異世界転生したのに前の転生者にやり尽くされていた件   作:berunarudo

23 / 30
第二十二話 朝日なき目覚め

 

 朝が来なかった。

 最初にそう思ったのは、目を開けた瞬間だった。

 いつもなら、窓の隙間から差し込む朝日が、まぶたの裏を薄く照らしてくれる。

 故郷の町にいた頃からそうだった。朝になれば、鳥が鳴き、母さんが台所に立つ音がして、ルーシーの寝ぼけた声が聞こえてくる。

 

 キャンウィング領の領主館でも、昨日までは似たようなものだった。

 使用人たちが廊下を歩く足音。庭の手入れをする音。遠くから聞こえる街のざわめき。魔導列車の低い汽笛。

 そういうものが、朝を教えてくれていた。

 だが、今日は違った。

 

 暗い。部屋の中が、夜のままだった。

 最初は、まだ深夜なのかと思った。

 寝たつもりになっていただけで、実はほとんど時間が経っていないのかもしれない。そう考えて、俺はベッドの上で身体を起こした。

 

 けれど、違う。

 身体には、確かに眠った感覚があった。

 頭の奥には、浅いながらも眠りから引き上げられた重さがある。

 腹も少し減っている。喉も乾いている。

 夜明け前、というには長く眠りすぎている。

 

 俺は窓へ近づいた。

 カーテンを開ける。

 外は、黒かった。

 

 星のない夜。月のない空。街の屋根も、庭園の木々も、領主館の白い壁も、すべてが薄い闇に沈んでいる。

 部屋の魔導灯が切れたとか、窓の向きが悪いとか、そういう問題ではなかった。

 街全体が、夜に閉じ込められている。

 

 

     ◇

 

 しばらくして、俺たちは領主館のロビーに集まった。

 

 そこにはすでに、レン、サラ、エリシア、マリー、ガードナーさん、そして師匠がいた。

 使用人たちも廊下の奥で不安そうに集まり、互いに小声で何かを話している。

 誰も、状況を理解できていなかった。

 

 時計は朝を示している。朝食の準備も始まっている。けれど窓の外は夜のまま。

 鳥は鳴かない。街のざわめきも、いつもより遠い。

 代わりに聞こえるのは、不安げな人々の声だった。

 

「おいおい、どうなってやがる」

 

 師匠が頭をかきながら呟いた。

 

「いつから一日の時間が変わったんだよ」

 

 軽口のように聞こえたが、その片目は笑っていなかった。

 昨日のスタンピードの話を思い出しているのだろう。師匠の視線は、何度も窓の外の闇へ向けられていた。

 

「ルーク、どうなってるんだ?」

 

 レンが目をこすりながら聞いてきた。

 眠そうな顔をしている。

 勇者になった翌日だというのに、いきなり朝が消えるとは、さすがのレンも理解が追いついていないらしい。

 

「俺にも分からない」

 

 俺は正直に答えた。

 

「ただ……なんだか、身体がムズムズする」

「ムズムズ?」

 

 レンは首を傾げた。

 

 俺は自分の腕を見下ろした。

 皮膚の下を、細かい虫が這っているような感覚。

 いや、虫というより、体内の魔想が落ち着かない感じだ。

 血の流れと一緒に巡っている魔想が、外側から引っ張られているような感覚がある。

 

「分かる」

 

 ガードナーさんが眉をひそめた。

 

「私も少し、身体の内側がざわつくような感じがあります」

「私もです」

 

 マリーも小さく頷いた。

 使用人たちの何人かも、似たような反応をしていた。

 だが、レンとサラだけは違った。

 

「俺は特に何もないぞ」

「私も……少し不安だけど、身体がムズムズする感じはないかな」

 

 

 二人だけが、この異常な感覚を共有していない。

 それが何を意味しているのか、今の俺には分からなかった。

 ただ、偶然ではない気がした。

 

「気分悪いぜ、まったく」

 

 師匠が舌打ちをして、領主館の扉へ向かった。

 

「ここにいても解決しねぇ。ちょっくら調査してくる」

「俺も行くぞ!」

 

