紅に吠える傭兵   作:青野

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誤解

 

 

 

「どうです?」

『なるほど・・・今のところは』

 

 男は一人、暗闇の中で福音と戦う紅の機体を見ながらそう言った。

 

『お前たちはどう思う?』

『J、奴は確かに強かったが・・・候補者に入れるかどうか悩む』

 

 直に戦闘をしたDが言った。姿は見えない。それは、彼らが肉体を持たないことを指していた。

 彼らは『ファンタズマ・ビーイング』という計画で生み出された、人間の意識を電子化してISに組み込んだ物であり、肉体を持たない。

 封印されていたのだが、それをこの男、財団が解放したのだ。財団にはある目標があった。

 つまり、彼らにそれを手伝わせていることになる。

 

「もっとデータが欲しいですね・・・」

『なら、誰か行くか?』

『では・・・俺が行こう』

 

 そう言ったのはNだった。彼らにはリーダーを勤めるJを始めとする、K、D、N、そして唯一肉体を持つM。この五人によって構成されていた。

 

「では・・頼みました」

 

 彼らは幾多の戦場を駆け回り、いつしかこう呼ばれるようになっていた。

 

 

 

 

『死神部隊』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、里穂。いるのか?」

 

 コンコンとドアを叩く音と一夏が俺を呼ぶ声がして来た。

 

「ああ、どうかしたのか?」

 

 ドアを開けて一夏の姿を確認する。彼は制服から着替えて私服状態だった。

 

「おう、飯を一緒に行こうかなと」

「そう言えば俺もまだだったな・・・・」

 

 と、廊下に出ようとするのだが一夏の後ろに五人の女がいた。いつも同じようなメンバーで食事を取っているのか、五人ともあたかも当然のような顔で俺たちのやり取りを聞いている。

 

「いいのか?俺が入れば素敵なレディたちがヤキモチ妬くぞ」

「?」

「・・・・はぁ、いいよ。もう行こう」

 

 そう言って俺は制服姿のままで一夏の隣につく。

 

「あれ、シャワー浴びなかったのか?」

「ああ、それよりも他にちょっとやることがあったからな」

 

 食堂へ向かって歩く。

 

「なぁ、明日は俺と模擬戦やろうぜ」

 

 まだ一夏の熱は冷めないのか、彼は俺にそう言った。

 

「ああ、別に問題はない・・・と、言いたいところなのだが。何やら後ろからの殺気が凄いんだが?」

「一夏さん!明日はわたくしと模擬戦の筈ではありませんの!?」

「ああっ・・・すまん、セシリア。忘れていた!」

「もうっ!」

 

 どうやら一夏はオルコットと約束があったのだが、それを忘れて俺に模擬戦を挑んできたという訳らしい。

 

「ということだ、一夏。模擬戦はまたの機会で」

「おお、分かった。けど、絶対模擬戦するからなっ!」

「分かってるよ」

 

 食堂に到着すると一夏たちはテーブルに座り食事を始めたのだが、どうやら俺が入るスペースはなさそうだったので、大人しく違うテーブルに移動する。

 

「おーい、里穂。こっちにくればいいのに」

「いいんだよ、俺はこっちで」

 

 一夏は?マークを頭の上に出したが無視して俺はこちらの世界に来て気に入った唐揚げを食べ始めた。

 うう・・まさか鳥が食えるなんて。思ってもいなかった。

 

「唐揚げが好きなのか?」

 

 夢中になって食べていたせいか、向かい側に誰かが座ったことに気がついていなかった。即座に箸を置いて向かい側の人物を確認した。

 

「箒か、どうかしたのか?お前は一夏の元へ行かなくて」

「あ、いや・・・いいんだ。少し話を聞きたくてな」

 

 箒は真剣な表情で俺を見つめた。

 ああ、そうだよな。聞きたいことはたくさんあるよな。

 

「福音は姉さんがやったのか?」

「イエスだ。これまでのお前らのことは全部聞かせてもらった」

 

 そう、織斑千冬、篠ノ之束の二名によって俺はこれまでのIS学園でのことを全て聞いた。

 

「お前は一夏のことが好きだ。だが、一夏の周りには次々と女が来る。しかも、専用機持ちが。一夏の隣にいたいなら強くならないとダメだ。だが、訓練機と専用機ではそのスペックが違い過ぎて話にならない。そこで、お前は自分の姉に自分にも専用機を作ってくれと頼んだ」

 

 一夏の隣にいるなら強くなければならない。

 

「自分のことを溺愛しているのなら、そのぐらい容易だよ。まぁ、実際それを作っている場面は何度か見たことがあるが、凄い勢いだったな。よっぽど、お前のことが好きだったんだろう」

 

 そう言うと箒はかなり驚いた表情をしていた。

 

「なっ・・そんなことまで知っていたのか」

「半分は予想だけどな。まぁ、今のお前たちを見て確信出来たよ」

「そう・・か。それで・・私のせいだったのか。やはり」

「・・・・・・・」

 

 福音で一夏が傷ついた。それは確かに箒のミスだ。だが、それは篠ノ之束が箒をデビューさせるために福音を暴走させたのだ。そして、何故デビューすることになったのかというと、それは箒が篠ノ之束に一夏の隣にいたいが為に紅椿を頼んだ。

 元凶を辿れば箒の嫉妬がこの間の事件を引き起こしてしまった。

 

