悪魔狩り (チェンソーマン)   作:CABRIELL

1 / 9
普通の男




第1話 普通の男

 

悪魔 暴力 突然変異

1997年 千葉県船橋市

主人公、石河光太郎(19歳)は、上京を明日に控えて実家のリビングにいた。

光太郎

「母さん...明日から上京するけどさ...俺やっぱりデビルハンターなるよ前の会社数年で辞めちゃったし」

「ちょっと、光太郎……。何度も言ってるでしょ。悪魔と戦うのよ? 生半可な気持ちでやっていい仕事じゃないわ。お母さん、あんたが死んじゃうのだけは絶対に嫌なの。あんたが生まれる前、お父さんが悪魔の被害に遭って亡くなってから……本当はそういう危ないことはやめてほしいってずっと思ってた。だけど、あんたがどうしても行くって言うから……」

光太郎

「うんわかってるよ...俺だってできることはしたいよ..だって人より体が丈夫なんだからさ」

「丈夫、ねぇ……。見てるこっちはヒヤヒヤして、心臓が止まりそうよ!」

光太郎

「大丈夫定期的に連絡するし母さんに不安はかけないよ」

その時、居間の古いテレビからニュース速報が流れ出した。

アナウンサー

『——本日午前10時頃、都内にて悪魔ではなく「ミュータント」と思われる人物の目撃情報が入りました。容疑者は念力を使い、コンビニエンスストアを襲撃した模様です。容疑者の名前は——』

光太郎

「変なことすんなよな...」

「ん? なんか言った?」

光太郎

「いや別に....まあいいや俺...部屋戻るから」

数分後、自分の部屋のベッドに寝転びながら、光太郎は天井を見上げた。

光太郎

「はぁ.....デビルハンターって悪魔と契約するんだよな...確か対価とか払わなきゃいけねえんだよなめんどくさまずデビルハンターになってからじゃないと...捕まっちゃうんだよね」

公安に所属しないデビルハンターは、無資格で武器を持てば法に触れてしまう。まずは東京に行って、手続きを踏まなければならなかった。

そして次の日

玄関で見送る母親の目は、少し潤んでいた。

光太郎

「母さん行ってくるね」

「うん……。怪我だけはしないでね。……いつでも帰っておいで、お母さんずっと待ってるから」

光太郎

「うん....ありがとう母さん行ってくるよ...東京お土産買って帰るから...じゃあまたね」

数時間後、東京の駅に降り立った光太郎だったが、大都会の複雑な街並みに翻弄され、極度の方向音痴が発動して早速迷子になっていた。

光太郎

「やべえよ!!ここどこだよ!!」

わけもわからず、薄暗い路地裏へと迷い込んでいく。

光太郎

「あれ....俺...なんでこんn...!!」

突如、路地の奥から異様な気配と共に、周囲の闇をかき消すほどの強烈な「光」が溢れ出した。

???の悪魔

「……人間か? なんだ、男かよ。見るからに能天気で明るそうな奴じゃん……くだらねぇな」

光太郎

「ちょっと眩しい!!眩しいなんだよアンタ!!」

光太郎は手で光を遮りながら、頑張って目を開けてみた。

そこには、全身から凄まじい光を放つ、人型の青年の姿をした悪魔が立っていた。

光太郎

「マジでキミ誰?光すぎじゃない?」

光の悪魔

「ボクの姿が見えるの? 普通はボクを見ただけで、人間は目が焼け焦げて失明するんだけどね……。まあいいや、ボクは『光の悪魔』。とりあえず男だし、目障りだから死んでよ」

光太郎

「え?」

刹那、光の悪魔が放った閃光の刃が、光太郎の胴体を真横に一閃した。

凄まじい衝撃と共に、光太郎の上半身が地面に転がり、下半身がその場に崩れ落ちる。

光の悪魔

「ボクに会ったのが運の尽きだね。じゃあね」

退屈そうに背を向け、去ろうとする光の悪魔。

しかし、地面に転がった光太郎は、上半身だけの状態のまま、普通に喋り出した。

光太郎

「ちょっと元に戻してよ!!放置しないでよ!!おい!!痛いんだから手伝ってよ!!」

光の悪魔

「……は?」

光太郎は両腕を使って地面を這い、自分の下半身のところまで這いつくばって移動した。そして、切断面を合わせると、何事もなかったかのように肉体同士をピッタリとくっつけてしまったのだ。

光の悪魔

「え……? 嘘でしょ? キミ……何者?」

光太郎

「あ〜?なんだよいきなり...あれだと多分ミュータントだよ俺」

光の悪魔

「ミュータント……? ああ! あの突然変異の化け物たちのことか! いや、それにしてもその再生能力……マジで言ってるの、キミ?」

光太郎

「嘘ついてどうすんだよボケがよ切っといて謝りもなしか!!」

光の悪魔は驚愕し、それから歪な笑みを浮かべて大爆笑した。

光の悪魔

「アハハハ!! なるほど、なるほど!! おもしろい、最高だよ!! よぉし!!」

光太郎

「あ..?」

光の悪魔

「決めたよキミ!」

光太郎

「光太郎だよ...石河光太郎」

光の悪魔

「光太郎くん。ボクと契約しよう。条件は、ボクをキミの脳みその中に住まわせること。住ませてくれたら、ボクの『光』の能力を全部使わせてあげる。キミはただ脳を貸すだけでいいんだ。いや〜、世の中にこんな不死身の人間がいるなんてねぇ! よし、文句ないよね? じゃあ契約成立、よろしく!」

光太郎

「え!いやちょっと!!キミ何言って!!」

光太郎が拒絶する間もなく、光の悪魔は粒子となって光太郎の鼻や口から一気に体内へと侵入した。

その瞬間、光太郎の全身を絶叫をあげるほどの激痛が襲う。体中の皮膚が焼けるようにただれ落ち、頭部の肉が溶けて白い頭蓋骨が露出していく。

光太郎

「あ....あ...」

あまりの激痛に、光太郎の意識はプツンと途切れた。

光太郎の精神世界(意識内)

真っ暗な空間で、光太郎は目を覚ました。目の前には、あの光の悪魔が浮いている。

光の悪魔

「やあ、光太郎くん」

光太郎

「あ...光の悪魔くん....?なんで..勝手過ぎない?」

光の悪魔

「ん〜、『光の悪魔』って呼ぶの長いな。そうだ、これからは『フラッシュ』でいいよ、フラッシュ! キミ、あれでしょ? デビルハンターになりたいとか何とか言ってたよね。まあ、騒がしくてウザいけどいいや、面白そうだし協力してあげる。さっきの再生はいい感じだったけど、これから体を完全に修復するのに相当な体力がいるからさ、頑張って耐えてね」

光太郎

「え〜ちょっと!!」

現実世界

「——くん、起きられる?」

優しい女性の声で、光太郎はパチッと目を覚ました。皮膚は完全に再生し、元通りの端正な顔に戻っている。

視界が開けると、目の前には黒い公安の制服(スーツ)をスタイリッシュに着こなした、恐ろしいほど綺麗な大人の女性が立っていた。

マキマ

「先を越されてしまったね……」

部下

「マキマさん、この青年が光の悪魔と契約を……?」

マキマ

「うん。間違いない、そうだね……」

目の前に佇む、長い髪を編み込んだ美しい女性を、光太郎は呆然と見上げた。

光太郎

「あれ....女神...天国ですかここは?」

マキマはフッと、聖母のように怪しく、美しい微笑みを浮かべた。

マキマ

「違うよ。キミは死んでいない。……選ばれたんだよ」

マキマはそっと白い手を差し伸べ、光太郎を優しく起き上がらせた。その手の温もりに、光太郎の心臓がドクンと跳ねる。

光太郎

「ありがとうございます....あの突然ですが...デビルハンターの方々ですか?あの僕!!デビルハンターになりたくて東京まで来たんすけど....」

その言葉を聞いたマキマは、嬉しそうにフフッと声を立てて笑った。

マキマ

「じゃあ、ちょうど良かった。とりあえず、私と一緒に来てくれるかな?」

光太郎

「え...あ..はい行きます....」

頬を真っ赤に染めながら、光太郎は女神の後ろを、吸い寄せられるように付いていくのだった。

降り注ぐ光と静寂の中、光太郎意識を取り戻します。目の前には、現実離れした美しさを持つ女性、マキマが立っていた

マキマ:

