しかったんだね?」

 

 

ピカチュウはちょこんと座り直して、尻尾をふりふり。

 

 

ことり「…?  あっ、汚れを落としてあげようとしてたんだった…!」

 

 

ピカチュウの体が、泥で少し汚れてることを思い出した。

 

 

ことり「ちょっと待っててね」

 

 

ことりは立ち上がり、公園の水道へ行く。

 

 

ピカチュウ「…?」

 

 

スカートのポケットから白いハンカチを取り出して、水で濡らし、ピカチュウのところへ戻る。

 

そして再びピカチュウの前にしゃがみ、ピカチュウの体を拭こうとする。

 

 

ことり「ごめんね。 ちょっと拭かせてね」

 

 

ピカチュウはまた身をすくめる。

 

 

ことり「いい子いい子、そのままそのまま」

 

 

優しく語りかけながら、ことりは泥で汚れたピカチュウの顔や背中をそっと拭っていく。

 

 

ピカチュウ「…?」

 

 

ピカチュウは、ことりの柔らかな手の感触と、ハンカチの心地よいぬくもりに、次第に緊張をほぐしていった。

 

 

ことり「うんっ、キレイになったかな」

 

 

自分のハンカチを見る。

 

ハンカチは、泥の薄茶色がうっすらと染みている。

 

 

ピカチュウ「……」

 

ことり「うん、もう怖がらなくていいんだよ」

 

 

ピカチュウの目が少しだけ細まり、どこかほっとしたような表情になる。

 

ようやく、ピカチュウの表情からは、警戒心がなくなった。

 

その瞳には、ほんの少し、ほんの少しだけど、信頼の色が宿り始めていた。

 

 

ことり「ふふっ」ナデナデ

 

 

ことりは立ち上がり、スカートについた砂を払い落とす。

 

そして、腕時計にちらりと目をやると、朝のホームルームまで、あと15分もない。

 

 

ことり「…っ!? 大変、もうこんな時間! 学校に行かなきゃ!」

 

ことり「(ここから音ノ木まで、歩いて5分ほどだから、ギリギリ間に合うけど、のんきにしてる暇はないよね)」

 

 

ことりは慌てて、学校へ行こうとするが、目の前の小さな存在を見下ろす。

 

 

ことり「ごめんね、ピカチュウ。私、学校に行かなきゃいけないの」

 

ピカチュウ「ピカチュウ?」

 

ことり「ここで待っててくれたら、夕方には戻ってくるから、待っててくれる?」

 

ピカチュウ「ピ~カ…」

 

 

ピカチュウは、ことりの足元にすり寄るように近づいた。

 

まるで「まだ一緒にいたい」と言っているみたいに。

 

 

ことり「うぅ…。 本当は、今すぐ家に連れて帰ってあげたいんだけど、今は時間がなくて…」

 

ピカチュウ「ピカ…」

 

 

ピカチュウは不安げにことりを見つめていた。

 

彼女の顔色を伺うように、尻尾を小さくゆらゆら揺らしている。

 

 

ことり「う~ん……、じゃあ…私のバッグの中で、ちゃんと大人しくしてくれるなら、今日だけ一緒に学校に行こうか?」

 

 

その瞬間、ピカチュウの耳がぴんっと立った。

 

 

ピカチュウ「ピカ!?  ピカァッ♪」

 

 

嬉しそうにふわりと跳び上がり、ことりの胸元に飛び込んできた。

 

 

ことり「きゃっ…! ピ、ピカチュウ!?」

 

 

ぎゅっ!

 

ピカチュウが、ことりの胸にしがみついた瞬間…。

 

 

ピカチュウ「ピカピッカ~~♪」

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリッッ!!!

