異世界転生したのに前の転生者にやり尽くされていた件 作:berunarudo
あの日から、一か月が経った。
ゼードとの戦いで俺の身体は思っていた以上に限界へ近づいていたようだ。
ローラの聖魔術によって傷そのものは数日でほとんど治った。
しかし、無理矢理使い続けた魔力炉まではすぐに元へ戻らず、最初の一週間ほどは宿のベッドからまともに動くことすらできなかった。
魔力炉の調子が戻ってきたあとも、しばらくは全力で使うことを止められた。
あれだけ好き勝手に使ったのだから当然と言えば当然なのだが、身体は元気なのに魔想だけを思うように動かせないという状態は妙に落ち着かず、改めて自分がどれだけ魔想に頼っていたのかを思い知らされた。
「それにしても、街の人減ったな」
久しぶりに外へ出た俺は、いつもの屋台で焼き鳥を食べながら大通りを眺めていた。
大会中は肩がぶつかるほど人で溢れていた道も、今では随分と歩きやすくなっている。
冒険者たちが完全にいなくなったわけではない。
大会終了後も大迷宮へ潜る者は残っているし、エドガーたちが攻略したという話を聞いて新しく来た冒険者もいる。
それでも、一か月前と比べれば、明らかに静かだった。
「だが、あれを準備しているのだろ?」
隣で焼き鳥を頬張っていたタケルが頷く。
「ああ。あれが上手くいけば、また人は戻ってくるはずだ」
俺はこの一か月、休んでいただけではない。
むしろ身体が動かせない時間が長かったからこそ、頭の中でずっと一つのことを考えていた。
大迷宮。
あの時、エドガーが受け取ることを拒んだ迷宮管理権。
それを、迷宮都市のこれからのために使えないか。
「そろそろ行くか、大迷宮に」
「そうだな、ルークス」
俺とタケルは転移門へ向かい、そのまま光へ包まれた。
◇
目を開けるとそこにはウォルト市長、エドガー、ローラがいた。
さらに見覚えのない職員たちまで、何十人も集まっていた。
「おお、ルークス君。待っていたよ」
「ウォルトさん、おはようございます」
大迷宮の中とは思えない人数だった。
以前なら、ここにこれだけ大勢の人間が集まる光景なんて想像すらできなかっただろう。
だが、今回に限ってはその原因は、ほとんど俺だった。
二週間ほど前、まだ身体を休めながら、俺たちは今後の迷宮都市について話し合っていた。
◇
「なるほど。大迷宮はそのような仕組みだったのか」
パラドとの話を聞き終えたウォルトは、しばらく考え込むように腕を組んでいた。
「だが、俺は管理することには興味がない。その権利はウォルト市長に譲るつもりだ。今後の迷宮都市の発展に使ってほしい」
「それは大変ありがたいのだが……」
ウォルトは素直に喜ぶよりも、困ったような顔をした。
「どう使えばいいのかが難しいな。迷宮を簡単にしてしまえば、余計に魅力を失う可能性もある」
「ああ」
それは俺も考えていた。
大迷宮が危険だからこそ冒険者は挑む。
命を賭けるほどの価値があると思うから夢を見る。
だったら、ただ弱くすればいいわけじゃない。
そこで、前から考えていたことを口にした。
「一つ提案なんだけ」
「なんだ?」
「俺、大迷宮を自由都市より面白い場所にできると思う」
「なに!?」
ウォルトが身を乗り出した。
「どうやってだ?」
「この大迷宮って、ずっと同じ形じゃないだろ。冒険者たちの想いを取り込んで変化していくなら、定期的に変えればいい」
「定期的に?」
「ああ」
前世で俺がよく遊んでいたゲーム。
特にずっと同じ内容ではなく一定期間ごとにイベントが追加されるもの。
新しい敵、新しい報酬、期間限定の要素。
そんなものがあった。
「例えば、ある週だけ特定の素材が大量に手に入るとか、普段は出ない魔物が出るとか。もっと大きなものなら、一体の強力な魔物を何組もの冒険者で倒すイベントとか」
「なるほど……」
ウォルトの顔が少しずつ変わっていく。
「ただ攻略するだけではなく、時期によって挑戦する理由を変えるのか」
「そうそう」
俺も話しながら楽しくなってきた。
「それに、初心者向けの場所も作った方がいいと思う。例えば二十階層くらいまでは死亡しない仕組みにして、冒険者になったばかりの人でも大迷宮を体験できるようにする」
「それ以上は?」
「普通に危険」
「なるほど」
ウォルトが笑う。
「簡単にするのではなく、入口だけを広げるわけか」
「そういうこと」
大迷宮は夢を見る場所。
なら最初から命を賭けなければ夢を見ることすらできないのは少しもったいない。
初心者が冒険に憧れる。
少し強くなって奥へ進む。
さらに強くなれば命を賭ける場所まで行く。
それでいい。
「なら」
エドガーが手を挙げた。
「宝箱を置くのもいい」
「宝箱?」
「ああ。今の大迷宮は魔物を倒して素材を得るのが基本だ。だが探索する楽しみが少ない」
「確かに」
