南ことり&ピカチュウ ~キミといた夏の奇跡~   作:あいライス

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第2話「秘密の友達と、初めてのお家」

(BGM:憂いの夕暮れ)

 

 

◇部室

 

練習着から制服に着替えて、音ノ木坂学院をあとにする。

 

 

ことり「さっ、帰ろう、ピカチュウ」

 

 

ことりは、バッグのストラップを肩に掛ける。

 

 

◇外

 

学院を出て少し歩いた場所で、ふと立ち止まる。

 

それは、朝と同じ公園だった。

 

 

◇音ノ木公園

 

ことり「ふふっ、朝、ピカチュウと会った公園だよ」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

ピカチュウもバッグの隙間から覗く。

 

 

ことり「(きっと、この出会いには意味がある。 この子のことは、絶対に私が守ってあげないと)」

 

ことり「それじゃ、今からお家に向けて、出発進行~!」

 

ピカチュウ「ピッカ~♪」

 

 

* * *

 

 

夕暮れの町を歩く。

 

商店街からは、美味しい匂いがたくさんあった。

 

 

ピカチュウ「ピカ…」

 

 

バッグの中から匂いを嗅ぐ。

 

 

ことり「もうちょっとだよ」

 

 

やがて、小さな住宅街の一角に差し掛かる。

 

そこには、淡いクリーム色の外壁と、緑の屋根を持つ、可愛らしい洋風な家が建っていた。

 

 

◇南家

 

ことり「着いたよ。ここが私のお家だよ」

 

 

家の前で立ち止まり、ことりはバッグのチャックを少しだけ開ける。

 

中からそっと顔を出したピカチュウの額を、ことりは優しく撫でてあげた。

 

 

ことり「よし、入ろっか。 多分、今の時間は、お母さんとお父さんも、まだお仕事でいないはずだから、今の内だと思うけど、念のため、ちょっと閉めるね」

 

 

バッグのチャックをそっと、空気が入るくらいに閉じて、玄関の扉を開ける。

 

 

ことり「ただいま〜…」

 

飛鳥「あら、おかえりなさい、ことり」

 

 

母親の飛鳥が、リビングから顔を出す。

 

 

ことり「お母さんっ!? 今日、帰ってくるの早かったんだねっ!?」

 

ことり「(大変…! 今日に限ってお母さんがもう帰ってきてるなんて!)」

 

飛鳥「えぇ、たまにはこういう日もあっていいでしょ? ことりも今日は早かったのね」

 

ことり「う、うん、今日は練習、早く終わったから…」

 

飛鳥「そう、ことりもお疲れ様ね。  あら? なんだか、今日の鞄、ちょっと大きく膨らんでない? 何か重いものでも入っているの?」

 

 

ことりは、慌ててカバンを背中に回し、視線を逸らす。

 

 

ことり「えっ!? えっと…それは…、練習の帰りに、ちょっと駅前の生地屋さんに寄ったら、次のμ'sの衣装にすっごく良さそうな生地を見つけちゃって! それをたくさん詰め込んでいるから、膨らんで見えるだけだよ、えへへ……!」

 

飛鳥「そ…、そう? ならいいけど、あまり夜更かしして作業しちゃダメよ。 とりあえず、外から帰ってきたんだから、先に手を洗ってらっしゃい」

 

ことり「う、うんっ!そうする!」

 

 

飛鳥はリビングに戻った。

 

 

ことり「(はぁ……。 今のは、ちょっと危なかった…!)」

 

 

2階にある自分の部屋へピカチュウを連れて行く。

 

部屋に着くと、すぐさまバッグのチャックを開けて、ピカチュウを出した。

 

 

ことり「ピカチュウ、ごめんね、狭かったね。 もう出てきて大丈夫だよ」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

ピカチュウは、ことりの部屋を歩き始めた。

 

ベッドの上にぴょんっと飛び乗ったかと思えば、クッションをくんくんと嗅ぎ、ベッドから飛び降り、鏡の前で自分の姿を見てきょとんとする。

 

 