 

 

ことり「きゃあああああああっ!! またぁ〜っ!?  くぅぅ~っ…! ビリビリするぅぅ~~っ!!」ビリビリビリ

 

 

放電は数秒続いたあと、ようやく止まった。

 

 

ことり「……ふぇぇ……」

 

 

ことりはまた、その場にしゃがみ込み、軽く震える。

 

 

ことり「しびれるぅ~っ…!  もう…ほんとに元気なんだから~…」

 

ピカチュウ「ピカ……」

 

 

ピカチュウは、どこか申し訳なさそうに小さく鳴いて、ことりの胸元に頬をすり寄せてきた。

 

ことりはそんなピカチュウの姿に、思わずくすっと笑う。

 

 

ことり「ふふっ、大丈夫だよ、ピカチュウ」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

ピカチュウはことりの顔を覗き込む。

 

ことりはそっとピカチュウの頭を撫でる。

 

 

ことり「平気。ちょっとしびれただけだから」

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

ことり「うん」

 

 

ことりはバッグを開けて、その中にスペースを作り、そこにピカチュウを優しく入れた。

 

 

ことり「ちゃんと隠してあげるからね」

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

 

(BGM:すぐ先にある未来)

 

 

ことりは微笑んで、バッグのチャックを少しだけ閉じて、肩にかける。

 

そして公園の出口へと歩き出した。

 

 

ことり「(勢いで一緒に行こうって言っちゃったけど、この子のこと、どうしよう…? μ’sのみんなになんて説明しよう?  やっぱり言わないほうがいいのかな…)」

 

ことり「……きっと、なんとかなるよね♪」

 

 

◇通学路

 

音ノ木坂学院までの道のり。

 

 

ことり「中、暑くない? 大丈夫?」

 

 

ことりはカバンを覗き込みながら、そっと囁く。

 

 

ピカチュウ「ピカ」

 

ことり「うん、よかった…。 もう少しで着くからね。頑張ろうねっ」

 

ピカチュウ「ピカ…」

 

ことり「(さっきまであんなに電気出して元気だったのに、意外とバッグの中で大人しくしてくれてる。  もしかして、さっきまで草むらでずっと怯えてた分、疲れもあったのかな)」

 

 

坂の途中で、風が少し吹いた。

 

ことりのふわりとした髪が、緑のリボンごとやさしく揺れる。

 

空は青く澄み渡って、蝉の声が木々のあいだから降ってくる。

 

でもその中に、どこかほんの少しだけ、特別な時間が混ざっているような気がした。

 

 

ことり「今日が普通の日じゃないって、なんだか思うよ」

 

 

ことりは、小さく頬を赤らめながら微笑んだ。

 

 

ことり「だって、ピカチュウと出会えたんだもん。きっと、これから何かが始まるんだよね」

 

 

ことりの歩く足取りは、自然と軽くなった。

 

 

◇音ノ木坂学院

 

それから間もなく、ことりは音ノ木坂学院の校門に到着した。

 

腕時計を見ると、始業まであと10分。

 

 

ことり「……どうやってピカチュウを連れて行こうかな…?」

 

 

ことりはバッグを抱き直して、誰にも聞こえないようにそっと呟く。

 

 

ことり「(この子を学校に連れて行くなんて、本当はとても無謀だってわかってる。でも。一人にしたくなかったんだもん…)」

 

ことり「でも教室は…、やっぱりだめだよね。  そうだ…あそこなら…!」

 

 

ことりは校舎の脇を通って、裏手に回る。

 

生徒の姿はほとんどなく、窓から様子が見えない場所があるのを思い出した。

 

 

ことり「ここならいいかな?」

 

 

ことりが向かったのは、校舎裏の倉庫の陰。

 

誰も来ない小さな日陰だった。

 

 

ことり「ピカチュウ、ちょっとだけここで、待っててくれるかな?」

 

 

そう言って、ことりはしゃがみ込み、そっとバッグのチャックを開ける。

 

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

ピカチュウが顔を出した。小さな鼻がくんくんと動く。

 

 

ことり「大丈夫、すぐ戻ってくるから心配しないで」

 

 

そう言いながら、ことりはタオルを取り出して、その上にピカチュウを優しく乗せた。

 

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

薄暗い日陰は、夏の朝の光から守ってくれる。風通しも悪くない。

 

 

ことり「ほら、ここなら暑くないし、誰にも見つからないと思うから」

 

ピカチュウ「……」

 

 

ピカチュウは少し不安そうに、ことりの顔を見上げた。

 

けれど、ことりが微笑んで優しく頷くと、しばらくしてから…

 

 

ピカチュウ「ピカ…」

 

 

小さく鳴き、おとなしくタオルの上に身を沈めた。

 

 

ことり「うん…いい子だね…。 すぐ戻ってくるから、待っててね、ピカチュウ」

 

 

ことりは立ち上がり、ピカチュウに向けて、もう一度優しく微笑み、足早に教室のある校舎へ歩き出した。

 