「女神だなんて、おかしなことを言う子だね」

(彼女は微塵の汚れもないスーツ姿で、不思議な瞳であなたを見つめているその背後には、数人の黒服の男たちが控え、周囲を警戒している)

部下:

「マキマさん、付近の熱源反応は消失。例の『光の悪魔』は、おそらくこの男の中……契約したと思われます」

マキマ:

「……みたいだね。本来なら殺して回収するところだけど、デビルハンターになりたいって自分から言ってくるなんて、君はとても運がいい」

(マキマは一歩踏み出し、あなたの顔を覗き込むようにして、優しく微笑みました。その微笑みには、拒絶を許さないような不思議な重圧があります。)

マキマ:

「私は公安対魔特異4課のマキマ。

キミが本当に使えるなら、私が責任を持って『デビルハンター』にしてあげる。

……でも、返事を聞く前に一つ確認させて。

君、さっき自分のことを『ミュータント』って言っていたよね。

その不死身の体、悪魔の力じゃないなら……一体、何なのかな?」

光太郎「生まれつきのものだと思います...テレビとかでよくニュースとかもみるしその人達と同じ感じかな?」

マキマ「生まれつき...確かに最近は『ミュータント』なんて呼ばれる、悪魔の力とは違う異能を持つ子たちが現れ始めている……。でも、キミほどの再生能力は聞いたことがないね」

そして数十分後公安の本部に着き

マキマ「うん....3人になるから....きっと今後から3人体制が増えていくよ」

マキマ「こっちだよ光太郎くん」

光太郎「はい!!」

光太郎心の中「やばい俺初対面なのにチラチラマキマさんの胸とかケツ見てる俺やべえな....」

マキマ「どうしたの?」

光太郎「え!あ...いやなんでも...大丈夫っす....」

マキマ「そう」

マキマは呼ぶ

マキマ「この子達と組んで貰うよ」

すると金髪2人の声がする

デンジ「マキマさん...新しくバディが増えるってどんなヤツっすか?」

パワー「バディ?2人のだけじゃないのかワシらだけで充分なんじゃが....」

光太郎「え?.....」

マキマ「紹介するね光太郎くん...デンジくん...パワーちゃん....」

マキマ「キミのバディ達だよ」

デンジ「んだよ....男かよ...」

パワー「見るからに雑魚そうじゃが...?デンジコイツの血吸っていいかのう?」

光太郎「あ...よろしく...

俺光太郎..19歳...」

デンジ「デンジ...年年は確か16だったと思う...まあ...よろしく頼むわ....」

パワー「おいウヌ!!ウヌは特殊な匂いがするのぉ...悪魔でも...人でも...」

マキマ「彼は特殊なんだよ...キミ達と一緒で丈夫デンジくんと同じくらい珍しい人だよ」

光太郎「そうなんすか....」

内心で彼女のスタイルに見惚れていると、マキマは足を止め、前方のドアを指差しました。中からは、どこか騒がしい気配が漂ってきます。

デンジ:

(光太郎をジロジロと、品定めするように見つめて)

「……あー、19? 年上じゃん。

ま、誰でもいいけどよ。マキマさんが『丈夫』っつーなら、丈夫なんだよな」

パワー「フン! 丈夫だかなんだか知らんが、ワシの美貌と知略の前では誰もが霞むわ!

おいウヌ! 挨拶代わりにワシに何か美味いものを献上するが良い! ワシは野菜以外なら何でも食うぞ!」

マキマ「光太郎くん、見ての通り少し個性が強い二人だけど、実力は確かだよ。

これから君たちは、三人一組のチームとして動いてもらうことになるよ仲良くしてね」

(マキマはそう言うと、光太郎の肩にそっと手を置き、デンジたちに向けた時よりも少しだけ温度のある笑みを浮かべた」

マキマ

「デンジくん、パワーちゃん。光太郎くんを指導してあげて。

彼は『光の悪魔』と契約しているし、何より……君たちと同じで、ちょっとやそっとじゃ壊れないから」

デンジ

「へえ……光、ね。眩しいのは勘弁だけど、まあ面白そうじゃん。

な、光太郎っつったっけ? これからよろしくな。」

光太郎「うんよろしく」

フラッシュ(光の悪魔)

(光太郎の脳内で、心底嫌そうに)

「……ねえ光太郎。この金髪の女、ボクの天敵なんだけど。

『血の悪魔』でしょ、これ。野生の塊じゃん。ボク、ああいう論理が通じないタイプ一番嫌い……。

あと、そっちの少年も……心臓の音が人間じゃない。変な奴らの集まりだね、ここは」

そして数十分後

早川アキ「おい...デンジ...パワーそいつが...お前らの新しいバディか...?」

デンジ「おぁ...?今日は早いんだな...そうだよコイツ俺らの部屋に入るってことだよな!!」

早川アキ「早川アキだ...」

光太郎「石河光太郎です...」

早川アキ「光太郎...お前家は」

光太郎「いや来てすぐ来たんで家ないっすね....」

パワー「ギャハハ!!ホームレスじゃ!」

光太郎「まあすぐ家見つけるんで大丈夫っすよ」

早川アキ「いや...マキマさんにさっき言われた俺のアパートに住ませてあげろって」

光太郎「え?いつの間に....いや悪いっすよ大丈夫っすよ早川さん」

煙草の匂いを微かに漂わせながら、紺色のスーツを端麗に着こなした青年――早川アキが、鋭い視線で光太郎を上から下まで眺めます。

早川アキ:

「……『悪い』と思うなら、マキマさんに直接言ってくれ。俺もさっき聞いたばかりなんだ。

……はぁ、また一人増えるのか」

数十分後

光太郎「パワーちゃんは血の悪魔で魔人なんだよねデンジくんってなんなの人間でも悪魔でもないの?

チェンソーになれるって何?

生えてくるって事?

