ソードアート・オンライン CHOSE the start Over   作:鉄血

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第十三話 ビーター

「お疲れさま」

 

ボスがいなくなった部屋で誰かがそう言った。

それと同時に、わっ!!と歓声が部屋の中で弾ける。

両手を突き上げて叫ぶ者。仲間と抱き合う者。嵐のような大騒ぎの中でユーリが私に手を挙げてくる。

 

「お疲れ、イオリ」

 

「・・・うん。お疲れ様」

 

私が暗い顔をしていたのを察したのだろう。ユーリは私の肩を叩く。

 

「・・・ディアベルの事は気にすんな。アイツが死んだのは・・・俺もちょっとは思うところはあるけどよ」

 

「・・・そう、だね」

 

私は頷いて自分を納得させようとしたその時だった。

 

「─────なんでだよ!!」

 

突然、そんな叫び声が部屋中に響く。半ば裏返った、ほとんど泣き叫んでいるかのようなその響きに、広間の歓声が一瞬で静まりかえった。

全員の視線がそちらへと向けられる。

そこは軽鎧姿のシミター使いの男が立っていた。しかし、限界まで歪められた口から迸った次の言葉を聞いた瞬間、イオリは身体を硬直させた。

 

「───なんで、ディアベルさんを見殺しにしたんだ!!」

 

この男はC隊───つまり今は亡き騎士ディアベルの、当初からの仲間の一人だ。視線を移すと、彼の背後にも、残りのメンバー四人が顔をくしゃくしゃにして立っている。中には泣いている者もいた。

 

「見殺し・・・?」

 

「そうだろ!!だって・・・だってアンタは、ボスの使う技を知っていたじゃないか!!アンタが最初からあの情報を伝えていれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!!」

 

呆然とする黒髪の剣士に対し、血を吐くように叫ぶシミター使い。彼のその言葉に、残りのレイドメンバーたちがざわめいた。

 

「そういえばそうだよな・・・」

 

「なんでだ?・・・攻略本にも書いてなかったのに・・・」

 

などという声が生まれ、徐々に広がっていく。

その疑問に答えたのは、ベータテスターを敵視していたキバオウ───ではなかった。彼は離れたところで、何かに耐えるように口を引き結んだまま立ち尽くしている。しかし彼の指揮するE隊の一人が走り出し、黒髪の剣士の前に立つと、指を突きつけ叫んだ。

 

「きっとあいつは、元ベータテスターだ!!だから、ボスの攻撃パターンとか旨いクエとか狩場とか、全部知ってたんだ!知ってて隠していたんだ!」

 

両眼に憎しみを滾らせ、再度何かを叫ぼうとした。

 

「でもさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはベータ時代の情報だ、って書いてあっただろ?彼が本当に元ベータテスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じなんじゃないのか?」

 

「そ、それは・・・」

 

押し黙ったE隊メンバーの代わりに、シミター使いは憎悪溢れる一言を口にした。

 

「あの攻略本がウソだったんだ。アルゴって情報屋がウソを売りつけたんだ!アイツだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんか教えるわけなかったんだ!他にも居るんだろ!!出てこいよ!」

 

その言葉に私達は前に出ることが出来なかった。

今この場に出てしまえば、私達が皆からのヘイトの対象となる。そうなってしまえば何処にいても迫害される事になるだろう。なにも言えずにその場で立ち尽くす私達に隣にいたユーリが私にだけ聞こえる声で言った。

 

「・・・悪い、イオリ。ちょっと我慢ならねえわ」

 

「・・・ユーリ?」

 

そう。そんな彼等の前にユーリが立って出たのだ(・・・・・・・・・・・)

 

「オイ」

 

ユーリがフードを被ったシミター使いの前に立つ。

 

「な、なんだよ、お前・・・」

 

狼狽えるフードの男にユーリは言った。

 

「・・・俺か?俺はお前が言うベータテスター(・・・・・・・・・・・・・・)ってヤツだ。お前が言うから前に出てきてやったんだよ」

 

「・・・・ユーッ!?」

 

彼のカミングアウトに私は思わず声を上げそうになったが、ワイズマンさんが私の口を塞ぐ。

そして彼は小声で私に言った。

 

「ここで前に出てしまえば僕達も担ぎ上げられてしまいます!どうか、落ち着いて!」

 

「でも、でも・・・・ッ!」

 

前はこんなこと無かったのに。

どうしてこんなことをと思う私は、ことの顛末を横で眺めるしか無かった。

 

