「やぁぁぁぁぁぁぁっ!」
打鉄弐式の荷電粒子砲が紅椿に直撃した。
「っ!」
箒は一旦一夏と距離を空けてる。一夏の元へ簪が合流する。簪の表情は晴れやかなもので、初戦闘で相手を打ち負かした。更に最初に大口をたたいた女の男を倒したということに喜んでいた。
簪が一夏と合流したことは何を意味するのかと箒は考える。直ぐに答えは出た。
「里穂!」
遠く離れた場所に紅蓮が倒れている。紅蓮は起き上がろうとしない。まだ、ほんの少しシールドエネルギーが残っているが、あんなものは負けと同然だ。その為、簪も一夏と合流したのだろう。
「箒、悪いが里穂は簪が倒したぞ」
「・・・驚いたこともあったけど、大したことはなかった」
「っ!」
向かってくる一夏と簪に邪魔をされて里穂の元へいけない。自分一人でもこの二人を倒さねば。
そう思って箒は飛翔する。
「まだだ!まだ里穂は負けてない!」
「いや、簪に倒されたんだ!」
箒と一夏の刃が交じりあった。
ん・・・?
目を覚ますとそこには懐かしい景色が広がっていた。
無機質な建物が立ち並んでいる。雨も降っており、太陽の光が差し込む余地はない。海も濁っており、海水浴などありえない。
「ここは・・・」
シティの海岸区。ここで俺は警備隊長と戦った。
「何故ここに・・・」
ACや他の戦闘兵器や、誰の姿も見えない。
『・・・・・・・・』
「お前は・・・」
そこに一人の少女が立っていた。
『ここはあなたの記憶の中』
「・・・・・・」
濃い赤のワンピースのドレスを着ている。表情まではよく見えない。
『あなたは・・・何がしたいんですか?』
「・・俺は・・・」
何がしたいのだろうか。俺は。篠ノ之束に依頼されて、織斑一夏と篠ノ之箒を護衛する。そう答えればいいのだが、口からそんなことが言われることはなかった。
『逃げればいいのですよ。怖くなれば逃げればいい、死にたくなければ逃げればいい。命が惜しいなら逃げればいい。それが、人間という生き物なのだと思います』
そう笑いながら言った。
「・・・・・いいのだろうか・・・」
『いいんですよ』
「ムカつく生徒会長の責任とやらも、篠ノ之束と交わした約束も・・」
『投げ出せばあなたは救われます。逃げれば、多くの人間に迷惑がかかります。ですが、あなたは救われます』
「・・・・・・・」
そういうことなのか。
『今まで、たくさん頑張ってきたのではありませんか?ボロボロになるまで戦わされて、いやではなかったんじゃないんですか?』
「・・・・・・・」
『逃げずに戦うことは勇敢なことだと思います。ですが、時には逃げることも大切なのではありませんか?』
「そうか・・・逃げればいいんだ・・・俺は」
そうだ。誰だって逃げたい。周りには逃げるなという。だが、そんなの強者の言うことだ。弱い奴は逃げればいい。戦いからさっさと逃れればいいんだ。
そうすればそれ以上傷つくこともなく、誰かを失う悲しい思いはしなくていいんだ。
逃げよう・・・・。
『俺はそうは思わん。戦いこそが人間の可能性なのかもしれん』
「・・・・・・・」
不意にそんな言葉を思い出した。主任が俺に言った言葉。
「戦いこそが人間の可能性か・・・」
『勝つためには誰かが負ければいい。俺以外の誰かがっ!』
『いずれ答えは出るはずです。もしも、貴方のような『例外』が存在するというのなら』
『やれることをやりましょう。そうすれば勝てます、必ず』
『私はもう嫌なの。誰かの思惑で生きるなんてさ。だから、足掻くだけ。やりたいことをやるだけよ』
『・・・不思議ですね、根拠のないことなど、あなたにもわかっているはずなのに』
『我々は残されたのだ、この汚された世界に』
『証明してみせよう。貴様になら、それが出来るはずだ』
かつての仲間や敵の声が俺を呼び求めるかのように聞こえてきた。忘れる訳がない。
少女は俺を真っ直ぐ見ている。
「・・・悪いな。案外、俺はしぶとくてな。逃げるっていう選択肢もいいのかもしれん。だけど・・・・」
逃げることはいつでも出来る。けど、俺は確かにフランやレオン、レジスタンスの為に戦った。
だから今度は俺は篠ノ之束・・・・。
『里穂は思った以上にやる男だ』
不意に箒の顔が目に映る。俺がこうしている間にも彼女は一人で戦っているのだろう。ここ数日で俺はきっと箒のことが好きになってしまっていた。
この思いがどれだけのものかなのかは分からない。けど、それでも俺がレジスタンスの為に戦ったように俺は箒の為に戦いたいと思った。
どれだけ彼女に支えられていたのかよく分かった。
「だけど、今はまだ逃げる訳にはいかないんだ」
『それは、あなたを苦しめることになりますよ?』
「はっ、上等だ。主任が俺を認めたなら、俺が最後まで証明しないとな。それに、今は・・俺を信じてくれる人がいる。そいつの為になら俺は何でも頑張れるよ」
すると、少女は、
『ふ・・・・どうやら、私の思い違いだったようですね。私が思った以上にあなたはとんでもない人だ』
「お褒めにいただき光栄だ。さっ、行こうぜ、紅蓮。お姫様を助けに」
表情は見えない。だけど、彼女が一瞬笑ったように俺は感じた。
「ぐ・・がぁぁぁぁっ!」
ミサイルを多数受けて箒は後退する。一夏だけならまだしも、そこに簪が加わることによって流石の箒でも勝つことは難しかった。
絢爛舞踏を発動しようにもどうにも力が出ない。それよりも、彼女の頭の中では返事しない里穂の方が心配だった。
「里穂・・・!」
箒は再度二人に突撃していく。
簪が箒を中距離から攻撃して動きを妨げ、隙をついて一夏が箒に斬りかかる。箒は一夏を蹴飛ばし、先に簪を攻撃しようとするが雪羅の荷電粒子砲が高速で移動する紅椿を偶然にも捉えた。
「ぐっ!これもあの生徒会長との訓練のおかげというわけか」
「ああ!楯無さんのおかげで射撃も正確に撃てるようになってきたぜ!」
一夏はラッシュとばかりに箒に斬りかかった。
「うぉぉぉぉぉっ!」
「あああっ!」
箒はギリギリ刀をクロスさせて受け切るが、咄嗟に防御したのでそのまま地面に叩きつけられた。
「ぐ・・あ・・・・」
箒の目の前に一夏が着地する。
「箒、俺たちの勝ちだ。諦めて負けを認めろ」
「くっ・・・誰が」
そんな強がり箒は言うが実際彼女自身も勝目がないことは分かっていた。相方の返事はなく、エネルギーも残り少ない。更に向こうは数段連携精度がいい。
だが、向こうは自分のパートナーである里穂を馬鹿にしたのだ。
(私はこの戦いを里穂の為に戦う。あいつは最近ずっとそうだ。一人で悩んで、私が言ったとしても心に届いていないのかいつも虚ろな目をしている。だから、私はこの戦いで里穂と組めた時から決めた。私は里穂の為に戦う!!)
