ソードアート・オンライン CHOSE the start Over 作:鉄血
「ここが集合場所だったよな?イオリ」
「うん。ここだね」
《トールバーナ》の噴水広場に着いた私達は辺りを見渡す。
噴水広場には結構な数のプレイヤー達が集まっていたが、フルレイドでる四十八人には届かない人数がこの場にいた筈だ。
そして広場にある舞台の上に、私達を誘った人物───ディアベルが立っていた。
そんな辺りを見渡す私達の後にワイズマンさんが合流した。
「丁度これからみたいですね。とにかく席に座りましょう」
「そうですね」
「おう」
私達は頷いて近くの椅子に腰を降ろした。
と、辺りを見渡していたユーリが何かを見つけたように私に囁いてきた。
「・・・イオリ」
「・・・?どうしたの?」
「あそこ、見てみろよ」
私はユーリが指を差した方へ顔を向けると、広場の反対側───高い塀にアルゴさんが腰掛けていた。
「あ、アルゴさん!」
はじまりの街を出る前に連絡をとって以来、此方も色々とあり、連絡を取っていなかったが、彼女も生きていた事に安堵を覚える。
でも私が知る限り、アルゴさんはこの場にはいなかった。どうして彼女がここに───?
そう疑問が浮かんだ瞬間、パン、パンと手を叩く音とともに、よく通る叫び声が広場に流れた。
「はーい!それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!みんな、もうちょっと前に・・・そこ、あと三歩こっちに来ようか!」
そうディアベルの声が広場中に響く。
「今日は、オレの呼びかけに応じてくれてありがとう!知っている人もいると思うけど、改めて自己紹介しておくよ!オレは《ディアベル》、職業は気持ち的に《ナイト》やってます!」
すると、噴水近くの一団がどっと沸き、口笛や拍手に混じってからかいの声が飛んだ。
この世界にはシステム的な《職》は存在しない筈だ。だが、見た目からナイト系装備と言って言えなくもない。
「さて、こうして最前線で活動している、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど・・・」
ディアベルはさっと右手を振り上げ、街並みの彼方にうっすらとそびえる巨塔───第一層迷宮区を指し示しながら続けた。
「・・・今日、オレたちのパーティーが、あの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ。第一層の・・・ボス部屋に!」
ディアベルさんのその言葉にワイズマンさんが驚いた顔をする。確かに今のこの世界は一度死んだらそれで終わりのデスゲームだ。だが、もうあの事件から一ヶ月。誰かがボス部屋にたどり着いても可笑しくはない。それにこの攻略会議の結末を私は───
「一ヶ月。ここまで一ヶ月もかかったけど・・・このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待っている皆に伝えなきゃならない。それが、今この場にいるオレたちトッププレイヤーの義務なんだ!そうだろ、みんな!」
再びの喝采。今度は、ディアベルの仲間たち以外にも手を叩いている者がいるようだ。確かに言っていることは立派で非の打ち所もない。
「それじゃあ早速だけど、攻略会議を始めようと思う」
ディアベルは真剣な顔をしながら今、この場にいる私達に説明し始める。
「デスゲームが始まって以来、既に二千人のプレイヤーが死んだ。その原因は、個人でバラバラに動いているからだ。そこで俺はこの場にいる全員で団結し、攻略情報を共有して一気に一層を突破しようと考えている!」
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
そんな時、低い声が響いた。
そして前方の人垣がふたつに割れる。その中央から小柄ながらもがっちりした体格の男が前に出た。
やや大型の片手剣にある種のサボテンのように尖ったスタイルの茶色の髪が特徴の男は、ディアベルの声とは正反対の濁声で唸った。
「わいは《キバオウ》ってもんや!ボスと戦う前に言わせて貰いたいことがある!こん中に今まで死んでいった二千人の中にワビィ入れなあかん奴らがおるはずや!」
「キバオウさん。君のいう奴等というのはつまり・・・元ベータテスターの人達のこと、かな?」
「・・・・ッ!」
ディアベルが、今まで最も厳しい表情を浮かべて確認すると同時、私は無意識に身体を強張らせた。それはワイズマンさんも同様でで、ユーリだけは険しい顔をつきで話を聞いている。
「決まっとるやろ!ベータ上がりどもは、こんクソゲームが始まったその日にビギナー見捨てて消えおった!奴らはウマい狩場やらボロいクエストを独り占めして、ジブンらだけぽんぽん強うなって、その後もずーっと知らんぷりや!・・・こん中にもおるはずやで、ベータ上がりっちゅうことを隠して、ボス攻略の仲間に入れてもらお考えてる小狡い奴らが!ソイツらに土下座さして、溜め込んだ金やアイテムを吐き出してもらわな、パーティーメンバーとして命は預けられへん!」
言い返す言葉もない。そんな私は奥歯を噛み締め、息を殺し、沈黙を保ち続ける。
あの時は何とか収まったとはいえ、この場で名を上げると、きっとキリトの様になる。
そうなるのだけは今後起こる未来で避けなくちゃいけない。
「発言、いいか」
その時、ハリのあるバリトンが夕暮れの広場に響き渡った。物思いから我に返り、顔を上げると、人垣の左端あたりからぬうっと進み出るシルエットがあった。
筋骨隆々たる巨漢に彫り深い顔立ち。頭を完全なスキンヘッドにし、肌はチョコレートのように濃い。
