それは怪物だった。
正真正銘、人を、生物を、星を喰らう蜘蛛にして前人未到の天蓋に等しき生物。
英雄ですら容易く喰らわれ、神は眼前に立つことを許されない。
絶望という言葉すら生ぬるいほどに、それは隔絶している。
人などが抗ってよいものでは無く、ただ喰らわれるのを待つものだということを心底から理解する。
此度もそうだ。
何の因果か目覚めた大蜘蛛は、ある国を標的に動き出す。
偶然かはたまた必然か……いや、初めから決まっていたことだったのだろう。
まるで世界が定めたことのように、その国は滅亡を断じられた。
誰もが思った。神代最後の国は、今日滅ぶのだと。
狂乱も騒動も、不幸も幸運も、全て飲み込まれ終わると。
そう、誰もが思った。
───誰かが、歩く。
天蓋に等しきものへと歩いてく。
蜘蛛は一瞥すらしない。
ただ本能のままに、全てを喰らうのみであるそれに、何かを注視するという機能は備わっていない。
それにどちらにしろ、大蜘蛛に辿り着くのは不可能である。
星より発せられる放射線も、結晶として喰われるその現象も、人の手には余りすぎる。
だから、そのものは辿り着く前に潰えるということが真実。
───その、筈だった。
蜘蛛が一瞥する。
結晶の大蜘蛛が、初めて矮小なるその存在に視線を向けた。
それは、人だ。
黒い柄に黄金の穂、黄金の装飾をもつ槍を携えた、只人であった。
あまりに小さく、弱く脆いそれは、しかし確かに蜘蛛の前に立っていた。
鎧は損壊し、小さくない傷を全身に付けながらも、両の足でそこに立っていたのだ。
只人は蜘蛛を見上げる。
そして蜘蛛もまた、視線を只人へと注ぐ。
あまりに生物としての規格が違う両者は、この時初めて、対等に目を合わせた。
静謐に、ただ静かに、只人は槍を構える。
蜘蛛もまた、静かに視線を構えへと注いでいく。
開始のゴングは無く、ただ広がる結晶と、破滅の谷の音だけが耳へと届く。
それこそが蜘蛛にとって初めての、対等なる戦いの合図だったのだから。
それからは、この本───アーサー王伝説に語られる通りだ。
その大蜘蛛と只人の騎士の戦いは描かれることなく、最後にアーサー王はカムランの丘で致命傷を負う。
いつか蘇る、理想の王として。
これは、語られるべきではない神代最後の大決戦。
人理に刻まれなかった、英雄の話なのだから。
◆◆──────────────◆◆
【悲報】自分、起きたら森の中【記憶喪失】
1:名無しの転生者
誰か助けてくれ
2:名無しの転生者
遭難か?
3:名無しの転生者
誘拐とか?
4:名無しの転生者
>>3
いやそれだったら森の中に放置は意味がわからんだろ
5:名無しの転生者
大変そうやね(ハナホジ)
6:名無しの転生者
>>5
ハナホジンかな
7:名無しの転生者
>>6
なっつ
8:名無しの転生者
ほとんど誰も助けようとしないのである!!
9:>>1
みんなひどくない( ;∀;)
10:名無しの転生者
だって記憶喪失の上にさらに森の中って......怪しさ満点だもん
11:名無しの転生者
>>10
それな
12:名無しの転生者
ゲヘナの罠かなって
13:>>1
釣りじゃないよ(´・ω・`)
14:名無しの転生者
いや釣りとかいう問題じゃなくてね
15:名無しの転生者
イッチの話が信憑性なさすぎるんだよ、話し方的に赤ん坊じゃないだろ?
16:>>1
えっ赤ん坊?全然違うけど
17:名無しの転生者
やっぱりな
18:名無しの転生者
>>16
イッチは恐らく俺達と同じ
19:名無しの転生者
俺達的には同胞を疑いたくはないけど、前に無条件で信じて痛い目にあってるんだよな
20:名無しの転生者
>>19
あの裏切り者の話はやめろ、思い出すだけで腸が煮えくり返りそうだ
21:名無しの転生者
ゲヘナなんかに靡いたやつの話なんてしたくもないがな
22:>>1
うーん……よくわからんけど、あんまりいい気分じゃないのはわかった
ごめんな変なこと思い出させて
23:名無しの転生者
>>22
イッチがいい人そうで罪悪感が凄い……
24:名無しの転生者
>>22
悪いな、そういうわけで簡単に信じてはやれないんだ
25:>>1
>>24
いいよいいよ
代わりと言ってはなんだけど、この世界のことちょっと教えてくれよ
常識の範疇でいいからさ
26:名無しの転生者
まあそれくらいなら大丈夫か
27:名無しの転生者
俺等にも常識の範囲なら不利益はないだろ
28:名無しの転生者
じゃあ取り敢えず……イッチは何が聞きたいんだ?