ことり「クスッ…。 ここが私のお部屋。そして、今日からピカチュウのお部屋でもあるんだよ♪」

 

ピカチュウ「ピカッ!」

 

ことり「(この子と一緒にいる、私だけの秘密の時間♡ えへへ…。  とりあえず、お母さんたちにも内緒にしたほうがいいよね)」

 

ことり「さっ、ピカチュウ、お部屋の中ならもう安心だから、ゆっくりしててね」

 

 

ことりはピカチュウに背を向け、慣れた手つきで制服のスカートのホックを外し、するりと床へ落としていた。

 

ピカチュウは、お部屋を探索中。

 

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

机の上や、ベッドの上をちょこまかと見てまわる。

 

薄手のシャツとショートパンツの部屋着に着替え終えたことりが、ベッドに腰掛けた。

 

 

ことり「ふぅ…。 ピカチュウ、どうかな? 気に入ってくれた?」

 

 

ピカチュウが、待ってましたと言わんばかりに、ことりの膝の上へ飛び乗った。

 

 

ことり「ん…?   ふふっ、ホントに甘えん坊さんだね~」

 

 

 

ごろんと横になったピカチュウは、その小さな頭を太ももにすり寄せ。

 

まだ出会って数時間しか経っていないこの不思議な生き物の体を、ことりはもっとよく調べてみることにした。

 

 

(BGM:ん???)

 

 

ことり「う~ん、長いのがお耳だよね?」

 

 

触れてみると、ピカチュウはくすぐったそうに、長い耳をピクピクと小刻みに動かした。

 

 

ことり「それからこれは、尻尾かな? 稲妻みたいにギザギザしてて面白い形だね」

 

 

尻尾を触ろうとすると、触られるのが嫌かのように、尻尾を下げて自分の体の下に隠してしまった。

 

 

ことり「あ、ごめんね…!触られたくない場所だった?   よしよし。もう尻尾触らないから大丈夫だよ」ナデナデ

 

ピカチュウ「ピカピカ♪」

 

 

頭を撫でられると、ピカチュウはすぐに機嫌を直し、嬉しそうに目を細めて鳴いた。

 

ことりは今度は、柔らかそうなほっぺを、人差し指の腹でそっと撫でてみる。

 

 

ことり「っ!! わぁ~…ほっぺもプルプルしてるね~」

 

 

若干、ビリッビリッとした電気が来る。

 

 

ことり「っ! ちょっとビリビリする…!」

 

 

思わず指を引っ込める。

 

 

ことり「もしかして、このほっぺから、あのしびれるのが出てくるのかな?」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

ことり「う~ん、まさかね~。 こんなにちっちゃくて、マシュマロみたいにぷにぷにした可愛いほっぺから、あんなビリビリが出るなんて、いくらなんでも、私の考えすぎだね」ナデナデ

 

 

頭から背中にかけて撫でる。

 

 

ピカチュウ「ピカ〜……♪」

 

ことり「(こんな子が、今日の朝まで、あの公園で一人ぼっちだったんだよね)」

 

ことり「もう寂しい思いはさせないからね」

 

 

飛鳥『ことり〜! ご飯できたわよ〜!』

 

 

ことり「あっ…」

 

 

1階から呼ぶ声が聞こえた。

 

 

ことれ「ごめんね、ピカチュウ。 お母さんに呼ばれちゃったから、ちょっとだけ、ここでいい子で待っててね」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

ことりは膝の上から、ピカチュウをそっとベッドの上に降ろした。

 

 

ことり「戻ってきたら、ピカチュウのご飯もちゃんと用意するからね。 さっきお弁当の卵焼きをあんなに喜んでくれたから、今度は何がいいかな?   すぐに戻ってくるからね」

 

ピカチュウ「ピカ」

 

 

ピカチュウは、落ち着いたようにブランケットの上で丸くなった。

 

 

ことり「クスッ…」

 

 

ことりはそっと部屋の扉を閉め、階段を降りてリビングへと向かった。

 

 

 

◇リビング

 

テーブルには、クリームシチュー、こんがり焼かれたバケット、色とりどりのサラダが並んでいた。

 