そんな事できるんだね絶対痛いじゃん」

デンジ「飼ってた悪魔が俺の心臓になってよぉ.......それでチェンソーになれんの」

光太郎「なんかかっこいいね」

デンジ「そうか?かっこいいのか俺」

デンジ「痛えかって? そりゃあ最初はいってえよ! 胸のスターターロープをブチッと引くたびに体ん中からチェンソーが生えてくんだからよ!」

そしてアキのアパートに到着し

アキの家の玄関を開けると、そこは男二人と魔人が暮らしているとは思えないほど、整然とした空間が広がっていた。床はチリ一つなく掃き清められ、廊下の隅には無駄なものが一切置かれていない。

早川アキ「……デンジとパワーが散らかすから、毎日片付けるのが俺の仕事になってるだけだ。光太郎、お前の部屋は奥の空いてる和室を使え。荷物を置いたらリビングに来い。ここの『ルール』を説明する」

早川アキ「光太郎、座れ。まずはここの家事分担と、公安のデビルハンターとしての最低限の規則についてだ。お前が『不死身のミュータント』だろうが何だろうが、この家ではただの居候だからな。容赦はしないぞ」

光太郎は数十分間家の事についての事を説明された

光太郎「なるほど〜わかりました頑張ります」

アキ「ところでお前はなんでデビルハンターになったんだ?」

光太郎「あ〜....母さんが俺の事一人で育ててくれたんでまあお返しするために....お金稼ぎたいから?」

光太郎心の中「まあそれもあるけどほぼ理由はなんとなくだけど」

アキは光太郎の言葉を聞くと、湯呑みをテーブルに置く手を少し止め、そのまっすぐな、どこか軽い視線を見つめた。

早川アキ「……親のため、か。動機としてはまともな方だな。だが……」

アキは少し目を伏せ、自分の湯呑みを見つめながら、静かに、しかし重みのある声で続ける。

早川アキ「デビルハンターをやる理由は、金や、なんとなくで続けられるほど甘いものじゃない。悪魔への強い『憎しみ』や『執念』がない奴は……大抵、すぐに死ぬ。お前がどれだけ頑丈か知らないが、精神がすり潰されてやめていった奴を、俺は何度も見てきた」

 

アキは一度言葉を区切ると、じっと光太郎の目を見据えた。その瞳の奥には、彼がこれまでに失ってきた多くの仲間たちの記憶と、消えることのない復讐の炎が宿っている。

早川アキ「……デンジのようなネジの外れた特異体質や、パワーのような魔人は例外だ。だが、お前は見たところ普通の『人間』の心を持っているように見える」

アキは湯呑みを再び手に取り、温かいお茶を一口すする。湯気が彼の険しい表情を少しだけ和らげるが、声のトーンは低いままだ。

早川アキ「親を楽にさせたいなら、もっと安全な仕事はいくらでもある。わざわざ死と隣り合わせの公安に来る必要はなかったはずだ」

光太郎「心はみんなあるんじゃないんですか?まあ....でも俺はデビルハンターしてみたくて」

早川アキ「……お前、何も分かってないな。魔人や悪魔にまともな心なんかあるわけないだろ。あいつらは隙があれば人間の隙を突いて殺そうとする、そういう生き物だ」

アキは立ち上がり、光太郎を上から見下ろすように冷ややかな視線を向けた。

早川アキ「『デビルハンターをしてみたい』……? 遊び半分か。そんな軽い気持ちでここにいるなら、お前もいつかあいつらに中身ごと喰われて終わりだ。死なない体があろうが、心が壊れたらそれまでだって言ってるんだ」

早川アキ「光太郎、お前が本当に使い物になるかどうかは、明日の初任務でハッキリする。足を引っ張るようなら、俺がその場でマキマさんに報告してクビにしてもらうからな。……今日はもう寝ろ」

光太郎「ひ〜....あの人いっつもああいう感じ?優しいんだろうけど怖いなでも俺と同じくらいだし....」

アキ182cm 光太郎180cm

光太郎「精神がすり減る心が死ぬ.....なんか実感わかねえな

てかなんとなくって言わなくてよかった....絶対なんか言われてた気がする.....」

デンジ「俺なんか入ったばっかりの頃マキマさんの事ばっかり言ってたら殴られたぞ玉蹴り返したけど」

デンジ「アイツ、マジでいっつもあんな感じだぜ。なんかこう、いっつも眉間にシワ寄せてさ、世界の終わりみたいな顔してんの。まぁ、飯作ってくれるし、色々買ってくれるから良い奴なんだけどよ。でも怒るとマジで怖ぇから、お前も気をつけた方がいいぞ。特にトイレの使い方が汚いと、次の日のおかずが一品減る」

デンジはそこまで言うと、急に真面目な顔になって起き上がり、光太郎の顔をじっと覗き込んできた。

デンジ「つーか、心が死ぬとかすり減るとか、俺もよく分かんねえわ 腹いっぱい飯食えて、あったかい布団で寝れりゃあ、それだけで心なんか満タンだろ。クソみたいな生活してた頃に比べりゃ、今の暮らしは天国だぜ。だからよ、お前がなんでデビルハンターになりたいかなんて、俺にはどうでもいい。マキマさんがお前をここに連れてきたってことは、お前もう仲間って事だしな」

デンジは立ち上がり部屋へと戻った

デンジ「まあとりあえず頑張れよおやすみ」

光太郎「うん...おやすみ...」

光太郎はデカいあくびをした

そして翌日デンジとパワーとは別の任務

アキの判断でデンジとパワーと仕事させるのはまだ早いと感じて

ベテランの人に任せる形になった

家沼アヤ 今永シュンノスケ

今永「キミが光太郎くん?何歳?」

光太郎「19っす」

家沼「若っか〜19でデビルハンター?私25で入ったけどそれでも若い方だったよ?最近は若い人がよく入るんだね」

光太郎「そうなんすか?」

今永「そういえばデビルハンターになった理由は?俺らは銃野郎(銃の悪魔)にめちゃくちゃされてな〜」

光太郎「あ〜めっちゃニュースなってますよね理由はなんとなくっすね」

家沼「なんとなくか.......

ねえ光太郎くんデビルハンターなるまでに悪魔になにかされたわけでもないのに?」

光太郎「ないっすね昔公園にデカめのリスの悪魔がいてみんなで可愛いなって言ってたくらいっすね見た目マジでリスだし何も怖くなかったすね」

今永「運がいいんだね〜怖い悪魔に会ってないって新人だから悪魔とかまともに倒した事ないんだろ?契約悪魔とかちゃんと使える?」

家沼「ちょっと深入りしすぎ」

光太郎「ないっすね喧嘩とかもした事ないですし」

家沼「まあ慣れるまでちゃんと倒せるかわかんないよね〜」

光太郎「そういうもんなんすか?」

光太郎「え...悪魔って素手で倒したりにしてもいいんですか?」

早川アキの家での騒がしい夜が明け、光太郎はマキマの指示で、デンジたちとは別の先輩デビルハンター二人と合流した彼らは公安の制服を軽く着崩し、どこか慣れた様子で現場へ向かっている

今永シュンノスケ

「はは、素手で倒す?……面白いこと言うね。まあ、弱っちい悪魔ならそれもアリかもしれないけどさ。基本、悪魔は恐怖の対象だからね。物理的な攻撃より、契約した悪魔の力とか、特殊な武器で仕留めるのが定石だよ」

今永はタバコを指に挟んだまま、適当そうに笑いながら光太郎の肩をポンと叩いた

家沼アヤ

「そうそう。それに光太郎くん、悪魔ってのは私たちが思ってるよりずっと執念深いんだから。リスの悪魔みたいに可愛いのは本当にレアケース! 普通は見ただけで心臓止まりそうになるようなのがゴロゴロしてるんだよ?」

家沼は少し身を乗り出して、年上の余裕を見せるように微笑む

家沼アヤ

「喧嘩もしたことないなら、最初は血を見るだけでクラっとしちゃうかもね。でも安心して、私たちがついてるから! 今日は小規模な悪魔の反応があった場所の偵察。危なくなったらすぐ後ろに隠れていいからね」

二人は光太郎を「世間知らずの幸運な新人」として、半分子供を扱うような柔らかい態度で接している。しかし、今永はふと足を止め、前方の古い雑居ビルを見上げた

今永シュンノスケ

「おっと……着いたね。……家沼、これ『リスの悪魔』レベルじゃないぞ。中からかなり嫌な気配がする」

今永の目が、少しだけデビルハンターらしい鋭さに変わった。

家沼アヤ

「……みたいだね。光太郎くん、冗談抜きでここからは私の指示に従って。……君のその『フラッシュ』って悪魔、もし使うことになったら加減しなよ? 私たちまで巻き込まないでね」