 レンがすぐに手を挙げた。

 

 だが、師匠は首を振った。

 

「こんな事態に、お前を連れていくかよ。大人しくしてろ」

「なんでだよ!」

「お前はトラブルメーカーなんだよ」

「おい、ルーク」

「え?」

「お前は来い」

「うぇー、なんでルークだけ!」

 

 レンが不満そうに声を上げる。

 

「こいつはお前と違ってお利口だからな」

 

 俺は苦笑しながら、師匠の後を追う。

 扉が閉まる直前、サラと目が合った。

 サラは少し不安そうな顔で、俺を見ていた。

 

「気をつけてね」

「ああ」

 

 俺は小さく頷いた。

 

     ◇

 

 領主館を出た瞬間、肌を撫でる空気の違和感がさらに強くなった。

 

「分かってんだろ、ルーク」

 

 師匠が前を歩きながら言った。

 

「テロなんでしょ」

「はぁ。嫌な予感はよく当たりやがる」

 

 師匠は苦々しげに呟いた。

 街へ出ると、人々はすでに外へ出始めていた。

 最初は、誰もが半信半疑だったのだろう。

 朝なのに暗い。時計は進んでいる。店を開ける時間のはずなのに、空には太陽がない。

 人々は空を見上げ、隣人と話し、騎士や兵士に説明を求めていた。

 

「どうなってやがる」

「おいおい、困るぜ。俺は朝が好きなんだよ」

「俺は夜の方が好きだぜ」

「ああん?」

「なんだよ」

「やめろ、お前ら!」

 

 小さな言い争いが起きかけ、騎士が慌てて止める。

 

 街はまだ暴動にはなっていない。だが、不安は確実に広がっていた。

 昨日、師匠が言っていたテロの危険性。それが、現実味を帯びていく。

 

「ルーク、お前は何か分かるか?」

 

 師匠に聞かれ、俺は首を振った。

 

「全身がムズムズする。でも、それ以上は分からない」

 

「だろうな」

 

 師匠は空を見上げた。

 

 黒い空。雲ではない。煙でもない。

 

「おそらくだが、これは結界じゃねぇ」

「結界じゃない?」

「ああ」

 

 師匠は歩きながら答える。

 

「結界ってのは、普通は閉じ込めるため、守るため、遮断するために使う。だが、こいつは違う。俺たちの行動を制限してねぇ。街の外にも出られる可能性が高い」

「じゃあ、何のために?」

「餌だ」

 

 俺は足を止めかけた。

 

「餌?」

「この闇は、俺たちの魔想を増幅している」

 

 師匠の声は低い。

 

「増幅度は人によって違うだろうがな。体内の魔想をざわつかせ、少しずつ外へ漏れやすくしている。街全体から漏れた魔想が、この空間に満ちていく」

「満ちたらどうなる?」

「昨日話しただろ」

 

 師匠は俺を見る。

 

「魔物は強い魔力に惹かれる」

 

 嫌な汗が背中を伝った。

 

「満たされた魔想に引き寄せられて、魔物がこの場所を狙う」

「スタンピード……」

「ああ」

 

 師匠は頷いた。

 

「じゃねぇと、こんな分かりやすい術を使う意味がない。俺たちを閉じ込めるわけでもなく、能力をむしろ増幅するようなテロなんぞ、普通ならあり得ねぇ」

「街そのものを餌場にしてるのか」

「そういうことだ」

 

 胸の奥が冷たくなった。

 この街にいる人々。みんなの魔想が、魔物を呼ぶ餌にされている。

 

     ◇

 

 俺たちはそのまま門の前まで向かった。

 騎士たちは混乱しながらも、なんとか人々を落ち着かせようとしていた。

 師匠は騎士に短く事情を説明し、俺たちは門の外へ出る。

 

 出られた。やはり、この術は街を閉じ込めているわけではない。

 街の外に出て、俺は思わず息を呑んだ。

 キャンウィング領だけが、黒い影に覆われていた。

 