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ガキンッ!
一夏の刃を弾き、箒は立ち上がった。一夏はそれに驚いた。箒はかなりのダメージを受けているくせにまさか立ち上がるとは。
「流石は箒だな。まだやるなんて・・・」
「だけど、私たちの勝ちは揺るぎない。あなたは一人、私たちは二人」
「そうだ、箒。降参するなら今のうちだぞ」
一夏とてこれ以上は無駄に戦いたくないと思っていた。それは幼馴染だから、というのもあるかもしれない。
一夏と簪にはそれなりにまだシールドエネルギーに余裕はある。しかし、箒にはこれ以上戦う力は残っていない。
刀を松葉杖のように使って前に進む。
その姿はとてもじゃないが見ていられなかった。
「箒!やめろ!これ以上は・・・」
一夏は箒のことを思ってそう叫んだ。
「あなたには勝ち目がない」
簪は勝ち誇ったようにそう言う。だが、箒は左手の刀で体を支えると右手の刀を一夏たちに向けて言った。
「っ!」
その力強い瞳に簪は一瞬驚く。
「私はなぁ・・一夏、更識。怒っているんだ。偶然にも、この前生徒会長と里穂の会話を聴いてな。それだけじゃない。里穂が何を恐れているのか・・・どうして・・あんにも、あんなにも哀しそうな顔をするのか」
一夏と簪はその言葉に動けない。いや、箒が動くことを許さなかった。
「だからな、私はこの戦いを里穂の為に戦う。諦めない・・なんて、言葉は言わない。だけど、里穂が起きるまでの時間稼ぎぐらい・・私でも出来る!」
すると、簪が焦るように言う。
「で、でも・・あなたの相方は・・」
チラリと簪は里穂を見るが動く気配すらない。それを確認すると今度は強気で言った。
「もうあなたたちは負けたの!」
しかし、箒は不敵に笑う。
「そうか・・やはり、お前たちにはあれが負けているように見えるのか。里穂はダークホースで間違いなかったな。だが、お前たちは少々里穂を甘く見すぎだ」
「なら、箒。お前はここで沈んでもらう!」
やっと一夏の中で箒を徹底的に倒す決意が出来た。
「簪っ!」
「うん・・・発射!!」
打鉄弐式に搭載されているマルチオンロックミサイル、山嵐が発射された。四十八のミサイルが箒へと飛んでいく。
箒は刀を構える。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
そんな箒の唸り声を遮るように爆音が響き、その姿を掻き消すかのようにオレンジ色の爆発が辺りを包んだ。
「箒!」
一夏は勝利を確信したこととともに箒の安全を確かめる為に叫んだ。
後ろの簪も箒の身が大丈夫なのかと一瞬思ったが、どちらかというと勝利した喜びの方に心がいってしまった。
黒煙が晴れ、爆発でえぐられた地面が見える。
が、そこにいるはずの箒の姿が見えなかった。
「い、いない!?」
箒がいた場所よりもう二、三十メートルは後ろに一機のISが背中を向けて立っていた。そのボディは決して完全ではなく、大きなダメージを受けたことを物語っている。
そのISの腕にはISを強制解除した黒髪の少女がいた。ポニーテールを保っていたその髪型はリボンが燃えたことによりただのストレートに戻ってしまった。
「あーあ、折角のポニーテールが・・まぁ、箒はこっちでも可愛いしな」
意識を失っているのか箒は何も喋らない。そのISは箒を一旦出てきた救命班に預けると一夏と簪の前にやって来た。
彼のISには先ほどからシールドエネルギーが残り少ないことを表している警告音が鳴っている。だが、そんなことは関係なしに彼は武装を展開した。
銃ではなく、剣だ。
両腕の甲に小さなブロック状のものがあり、そこから短い近接ブレードが飛び出ている。
ムラクモ実体剣
「難しく考える必要はない・・・さぁ、来いよ!こっから先は俺の番だ!」
そこには両腕に近接ブレードを装備した紅のIS。倒れたはずの日下部里穂が立っていた。
ちょっと、箒がイケメンですね。
ごめんなさい、主人公の戦闘までいけませんでした。
次回は一夏&簪VS主人公という形になりますが・・どうなることやら。
次回もよろしくお願いします!