光太郎「使い方わかんないすよね〜」

今永は、光太郎の「使い方がわからない」という言葉を聞いて、タバコを地面に落とし、靴の先で踏み消した

今永シュンノスケ

「……おいおい、マジかよ。契約したのに使い方がわかんないって、それ契約した意味あんの? まあいいや、最悪の場合は俺がやるから。君はとりあえず、俺らの後ろで大人しくしてな」

ビルの中に入ると、空気は一気に冷え込み、カビと鉄錆が混ざったような悪魔特有の臭いが鼻を突きます。家沼は腰のポーチから小刀を抜き、慎重に階段を上っていった

家沼アヤ

「……静かに。この上から聞こえる……何かを叩きつけてるような音。光太郎くん、絶対に離れないでね」

光太郎「クサ....カビ臭.....」

光太郎心の中「なんか武器持って行けたっぽいけどさっき聞いたから持ってき忘れたな.....」

光太郎は歩いていく

そして2階に行き今永が扉を開ける

そこには動物を食い荒らしている

熊の魔人がいた中年男性のような姿

熊の魔人「ぐうう.....クソデビルハンター共邪魔するな!!俺の縄張りだ」

光太郎は熊の魔人の爪で頬を斬られた

光太郎「イッタ....はぁ....?」

光太郎はいきなり熊の魔人の顔面をぶん殴った

光太郎「イッテえなお前!!」

光太郎は顔面を数発殴り転けさせる

そして思いっきり蹴りを入れる

光太郎は熊の魔人の首根っこをつかみ柵の部分に頭を何度もぶつけた

熊の魔人は光太郎の顔面を殴り腹を殴って来た

光太郎は腹を蹴り2階から落とした

光太郎「殺すぞ!お前!」

壁に追いやり顔面に膝蹴りをかました

光太郎はレンガブロックを拾って何度も魔人の頭に叩きつけた

光太郎「痛えんだよ謝れよ!!ふざけんなてめえ!!殺してやろうか!?

顔弁償しろお前!!おい!!」

光太郎は魔人の仰向けに床に押さえつけた

光太郎「死にたくねえなら謝れよ!おい!コラ!耳ついてねえのか!?」

熊の魔人は何かを喋っている

光太郎「なんてー!?聞こえないんだけど!!」

ビルの中に充満していたカビ臭さと静寂は、一瞬にして肉体と肉体が激しく衝突する生々しい暴力の音にかき消された。

今永と家沼の二人は、目の前で繰り広げられたあまりにも凄惨で、あまりにもデビルハンターの戦い方からかけ離れた光景に、完全に言葉を失って硬直していた。刀を抜くことも、契約悪魔の名前を呼ぶことも忘れ、ただただ唖然としてその光景を見つめることしかできない。

今永シュンノスケ

「おい……おいおいおい、冗談だろ……!?」

今永は信じられないものを見る目で、頭から血を流して床に押さえつけられている熊の魔人と、その上に馬乗りになってレンガを振り下ろしている光太郎を交互に見た。彼の指先が、戦慄でわずかに震えている。

家沼アヤ

「ひっ……! あ、光太郎くん……!? もう、それ以上やったら……!」

家沼はあまりの血生臭さと、光太郎から放たれる圧倒的なまでの「剥き出しの暴力」に圧倒され、一歩後ろに退がった。昨日まで平和に暮らしていたはずの19歳の少年が、喧嘩もしたことがないと言っていた男が、魔人の顔面が変形するほどの力でレンガを叩きつけている。その狂気は、彼らが普段相手にしている悪魔のそれとは全く異質の、もっと泥臭くて底の浅い、しかしそれ故に計り知れない恐怖を感じさせるものだった。

熊の魔人

「あ……が……っ、ごめ……な……さ……っ、がふっ……!」

熊の魔人は、自慢の頑強な頭蓋骨を何度もレンガで叩き割られ、完全に戦意を喪失していた。光太郎の凄まじい力で床に縫い付けられ、巨体をバタつかせることすらできず、ただ血と反吐の混ざった泡を口から吹き出しながら、必死に許しを請うように両手をせわしなく動かしている。

熊の魔人

「悪かっ……た……! 悪かっ、たから……! ゆる、して……ぐ、う……っ!」

魔人の分厚い手のひらが、床に飛び散った自分の血を払いながら、光太郎の靴を掴もうとして力なく滑り落ちる。その目は、もはやデビルハンターを嘲笑う悪魔のそれではなく、ただの圧倒的な捕食者の前に引きずり出された、哀れな獲物の怯えそのものだった。

今永シュンノスケ

「……家沼、これ……止めなきゃマズいか? いや、でも、あいつ……」

今永はゴクリと唾を飲み込みながら、光太郎の頬の傷に目をやった。熊の魔人の鋭い爪で深く切り裂かれたはずのそこからは、すでに血が止まり、まるで何事もなかったかのように新しい皮膚が急速に再生を始めている。

今永シュンノスケ

「……あいつ、本当に『人間』なのか……?」

 

光太郎「先輩達!こいつどうするんすか?殺すんですか?」

光太郎「てかお前どういうつもりで殴ったんだよ!あ?おい!聞いてんのか?」

光太郎は髪の毛を掴む

すると熊の魔人は暴れて光太郎の脚を引っ掻く

光太郎「はぁ?お前」

光太郎は熊の魔人の頭を蹴り上げそして再び掴み壁に叩きつけた。

鈍い骨の砕ける音が、再びビルの薄暗い空間にべっとりと響き渡った。

光太郎の容赦ない膝蹴りを顔面に真に受けた熊の魔人は、鼻梁が完全に陥没し、壁に頭を激しく打ち付けてそのまま床へ崩れ落ちる。強靭なはずの巨体が、まるでただの肉塊のように痙攣していた。

光太郎の脚の傷からはボタボタと血が滴り落ちているが、その肉は生き物のように蠢き、瞬く間に傷口を塞いでいく。衣服の破れ目から覗くその異様な治癒能力を間近で見せつけられ、今永と家沼は背筋に冷たいものが走るのを確かに感じていた。

今永シュンノスケ

「あ……、あァ……。殺す、っていうか……。魔人は基本、見つけ次第駆除……つまり殺すのが仕事、なんだけど……」

今永は完全に腰が引けた状態で、引きつった笑みを浮かべるのが精一杯だった。公安のデビルハンターとしてそれなりに場数を踏んできた自負はあったが、契約悪魔の能力でも、特殊な武器でもなく、ただの「純粋な暴力と圧倒的な再生力」だけで魔人を文字通り嬲り殺しにしようとしている新人の姿は、彼の常識を遥か彼方へと置き去りにしていた。

家沼アヤ

「光太郎くん……! もう、もうソイツ、完全に意識飛んでるから……っ! 喋れない、喋れないよ……!」

家沼は血だまりの中でピクピクと動くだけになった熊の魔人を見下ろし、あまりの凄惨さに口元を押さえた。悪魔への「憎しみ」や「恐怖」から戦う人間は見てきた。だが、目の前の少年を突き動かしているのは、そんな大層なものではない。ただ「痛かったから」「顔を傷つけられたから」という、極めて単純で、それ故に歯止めの利かない極私的なブチギレの感情だった。