 

鷹夫「おかえり、ことり。 母さんから聞いたよ。今日は一段と練習が早く終わったみたいだな」

 

 

眼鏡をかけたことりの父親:鷹夫が、新聞をテーブルの脇に置きながら微笑む。

 

 

ことり「あ…ただいま、お父さん。 うん。みんな、張り切っちゃって~」

 

飛鳥「さっ、食べましょう」

 

 

ことりも座り…。

 

 

ことり「いただきます」

 

 

スプーンでシチューをかき混ぜながら、ことりの視線は、何度もチラチラと自室のある2階のほうへ向く。

 

 

ことり「(ピカチュウ、ちゃんと大人しくお部屋で待っててくれてるかな? 寂しがって、急に大声を鳴いたり、大きな音を立てたりしないよね? それに、お昼に卵焼きをちょっと食べたきりだから、きっとお腹もペコペコだよね…)」

 

飛鳥「ことり? どうしたの? 食欲ない?」

 

ことり「えっ?」

 

鷹夫「夏バテか? 最近は急に暑くなってきたし、毎日スクールアイドルの激しい練習をしているんだから、体力を消耗しているんだろう」」

 

ことり「あ…ううん、そんなことないよぉ~」

 

 

シチューを口に運ぶ。

 

 

鷹夫「なんか妙にそわそわしてるが、何かあったのか?」

 

ことり「なんでもないのよ!なんでもないのよなんでも!」

 

 

(BGM:理事長への談判)

 

 

飛鳥「ふぅ~ん……?」

 

ことり「な、なに?お母さん…」

 

飛鳥「ことり。 あなた、何か隠してるわね?」

 

ことり「えっ…!?」

 

飛鳥「2階に何かいるの?」

 

ことり「っ!」

 

飛鳥「さっき帰って来た時から、何か様子がおかしいと思ったのよ。 私から必死にカバンを隠そうとしていたし、中身が妙に大きく膨らんでいたしね。……もしかしてあなた、学校の帰り道に、可哀想な捨て犬か、捨て猫を拾ってきちゃったんじゃないの?」

 

ことり「えっと…それは…」

 

ことり「(…うん…。ある意味、捨て犬や捨て猫と同じかもしれない…。 どうしよう…。ピカチュウのことは、誰にも言っちゃいけない、私だけの秘密にしようって思っていたのに…。 でも…、お母さんとお父さんに、嘘をつき続けるなんて、私にはできないよ…。 そもそも、これからずっとお部屋で一緒に暮らしていくなら、家族に内緒で隠し通せるはずなんてないよね…。 ちゃんと、包み隠さずに全部話せば、きっとお母さんたちなら分かってくれるかな…?)」

 

ことり「ごめんなさい、お母さん、お父さん」

 

飛鳥、鷹夫「…?」

 

ことり「私、今日ね――」

 

ことり「(すべて話した。 朝、いつもの通学路にある音ノ木公園の草むらで、たった一人で震えていた、見たこともない小さな黄色い不思議な生き物と出会ったこと。その子は言葉は話せないけれど、こちらの言うことを一生懸命理解しようとしてくれること。そして、体から黄色い電気みたいな不思議な力を放つことができて、今朝だけで、何度もビリビリとしびれちゃったこと。でも、決して悪い子じゃなくて、すごく怯えていて、寂しそうだったから、どうしても放っておけなくて、スクールバッグに隠して、学校の倉庫の裏で待ってもらっていたこと…。そして、夕方、μ’sの練習が終わったあと、この家まで一緒に連れて帰ってきたこと)」

 

ことり「だから連れて帰ってきちゃったの。 そして今、私の部屋にいる…」

 

飛鳥、鷹夫「………」

 

ことり「(やっぱり怒られちゃうよね…? 『正体不明の危険な生き物を家に連れてくるなんて何考えてるの! 今すぐ警察や保健所に連絡しなさい!』って、厳しくダメって言われちゃうかもしれない…。お父さんにも、呆れられちゃったかな…)」

 

飛鳥「……その子、怪我はしてないの?」

 