 

ピカチュウ「……」

 

 

ピカチュウはその背中を、ずっと見つめていた。

 

 

* * *

 

 

◇昇降口

 

2年生の教室へ向かう階段を駆け上がる。

 

 

ことり「(ピカチュウ、ちゃんと隠れてくれてるかな…)」

 

 

◇教室

 

穂乃果「ことりちゃん、おはよう!」

 

海未「おはようございます、ことり。 おや?今日はいつもより遅いですね。何かありましたか?」

 

ことり「う、うん! 実はね――」

 

ことり「(っ!? 見たことないふわふわした、電気を出す不思議な動物を、いきなり『拾った』なんて言っても、信じられないよね。  それに話して、もしピカチュウに何かあったら――!)」

 

ことり「ううん、なんでもないよ」

 

穂乃果、海未「えっ…?」

 

ことり「ちょっと寝坊しちゃっただけ、えへへっ」

 

穂乃果「そっか~寝坊か~。 わかるわかる。あと5分だけでもゆっくり寝たいよね」

 

ことり「そうそう!」

 

海未「ことり…? 本当に、大丈夫なんですか?」

 

ことり「大丈夫大丈夫!」

 

 

担任の山田が入って来た。

 

 

山田「おはよう。ホームルーム始めるぞ~」

 

 

全員席に着く。

 

 

ことり「(休み時間になったら、すぐに行ってあげよう)」

 

 

(BGM:M10(1997~1998))

 

 

1時間目の数学の時間も、ことりは心ここにあらずだった。

 

 

ことり「(冷静に考えたら、あそこなら誰にも見つからないと思ったけど、もしこんな時に限って、誰かがあそこに行ったら?  野良猫さんや、カラスさんが来たら?)」

 

数学教師「南さん」

 

ことり「あ…はい!?」

 

数学教師「さっき言った公式を、黒板に書いてもらえるかい?」

 

ことり「は、はい!」

 

穂乃果、海未「…?」

 

 

* * *

 

 

1限目が終わると同時にことりは、教室を出て行く。

 

 

穂乃果「ことりちゃん、どこ行くのかな?」

 

海未「さあ…? お手洗いでは?」

 

 

◇校舎裏

 

ことり「ピカチュウ~?」

 

ピカチュウ「ピカ? ピカッ♪」

 

ことり「よかった~、無事にいてくれたんだね!」

 

 

ことりはその場にしゃがみ込み、そっとピカチュウの頭を撫でた。

 

 

ピカチュウ「ピカァ~♪」

 

ことり「ふふっ、可愛い…♡」

 

 

そのまま数分間、2人だけの静かな時間が流れる。

 

 

キーンコーンカーンコーン……

 

 

ことり「あっ……もう、2限目」

 

ピカチュウ「ピカ…?」

 

ことり「大丈夫だよ、また休み時間になったら、ちゃんと来るからね」ナデナデ

 

ピカチュウ「ピカ」

 

 

ピカチュウは、ふわりと尻尾を揺らした。

 

 

──このお姉さんは、また来てくれる。

 

 

そう信じて、ピカチュウはそっと元の場所に戻って、倉庫の陰で丸くなった。

 

ことりは名残惜しそうに振り返りながら、校舎の中へと戻っていった。

 

 

(BGM:M38(1997~1998))

 

 

◇教室

 

2限目:英語の授業。

 

外の日差しが強くなった気がした。

 

 

ことり「(ピカチュウ、ちゃんと日陰に移動してくれてるかな…? お水飲めるかな? 喉、乾いてたりしないかな? 次の休み時間、飲み物持っていこう)」

 

 

ことりの様子に、隣の席の穂乃果が気づかないはずなかった。

 

 

穂乃果「……ねぇ、ことりちゃん、さっきから何か考え事?」ヒソヒソ

 

ことり「えっ? どうして?」ヒソヒソ

 

穂乃果「いや、何か落ち着きないから」ヒソヒソ

 

ことり「そ、そうかな…?」

 

 

ことりの前の席に座る海未も、眉をひそめていた。

 

 

海未「(確かに、授業中に、こんなにソワソワしていることりは、珍しいですね…)」

 

穂乃果「もしかして、衣装のアイデア煮詰まってるとか?」ヒソヒソ

 

ことり「違う違う。大丈夫、大丈夫」ヒソヒソ

 