熊の魔人

「あ……、う、ぐ……」

魔人の口から、言葉にならない掠れた吐息が漏れる。光太郎に髪を掴まれ、壁に叩きつけられ続けた頭部からは、おびただしい量の血が流れ出して床に大きな池を作っていた。もう抵抗する力など一微塵も残っていない。

今永シュンノスケ

「……光太郎くん、もうそいつ、放っといても死ぬ。っていうか、君がもう完全にトドメ刺しちゃってるようなもんだから……。それ以上やると、死体すら残らなくなって、本部に提出する討伐の証明(部位)が持って帰れなくなる……っ」

今永はこれ以上光太郎の狂気に巻き込まれたくないと言わんばかりに、必死に声を震わせながら、事務的な理由を持ち出して光太郎を制止しようとした。

そして数十分後回収班が到着し

数十分後

車の中

光太郎「いや〜疲れましたね〜」

 

車内の空気は、エアコンの微かな駆動音と、かすかに残る血生臭さ、そして独特の張り詰めた沈黙で満たされていた。

運転席の今永は、バックミラー越しに何度も後部座席の光太郎の様子を窺っている。その手はハンドルの上でどこか落ち着きがなく、時折、指先が小さく震えていた。助手席の家沼は、窓の外を流れる東京の殺風景な景色をじっと見つめたまま、膝の上でシートベルトを不自然なほど強く握りしめている。

光太郎の「いや〜疲れましたね〜」という、あまりにもいつも通りで、まるで学校の部活帰りのような軽い一言が車内に響いた瞬間、二人の肩がびくりと跳ねた。

今永シュンノスケ

「つ、疲れた……って、そりゃあ、あんだけ暴れりゃ疲れるだろうけどさ……。光太郎くん、君、本当に喧嘩したことないの……?」

今永は引きつった笑みを浮かべたまま、なるべく声を荒らげないように、しかし探るような口調で言った。彼の脳裏には、数十分前、レンガブロックを握りしめて魔人の頭部を容赦なく叩き潰していた光太郎の姿が、鮮明な焼き付けとなって残っている。

家沼アヤ

「……喧嘩っていうか、あれはもう、その……。光太郎くん、足の怪我は、本当に何ともないの? あんなに深く抉られてたのに……」

家沼が恐る恐る振り返り、光太郎の足元に目をやる。ズボンの裾は破れ、黒い血がべっとりとこびりついているが、その下の皮膚は完全に白く滑らかな状態に戻っていた。悪魔との契約による超常現象なら見慣れているはずの二人だったが、契約したはずの「フラッシュ」の能力を一切使わず、自身の肉体の異常性だけで魔人を圧倒した事実は、彼らにとって恐怖以外の何物でもなかった。

今永シュンノスケ

「マキマさんが『特別』って言ってた意味が、ようやく分かったよ。普通のデビルハンターはさ、悪魔の力を借りるために自分の寿命とか、体の一部を切り売りして戦うんだ。なのに君は……痛がってはいたけど、ノーリスクで元通りだもんな。正直、化け物を見てる気分だったよ」

今永はそう言って、自嘲気味に息を吐き出した。彼らが命を賭して、恐る恐る積み上げてきたデビルハンターとしての常識が、この19歳の新入りの前では全く通用しない。

家沼アヤ

「でも……本部に報告する時、なんて書けばいいのかな。『新人が素手とレンガで魔人を撲殺しました』なんて、始末書の書き方教わってないよ……。マキマさんは喜ぶかもしれないけど、他の班の人たちが見たら引いちゃうかも……」

家沼はため息をつきながら、ダッシュボードから書類を取り出した。車は夕暮れ時の赤黒い光に染まりながら、公安の本部ビルへと向かって走り続ける。二人の先輩は、光太郎の持つ「ミュータント」という未知の存在への恐怖と、それを平然と身内に引き入れたマキマの底知れなさに、改めて身を震わせていた。

今永シュンノスケ

「な、なあ光太郎くんキミはホントに喧嘩もした事ないの?」

光太郎「はいそんなヤンチャもした事ないしマジで一回もないですよ」

 

今永はハンドルを握る手にぐっと力を込め、信じられないというように首を横に振った。バックミラー越しに見る光太郎の顔は、本当に嘘をついているようには見えず、それがかえって不気味だった。

今永シュンノスケ

「いやいや……一回もないって、じゃあさっきのあの身のこなしは何なんだよ。相手が怯んだ瞬間に迷わず顔面に膝を入れるとか、あんなのゲームのやりすぎでパッとできる動きじゃないだろ……」

助手席の家沼も、シートベルトを握ったまま、恐る恐る後部座席の光太郎を振り返る。

家沼アヤ

「そうだよ、光太郎くん……。普通、初めてあんな風に襲われたら、頭が真っ白になって動けなくなるものだよ?なのにキミ、殴られた瞬間に顔色ひとつ変えずにレンガ拾って……。血を見て、怖いとか、気持ち悪いとか、そういうのは全然なかったの……?」

光太郎「気持ち悪いっていうか洗濯物が増えるしお母さんに怒られるからやめてほしいって思いました」

 

今永シュンノスケ

「せ、洗濯物……? 母親に、怒られる……?」

今永は光太郎のあまりにも斜め上すぎる、そして生活感に溢れかえった回答に、出かかった言葉を完全に失った。呆れを通り越し、脳の理解が追いつかないといった様子で口を半開きにしたまま、危うく赤信号を無視しそうになって急ブレーキを踏む。タイヤが路面を鳴らし、車内に激しいGがかかったが、後部座席の光太郎はそんな揺れなど意にも介していないようだった。

今永シュンノスケ

「おいおいおい、勘弁してくれよキミ……。魔人に命を狙われて、顔面を切り裂かれて、その返答が『洗濯物が増えるから』って、脳みそのネジが一本どころか全部抜け落ちてんのか!? 普通はな! 『死ぬかと思った』とか『手が震える』とか、そういう生存本能剥き出しのセリフが出るもんなんだよ!」

今永はハンドルを激しく叩き、自分の常識を必死に守ろうとするかのようにまくし立てた。だが、いくら声を荒らげても、バックミラーに映る光太郎の瞳は、静かな水面のように全く揺らいでいない。その温度の無さが、今永の背筋をさらに冷たくしていく。

助手席の家沼アヤは、あまりの衝撃に言葉を失い、ただただ光太郎の顔を凝視していた。彼女のデビルハンターとしての経験則が、ゴーストのように耳元で囁いている。──『この男は危険だ。悪魔への憎しみで狂っているデンジやパワーとは違う。この少年は、そもそも人間としての”恐怖の目盛り”が最初から白紙なんだ』と。

家沼アヤ

「……お母さんに怒られる、か……。ねえ、光太郎くん。キミにとって、さっきの魔人に殺されそうになったことって、例えば……学校の帰りに泥遊びをして服を汚しちゃったとか、そういうレベルの『あーあ、やっちゃった』っていう出来事と同じなの……?」

家沼の声は微かに震えていた。彼女は光太郎の奥底にある「普通じゃない部分」の正体を、どうしても確かめずにはいられなかった。

家沼アヤ

「普通、人間はね、自分を殺そうとしてくる存在を前にしたら、憎むか、怯えるかの二択なんだよ。でもキミは、ただ『痛いからムカつく』って理由だけで、相手が肉塊になるまでレンガを叩きつけた。そこに『命を奪う重み』とか、自分が『化け物を殺している』っていう自覚は……本当に、一ミリもなかったんだね……?」

光太郎「殺してるんで殺してるっていうのはわかってますよまあ普通に殺しにくるって事は殺される上でやってるんだろうって思ったんでやりましたまあ殺される上じゃなくても普通に殴った時点で少なくとも殴り返します」