ことり「……えっ?」

 

飛鳥「見た目に異常は? 衰弱してたりとかはないの?」

 

ことり「う、うん、大丈夫。 会った時、ちょっと泥で汚れてたけど、それは、公園の水道のお水でちゃんと拭いてあげて、今も部屋で落ち着いてる」

 

飛鳥「そう。…………だったら、まずはその子を私たちにも紹介しなさい。 話を聞くだけじゃ、どんな子か分からないわ」

 

ことり「えっ? 見てくれるの…?」

 

飛鳥「ことりが、そんなに一生懸命になってるのよ? 放っておけるわけないじゃない」

 

鷹夫「そうだな。それに、ことりがそこまでして連れて来たってことは、いい子なんだろう。電気を出すというのは少し驚きだが、まずは会ってみないことには始まらないからね」

 

ことり「ありがとう! それじゃ、すぐにお部屋から連れてくるね!」

 

 

ことりは勢いよく立ち上がり、部屋に駆け出しそうとするが――

 

 

飛鳥「こら、待ちなさい。私たちも一緒に行くから」

 

ことり「あ…。 は~い……」

 

 

ことりが先頭になり、3人は2階へと向かう。

 

部屋の前まで来ると、ことりはそっと扉に手をかけた。

 

 

ことり「びっくりさせないように、そっと開けるね」

 

 

ギィ、と小さな音を立ててドアを開けると、ピカチュウは、ベッドの端のブランケットにちょこんと丸まってた。

 

 

ことり「よかった…。大人しくしてた…」

 

ピカチュウ「……ピカ?」

 

 

半分眠そうに、けれど警戒心をにじませた目で扉のほうを見ている。

 

見慣れない大人の気配に気づいたのだろう。

 

ことりは部屋に入る。

 

 

ことり「ピカチュウ、怖がらなくて大丈夫だよ。私のお父さんと、お母さんだから」

 

ピカチュウ「ピカ!」

 

 

ぴょん、とベッドから飛び降りると、すぐにことりの足首に飛びついた。

 

 

ことり「きゃっ…! ちょ、ちょっと待って…!ピカチュウ…!」

 

ピカチュウ「ピッカ~~~!」

 

 

バリバリバリバリッ!!

 

 

ことり「きゃああああっ!!」

 

飛鳥「ことり!?」

 

鷹夫「本当に電気を出した!?」

 

 

電撃が収まると、 ことりはまたもやその場に、へなへなと座り込んだ。

 

 

ことり「もう~……ピカチュウ〜……いきなりはやめてぇ〜……」

 

鷹夫「だ、大丈夫か? ことり」

 

ことり「うん…。大丈夫…。 なんかもう…今日だけで何回もこの電気を浴びてるから、不思議と慣れてきちゃったかも…。えへへ…」

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

 

ピカチュウは、スリスリしてくる。

 

飛鳥が、一歩だけ前に出て、ことりの背中越しにピカチュウを見下ろす。

 

 

飛鳥「あら、ずいぶん、ことりに懐いてるのね?」

 

ことり「うん。最初はすぐに信じてくれなかったけど、でも私、この子が独りぼっちで寂しそうにしてるのが、すごく心配だったから…」

 

 

ことりは、ピカチュウをそっと腕に抱き上げた。

 

飛鳥はしばらく無言のままピカチュウを見つめたあと、ことりのほうへ視線を戻した。

 

 

飛鳥「ことり」

 

ことり「んっ?」

 

飛鳥「あなた、本当にこの子を家で飼いたいと思ってるの?」

 

ことり「……」

 

 

(BGM:過ぎ去りし日々)

 

 

ことり「うん! 毎日ちゃんと私がご飯もあげて、お風呂も入れて、お世話も全部、私がする! もう外で、怖い思いなんてさせたくないの。 この子は今、私のことを信じてくれてる。 だから私は、この子の家族になってあげたい!」

 

飛鳥、鷹夫「……」

 

鷹夫「しかし…」

 

飛鳥「……いいわ。 ただし、条件がある」

 

鷹夫「…?」

 

