「あ~、苦戦しちゃってるねぇ。里穂君」
黒のISと戦う里穂を束は一人暗い部屋で見ていた。
すると、束にいきなり通信が入ってきた。普通はこんなことが有り得ないのだが、最近は色々と予想外のことが起きている為、驚きはしなかった。
『あー、聞こえてますか?』
「・・・何?いきなりレディの楽しみを邪魔するなんて、紳士がやることじゃないと思うんだけど?」
『いやぁ、すみませんね。こちらも目的があるもので・・・それでですね、今あなたが見ている黒いIS。それは、こちら側のISでしてね。どう思いますか?』
「・・・・・・」
束は今一度そのISを見た。
「まぁ、強いんじゃないの?」
『そうですか。それは良かった。なら、単刀直入に言います。こちらの陣営に加わってもらえませんか?』
「いや」
『即答ですね』
「分かんないかなぁ?私が即答した理由?」
『さぁ・・・』
「ふぅん・・・まぁ、あんたたちの目標が何であれ、あの傭兵君はそう簡単には死なないから」
『なるほど・・・まぁ、楽しみにしておきますよ』
「・・・・一つ、あんたたちの名は?」
沈黙の後、こう返ってきた。
『博士、僕は人間に可能性など存在しないと思っている。その為ならなんだってやろう。名乗るが遅れた。僕は財団。人間の可能性を否定する者だよ』
『はぁぁぁぁっ!』
ブルーティアーズから放たれた四基のビットが黒のISを射撃するが、ISは距離を詰めて四つ中二つのビットを撃墜した。
『なっ!』
ビットに気を取られているうちに俺が背後から右に持っている刀で斬りつけようとした瞬間、黒のISがこちらに反応して振り返った。
『死ねっ!』
奴は思いっ切り俺の右腕を蹴り飛ばした。
ゴキンッ!
と、嫌な音がする。刀など持てる訳がなく、刀はそのまま地に向かって落ちていった。
「くぅぅぅぅうぉぉぉぉぉ!!」
そんなことは構いもせずに俺は左手に持っているマシンガンを撃ちながら後退する。しかし、奴は俺に向かって追撃をかけるべくパルスマシンガンを構える。
ダメだ・・・やられる。また・・俺は・・・。
『やらせねぇ!』
そんな声とともに黒のISが俺の前から離脱した。見れば、一夏の白式が荷電粒子砲を撃ちなら接近して来ていた。
その後に続いてデュノアやボーデヴィッヒの姿が見える。
「おおおおお!」
『ふんっ!』
接近してきた一夏を黒のISは蹴りを一撃入れる。一夏は一度、地上まで落ちるが直ぐに態勢を整えた。
『なるほど・・・それなりの力はあるということか。だが、お前には失望させてもらったようだ。例外・・・その程度だったとは』
『待て!お前は一体何なんだ!』
一夏がそう叫ぶが、黒のISはアリーナ上空へと上がって行き、自ら空けた穴から飛び去っていった。
最後にこう、
『器が知れたな・・』
そんなことを言った。
「あいつは一体何だったんだ?」
そう言いながら一夏が近づいてきて、手を伸ばしてきた。
一夏は眩しくて、意志が強くて、引けをとらなかった。多分最初からここにいるのが俺じゃなくて一夏なら、勝っていたのかもしれない。
俺は負けた。
負けは同時に死を意味する。今まで負けを知らなかった俺はショックのあまり一夏の差し出した手を握ることは出来なかった。
『はいはーい、こちら束さんだよぉ!』
「久しぶりになる、篠ノ之束」
『うんうん!超久しぶりだね!』
保健室で寝ていると誰かから電話が来た。出てみるとあのウサ耳女であった。彼女はいつもに増して元気そうだった。
『それで、今日電話したのはあの黒いISのことなんだよ!』
「だと思った」
『まぁ、結果はどうであれ里穂君は皆を守ったんだよ?それは誇っていいことじゃないかな?』
「負けるとは死ぬことだ」
『そんなに固くならなくてもいいと思うんだけどなぁ・・・いっくんや箒ちゃんもいるんだし!』
「一夏か・・・」
正直、あいつが何を考えているのか分からない。まだ二日しか経っていない今、一体俺が一夏の何を知っているというのだろうか。
いや、何も知らない。
俺はあいつの何も知らないんだ。
『まっ、兎に角こっちであいつらの素性を調べてみるから。里穂君はそっちで楽しんでーー!折角の高校生活なんだから、もっと楽しまないとダメだよぉ!』
「と、言われてもな・・・学校なんて来たこともないのに」
『えっ、そうなの!?』
「ああ、俺の世界じゃ学校なんてないからな」
『そう言われるとちょっとショック・・・って、そうならもっと楽しまないと!時間は有限だからね!だから、取り敢えず自分の思う通りに頑張りなよ!』
「・・・そうだな。ありがとう」
『いえいえ、どう致しまして!それじゃっ、じゃーーねーーー!』
そう一方的に電話を切られた。電子音しか聞こえない携帯をポケットに戻すと、俺は天井を見上げた。
あれから数時間経つというのに誰も訪問はして来ない。
「折角命張って助けたんだから、誰かお礼にでも来てくれても罰は当たらないと思うんだがな」
ちょっと強がるように俺はそう言った。
それから更に数時間すると織斑先生が今回のことの詳細を聞きに来た。
「お前も大変だな」
「いえいえ、一夏ほどじゃありませんよ」
「ぷっ・・面白いことを言うな」
一日一夏と一緒にいたが、あの女どもの獰猛は少しばかり異常だと考えた方がいい。
それに同意したのか織斑先生は少し笑う。
「まっ、それにしても右腕が骨折した程度でよかった。これなら数日で治るだろう。だが、ISでの全力戦闘は当分は避けろよ?」
「りょーかいです」
「それよりも、あのISのことは何か知らないのか?」
「いや・・・さっき、篠ノ之束から連絡があって、こっちで調べるって・・・まぁ、あのウサ耳が言うのなら任せた方がいいですよ」
篠ノ之束は恐ろしい程強い。だからこそ、俺たちがそれに参加したりしてしまえば彼女の邪魔者成りかねない。
余計なことはせず、任せればいいのだ。
「そうか・・・それもそうだな。束なら、直ぐに奴の正体も暴いてくれるだろう。なら、私たちは少しばかりぬるま湯にでも浸って気楽過ごそう」
・・・?