穂乃果「本当?」ヒソヒソ

 

ことり「本当本当」ヒソヒソ

 

英語教師「高坂、南、静カニシヤガレ」

 

ことり、穂乃果「はい」

 

海未「(まったく…)」

 

 

お爺さん先生の癖に、地獄耳だった。

 

 

* * *

 

 

2限目終了のチャイムが鳴った瞬間、ことりは勢いよく立ち上がった。

 

 

穂乃果「ことりちゃん? またどこかに行くの!?」

 

ことり「ちょ、ちょっと飲み物を買ってくるねっ!」

 

穂乃果、海未「…?」

 

 

◇廊下

 

購買の脇に設置された自販機の前。

 

 

ことり「甘すぎるのはよくないし…、う~ん…。オレンジジュースがいいかな」

 

 

キンと冷えたパックを手に、ことりは再び校舎の裏へ。

 

 

◇校舎裏

 

ことり「ピカチュウ?」

 

 

ピカチュウはちょこんと座っていた。

 

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

 

ことりの姿を見つけるなり、ぴょんっと小さく跳ねたピカチュウが駆け寄ってくる。

 

 

ことり「ピカチュウ、これよかったら、飲んでみて?」

 

 

ピカチュウは興味津々といった様子でパックを見つめ、それからちょっと戸惑いながらも、ことりが差したストローをくんくんと嗅ぎ、ちゅう、と吸ってみた。

 

 

ピカチュウ「ピカ…?」

 

 

一瞬きょとんとしたその顔が、すぐにパァッと明るくなる。

 

 

ピカチュウ「ピカピカ~~♪」

 

ことり「ふふっ、気に入ってくれた?」

 

 

ピカチュウは尻尾をふりふりと揺らしながら、飲んでいく。

 

 

ことり「(よかった。ちゃんと水分補給できた)」

 

 

また休み時間が終わるまでの、ほんの数分。

 

その短い時間の中で、ことりはピカチュウの隣に座り、一緒に空を見上げた。

 

 

ことり「(こんな時間、ずっと続けばいいのになぁ)」

 

 

それからも、休み時間の度に会いに行き、やがて昼休み。

 

 

◇教室

 

穂乃果「ことりちゃ~ん! お昼にしよ~!」

 

ことり「あ、ごめん…、今日はちょっと、次のライブの衣装のこと考えたいから、服飾室で一人で食べようかなって…」

 

穂乃果「え~? そんなぁ~、ことりちゃんと一緒に食べたかったのに~」

 

海未「衣装のことでしたら、私たちも手伝いますよ? ことりはいつも、一人で抱え込みすぎです」

 

ことり「平気だよ。今日はほんの少し考えるだけだし。 それに、手伝ってもらうほどのことでもないし、えへへ。それじゃ、行って来るね~!」

 

 

ことりは慌てて弁当袋を手に取り、足早に教室を出た。

 

 

穂乃果「……う~ん。ことりちゃん、やっぱりちょっと変じゃない?」

 

海未「ですね。 まあ本人が大丈夫と言うなら、大丈夫なのでしょう」

 

 

穂乃果と海未は顔を見合わせ、首を傾げたまま、しぶしぶお昼の支度を始めた。

 

 

(BGM:ゆったりお昼休み)

 

 

◇校舎裏

 

ことり「ピカチュウ~、おまたせ~!」

 

ピカチュウ「ピッカ♪」

 

ことり「ねぇ、ピカチュウ。 私もここで、お弁当食べていいかな?」

 

ピカチュウ「ピカ!」

 

ことり「ふふっ、ありがとっ」

 

 

ハンドタオルを敷いて座り、膝上にお弁当箱をそっと置く。

 

お弁当のふたを開けると、ふわっとだしの香りが立ちのぼった。

 

黄色くふんわり焼かれた卵焼き、ほうれん草のおひたし、少し甘めに煮たにんじんの花型。

 

ピカチュウはその香りに、はっきりと反応した。鼻をひくひくと動かし、尻尾がぴくり。

 

 

ことり「もしかして、食べたい?」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

ことり「じゃ、ちょっとだけだよ?」

 

 

ことりは箸で、卵焼きを一切れ摘み、そっとピカチュウの前に差し出す。

 

 

ことり「はい、あ~ん♪」

 

 

ピカチュウは一瞬きょとんとした表情を浮かべたが、ことりの優しい声に促されるように、ぱくりと卵焼きを口に入れた。

 

 

もぐもぐ……

 

 

ピカチュウ「ピカ!?」

 

 

それは、初めて口にする優しい味だった。

 

ふわふわで、ほんのり甘くて、じんわりと温かい気持ちが広がる。

 

 

ことり「どうかな? 美味しい?」

 

ピカチュウ「ピッカ~~♪ ヂュウウウウウウウ!!!」

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリッ!!!