ことり「どんな条件でも聞く。聞かせて」

 

飛鳥「その子は、私たちでも見たことがない動物よ…。 もし誰かに、この子のことを知られて、見つかったりしたら、ニュースになったり、世間からの注目を集めることになるかもしれない。 変な噂や、悪い人たちが狙ってくることだってあると思うわ。 もしそうなったとき、あなたはどんなことがあっても、ちゃんとこの子のことを、守り通せる?」

 

ことり「……っ!  もちろん! この子のことは、私が絶対に守ってみせる!」

 

鷹夫「……」

 

飛鳥「クスッ……そう、わかったわ。 それなら、一緒に暮らすことを許可します」

 

ことり「ホント!?」

 

飛鳥「えぇ」

 

鷹夫「ははは…まったく。俺の出番はなしか…」

 

ことり「お父さん?」

 

鷹夫「うん…。 ことりがそこまで言うなら、いいよ。 うちで責任もって育てよう」

 

ことり「ありがとうっ! お母さん、お父さん!!」

 

飛鳥「自分だけで抱え込まないでね。私たちも、ことりの味方なんだから」

 

ことり「うんっ!」

 

飛鳥「それにしても、見れば見るほど不思議な見た目の動物ね。ホントに何なのかしら? うさぎやネズミに見えないことはないけど…その一種かしら?」

 

ことり「すごく可愛いでしょ?」ナデナデ

 

飛鳥「ふふっ、そうね」ナデナデ

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

鷹夫「ところで、この子の名前は、もう決まってるのか?」

 

ことり「うん! ピカチュウっていうの!」

 

鷹夫、飛鳥「ピカチュウ?」

 

鷹夫「そういや、さっきからことり、その子のことをそう呼んでたな」

 

ことり「うん。鳴き声がそうだから。 ねっ、ピカチュウ」

 

ピカチュウ「ピカチュウ」

 

鷹夫「ホントだ…」

 

飛鳥「ふふっ、じゃ晩ご飯の続き、みんなで食べましょうか」

 

ことり「えっ? ピカチュウも?」

 

飛鳥「もちろん。だって、今日から私たちの『家族』でしょう?」

 

 

飛鳥はいたずらっぽく笑いながら、キッチンに向かった。

 

 

ことり「っ! うん!」

 

 

 

◇リビング

 

ことりの隣の椅子に、小さなクッションを2枚重ねて置き、そこにピカチュウをちょこんと座らせた。

 

ピカチュウは、目の前の小皿に盛られた小さめのシチューを見つめる。

 

 

飛鳥「ピカチュウ用に、少し味を薄めておいたわ」

 

ことり「お母さん、ありがとう。 さっ、ピカチュウ、いただきますしよっか?」

 

ピカチュウ「ピカァ♪」

 

 

ことりが両手を合わせて、ピカチュウも小さな前足を合わせる。

 

 

鷹夫「ははっ、すごいな。いただきますできるのか?」

 

飛鳥「なんだか、ことりに可愛い弟ができたみたいね」

 

ことり「えへへ、ピカチュウ、美味しい?」

 

 

ピカチュウはお皿に顔を近づけ、ペロペロと美味しそうにシチューを舐め始めた。

 

 

ピカチュウ「ピカピカチュウ♪」

 

飛鳥「ふふっ、美味しいならよかったわ」

 

 

* * *

 

 

◇ことりの自室

 

お腹がいっぱいになり、大満足したピカチュウを連れて、ことりは2階の自分の部屋へと戻ってきて、ベッドに座る。

 

 

ことり「ふぅ~…、お母さんたちに怒られなくて、よかったね〜♪」

 

ピカチュウ「ピッカ〜♪」

 

 

ピカチュウはことりの足にちょこんと触れ、そのまますり寄るように足元へ、ピトッとくっついた。

 

 

ことり「ふふっ…もう、ホントに甘えん坊さんなんだから」ナデナデ

 

 

ことりがしゃがみこんで優しくピカチュウの頭を撫でると、ピカチュウは気持ちよさそうに目を細めた。

 

 