29:>>1
>>28
転生って言うからには、ここは異世界なんだろ?
じゃあなんの世界とかあるのか?
30:名無しの転生者
>>29
ああそうか記憶喪失だもんな、そこからか
ここは
31:名無しの転生者
俗にいう百合作品だな
32:>>1
アサルトリリィ……あんま聞いたことないな
俺が記憶喪失だから聞いたことあるも糞もないかもしれんが
33:名無しの転生者
>>32
まあ言っちゃ悪いけどあんまメジャーな作品じゃなかったからな、今は知らんが
34:名無しの転生者
記憶失ってなくても知らんかもな
35:名無しの転生者
俺は好きなんだけどな(ユリスキー)
36:>>1
じゃあもう一個、この世界で気をつけることは?
37:名無しの転生者
>>36
気をつけること………ヒュージじゃね?
38:名無しの転生者
>>36
ヒュージだな
39:名無しの転生者
>>36
ヒュージでしょ
40:名無しの転生者
>>36
あと百合に挟まらないとか?
41:名無しの転生者
>>40
それはお前の願望だろ
42:>>1
ヒュージ……?
43:名無しの転生者
>>42
50年ほど前に突如出現した、人類の宿敵だな
なんで現れたのかも、どうやって出現したのかも不明な、
というのが常識の話だな
44:>>1
マギか……魔力とかそういう感じ?
45:名無しの転生者
そうそう、そんな感じ
46:名無しの転生者
そんでもって、マギを扱うための武器───CHARMは10代の女性に高いシンクロを示すこともあって、いまのヒュージ戦争の矢面に立ってるのは少女である
47:>>1
>>46
……なるほど、なんとなく理解したよ
つまりはアズ◯ンとか艦◯れとかと同じ感じなわけね
あんまりいい気分はしないなぁ
48:名無しの転生者
>>47
それな
49:名無しの転生者
>>47
ワイどんもそう思います
50:名無しの転生者
普通に考えたら戦争の前線がうら若き乙女によって維持されてんのわけわからんよな
51:名無しの転生者
>>50
でもそうしないと人類滅ぶんだよなぁ
52:名無しの転生者
世知辛すぎる
53:>>1
オケ、なんとなくわかったよ
取り敢えず頑張ってみるわ
54:名無しの転生者
おう、マジで悪いなほんと
55:名無しの転生者
なんとかできないか掛け合ってみるわ、多分無理かもだけど
56:>>1
>>55
無理はせんといてくれよ、そっちの立場が悪くなるのは忍びないし
57:>>55
わかってるさ、そのあたりは本職だから弁えてるよ
58:名無しの転生者
>>55ってなんの職業なん?
59:名無しの転生者
>>58
政府高官及びお前らのガーデンの橋渡し役
60:名無しの転生者
めっちゃ重役だった……
◆◆────────────◆◆
「───さて、そうは言ったもののどうするべきか」
確かに疑われてもしょうがない……しょうがないが……
記憶喪失なのも、森の中にいるのも本当なのだから困ったものだ。
先ほど、目を覚ましたら唐突に森に放り出されてこの有様。
自分がどこに居たのかも、何をしていたのかもまったく分からず、更にこの世界は以前の世界と違うと来た。
そして何より、掲示板の民たちには言わなかったが───
「なんだろうな、この服装……」
ボロボロで、お世辞にも正常とは言い難い軽装の鎧に黒い外装……そして数々の汚れ。
まるでファンタジーから抜け出してきた瀕死の騎士みたいだななんておかしな感想を抱いてしまうくらいには、おかしな格好だった。
そしてさらに言えば、左腕もおかしい。
いや、一見すれば本当に普通の左腕なのだが、何かどうしても拭えない違和感が存在しているのだ。
触っても肌の感触はしっかりあるし、何があったのだろうか。
不思議な感覚だ。
「……遭難したときって、どうすりゃいいんだっけ?動かなきゃいいのか?」
いやでも、動かなければ飢え死にしておしまいだろう。
なんか唐突に脳内に生えてきた掲示板はまともすぎる理由で頼れないし、食料も水もない。
ということは、この時点でサバイバルの強制か、それとも周りに都合よく街があるかの二択だ。
だって救助要請出してないから救助なんて来るはずもないし。
掲示板からの救助を待つ手もあるけど、それだってすぐ来る保証はない。
「………取り敢えず、周り散策してみるか」
迷ったらよく考えて行動、これは戦場の鉄則だ。
……いやまて。
「なんだ戦場の鉄則って……兵士じゃあるまいし」
変な言い間違えをしてしまった。
誰もいないとはいえ、少し恥ずかしい。
取り敢えず水が無いか探すとしよう。
と、その時。
「───ッ?なんだ?今の音」
違和感のある音が、耳に入ってきた。
具体的に言えば、何かの足音が森の中に響いていたのだ。
距離はかなり遠いが、真っ直ぐにこちらに向かっているということはわかった。
恐らくはというより、絶対に何かの敵対生物だろう。
「……いやなんで敵対生物だってわかったんだ俺」
殺気でも感じたのか?いやそんなバカな。
ますます前の自分への不信感が強まる。
しかしそんなことを考えている場合ではないようだ。
かなりの速度でこちらに向かっている足音のことを考えれば、早く逃げるべきだろう。
ちなみに人間ではないのかとも考えたが、そもそも音からして
「どうしようか……」
しかしこの期に及んでも、俺は自分の感覚が信じられなかった。
いくら異世界でも、転生してすぐに殺気を感じれるなんておかしいという無駄に常識的な考えが邪魔をして行動が阻害される。
自分への不信感、自らが
だからこそ、すぐに行動に移ることができなかった。
直後、ものすごい勢いで加速した足音とともに何かが姿を現す。
死の間際のように、走馬灯のように、時間がゆっくりと流れるなかでわかったのは────
(金属の……怪物……!?)