 

 

ことり「やっぱりぃ~~~!?  美味しいのは嬉しいけど~~!! ビリビリやめて~~~!!」

 

 

止まった。

 

 

ことり「ふぇぇ…。感激すると電気出すのはやめてよ~…」

 

ピカチュウ「ピカ……」

 

ことり「ううん、いいの。それだけ、美味しかったんだよね? 食べてくれて、ことりもとっても嬉しいよ」ナデナデ

 

 

* * *

 

 

ことりのお弁当箱は空になり、ピカチュウもお腹がいっぱいになって、ご満悦の顔をしていた。

 

 

ことり「ごちそうさまでした♪」

 

 

ピカチュウは、その言葉と仕草を不思議そうに見つめていた。

 

 

ことり「えっとね…、『ごちそうさま』っていうのはね、美味しくご飯を食べ終わったときに言う、感謝の気持ちかな?」

 

ピカチュウ「ピカ?   ピカピカ」

 

 

ちょこんと前足を揃え、小さく頭を下げるようにした。

 

 

ことり「ふふっ、えらいえらい♪ ちゃんと『ごちそうさま』できたね~♪」ナデナデ

 

 

ピカチュウは気持ちよさそうに目を細めている。

 

 

しばらくして、午後の授業のチャイムが鳴り響いた。

 

ことりは「はっ」として立ち上がり、制服のスカートをぱんぱんと払った。

 

 

ことり「もう、午後の授業の時間だね。 ピカチュウ、あともう少しだけ、ここで待っててくれる?」

 

 

ピカチュウは少しだけ、不安げな顔をした。

 

 

ことり「ちゃんと戻ってくるから。 今までも、ことり、ちゃんと戻ってきたでしょ? だから信じて? ねっ?」ナデナデ

 

ピカチュウ「ピカッ!」

 

ことり「うん、ありがとう。 行ってきます」

 

 

ピカチュウは尻尾を小さく揺らしながら、ことりを見上げていた。

 

――またすぐに戻ってきてくれる。

 

そんな信頼が、そこに確かにあった。

 

 

* * *

 

 

◇教室

 

放課後のチャイムが、静かな校舎に柔らかく響いた。

 

 

穂乃果「ことりちゃん、部室に行こう! 今日も屋上でダンス練習~!」

 

海未「さてと、行きましょうか」

 

ことり「ごめん、2人とも! 私、ちょっと用事済ませてくるから、先に始めてて」

 

穂乃果「えっ?そうなの? 手伝おうか?」

 

ことり「あっ、それならみんなに、私は遅れるって伝えてくれると嬉しいな~」

 

穂乃果「わかった。じゃ私たちは先に行ってるね!」

 

海未「では、屋上で待っていますね」

 

ことり「うん!」

 

 

ことりもスクールバッグを手に持ち直し、ピカチュウのところへ向かう。

 

 

◇廊下

 

海未が立ち止まる。

 

海未「……」

 

穂乃果「海未ちゃん、どうしたの?」

 

海未「(ことり…、やはり、何か隠していますね?)」

 

穂乃果「海未ちゃん?」

 

海未「あ、すみません、穂乃果。今行きます」

 

 

◇校舎裏

 

ことり「ピカチュウ~、お待たせ」

 

ピカチュウ「ピッカァ!」

 

 

愛らしい鳴き声とともに、またことりのところへ駆けてくる。

 

ことりはその前に両手を広げて、ストップの合図。

 

 

ことり「ピカチュウ、ちょっと待って!」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

そっとしゃがむ。

 

 

ことり「ごめんね、ピカチュウ。迎えに来たけど、まだお家には帰れないの」

 

ピカチュウ「ピカチュウ?」

 

ことり「これから、μ’sの練習があるの」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

ことりはバッグのファスナーを開ける。

 

 