俺は織斑先生が言っていることの意味が分からなくて首を傾げた。俺が理解出来ていないのが伝わったのか彼女はこう答えた。
「束からの紹介だと思ってみればその通り。大方、護衛としてここに来たようだが、お前も私の生徒だ。生徒なら、もう少し高校生らしくしてみろ。ふむ、例えば恋とか、してみたらどうだ?私としては、愚弟のうちの一人でも引き取ってもらえると嬉しいだがな・・・毎回毎回、うるさくて集中出来ん」
などと愚痴っぽく言った。
「それで、どうなんだ?どうせ、束にも青春を謳歌しろだの言われたんだろ?」
「ま、まぁ・・・」
「なら、気を抜け。これは教師からの説教だ」
それだけ言い残すと、織斑先生は保険室から出て行った。一人残された俺は、
「まぁ・・・それもいいかもな」
と、ポツリと呟くのであった。
「ようっ、どうだ?調子の方は?」
そう言いながら保険室に入ってきたのはイケメン一夏であった。当然、その後ろにには何人かの女の影が見える。
「右腕が骨折した程度で済んで良かったぞ」
「ったく、無茶しやがって」
「一夏、お前が里穂ならそうしていただろ?」
箒が一夏にそう言うと、一夏は二、三秒唸ると「確かに」と言った。
「それにしても、あれだけ派手に攻撃を受けて右腕一本だけとは、中々やるな」
ボーデヴィッヒはそう俺に言った。
「確かに、あの黒いISは厄介そうね」
「うん、僕もそう思う。絶対に勝てる自信は持てないよね」
凰とデュノアが続いてそう言った。
「俺の記憶が確かなら、福音の時、俺が援護しに向かっている途中にあれと同じようなISを見たんだ。当然、交戦に入ったが向こうは直ぐに撤退した」
「そうなの?」
「ああ、あの時の仲間かどうか分からん。だが、そっちは篠ノ之束が動いているらしく、俺たちが心配するようなことじゃないと思う」
「姉さんがっ!」
「束さんがっ・・・そうだったのか。なら、この件は束さんに一任した方が良さそうだな」
うむ、同意だ。
その後、軽く雑談をすると一夏たちは帰っていった。一人残された俺は今日は保健室で止まらなければならないらしく、このまま寝ようとしていた。
保健室に差し込む夕日は格別で、さっきまでの激戦を忘れてしまうかのようだった。
『あなたは、恐ろしい人ね。何もかも焼き尽くす・・・真っ黒に』
フラン、俺にはもうああするしかなかった。結末なんてものは見えちゃいない。だから、俺は決めたんだ。
この世界で生きる。例え、黒い鳥になろうと。
「あら、まだ起きてらしたの?」
「ん?オルコット嬢ではないか」
そんな夕日に向かって考えごとをしているとオルコットが話しかけてきた。
「箒さんのこと、話は聞きました」
「ああ、そうか・・そりゃ良かった」
「その・・・」
なんだかモジモジしているオルコットを見ると、何か言いたそうだが言えない。そんなような空気を感じ取る。
ああ、そうか。
こつも、こいつなりに思うことがあったんだろう。
「わたくし、男性に対してはやはり偏見と誤解が多々あったようですわ。一夏さんの時に克服しようと、この考えを改めようとしたのですが、少々暴走してしまいました」
今の時代はそんな女ばかりだな。男を偏見と思い込みでしか見ていない。
「んなこと言うなよ。お前は親友が泣かされたと思ったから動いたんだろ?なら、それは立派なことじゃないか」
「そうですの?」
「ああ、そうだ。まぁ、話を最後まで聞かなかったことは反省すべき点だ」
「うう・・・」
まぁ、そんなオルコットを見ていれば反省しているのはよく分かる。彼女も恥を忍んで来たということは、反省はして来たということなのだ。
俺としてはこのようなことがなければそれでいい。
「お前の言いたいことはよく分かった。男をそういう目で見ないようにするにしても、あまりヘコヘコしてちゃ相手に舐められる。お前はいつも通りでいい」
「本当ですの?」
「うむ」
そう言うとオルコットは少し笑って俺に一礼をした。そして、振り返って保健室に出入り口まで行くと「それでは、ご機嫌よう」と、まるでどこかの貴族かのように振舞って
歩いて行ったのだ。
これで、彼女らと少しは仲良く出来たのだろうか。そう思ってみたが、経った二日程度で信用など普通は取れない。
「気楽にいこう・・気楽に」
そう言いながら俺は誰か来る前に瞼をゆっくりと閉じるのであった。