 今、彼女はそのことを言っているのかもしれない。

 

「あの頃、私はかなり焦っていた。久しぶりに再会した思い人が次々に女を惚れさせて・・・確かにこの環境というものがあったから。それは仕方ないことだと思っていた。それでも、私は好きだった」

 

 俺にしか聞こえない声で箒はそう言い始めた。

 

「ダメだな・・私は」

「そんなことない・・・なんて、ことは俺は言わない」

「・・・・・」

 

 そう言えばきっと箒はまた同じ過ちを犯すかもしれない。

 

「恋は盲目って言うだろ?だから、それが分かってからと言って一夏はお前を責めないし、俺も責めない。悔やむ時間があるなら、今あるものを見つめろ。そして、精進しろ」

「・・・そうか」

 

 ポツリと箒が呟いた。

 彼女自身、ここに至るまで様々な葛藤や気持ちの揺れがあったのだろう。

 俺はそのことについて深く関わってはいなので、これ以上何も言える立場ではない。けど、それでも俺はこの恩人の妹には幸せになって欲しいと思った。

 

「篠ノ之束から箒、お前のことは聞いている。もし、一夏や他の誰かに言えず悩むことがあったら俺を頼れ」

「姉さんが・・・」

「お前の姉は優秀だよ。だからこそ、欠点がある。いつの日か、お前が支えてやればいい」

 

 箒も姉に対して思うことがあるのだが、一旦は置いていて三年間気ままに楽しもう。

 

「そうだな・・・うぐ・・・え・・ぐ・・ううう・・・・」

 

 ん?

 見れば箒がポタポタと涙を流して味噌汁の中に自分の涙が入っていく。

「おいおい、そんなのじゃますますしょっぱくなるぜ」と、言う状況じゃないよな。

 

「あー!日下部君が篠ノ之さん泣かしてる!」

「えっ!?嘘っ!」

「ほらほら、絶対泣いてるよ!」

「うわ・・・ちょっと、日下部君何言ったんだろう」

「けど、女を男を泣かすなんてサイテー」

 

 お前らタイミングバッチリじゃないか。

 

「おい、箒。ちょっと、泣き止め」

「だって、姉さんが・・姉さんが・・」

「その姉さんに頼まれて来た俺が今後ここでの生活に支障をきたすようなことを今お前はしているんだがな?」

「おい!どうした箒!」

 

 周囲の異変に気づいた一夏がこちらにやって来た。

 うわぁ・・・更にめんどくさい状況になって来たぞ。たった少しの時間だが、一夏は少し誤解を生みやすい存在だと分かった。

 慎重に物事を運べばおかしな方向に傾かないだろう。

 

「大丈夫か、箒?」

「うぐ・・・うう・・・・」

 

 彼女は今現在自分の中の姉へ対する思いと葛藤中のようで周りの声なんてまるで聞いていない。

 

「なぁ、どうしたんだ?」

「さぁな?俺にもよく分からんのだが、少し箒の姉のことについて話したらこうなったんだ」

「そうか・・・まぁ、箒は束さんと色々あるだろうから、あんまりこういった類の話は無しで頼む」

「そ、そうだな」

 

 俺と篠ノ之束の関係は一夏にも知らされていない。

 表向きはどっかの企業に属していることになり、テストパイロットという立場になっている。そう説明はしたし、織斑千冬によってもそう伝わっている筈。

 だから、俺の本当の立場。

 篠ノ之束から依頼されてここに来ていることを知っている人物は織斑千冬ぐらいだろうか。そして、今箒にも少し喋った。

 

「そうじゃなくて、ちゃんと言わなくちゃダメだろ」

「ん?何か言ったか?」

「何でもない」

 

 ボソッと俺が呟くと、金髪高飛車女がツカツカとこちらに歩いてきて俺を指差して言った。

 

「あ、あなた!紳士として淑女を泣かすなんてありえませんわ!」

「それを聞いていると、男は女が何か罪を犯せばそれを咎められない立場にいることになるのだが、それでもいいのか?」

「そ、そこまでは言ってませんわ。兎に角!我が戦友である箒さんを泣かしたあなたを許せません!」

 

 おいおい、なんでこんなことになるんだよ。一夏はちゃんと話せば分かってくれたのにこいつの中ではドンドン話がヒートアップしていっているじゃないか。

 

「決闘ですわ!」

 

 こうなるのか。

 

「あなたも専用機持ちなのであれば、逃げる。なんて無粋な真似はしませんわよね?」

「・・・・・ああ、いいぜ。勝つのは俺だ」

「あら、随分と威勢のいいことで。そのお顔が泣き顔になることを楽しみにしています。明日の放課後、第四アリーナで」

 

 そう言うとオルコットはクルッと振り返って食堂から出て行った。すると、ヒソヒソと周囲から話声が聞こえてきた。

 

「何あれ、セシリア相手に勝利宣言なんて」

「なんか、日下部君って少し調子に乗ってる感凄いよね」

「うん、なんか篠ノ之さん泣かした時もなんか偉そうに説教臭いこと言ってたような」

 

 うう、何なんだよ!

 見れば女子たちは箒を慰めながら何処かに連れ去っていく。一夏も箒と一緒に消えてしまった。

 一人ポツンと食堂に残った俺はこのたった一分足らずのこの助教に対して、ただうなだれるしかなかった。

 

 

 

 




次回もよろしくお願いします。
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