「隠し部屋。罠。その奥に宝箱」
エドガーの声が少し楽しそうになっていく。
「いいな、それ」
「あと」
ローラまで手を挙げる。
「大迷宮の中にお店があっても便利じゃない?」
「店?」
「うん。回復薬とか食べ物とか、途中で買えたら長く潜れるし」
「それもいいな」
今度はタケルまでも手を挙げる。
「強い敵も増やしてほしい」
「お前はそればっかりだな」
「ハッカイやリクドーのような者とまた戦いたい」
その場で次々と案が出てきた。
単なる攻略。
ただ百階を目指す場所ではない。
初心者、熟練者。
それぞれがそれぞれの夢を持って潜れる大迷宮。
それが俺たちの考えた新しいパラドリクスだった。
◇
そしてその案をパラドへ持っていった。
「現代の人は面白いね~」
パラドは楽しそうに笑った。
「ただし、大きな変化を起こすには影響力が必要なんだ」
「影響力?」
「ああ」
パラドはウォルトを見る。
「大迷宮は冒険者たちの想いから生まれている。つまり、どれだけ素晴らしい案でも誰にも認められなければ大きくは反映できない」
「なるほど……」
「だから」
パラドは笑う。
「ウォルト市長」
「私か?」
「君自身が、大迷宮に関わる人々から信頼される必要がある」
そこでウォルトは新しい組織を設立した。
その名も《ロマン協会》。
俺が半分冗談で出した名前だった。
冒険、未知、宝、夢。
全部ひっくるめてロマン。
ウォルト市長はなぜかものすごく気に入った。
そして今では、そのロマン協会が、大迷宮の運営や冒険者への支援、イベントの企画、攻略情報の整理まで行う組織になりつつある。
さらに、火龍の宝具がなくなったことで大会の優勝報酬も消えてしまったため、その代わりとして俺はロマン協会の役員に入れてもらうことになった。
しかも、協会の利益が出れば毎年いくらか俺たちにも入る。
今のところは十万Gだ。
まだそこまで大きな金額ではない。
でも将来的に迷宮都市が復活すればもっと増える。
つまり実質株である。
「……ロマンがあるな」
我ながらいい仕組みにした。
◇
そして現在、大迷宮には多くの職員が入り新しい地形や新しい魔物などのそれぞれの準備を進めていた。
「これで」
ウォルトが大迷宮を見る。
「また冒険者たちが夢を見てくれるといいのだが」
「大丈夫だよ」
俺は笑った。
「夢がある場所なら、人は来る」
少なくとも俺はそう思っている。
◇
「なあ」
準備が一段落したあと俺は二人を見る。
「本当に行くのか、エドガー、ローラ」
「ああ。これは最初から決めていたことだ」
「そうだよ、ルークス。一生の別れじゃないんだから」
何とエドガーとローラは迷宮都市を出ることにしていた。
「大迷宮に冒険王がいた証拠はあった」
エドガーはいつもの鉄兜の位置を軽く直す。
「だが、花火だけでは証明したとは言えない」
「まだやるのか?」
「当然だ」
即答。
「各地に冒険王の印が残っている可能性がある。それを探す」
「本当に冒険王好きだな」
「ああ」
迷いがない。
やっぱりエドガーはエドガーだった。
「私はね~」
ローラが横で笑う。
「エドガーの願いが叶うほど、もっと強い魔術が使えるようになるから」
「それだけ?」
「それだけでも十分でしょ?」
「確かに」
この二人は何だかんだ相性がいい。
「でも」
少しだけ寂しくなった。
「まだこの街にエドガー必要なんじゃないか?」
「安心しろ」
エドガーが俺の頭を軽く撫でた。
「攻略情報は市長に全部売った」
「売ったのかよ」
「当然だ」
「最後まで金取るのか」
「情報には価値がある」
「こいつ……」
「それに」
エドガーが笑う。
「ロマン協会にも必要な案は渡した」
「資金も?」
「一部は確保した」
「掠め取っただけだろ!」
思わず笑った。
こういう奴だった。
雪原で初めて会った時も無愛想で鉄兜を被って変な知識ばかり持って。
気づけば四人で黄金酒を飲んでいた。
「パーティーを解散するわけじゃない」
エドガーが言う。
「また、どこかで会う」
「そうだよ!」
ローラも笑う。
「また冒険しようね、ルークス」
「ああ」
俺は二人を見る。
「元気でな」
「二人もな」
「またね~!」
エドガーとローラはそれぞれの荷物を背負い、歩き出す。
俺とタケルはその背中が見えなくなるまで見送った。
◇
「さて」
俺は少しだけ気持ちを切り替えるようにタケルを見る。
「街に戻ろうぜ」
「ああ」
「俺たちも火龍の宝具を取り戻さないとな」
「それなんだが」
タケルが少しだけ真面目な顔になった。
「話がある」
「話?」
広場の端にあるベンチへ座る。
タケルもその隣でしばらく何も言わなかった。
「ルークス」
「ああ」
「短い間だったが」
タケルが前を見る。
「君と旅をするのは楽しかった」
「急にどうした」
「火龍の里からここまで来て、大迷宮まで攻略するとは思わなかった」