そんな巨漢は、噴水に集まっているプレイヤーに軽く頭を下げると、かなりの身長差があるキバオウに向き直った。
「オレの名前はエギルだ。キバオウさん、アンタの言いたいことはつまり、元ベータテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ、その責任を取って謝罪・賠償しろ、ということだな?」
「そ・・・そうや」
そう言い返すキバオウにエギルという斧戦士はレザーアーマーの腰につけた大型ポーチから、羊皮紙を綴じた簡易な本アイテムを取り出すと、ソレをキバオウに見せつける。
「ガイドブック、あんただって貰っただろう。道具屋で無料配布しているからな」
「──もろたで。それがなんや?」
キバオウの刺々しい声にエギルは攻略本をポーチに戻すと、周りのプレイヤー達に向けて言った。
「こいつに載っているモンスターやマップのデータの情報を提供したのは、元ベータテスター達だ」
その言葉にプレイヤー達は一斉にざわめき、キバオウがぐっと口を閉じる。その背後でディアベルがなるほどとばかりに頷いた。エギルは視線を集団に向けると、よく通るバリトンを張り上げた。
「いいか、情報は誰にでも手に入れられた。なのに、たくさんのプレイヤーが死んだ。その失敗を踏まえて俺達はどうボスに挑むべきなのか、それがこの場でどう論議されるとオレは思っていたんだがな」
至極堂々とするエギルにキバオウは吐き捨てるように唾を吐いた後、元いた場所へと戻っていった。
そんなエギルも彼の様子を見て、同じように元いた場所へと歩いていく。
「それじゃあ、再開してもいいかな?まずボスの情報だが、道具屋で配っていたガイドブックによると名前は《イルファング・ザ・コボルドロード》。それと《ルインコボルド・センチネル》という取り巻きがいる」
ボスの情報を皆に共有し、話は続く。
「どう戦うかだけど、始めに言ったように個人ではなく、団体で戦うべきだと俺は考えている。だからパーティは四人以上のパーティーを組んでみてくれ!フロアボスは単なるパーティーじゃ対抗できない!皆でレイドを作るんだ!」
そう言ってディアベルは手のひらを叩いた。
「さて、攻略会議は以上だ!明日は日の出と共に出発する!では、解散!」
攻略会議が終わり、私は詰まりそうになった息を吐いた。
「・・・たく、なんなんだ、あのサボテン頭」
と、隣でユーリが険しい顔をしたままそう呟いていた。
「ベータテスターが全部悪いだなんて言いやがって。俺みたいな初心者上がりの奴もいるんだぞ」
そう。ユーリは私やワイズマンと違ってベータテスターではあっても、ほぼベータテスト後半にログインを始めた初心者。それも、第一層でワイズマンさん達の手ほどきありの状態でここまで来たのだ。ここまで憤るのも無理はない。
「でも、ベータテスターをよく思わない人、結構多いのかもしれない・・・だから私達がベータテスターだってこと、誰かに言うときは慎重に判断しよう」
そのせいでクラークさんやサーユはあの時───
『じゃあ、先にログアウトしてるね!バイバイ♪』
追い詰められてクラークさんが死んで、サーユもその後を追ってこのゲームから消えていった。
暗い顔をする私にユーリは短く答える。
「・・・そうだな」
そんな話をしていると、周りの人達と話をしていたワイズマンが戻ってきた。
「二人とも、ここにいましたか。これからの事についての話なんですが・・・僕はディアベルの意見に賛成です。ここでこの攻略に参加しておけば、皆にも希望があると教える事が出来るはずです!」
そう言うワイズマンさんに私も頷いた。
「確か、ボスの《イルファング・ザ・コボルドロード》は私とユーリも一度二人で倒した事があるから・・・気をつければ問題無いと思う」
「ん?俺、倒した事あったか?覚えてないんだが・・・」
首を傾げるユーリに私は言う。
「ほら、始めてあったあの遺跡で出た大きいコボルドの事、覚えてない?」
「・・・・アイツか!」
どうやら思い出したようだ。
「でも四人パーティーを作らなくちゃいけないんだろ?あと一人、どうするつもりだ?」
「そうですよね・・・あと一人探さないと」
ユーリの言葉にワイズマンさんが頭を捻ったその時だった。
「あのー、ちょっといい?」
声の方へ目を向けると、そこには一人の青年がいた。
ピンク色の髪にユーリと同じ両手剣。彼は───
「ん?アンタは・・・」
ユーリがそう呟くと、彼は気まずそうに口を開く。
「俺、あぶれちゃってさ・・・一緒に組まない?」
そう言う彼は一生懸命に話す。
「この話、どうしても参加したくて!このままゲームに閉じ込められるだけで何も出来ずにいんのがさ、なんかすっげー嫌で・・・なあ、頼むよ!」
頭を下げる青年にユーリが言う。
「パーティーを組んでくれるのは俺達としてもありがたいが・・・アンタ、ソロか?」
疑い深いユーリに青年は気まずそうな顔をする。
「いや・・・これまでパーティーを組んでた奴らがいたんだけど、攻略戦は怖ぇつって帰っちゃってさぁ・・・」
「それであぶれて一人になったと・・・なるほどな。俺は歓迎するが二人はどうする?」
そう聞いてくるユーリに私とワイズマンさんは言った。
「うん。私はいいよ。ちょうど一人欲しかったところだし」
「もちろん大歓迎です!」
「ありがとう!助かったよ!」
その言葉を聞いて彼は安堵した様に息を吐く。
そして、私達に言った。
「あ、名前がまだだったな。俺の名前は《
私達が前のアインクラッドで結成したギルド《桜花騎士団》のメンバーの一人、ザッシュ。
───彼が仲間に加わった。