 街の上空に、丸く歪な闇が浮かんでいる。

 その外側には、ちゃんと朝があった。

 遠くの空は薄く明るい。山の稜線には光が差している。

 森の向こうには、朝焼けの名残すら見える。

 なのに、キャンウィング領だけが夜に沈んでいる。

 

「これほどの術……」

 

 師匠が低く呟く。

 

「独想魔術か」

「師匠、なんだそれ?」

「魔術ってのは、基本的には式だ」

 

 師匠は闇を見上げたまま説明した。

 

「魔術回路があって、術式を覚えれば、同じ属性や系統の魔術は誰でも扱える。もちろん、向き不向きはあるけどな」

「魔術回路があれば、だろ」

「ああ」

 

 師匠は俺をちらりと見た。

 

「魔術回路がなけりゃ、そもそも入り口に立てねぇ」

 

 分かっている。

 それでも、その言葉は少しだけ胸に刺さった。

 

「だが、稀にいるんだ」

 

 師匠は続ける。

 

「特定の魔術と、自分の魔術回路の相性が良すぎるやつがな。そういうやつの魔術は、ただの汎用魔術から外れていく。本人の思想、執着、人生そのものが術式に混ざる」

「人生が混ざる……」

「そうして変質した、本人にしか使えない魔術。それが独想魔術だ」

 

 師匠の声は重かった。

 

「魔術師にとっては、到達点の一つだ。だが、厄介でもある。普通の魔術と違って対策が立てにくい。術者本人の価値観が術式になっているから、常識が通じねぇ」

 

 俺は黒い空を見上げた。

 これが誰かの思想や執着から生まれた魔術だとしたら。

 その術者は、いったい何を考えているのか。

 

「ルーク」

 

 師匠が俺の名を呼んだ。

 

「今回の相手は、わけが違う」

「……分かってる」

「分かってねぇ顔だな」

 

 師匠は俺の頭を軽く小突いた。

 

「いざって時は逃げろ」

 

 その声は、いつものふざけたものではなかった。

 

「昨日みたいに意地で突っ込むな。敵が独想魔術持ちなら、お前が想像してるよりずっと面倒だ」

「分かった」

 

 俺は頷くしかなかった。

 

     ◇

 

 領主館に戻ると、屋敷中の人間が慌ただしく動いていた。

 廊下を使用人が走り、メイドたちが水や布を運んでいる。

 空気が明らかに変わっていた。

 

「何があった!」

 

 師匠が近くのメイドに声をかける。

 メイドは顔を青くしながら答えた。

 

「お、奥様の容態が突然……!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺たちは駆け出した。

 案内された部屋に入ると、苦しそうな声が聞こえた。

 ベッドの上には、エリシアの母――アリシアさんが横たわっていた。

 顔は青白く、額には汗が浮かんでいる。胸が大きく上下し、呼吸は浅く荒い。

 

「お母様! 頑張ってください!」

 

 エリシアが必死に母の手を握っていた。

 その隣で、サラが両手をかざしている。

 白い光が、サラの手からアリシアさんの身体へ流れ込んでいた。

 だが、サラの顔は苦しそうだった。

 

「くっ……うう……!」

 

 光は確かに届いている。

 しかし、アリシアさんの身体の奥にある何かが、それを拒んでいるように見えた。

 正式に魔術を学んでいないサラには、あまりにも荷が重い。

 

「くそ、やべぇぞこれは」

 

 師匠も手をかざした。

 淡い回復魔術の光が、サラの光に重なる。

 それでも、アリシアさんの苦しみは消えなかった。

 俺は、何もできなかった。

 でも、俺には魔術回路がない。

 

「俺も!」

 

 レンがアリシアさんへ手をかざした。

 その瞬間、レンの手の甲の痣が光った。

 太陽のような、勇者の光。だが、次の瞬間。

 アリシアさんの身体から、黒い瘴気が噴き上がった。

 

「ぐわっ!」

 

 レンが吹き飛ばされる。

 サラも、師匠も、エリシアも、俺も、衝撃で後ろへ弾かれた。

 

 部屋の空気が一気に重くなる。

 黒い瘴気は、アリシアさんの身体から湧き続けていた。

 煙のようで、泥のようで、生き物のように蠢いている。

 