「俺もだよ」
本当は宝具を取り戻すだけのはずだった。
「だが」
タケルの声が少しだけ低くなる。
「ここで別れよう」
「……は?」
意味が分からなかった。
「どういうことだよ」
「簡単な話だ」
タケルは自分の拳を見る。
「俺たちは今のままではゼードに勝てない」
「…………」
否定はできない。
俺は殺されかけた。
タケルも以前ゼード相手に完全には勝てなかった。
「今すぐ探しても」
タケルが続ける。
「宝具を取り返すことは難しい」
「なら」
「だからだ」
俺を見る。
「互いに修行しないか」
「一緒にすればいいだろ」
「それでは駄目だ」
「なんで」
「俺が教えられるのは武術だけだ」
タケルがはっきり言う。
「極心流」
「……」
「君はもう基礎を知っている」
「でも」
「ルークス」
少しだけ笑う。
「君の才能は」
拳ではなく俺の胸に。
「別の場所にある」
「…………」
「だから」
タケルは言う。
「ルークスは魔導帝国へ向かえ」
「ヴァロンに会えってことか」
「ああ」
「タケルは?」
「俺は自由都市へ行く」
「自由都市?」
「あそこでは」
タケルの目からはワクワクした気持ちを感じた。
「世界中から強者が集まる武闘大会が開かれる」
「……なるほど」
実にタケルらしい。
「様々な武術、様々な戦士がそこにいる」
「全部と戦う気か?」
「もちろんだ」
「やっぱりな」
思わず、笑ってしまった。
自由都市、世界中から人が集まる場所。
そして強者が集う武闘大会はタケルにとってこれ以上ない。
修行場所なのだろう。
「だから」
タケルが俺へ拳を差し出す。
「次に会う時」
「……」
「互いに強くなっていよう」
俺も拳を出してぶつける。
「ああ」
「約束だ」
「分かった」
少しだけ喉が詰まる。
「でも、死ぬなよ」
「もちろんだ」
タケルはいつものように迷いなく笑った。
◇
その夜、俺はほとんど眠れなかった。
エドガー、ローラ、タケル。
この街へ来た時は一人ではなかった。
ずっと誰かがいた。
それが次の日にはいなくなる。
分かっていた。旅とはそういうものだ。
でも、分かることと受け入れることは少し違う。
何度も寝返りを打った
俺は無理矢理目を閉じた。
◇
朝、目を覚ますとタケルはいなかった。
「……早えよ」
相変わらず行動がやたら早い男だ。
部屋の中は静かだ。
酒場へ向かう。
いつもなら誰かがいた。
今日はいない。この街へ来て初めて本当に一人になった。
「…………」
このまま迷宮都市へ残ることだってできる。
ウォルト市長とロマン協会を手伝う。
毎年、金も入る。
安全だし、もうノアーク教団と関わることはないだろう。
「それじゃ、ダメだよな」
師匠はあいつらに殺された。キャンウィング領をめちゃくちゃした。
レン、サラ、タケル。
そして俺自身に誰にも示しがつかない。
何よりまだ知りたいことがある。
カイトの魔王の話は誰も分からずじまいだ。
俺は進まなきゃいけない。
◇
荷物をまとめる。
今回は以前のタケルとの旅のように何も考えず出るわけではない。
ちゃんと鞄の中に保存食、水、着替え。
必要なものを揃えた。
ほとんどウォルト市長が用意してくれた。
さらに馬車まで。
「VIP待遇だな……」
本当にありがたい。
馬車へ乗り込む。
窓から迷宮都市を見る。
巨大な石壁、重なり合う道、そして大迷宮。
最初に来た時は意味の分からないごちゃごちゃした街だった。
今は少し違って見える。
「じゃあな」
小さく呟く。
馬車が動き始める。
少しずつ迷宮都市が遠ざかっていく。
俺は初めて一人になった。
師匠もレンもタケルもいない。
誰かに引っ張られて進むわけでもない。
自分で行き先を決めた。
「……」
不安は当然ある。
でも少しだけワクワクしている。
ずっと異世界へ転生した。
そう、分かっていた。
でも今になってようやく本当に異世界を旅している。
そんな感覚がした。
想い描いていたものとは随分違う。
俺は最強でもない。
何でもできるわけでもない。
仲間と何度も死にかけた。
それでもこの先にはまだ知らない場所が山ほどある。
何が待っているのか。まだ分からない。
「頑張るしかないよな~」
窓の外、迷宮都市の石壁がどんどん小さくなっていく。
前を見ると知らない道がどこまでも続いていた。
今度は一人だ。
でもその先へ行くことが少しだけ楽しみだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ここで書いていた話の貯金が無くなりました。これからは章ごとの更新を考えています。
できだけ早く書きたいとは思っています。次の章は魔導帝国編でようやくタグのメカを出せるとは思います!
特に印象に残った場面や台詞がありましたら、一言だけでも感想をいただけると、とても励みになります。