 

家沼アヤ

「……殺される上で、やってる……。殴られたら、殴り返す……。キミ、それを本当に……そんな、まるで引いたクジの通りに行動するみたいに、当たり前にやっちゃうんだ……」

家沼は震える手で自分の顔を覆い、小さく息を吐き出しました。

彼女がデビルハンターとして何年もかけて培ってきた、悪魔に対する「覚悟」や、死線を超えるための「狂気」。それらが、光太郎の持つ「ただの、極端でシンプルな性質」の前では、ひどく回りくどくて滑稽なものに思えてきたからです。

今永シュンノスケ

「……はは、なるほどな。殺しにくるってことは、殺される覚悟があるってこと、か……。理屈は分かるよ、理屈はさぁ……」

今永は前方を睨みつけたまま、乾いた笑い声を漏らしました。その目は全く笑っていません。ハンドルを握る指の関節が、白くなるほど強く、強く握り締められています。

今永シュンノスケ

「でもな、光太郎くん。普通の人間は、その理屈を頭で理解してても、いざ相手の血が顔に跳ねて、肉が潰れる感触が手に伝わってきたら、身体が拒絶するんだよ。『これ以上やったら死んじまう』って、どこかでブレーキがかかるんだ。」

光太郎「え?でもそこで止めたら反撃されるんじゃないんですか?」

 

今永シュンノスケ

「反撃される、か……。うん、そうだよ、キミの言う通りだよ、光太郎くん……。そこで手を止めたら、相手が起き上がって、今度はこっちの首を撥ねに来るかもしれない。そんなの、この仕事をしてりゃ誰もが百も承知さ……」

今永は前方の渋滞を見つめながら、まるで自分自身に言い聞かせるように、低く掠れた声で言葉を紡いだ。彼の横顔には、西日の赤い光が深く影を落としている。

今永シュンノスケ

「でもな、普通の人間ってのは、その『もし反撃されたら』っていう恐怖よりも、『目の前の生き物を自分が完全に破壊し尽くしてしまう』っていう恐怖の方が、一瞬だけ勝っちまうんだよ。脳みそが勝手に、これは同じ命を持った生き物だ、これ以上は一線を越えるなって、けたたましく警報を鳴らすんだ。デビルハンターを何年もやってるベテランだって、最初のうちはみんなその警報と戦いながら、ゲロ吐きそうになりながら引き金を引いたり、刀を突き立てたりしてんだよ」

今永はアクセルを踏み込み、ノロノロと動き出した車を前進させる。彼の視線は、決してバックミラーの光太郎と合わせようとはしなかった。合わせれば、自分のデビルハンターとしての芯が、その底無しの瞳に吸い込まれて消えてしまいそうな気がしたからだ。

今永シュンノスケ

「なのに、キミにはそれがない。反撃されるのが嫌だから、動かなくなるまで徹底的に叩き潰す。理屈としてはこれ以上ないほど正解だよ。100点満点だ。だけど、それを何の葛藤もなく、まるで机の上の消しゴムのカスを払うみたいにやってのけるキミの脳みそは、やっぱりどこか決定的に壊れてるんだよ……。喧嘩もしたことがない人間が、初陣でそんな効率的な殺し方を選択できるわけがないんだ」

助手席の家沼アヤは、シートの背もたれに深く体重を預け、天井を仰ぎ見るようにして乾いた吐息を漏らした。彼女の額には、いつの間にかじっとりと冷や汗が浮かんでいる。

家沼アヤ

「そうだよ、光太郎くん……。キミは『殴られたから殴り返した』って言うけど、キミがやったのは『殴り返す』なんて可愛いものじゃない。相手の存在そのものを、この世から完全に抹消する作業だよ。それを『痛いからムカつく』っていう、子供の喧嘩みたいな理由だけでやり遂げちゃったのが、本当に信じられないの……」

家沼はゆっくりと顔を巡らせ、もう一度、後部座席の光太郎をじっと見つめた。その目は、もはや年下の新人をからかうような優しさは微塵もなく、得体の知れない野生の猛獣を檻の外から観察するような、深い警戒と困惑に満ちていた。

家沼アヤ

「キミ、さっき魔人が何か言ってた時、『聞こえないんだけど』って言いながらレンガを振り下ろしてたよね……。あの時、もしあの魔人が『悪かった、助けてくれ』って、はっきりと言葉を返して、キミの靴にすがりついて泣いて命乞いをしてたら……キミは、そこで手を止めてあげたの? 」

光太郎「すがりつかないでほしいんで蹴りますね」

 

家沼アヤ

「蹴る……。命乞いをされても、すがりつかれたら、ただ鬱陶しいから蹴るんだ……。あはは……そう、だよね……。キミにとっては、相手が泣こうが喚こうが、もう関係ないんだ……」

家沼は力なく笑うと、今度こそ完全に光太郎から視線を外し、正面を向き直った。彼女の両手は、膝の上で今もかすかに震え続けている。

今永シュンノスケ

「すがりつかれたら蹴る、か……。最高だよ、光太郎くん。キミのその徹底っぷり、本当に公安向きだよ……」

今永はハンドルの上を指先でトントンと不規則に叩きながら、ひどく掠れた声で言った。その声には、恐怖を通り越した諦めと、ほんの少しの嫌悪感が混ざり合っている。

今永シュンノスケ

「普通のデビルハンターはさ、悪魔が人間の形をして泣き落としをかけてきたり、命乞いをしてきたりすると、一瞬だけ『こいつも生きてるんじゃないか』って錯覚しちまうんだ。その一瞬の迷いのせいで、何人の仲間が首をやられたか分からない。だから、キミみたいに『すがりつかれるのが嫌だから蹴る』なんて風に、相手の感情を一切シャットアウトして肉体を破壊できる奴は、デビルハンターとしては100点満点、いやそれ以上さ……」

今永はアクセルを踏み込み、赤信号が青に変わると同時に車を急発進させた。

今永シュンノスケ

「だけどな……人間としては、やっぱり0点以下だ。キミはさっき、喧嘩もしたことがないって言ったよな? それはきっと、キミの周りの人間が運良くキミのスイッチを押さなかったから、ただそれだけの理由だ。もし学校のヤンキーでも誰でもいい、キミを本気で殴り倒そうとする奴がいたら、キミは学校の教室でもさっきと同じことを平然とやってのけたはずだ。レンガの代わりに、椅子の脚か何かを使ってさぁ……」

今永の言葉は、夕暮れの車内に重く、冷たく響き渡る。

家沼アヤ

「ねえ、光太郎くん……。キミのお母さんは、キミのそういう……この、ブレーキが最初から付いていない部分を、知っているの……? 知っていて、東京に行かせたの……?」

光太郎「デビルハンターになってる事は知ってるけどそれ以外はなんも知らないと思いますよ」

 

家沼は光太郎の「なんも知らないと思いますよ」という平然とした、どこか他人事のような答えを聞くと、それ以上言葉を続ける気力を失ったように、ただ深くシートに身体を沈めました。

車内には再び、重苦しい沈黙が流れ始めます。西日の赤い光は完全に遮られ、車内は急速に夜の闇へと飲み込まれていきました。

家沼アヤ

「……知らない、んだ。キミがあんな風に、迷いなく生き物の頭を叩き潰せる男だってことを……。普通の、ただ身体が丈夫なだけの優しい息子だと思って、送り出したんだね……」