「お母様!」

 

 エリシアが立ち上がり、母へ駆け寄ろうとする。

 

「待て!」

 

 俺は反射的にエリシアの腕を掴んだ。

 

 瘴気に触れたら危険だ。

 そう思った。

 エリシアは俺を振りほどこうとする。

 

「離して! お母様が!」

「だめだ! 今近づいたらお前まで――」

「嫌! また失うなんて嫌!」

 

 その叫びに、俺は言葉を失った。

 また、その言葉が重かった。

 

「私は……」

 

 サラが、ゆっくりと立ち上がった。

 

 肩で息をしている。顔色は悪い。

 さっきの衝撃で腕も震えている。

 それでも、サラはアリシアさんを見ていた。

 

「私は、諦めない」

 

 その声は小さかった。

 けれど、確かに部屋に響いた。

 

「絶対に、救ってみせる」

 

 サラがもう一度、手をかざす。

 その時だった。

 サラの手の甲に浮かんだ印が、変化した。

 

 花びらのようにも、光の羽のようにも見える白い痣。

 その翼が、ゆっくりと大きく広がっていく。

 

 レンの光とは違う。レンの光は、太陽だった。

 見る者の目を焼くほど眩しく、前へ進むための光。

 だが、サラの光は違った。

 包み込む光だった。

 ただ、そこにある痛みごと抱きしめるような、優しい光。

 

「はあああああ!」

 

 サラの光が、部屋中に広がった。

 黒い瘴気が押し返される。

 アリシアさんの身体にまとわりついていた闇が、白い光に包まれてほどけていく。

 

 エリシアは母の手を握ったまま、涙を流していた。

 俺は、ただ見ていた。眩しいとは思わなかった。

 レンの時とは違う。目を逸らしたい光ではなかった。

 

 光が収まった。

 部屋の空気が、少しだけ軽くなる。

 アリシアさんの呼吸は、まだ弱い。

 けれど、さっきまでの苦しげな喘ぎは消えていた。

 

「何が起こったんだ……?」

 

 レンが呆然と呟く。

 

「分からない」

 

 サラは肩で息をしながら、自分の手の甲を見つめていた。

 

「でも、突然、力があふれてきたの」

 

 サラの指先は震えている。

 彼女自身も、何が起きたのか分かっていないのだろう。

 それでも、アリシアさんは助かった。

 少なくとも、今この瞬間は。

 

     ◇

 

 その後、慌てて駆けつけたエルランドさんに事情を説明すると、彼は何度もサラに頭を下げた。

 

「二度も救われるとはな」

 

 エルランドさんの声は震えていた。

 

「エリシアだけでなく、妻まで……感謝してもしきれない」

「い、いえ。私は、その……」

 

 サラは困った顔をしていた。

 

 感謝されることに慣れていないのだろう。

 それでも、エリシアはサラの手を握り、涙を浮かべながら何度も礼を言った。

 

「ありがとうございます、サラ様。本当に……本当にありがとうございます」

 

 サラは照れたように目を伏せた。

 アリシアさんは、今は眠っている。完全に治ったわけではない。

 ただ、危険な状態は一度越えたようだった。

 俺たちはロビーへ移動し、力尽きたように椅子へ腰を下ろした。

 

「さ、さすがに疲れたな」

 

 レンが背もたれに身体を預ける。

 

「私はもう動けない……」

 

 サラは小さく呟いた。

 

「皆さん、本当にありがとうございました。私のお母様を助けてくださって」

 

 エリシアが深く頭を下げる。

 

「当然よ!」

 

 レンが親指を立てた。

 けれど、師匠だけは腕を組んだまま、険しい顔をしていた。

 

「それにしても、ただの病気とは思えねぇな」

 

 その言葉で、空気がまた重くなる。俺も同じことを思っていた。

 普通の病気なら、あれほどの瘴気が湧くはずがない。

 レンの勇者の力に反応して拒絶するような動きも、ただの病では説明できない。

 エリシアは静かに顔を伏せた。

 

「お嬢様。私が説明いたしましょうか」

 