ことり「私たち、スクールアイドルっていうのをやっててね。今からそのダンス練習を屋上でやるの。だからその間、また少しだけバッグの中で待っててくれる?」

 

ピカチュウ「ピカ」

 

 

バッグの中にぴょんと飛び込んだ。

 

 

ことり「ありがとう、ピカチュウ」

 

 

そっとファスナーを半分だけ閉める。

 

 

ことり「ふふっ。じゃまずは、部室へレッツゴー♪」

 

 

ことりはくるりと踵を返し、スクールバッグを抱きかかえるようにして歩き出す。

 

 

◇部室

 

部室の中に入り、鍵を掛ける。

 

みんなはもう、屋上へ行ってしまっていたようだ。

 

バッグを机の上に置き、練習着を取り出し、制服を脱ぎ始めた。

 

 

ことり「~♪」

 

 

練習着に袖を通し、髪を結び直すと、ことりは一度深呼吸した。

 

そして、バッグの中に顔を近づけて、囁くように言った。

 

 

ことり「さっ、ピカチュウ。一緒に、屋上まで行こ?」

 

 

バッグの隙間からピカチュウがちょこんと顔を出した。

 

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

 

ことりは微笑みながら、しっかりとバッグを胸元に抱いて、部室を出た。

 

 

◇屋上

 

屋上への階段を駆け上がると、扉の向こうから賑やかな声が聞こえてきた。

 

 

ガチャッ

 

 

(BGM:楽しい部活)

 

 

ことり「ごめん、みんな! 遅くなっちゃった!」

 

花陽「ことりちゃん、来た!」

 

にこ「ことり! 遅いわよ〜!」

 

穂乃果「ことりちゃん、もう用事は終わったの?」

 

ことり「う、うん!」

 

海未「……」

 

絵里「それじゃ、ことりも来たことだし、始めましょうか!」

 

真姫「えぇ、いつでもいいわ」

 

凛「今日も頑張るにゃ~!」

 

希「凛ちゃん、今日も元気やね~」

 

 

ことりは、みんなに気づかれないように、屋上の扉横そばの日陰に、そっとバッグを置く。

 

 

ことり「ピカチュウ、ここから見ててね。ことり、頑張ってくるからね」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

ことりは、みんなの輪の中に駆け戻っていく。

 

 

ことり「お待たせ~」

 

海未「では、始めますよ」

 

ピカチュウ「…?」

 

 

ピカチュウは、バッグの口から小さく顔を出し、屋上の中心に立つことりを見る。

 

 

海未「ワン・ツー・スリー・フォー・ファイブ・シックス・セブン・エイト」

 

 

ステップ、ターン、スピン――ことりが踊るたび、髪が風を受けてふわりと舞う。

 

 

ピカチュウ「ピカチュウ~……!」

 

 

さっきの可愛くて、優しかったことりちゃんが、今はとっても――

 

――かっこいい!

 

 

ピカチュウ「…っ!」

 

 

ピカチュウの胸がキュンと鳴った。

 

ことりの動き一つひとつに、ぴょん、と耳が跳ねる。

 

ダンスに合わせて、ピカチュウの尻尾が小さく揺れる。

 

まるで、一緒に踊っているように――

 

 

* * *

 

 

海未「では、今日の練習は、ここまでにしましょうか」

 

穂乃果「ふぅ~、終わった~! 疲れた~」

 

凛「かよちん!真姫ちゃん! 帰りにラーメン食べて帰るにゃ!」

 

真姫「また? このうだるような暑さの中でラーメンなんて、あなたどれだけ好きなのよ…?」

 

花陽「あ、そういえば今朝、いつものラーメン屋さんの前を通ったら、冷やし中華の貼り紙が、入口に貼ってたよね?」

 

凛「あったあった! でもあの看板の文字、『冷やし中華、始めさせられました!』って書いてたにゃ!」

 

真姫「はっ? 『始めさせられました』?  ナニソレ、イミワカンナイ。 普通は『始めました!』でしょ?」

 

絵里「本当にそんなふうに書いてあったの?」

 

花陽「うん」

 

希「ふふっ、チェーン店なら、本部の偉い人や、怖いエリアマネージャーさんとかに、『いい加減、冷やし中華始めなさい!』って強制させられたんやない? きっと、苦渋の決断の貼り紙やったんやね!」

 