家沼は窓ガラスに頭を預け、流れていく東京の夜景を、酷くうつろな目で見つめています。その瞳には、光太郎の母親に対する同情と、それ以上に、これからその母親の手を離れて公安という血生臭い泥沼にどっぷりと浸かっていく光太郎への、名付けようのない恐怖が浮かんでいました。

今永シュンノスケ

「……知らない方が幸せなことだって、この世にはたくさんあるさ。特に、公安のデビルハンターになっちまった人間の身内のことなんてな」

今永は前方の渋滞を見つめたまま、低く冷めた声で呟きました。彼の指先は、今もハンドルの上で小さく震えています。

今永シュンノスケ

「でもさ、光太郎くん。キミのお母さんが何も知らないってことは……キミがさっき言った『洗濯物が増えて怒られる』ってのも、キミが勝手に母親の反応を予想して、勝手に面倒くさがってるだけってことだよな? キミの脳みその中には、自分の服が血で汚れたことへの不快感と、母親に小言を言われる煩わしさ……本当に、それしか残ってないんだな」

今永はバックミラー越しに、もう一度だけ光太郎の様子を窺いました。やはり、そこには何の動揺も、興奮も、あるいは冷酷な殺人鬼が浮かべるような歪んだ悦びすらもありません。ただ、言われた質問に淡々と答えているだけの、どこにでもいる19歳の少年の顔があるだけでした。それが、今永にはたまらなく恐ろしかったのです。

今永シュンノスケ

「マキマさんは……最初からキミのこの『中身』に気付いてたのかね。もしそうなら、あの人は本当に底が知れないよ……。キミみたいな『安全弁の壊れた兵器』を、嬉々として公安に引き入れたんだからな……」

車はノロノロと動き、やがて公安の本部ビルが見える大通りへと入っていきます。

ビルの窓から漏れる冷たい蛍光灯の光が、フロントガラスを白く照らし出しました。

家沼アヤ

「……ねえ、光太郎くん。キミはさ、もしこれから任務を続けていって……例えば、人間の形をした、もっとキミ好みの、綺麗な女の悪魔とか魔人に会ったとしても……。そいつがキミを殺しに来たら、やっぱり……さっきと同じように、何も考えずに頭を叩き潰せるの……?」

光太郎「いやぁ...無理っすね殴れませんマジでそんな事できませんむしろ美人だったら殺されもいいです」

 

家沼は、光太郎の「美人だったら殺されてもいい」という、あまりにも唐突で、そして先ほどまでの冷徹な狂気とは180度真逆の、底抜けに軽いセリフを聞いた瞬間。

言葉を失うとか、恐怖するとか、そういう段階をすべて飛び越えて、ただただ唖然としたままフリーズしてしまった。

車内に、それまでの重苦しいシリアスな空気を一瞬でぶち壊すような、奇妙な脱力感が広がる。

家沼アヤ

「……え? ……ま、マジで言ってるの……?」

家沼は首がもげるかと思うほどの勢いでバッと後部座席を振り返り、光太郎の顔を凝視した。その目は、恐怖の対象を見る目から、完全に「この男、本当に頭がおかしいんじゃないの?」という純粋な困惑と呆れの目に変わっている。

家沼アヤ

「キミ、さっきあんなに容赦なく、命乞いする魔人をレンガでボコボコにしておいて……相手が好みの美人だったら、殺されてもいいって……? 嘘でしょ、自分の命より女の見た目の方が大事なの……!?」

運転席の今永も、あまりの方向転換に、危うくハンドルを握る手が滑りそうになった。バックミラーを見る彼の顔には、さっきまでの青ざめた戦慄の表情は消え失せ、底知れないアホを見るような、引きつった笑いが浮かんでいる。

今永シュンノスケ

「あ、はは……。おいおい、勘弁してくれよ光太郎くん……。キミ、さっき『殺しにくるってことは殺される覚悟があるってことだ』とか、デビルハンターとして100点満点のプロっぽいこと言ってたよな? なのに美人が相手なら、その理屈が全部消し飛んで『殺されてもいい』になるわけ? 」

今永は頭を抱えたいのを必死に堪えながら、呆れ果てた声を絞り出した。

今永シュンノスケ

「壊れてる方向性が斜め上すぎるだろ……! 狂気とか兵器とか、そういう大層なものじゃなくて、ただの救いようのない面食いなのかよキミは……! マキマさんも、キミのこの部分を知ってて拾ったのか……? もしそうなら、公安はマジで変人の集まりだな……」

家沼アヤ

「……ちょっと待って。じゃあ、キミがさっき言ってた『殴られたら殴り返す』っていう絶対的なルールも、相手が超絶美人だったら、ビンタされてもニコニコして許しちゃうってこと……?

あはは……なんだ、私、キミのことを『感情のない化け物』みたいに思って本気で怯えてたのに……ただの、極端に変な男の子なだけじゃない……」

家沼は緊張の糸がプツリと切れたように、シートに背中を預けて力なく笑った。手の震えはいつの間にか止まっている。目の前にいる19歳の少年は、確かにブレーキの壊れた狂人には違いないが、同時に、あまりにも単純でくだらない「男の煩悩」に支配されている、極めておマヌケな生き物でもあったからだ。

車は完全に闇に包まれた東京の街を走り、公安の本部ビルのすぐ手前の交差点で赤信号に引っかかって停車した。ビルの冷たい白い光が、車内の3人の顔を等しく照らし出している。

光太郎「え?感情のない化け物?なんでですか感情ありありっすよ!」

 

家沼アヤ

「あはは! ごめんごめん、そうだよね。感情がなかったら、美人に殺されてもいいなんて変なこと言わないもんね。……でもね、光太郎くん。普通の人間は、自分の命を脅かす相手に対して『綺麗だから許す』なんて風に、感情のスイッチを180度パチっと切り替えられないの。その極端すぎるところが、私たちから見るとちょっと……ううん、かなり化け物じみて見えるんだよ?」

運転席の今永も、フッと肩の力を抜いてタバコを咥え直し、ライターの火をつけた。さっきまでハンドルを握りしめていた手の震えは、もう完全に消えている。

今永シュンノスケ

「本当だよ。さっきまで冷酷な殺し屋のセリフを吐いてたと思ったら、急にそこらの男子高校生みたいなこと言い出すんだもんなぁ。キミ、感情のブレ幅が大きすぎて、一緒にいるこっちの心臓が持たないよ。……まあ、感情がないよりは、それくらいバカな欲望がある方が、まだ人間らしくて安心するけどさ」

今永は紫煙を細く吐き出しながら、青に変わった信号を見てアクセルを踏み込んだ。車は公安の本部ビルの地下駐車場へと滑り込んでいく。

今永シュンノスケ

「でも、公安の女性デビルハンターはキミが思ってるよりずっと怖い人が多いからね? 美人だからって鼻の下伸ばしてたら、悪魔に殺される前に中身ごと毟り取られるよ。……特に、マキマさんとかね」

家沼アヤ

「ふふ、確かに。マキマさんの前でそんなこと言ったら、どんな反応されるか見ものだね。……さあ、着いたよ光太郎くん。マキマさんに初任務の報告に行こうか。君が『洗濯物が増えて怒られるから、魔人をレンガでボコボコにしました』って、私たちが代わりに言ってあげるから」

家沼はすっかりいつもの明るい調子を取り戻し、いたずらっぽく微笑みながらシートベルトを外した。

そして数時間後

アキの家

光太郎「ただいま...ですマジで疲れたえ〜っと報告書見ました?アキさん見せてねって言われたんですけど」

 