 マリーがそっと声をかける。

 だが、エリシアは首を振った。

 

「いいの、マリー。私が話すわ」

 

 エリシアは膝の上で両手を握りしめた。

 

「私には、お兄様がいました」

「兄?」

 

 レンが目を丸くする。

 

「はい。私のお兄様は、とても優秀な人でした。優しくて、強くて、領民からも慕われていて……私にとって、自慢のお兄様でした」

 

 エリシアの声は、少しずつ過去へ沈んでいく。

 

「幼い頃、私はよくお兄様に遊んでもらいました。お兄様は私の頭を撫でて、『エリシアを守れるくらい立派になる』と言ってくれました」

 

 エリシアは小さく笑った。

 

 けれど、その笑みはすぐに消えた。

 

「そんなお兄様は、十歳の洗礼で勇者に選ばれました」

 

 俺たちは息を呑んだ。

 レンと同じ勇者。

 

「街中が祝福しました。お父様も、お母様も、私も、誇らしかった。お兄様は王都へ行きました。きっと立派な勇者になる。誰もがそう信じていました」

 

 エリシアの指が震える。

 

「でも、次に帰ってきたのは……」

 

 言葉が途切れた。

 

 マリーが目を伏せる。

 

「軽い、軽い壺でした」

 

 ロビーに静寂が落ちた。

 それが何を意味するのか、説明されなくても分かった。

 

「なんで……」

 

 レンの声が震えていた。

 

 昨日、勇者に選ばれたばかりのレンにとって、その話は重すぎた。

 

「お兄様は、戦死したと言われました」

 

 エリシアは続ける。

 

「けれど、お兄様は簡単に死ぬような人ではありませんでした。それに、説明にはどこか違和感がありました。お父様は必死に、お兄様がなぜ死んだのかを調べようとしました」

 

「何か分かったのか?」

 

 俺が聞くと、エリシアは首を振った。

 

「何も。どれだけ調べても、何も見つかりませんでした」

「それから、家族は少しずつ離れていきました」

 

 エリシアの声は静かだった。

 

「お父様はお兄様の死の真相を追い続け、お母様は日に日に元気をなくしていきました。食卓から笑い声が消えて、屋敷の中には薬の匂いばかりが残るようになりました」

「そんなある日、お母様が倒れました。腕のいい医者に診せても、原因は不明。薬も効かず、魔術でも完全には治らない。いつしか、お母様は自分が呪われていると思うようになりました」

「そんな……」

 

 サラが小さく声を漏らした。

 

「だから、私は月灯草を採りに行きました」

 

 エリシアは俯いた。

 

「少しでも、お母様が楽になるならと思って」

 

 その先に何が起きたか、俺たちは知っている。

 何かが繋がっている。

 でも、俺にはまだ、その線の先が見えなかった。

 

     ◇

 

 翌朝。

 いや、朝と呼んでいいのかは分からない。

 相変わらず、空に朝日はなかった。

 

 窓の外は暗い。街は夜に沈んだまま。

 それでも、時間だけは確かに進んでいた。

 

 領主館の外が騒がしい。俺は跳ね起き、窓へ向かった。

 領主館の周りに、大勢の人が集まっていた。

 人々は怒っているようにも見えた。

 だが、それ以上に怯えていた。

 

 耳を澄ませる。

 ざわめきの中から、いくつもの声が聞こえてきた。

 

「領主様が隠しているらしい」

「魔王の槍だ」

「その槍のせいで、魔物が集まっているんだろ」

「だから朝が来ないんだ」

「領主様は、俺たちに何を隠しているんだ!」

 

 民衆の不安が、怒りへ変わろうとしていた。

 

「どうなっている……?」

 

 俺は窓の外を見下ろしながら、呟いた。

 

 闇に沈んだキャンウィング領で、影が蠢き始めていた。

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
エリシアの兄はとてもレンに似ています。
独想魔術は昔の方が使える者が多かったのですが、現代は使えるものが少ない分、厄介かつ強力なものばかりです。
特に印象に残った場面や台詞がありましたら、一言だけでも感想をいただけると、とても励みになります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。