にこ「何バカなこと言ってるのよ? ただの書き間違いか、ウケ狙いに決まってるでしょ? 本当にそうならそうで、わざわざ強制されたこと書くんじゃないわよ!」

 

 

凛、エアギターを弾く。

 

 

凛「♪ 冷やし中華~、始めさせられました~!」

 

にこ「いや…、後半のリズムが、全っ然合ってないわ!」

 

凛「え~? じゃ、にこちゃんお手本見せてにゃ!」

 

にこ「ぬわぁんで、私が冷やし中華の歌を歌わなきゃいけないのよ!?」

 

真姫「それで? 結局行くの? 行かないの?」

花陽「ちょっと私、その冷やし中華、気になるかも」

 

凛「かよちんがそう言うなら、突撃にゃ~!」

 

絵里「私も何か、地味に気になるわ…」

 

希「ついてく?」

 

海未「行くなら、あまり遅くならないようにしてくださいね。 さてと、帰りましょうか」

 

穂乃果「うん。 ことりちゃん、一緒に帰ろう!」

 

ことり「あ…ごめん、今日はちょっと帰りに、寄りたいところがあるから、先に帰っててくれる?」

 

穂乃果「えぇ~? なんか今日、ことりちゃんとあんまり話せてない…」

 

ことり「あ~…ごめんね、穂乃果ちゃん」

 

穂乃果「今日、ことりちゃんパワーが全然溜まってないよ~。穂乃果、全然充電できてない! だから、充電させて!」

 

ことり「きゃっ!」

 

 

穂乃果、ことりに抱き着く。

 

 

にこ「あんた、この暑い中、よく抱きつけるわね…」

 

ことり「あはは…。 よしよし、穂乃果ちゃん。また来週、いっぱいお話しようね?」

 

海未「それならことり、夕方は物騒ですから、気を付けて行ってきてくださいね」

 

ことり「うん、ありがとう海未ちゃん! みんな、また来週ね~!」

 

凛「また来週にゃ~!」

 

絵里「じゃあね、ことり」

 

穂乃果「それじゃね~」

 

 

メンバーたちの賑やかな声が階段を下っていったあと、屋上にはことり一人が残っていた。

 

ことりはバッグのチャックをそっと開ける。

 

 

ことり「ピカチュウ、もう出て来て大丈夫だよ。 おいで」

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

 

(BGM:友情)

 

 

そっとピカチュウをバッグから出して、抱っこする。

 

 

ことり「ふふっ、バッグの中、ちょっと暑かったかな? 大丈夫だった?」

 

ピカチュウ「ピカチュウ」

 

ことり「ねぇ、練習、見てたでしょ? 顔がちょっぴり見えてたよ?」

 

ピカチュウ「ピカピカ!」

 

 

ピカチュウはぱっ、と嬉しそうに両前足を広げ、まるで拍手するようにパチパチと音を立てた。

 

まるで『すごかったよ!』と伝えるように。

 

 

ことり「ありがとう♪」ナデナデ

 

 

ことりは、抱っこしたまま、屋上の柵の近くへと歩いていく。

 

風が練習着のスカートの裾を優しく揺らし、淡いオレンジ色の夕陽が、校舎の向こうに沈みかけていた。

 

 

ことり「ほら見て、ピカチュウ。これが、音ノ木の町だよ」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

視界いっぱいに広がる屋根の波が茜に染まり始める。

 

校庭の端から聞こえるカラスの鳴き声や、街灯の灯りがぽつぽつと点き始めたその景色を、ピカチュウは静かに見つめていた。

 

 

ことり「ねぇ、ピカチュウ」

 

ピカチュウ「…?」

 

ことり「あなたはきっと、私たちとは違う世界から来たんだと思うの…。 図鑑でも、あなたみたいな可愛い生き物はどこにも載っていなかったから…。  ピカチュウがどこから来たのかも、どうしてここにいるのかも、まだよくわからない…。 でもね、私は、ピカチュウと出会えて、今すっごく幸せだよ!  きっと大丈夫。 あなたのことは、ことりが責任を持って、ちゃんと守ってあげる。 誰にもいじめさせたりしないし、寂しい思いもさせないからね」

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

ことり「ふふっ、これからよろしくね、ピカチュウ♡」

 

 

夕陽がゆっくりと沈み、空は茜から群青へと、静かに移り変わっていく。

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