白銀の体表に覆われた、妙に丸い形をした異形。
それが高速で姿を現した。
あとで知ったことだが、この怪物こそがかの“ヒュージ”であり、人類の敵だということ。
そして人を優先的に襲うということだった。
しかし今の俺にはそんなこと知る余地もなく、ただ突っ立っているとこしかできていなかった。
もちろんそんなことをヒュージが気にかけるわけもなく、こちらに向かって鎌のような腕を振り上げる。
相変わらず光景は遅く見えていて、しかし体はまだ動かない。
(あっ……これは────)
その時ようやく実感する。
この遅くなった時のなかで、今確実に奴の攻撃が当たるのだと。
肉を引き裂き骨を砕き、人の体を粉砕して余りあるその破壊力がいまただ一人に向けられるのだと。
即ち─────
(──────死、ぬ)
そうしてどこか冷静にその答えを導き出した俺は、未だに動かぬ身体になぜか納得してしまった。
これは走馬灯と同じ。死の間際のゾーン状態と言うやつなのだろうと。
いくら抗おうと、動こうとしても動けない。
反応速度が追いつかないからだ。
故にその死の化身たる攻撃を、無抵抗で受けざる負えない。
断罪を待つ死刑囚のように。
そうして俺は、死に飲み込まれた。
「─────ッ……は?」
筈だった。
しかし現に俺は、まだ生きている。
先ほどいた場所から、十メートルほど後退して。
「な、なんで……いま確実に……」
死んだはずだと、そう考えるもの無理はなかったと思う。
普通に考えれば死ぬ寸前だし、そもそもとしてあれは普通の人間には避けることなどできない速度だった。
なのになぜか、俺はまだ呼吸し立っている。
そう、その感覚はまるで───肉体に染みついたなにかが躱したような気さえするものだった。
しかしそんなことを考える暇は残念ながらなかった。
獲物を仕留め損ね、再度攻撃を仕掛けるあの怪物はこちらに向かって突進してきた。
怪物は腕を横薙ぎに振るう。
「うっ────ッ!?」
ゴロゴロと無様に地面に転がり、攻撃圏内から離脱する。
また、躱せた。
あの早すぎる攻撃を、俺が躱したのだ。
やたらスラスラと回る頭に違和感を覚える暇もなく、次の攻撃が来る。
手で地面を押し出し、バク宙のようにして攻撃から離れる。
曲芸じみたこの動きと身体能力も、今は変に思う時間もない。
「うおおおおお!!」
離れて両の足で立ったその時、俺は走った。
全力で、ただひたすらに離れることを目的にして。
あの怪物が遠ざかっていくのを後ろ目に、森の中を走り抜ける。
そうして暫く立った頃に、もう白い怪物の姿は見えなかった。
「はあ……逃れた?」
どうやら逃げ切ることに成功したらしい。
まさしく全力で走った筈なのに、殆ど疲れていないこの身体にやはり違和感を覚えざるおえない。
「はあああ………俺ほんとどうなってるんだか……」
思わず尻もちをつくように座り込み、ひらけた場所に出たことをようやく確認する。
複数の竪穴のようなものが壁面に掘られているようで、何かの文化遺産でもありそうな場所だった。
突如として、少し離れた場所から閃光が発された。
グレネードでも放ったのかと思うほどの光量に思わず目を瞑りそうになる。
それと同時に、あることを確信した。
(絶対巻き込まれるな、これ……)
そう予感じみたことだった。
前のやつのなにが気に入らなかったのかというと、盛り上がりを作りにくいところですかね。