「さっきから好き勝手言いやがって。アルゴが嘘の情報を教えただぁ?確かにアイツは金に目がない事は俺も知ってる。けどなぁ!アイツは絶対に嘘だけはつかねえよ!アルゴはな、俺達の為に貴重な情報を命がけでかき集めてんだぞ!情報が違った?そんなもん、俺達がベータテストの時の情報を鵜呑みにした俺達が悪いんだろうが!」

 

ユーリの怒号にも近い叫びに皆が気圧される。

 

「十全に準備はした!作戦も立てた!なのに情報通りじゃ無かったらベータテスターのせいだぁ?そう言ってまだ子供を責め立てるテメェ自身が責任逃れしたいだけだろうが!」

 

そう叫ぶユーリにフードの男は喚く。

 

「ならお前はどうなんだよ!」

 

「・・・あ?」

 

眉をつり上げるユーリに男は言った。

 

「お前だってベータテスターだったんだろ!ならお前がボス情報を事前に言っておけばディアベルさんは死なずに済んだんだろうが!」

 

そう言って彼は指を指す。

 

「そう言うお前こそ責任逃れってやつじゃないのかよ!」

 

キリトから一気にヘイトがユーリへと向けられる。

周りからの野次も次々、彼に対して罵倒が飛んだ。

 

「おい、お前・・・」

 

「あなたね・・・」

 

今までずっと我慢していたらしいエギルとアスナが、同時に口を開いた時、キリトがその動きを制した。

彼は一歩前に出ると、今まで見えなかった顔にふてぶてしい表情を作り、シミター使いの顔を冷やかに眺める。

そして冷たく、無関心な声で彼は告げた。

 

「元ベータテスター、だって?・・・俺を、あんな素人連中と一緒にしないでもらいたいな」

 

「な、なんだと・・・?」

 

「いいか、よく思い出せよ。SAOのCBTクローズドベータテストはとんでもない倍率の抽選だったんだぜ?受かった千人のうち、本物のMMOゲーマーが何人いたと思う?そのほとんどがレベリングのやり方さえも知らない初心者だったよ。今のあんたらの方がまだマシさ」

 

そんな侮蔑極まるその言葉に、皆が一斉に黙り込む。

そして同じベータテスターだったイオリは、今から彼が何をしようとしているのかを理解していた。

 

「───でも、俺はあんな奴らとは違う」

 

冷笑を浮かべ、彼はその先を口にする。

 

「俺はベータテスト中に、他の誰も到達出来なかった層まで登った。ボスのカタナスキルを知ってたのは、ずっと上の層でカタナを使うモンスターと散々戦ったからだ。他にも色々知っているぜ、アルゴやそこにいるベータテスターなんか問題にならないくらいな」

 

「・・・なんだよ、それ・・・」

 

最初に彼を元テスターだと指弾したE隊の男が、掠れた声で言った。

 

「そんなの・・・ベータテスターどころじゃねえじゃんか・・・もうチートだろ、チーターだろそんなの!」

 

周囲から、そうだ、チーターだ、ベータのチーターだという声が幾つも湧き上がる。それらはやがて混じり合い、《ビーター》という奇妙な単語が生まれた。

 

「・・・《ビーター》。いい呼び名だなそれ」

 

彼はにやりと笑い、彼はその場の全員をぐるりと見回しながら、はっきりした声で告げた。

 

「そうだ、俺は《ビーター》だ。これからは、他の元テスターごときと一緒にしないでくれ」

 

そして彼はメニューウィンドウを開き、先ほどのボスからドロップしたのだろう、艶のある黒革のロングコートへと変わった。

 

「二層の転移門は、俺がアクティベートしといてやる。この上の出口から主街区まで少しフィールドを歩くから、ついてくるなら初見のモンスターに殺される覚悟をしておけよ」

 

そう。彼は自ら駆って出たのだ。

情報を独占する汚いビーターという役に。

今後、元ベータテスターの認識は二つに分かれるだろう。素人上がりの単なるテスターと彼のように情報を独占するビーターという名のテスター。

そうなってしまえば新規のプレイヤーの敵意は全てのテスター達に向けられることはなく、ビーターへと向けられる筈だ。仮に元テスターだと露見しても、ユーリのようにすぐに目の敵にされることはなくなる。

一種の生贄のようなものに私はなにも出来なかった。

 

ユーリのように前に立つことも。キリトのように自己犠牲になることも。誰かを守りたい。そう思っていたのに、そう決意したのに私が今までやってきた事は現状を維持するだけの保身だけ。

 

そんな自分が嫌になる。

そうして第一層ボス攻略は終わった。

さらなる悲劇が訪れる事をこのときの私達はまだ知らない。

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