飛鳥『ことり〜、お風呂沸いたわよ~! 先に入っちゃいなさい!』

 

 

再び1階から呼ぶ声が聞こえた。

 

 

ことり「は〜い!今行くね~!」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

ことり「えへへ、ちょっとお風呂に行くだけだよ」

 

ピカチュウ「ピカチュウ?」

 

 

(BGM:きらめき)

 

 

ことり「えっとね…、お風呂っていうのは、あったかいお湯の中に入って、体をキレイキレイするところなの。 ポカポカして、疲れもとれちゃうんだよ〜。……あ、ピカチュウも、一緒に入ってみる?」

 

ピカチュウ「ピカッ?」

 

ことり「うん、一緒に行こっか♪ 記念すべき初めてのお風呂だね〜♪」

 

 

ことりはピカチュウを軽く抱き上げ、パジャマを持って、廊下に出て、階段を降りる。

 

 

 

◇洗面所

 

ことり「ここがお風呂だよ〜。 ちょっとここで待っててね」

 

 

ことりはピカチュウを洗濯籠の上の平らなスペースに座らせ、部屋着を脱ぐ。

 

ピカチュウはその隣で、浴室をじっと見つめていた。

 

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

 

お湯の音、石鹸の匂い、湯気、どれもがピカチュウには未知のものだった。

 

 

ことり「大丈夫だよぉ〜、怖くないからね♪」

 

 

ピカチュウを抱っこして、浴室へと一緒に入った。

 

ことりの足が湯船に入ると、ピカチュウも興味深そうにその様子を見ていた。

 

 

ことり「ほらっ、あったかいよ」

 

 

ぴちゃっ、という音がして、お湯がわずかに波打つ。

 

ゆっくりと湯舟に腰を下ろすと、ピカチュウの足先もそっとお湯についた。

 

 

ピカチュウ「ピカ……?」

 

ことり「ちょっとずつ入ってみよっか? ねっ、ゆっくりでいいから」

 

ピカチュウ「ピ?」

 

 

ついには肩のあたりまで浸かると、ことりはふうっと息をついた。

 

 

ことり「はぁ〜〜……やっぱり、お風呂は最高だね〜♪」

 

 

腕の中のピカチュウも、最初は少しこわばっていたけれど、じわじわと伝わってくるぬくもりに、次第にその体をゆるめていった。

 

 

ピカチュウ「ピ…カ~……♪」

 

ことり「ふふっ」

 

 

膝に座らせる。

 

 

ことり「ねっ? 気持ちいいでしょ〜?」

 

ピカチュウ「ピッカァ♪」

 

 

 

ふわふわの毛がしっとりと濡れて、湯気の中でしっぽがゆらゆらと浮かんでいた。

 

 

ピカチュウ「ピッカ、ピッカ」

 

 

手足を動かして、お湯の中でバチャバチャと遊び始めるピカチュウ。

 

その姿は楽しそうで、すっかりお風呂を気に入ったみたいだった。

 

 

ことり「お風呂、初めてなのに、全然怖がらないね。えらいえらいっ♪」

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

 

ピトッと、ことりの胸に甘えるように身を預けた。

 

 

ことり「ん〜……はぁ〜……生き返るぅ〜……♪」

 

 

(BGM:M27(2002~2005(AG)))

 

 

やがて十分に身体が温まってから、ことりは湯舟からそっと立ち上がる。

 

 

ことり「よしっ、それじゃピカチュウ、あわあわタイムだよ〜♪」

 

 

ピカチュウを浴室の床に降ろす。

 

 

ピカチュウ「ピカッ?」

 

 

ことりは、泡立てネットにお気に入りのボディソープを含ませ、くるくると回して白い泡をもこもこに作っていく。

 

 

ことり「ふふ〜、見て見て、ほら〜。もっこもこでしょ〜?」

 

ピカチュウ「ピカッ?」

 

 

ピカチュウは、興味津々で鼻をくんくんさせ、泡の山に前足をちょいっとのせた。

 

指先についた泡がぷるんと弾けると、その拍子に尻尾がピコピコッと跳ねる。

 