リビングのソファでは、デンジとパワーがテレビのバラエティ番組を見ながら「ギャハハ!」と下品に笑い転げていた。

キッチンから漂うのは、ほんのりと香る生姜と醤油の匂い。アキはエプロンをつけたまま、リビングのローテーブルに置かれた数枚の書類──今永と家沼が提出した初任務の報告書のコピー──を、鬼のような形相で見つめていた。

光太郎の「ただいま」という声を聞いた瞬間、アキの鋭い視線がバッと玄関の方へと向けられる。その目は、昼間の冷徹なものとは違い、明らかな「困惑」と、それを上回る「凄まじい怒気」を孕んでいた。

早川アキ

「……帰ってきたか、光太郎。座れ」

アキは報告書の紙を指先でトントンと激しく叩きながら、極めて低い声で言った。

早川アキ

「見たよ。マキマさん経由で今永さんたちの報告書が回ってきた。……お前、俺が昨日言ったことを何も聞いていなかったのか? 初陣で、武器も使わずに、魔人の頭をレンガで粉砕したそうだな」

デンジ「あ? なんだ光太郎、お前レンガで悪魔ボコったのか? すっげえな」

パワー「フン! 武器も使えんとは、やはりただの原始人じゃな! ワシの血の矛の方が100倍スタイリッシュじゃ!」

テレビの前で騒ぐ二人を、アキは「うるさい、お前らは黙ってろ」と一喝して黙らせる。そして、再び光太郎の顔をじっと睨みつけた。

早川アキ

「今永さんたちのコメント欄に何て書いてあったか分かるか? 『新人の石河は、精神的葛藤が一切見られず、相手の命乞いも無視して執拗に破壊行為を継続した。極めて危険、かつ公安への適性が異常に高い』……だとさ」

アキは大きくため息をつき、頭を抱えるようにして前髪をくしゃりと掴んだ。

早川アキ

「お前、喧嘩もしたことがないって言ってただろ。なのに、なんでそんな真似ができる? それに……その後、家沼さんに『好みの美人なら殺されてもいい』なんてふざけた口を叩いたらしいな。お前、脳みその中身はどうなってるんだ? 恐怖心がないのか、それともただのイカれた面食いなのか、俺にはさっぱり分からない」

光太郎「俺おかしいって事ですか?」

 

早川アキ

「……おかしいよ。お前が自分で気づいてないなら、それが一番重症だ。昨日、俺が何て言ったか覚えてるか? 悪魔への強い『憎しみ』や『執念』がない奴はすぐに死ぬ、心がすり潰されるって言ったよな」

アキは腕を組み、光太郎をジロリとにらみつける。

早川アキ

「お前にはそれがない。なのに、襲ってきた魔人を躊躇なくレンガで叩き潰して、その後の感想が服の汚れと女の顔の話だ。普通はそんな極端な切り替えはできない。」

アキは深くため息をついて

 

アキは立ち上がり、キッチンへ戻りながら最後に振り返った。

早川アキ

「……まあ、美人が相手なら殺されてもいい、なんてトチ狂った真似をして本当に死ぬなよ。お前がいくら頑丈でも、マキマさんに迷惑をかけるようなことだけは絶対に許さないからな。……ほら、飯にするぞ。手伝え」

みんなで準備をしての数十分後

晩御飯を食べ終わり

光太郎「あ!母さんに電話してないアキさん母さんに電話していいですか?」

アキ「ああ...電話はキッチンの奥だ」

光太郎「はーい!」

光太郎は電話をかける

そして

母(日之榎 ひのか)「はい......石河です」

光太郎「あ!母さ〜んジブンちゃんとやれてるよ悪魔倒した悪魔って言うか魔人」

 

受話器の向こうから、少し雑音の混じった、しかし聞き慣れた温かい母親の小さな悲鳴が聞こえてきた。

母・日之榎「えっ!? 光太郎!? ちょっと、もう悪魔をやったって……戦ったの!? け、怪我は!? どこか痛むところはないの!?」

日之榎の声は一瞬でパニックになり、受話器を両手で握りしめているのが伝わってくるような勢いでまくしたててくる。

母・日之榎「もう……やっぱり東京は怖いわ。初日から悪魔が出るなんて。お土産なんていいから、本当に危ないと思ったらすぐ逃げるのよ? 体が丈夫だからって、無茶しちゃダメ。お母さん、ニュースを見るたびに心臓がバクバク言ってるんだから……」

少しトーンが落ち、受話器越しに日之榎の心底心配そうな、ホッとしたような溜息が漏れる。

母・日之榎「……でも、元気そうでよかったわ。ちゃんとご飯は食べてるの? 泊まる場所はあった?」

リビングでは、アキが静かに湯呑みを片付けながら、キッチンの奥の光太郎の様子を盗み見ていた。デンジとパワーはテレビのクイズ番組に夢中で、「バカ!答えはこれに決まっておろう!」「違えよパワー、こっちだろ!」と相変わらず騒いでいる。

母親の必死な、そして光太郎の「中身の狂気」を何も知らない、ただただ息子を想う優しい声が、受話器を通じて光太郎の耳に響いていた。

光太郎「優しい先輩が泊めてくれたよありがたい」

 

母・日之榎「えっ、先輩が? ……まぁ、優しい人がいてよかったねぇ。」

受話器の向こうで、日之榎が心底ホッとしたように息を吐く気配がした。

母・日之榎「ちゃんとその先輩に、お礼は言うのよ? あと、お邪魔させてもらってるんだから、お部屋を散らかしたり、迷惑かけちゃダメだからね。光太郎はちょっと抜けてるところがあるんだから……」

その時、リビングのキッチンカウンター越しに、アキが腕を組んだまま、じっと光太郎の背中を見つめていた。その表情はいつものように険しいが、光太郎が母親と話している温かい空気に対しては、少しだけ複雑そうな、寂しげな色も混ざっている。

母・日之榎「……ふふ、でも安心したわ。新しい場所でも、ちゃんと周りの人に恵まれてるみたいで。……光太郎、とにかく怪我だけはしないでね。お母さん、いつでも連絡待ってるから」

光太郎「うん母さん大好きI LOVE YOU Good night!!」

 

母・日之榎「ふふ、もう、急に何言ってるの恥ずかしいねぇ。……はいはい、お母さんも大好きよ。しっかりね。Good night」

受話器の向こうで母親が嬉しそうに、少し照れたように笑う声がして、プツッと通話が切れた。

光太郎が受話器を置くと、いつの間にかキッチンカウンターのところに立っていた早川アキが、腕を組んだまま冷ややかな、だけどどこか呆れたような視線を向けていた。

早川アキ「……大好きだのI LOVE YOUだの、よく母親相手にそんな恥ずかしいセリフが平然と言えるな」

アキはそう言ってフンと鼻で息を鳴らしたが、その目には先ほどまでのピリピリした怒気はもうなかった。ただの「過保護な母親と、呑気な息子」の会話を聞かされて、毒気を抜かれたような顔をしている。

早川アキ「まあ……お前の母親が、お前のその『中身』を知らないままでいられるように、死なない程度にやれ。怪我をして母親を泣かせるなよ。……さっさと風呂に入って寝ろ。明日は朝が早いぞ」

デンジ「おーい光太郎! 風呂入るなら先に入れよ! パワーの奴がまた風呂入んねえとか言ってゴネてっからよぉ!」

リビングからは、相変わらず騒がしいデンジとパワーの声が響いてくる。アキの家での二日目の夜が、ゆっくりと更けていった。

 

 

 




CABRIELL ARZATE (カブリエル アルザト)です。
次の話を出す時も量が1万字~2万字後半にいくかもしれません。
よろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。