 

ことり「ふふっ、それじゃピカチュウを、あわあわしちゃおっか♪」

 

 

ことりはそっと泡を手に取り、ピカチュウの背中に、ちょこんと乗せた。

 

もこもこの泡が、ふわっと毛のあいだに広がっていき、ピカチュウの黄色い背中がだんだん真っ白に染まっていく。

 

 

ことり「うわぁ〜、ピカチュウ、雪だるまさんみたい〜♪」

 

ピカチュウ「ピカ〜♪」

 

 

調子に乗ったことりは、さらに泡を増量。

 

頭のてっぺんやしっぽの先にも、まるでデコレーションのように、泡を乗せていく。

 

 

ことり「できた〜! 泡星人:ピカチュウの完成で〜す♪」

 

ピカチュウ「ピカァ!? 」

 

ことり「ふふっ、ごめんごめん。だってすっごく可愛いんだもん」

 

 

優しく毛並みを撫でて、泡を広げていく。

 

 

ことり「お耳の裏もあわあわ〜…。 ふふっ、お客さん、お痒いところはありませんか~?」

 

ピカチュウ「ピカァ〜……♪」

 

 

とろんとした表情で気持ちよさそうにしていたピカチュウだったが、次の瞬間――!

 

 

ピカチュウ「ピ…!…ピカ……!?」

 

 

ピカチュウの様子が急に変わった。

 

 

(BGM:チェイス)

 

 

ことり「んっ? ピカチュウ? どうしたの?」

 

ピカチュウ「ピカピカ~~…!」

 

ことり「あっ、もしかして…! 目に泡が入っちゃった!? ご、ごめんね! すぐ流すから――っ!」

 

 

ことりは慌てて、洗面器を手に取る。

 

 

ピカチュウ「ピ…ピカ~~! ピ~~~カ~~~…!」

 

 

ピカチュウのほっぺから、電気がバチバチと出た。

 

 

ことり「えぇっ!? ちょっ、ちょっと待ってっ!! まさか!? ここ、お風呂だよぉ!? 今ここで電気なんて流されたら――!!」

 

ピカチュウ「ヂュウウウウウウ!!」

 

 

ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!!

 

 

ことり「きゃああああああああああっ!! しびれびれぇ〜〜〜〜っ!!」

 

 

◇リビング

 

飛鳥「んっ? 今、悲鳴が聞こえなかったかしら?」

 

鷹夫「そうだな…?」

 

飛鳥「何か叫んでた気がするんだけど…?」

 

 

顔を見合わせる。

 

 

飛鳥「……まあ、ことりだし」

 

鷹夫「うん、ことりだしな」

 

 

◇浴室

 

ことり「し、しびれたぁ~〜…!」

 

ピカチュウ「ピカ……ピ……」

 

ことり「ピカチュウ、目にシャンプー入っちゃったんだよね……。びっくりしちゃったね…。ごめんね……。 でも…、お風呂で電撃は、やっぱりなしだよぉ〜……」

 

ピカチュウ「ピカ……」

 

ことり「ふふっ、ピカチュウのビリビリ…!やっぱり、すごいねぇ…」

 

ピカチュウ「ピカチュウ……」

 

ことり「大丈夫、怒ってないよ。私の不注意だし、ごめんね。  じゃ、残りの泡、流しちゃおうね〜。もう痛くないように、そ〜っとするからね♪」

 

 

ことりは、さっき用意していた洗面器に湯舟のお湯をすくう。

 

 

ことり「いくよ〜? 目を瞑って。  せ~の、じゃば〜っ」

 

 

優しく掛けてあげる。

 

 

ピカチュウ「ピッ…! ピカ…」

 

 

泡を流れていき、黄色のふわふわとした毛並みがまた元の輝きを取り戻していく。

 

ピカチュウは、ブルブルと体を震わせ、水を弾く。

 

 

ことり「きゃっ!   うん、ぴっかぴかだね〜♪」

 

ピカチュウ「ピッカ〜♪」

 

ことり「ふふっ」

 

 

* * *

 

 

そして数分後、お風呂から上がり、ことりは淡いクリーム色のパジャマに着替えてから、ふわふわのタオルを取り出して、ピカチュウをそっと包み込んで、優しく拭いていく。

 

 

ピカチュウ「ピカ♪」

 

ことり「(ドライヤーもびっくりするといけないから、弱めにしないとね)」

 

ピカチュウ「ピカ…!?」

 

ことり「大丈夫、怖くない怖くない。 温かい風さんが出るだけだから。そっとするからね」

 

 

ことりは一番音の静かなモードに切り替えて、距離を取りながらそっと風を当てていった。

 

 

ピカチュウ「…?」

 

ことり「ねっ?」

 

ピカチュウ「ピカ」

 

ことり「よかったぁ」

 

 

風にふわりと揺れる毛並み。

 

ピカチュウは目を細めて、どこか心地よさそうにしている。

 

ことりはその姿にほっとしながら、毛並みをブラシで整えながら、乾かしてあげる。

 

 

ことり「はい、綺麗になったよ。かっこいい〜♪」

 

ピカチュウ「ピカッ♪」

 

ことり「初めてのお風呂、どうだった〜?」

 

ピカチュウ「ピカ〜♪」

 

ことり「うん。 次は私も泡気を付けるね…」

 

 

ことりも自身の髪の毛を乾かす。

 

ピカチュウは、パジャマのズボンの裾をクイクイしたりと、足元でじゃれつく。

 

 

ことり「いい子で待っててね~」

 

 

(BGM:M09(1997~1998))

 

 

◇ことりの自室

 

さっぱりした表情で部屋へ戻ってきた、ことりとピカチュウ。

 

ことりは小さく伸びをする。

 

 

ことり「ふぁぁ…。なんだか今日はすっごく濃い一日だったな〜…」

 

 

時計はもう、夜10時をまわっていた。

 

 

ことり「さあ…ピカチュウ、今日はもう寝よっか?」

 

 

ベッドに横になり、夏仕様の掛け布団を被る。

 

そのとき、部屋の隅っこに置かれた丸いクッションの上で、ピカチュウが、ちょこんと身を丸めているのに気づいた。

 

 

ことり「……んっ? ふふっ…ピカチュウ、そんな遠くにいないで、 こっちにおいで」

 

ピカチュウ「ピカ?」

 

ことり「一緒に、ここで寝よ?」

 

ピカチュウ「……ピカァ!」

 

 

ベッドに飛び乗ってきた。

 

そのままことりの腕の中へ、そっともぐり込む。

 

 

ことり「えへへっ…ふわふわだね、ピカチュウ……」ナデナデ

 

 

ピカチュウはそのまま、うとうとと舟を漕ぐ。

 

 

ピカチュウ「……ピカ……ピカ……」

 

ことり「明日は、学校お休みだから、たくさん遊ぼうね」

 

ピカチュウ「Zzz……」

 

ことり「ふふっ」

 

 

ことりはそのまま、ゆっくりとまぶたを閉じながら、今日一日の出来事を静かに思い返す。

 

 

朝、公園の前で出会った、あの不思議な黄色い生きもの。

 

最初は警戒されたたけど、怖がらずに声をかけて、仲良くなって――

 

学校の裏の倉庫で、こっそりふたりでお昼を食べたこと。

 

夕方に家へ連れて帰って、両親に紹介したこと。

 

ビリビリとしびれさせられたことまで。

 

どれもこれも、まるで夢みたいな一日。

 

でも、夢じゃない。

 

今、こうして、すぐそばにピカチュウがいて、その寝息のひとつひとつが、あたたかくて、静か。

 

 

ことり「ふふっ……おやすみ、ピカチュウ……」

 

 

こうして――

 

ことりとピカチュウの、不思議な出会いの1日目は終わりを告げた。




痺れる一日でした。


出会ってまだ1日目だけど、もう仲良し?



皆さんはペットを飼っていますか?

私の家は、猫ちゃんが2匹いて、先住猫は僕に懐いてくれてますが、もう1匹は撫でさせてくれず懐いてくれない(TωT)
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