ソードアート・オンライン CHOSE the start Over 作:鉄血
第一層 トールバーナ
トールバーナに戻った私達は一緒にパーティを組んでいたザッシュに頭を下げた。
「・・・ごめんなさい。ベータテスターだってこと黙ってて」
「でもそうしなければこの攻略に僕達は参加出来ませんでしたから、隠す必要があったんです」
私達の言い分を聞いたザッシュは納得したように頷いた。
「事情は了解。別に俺はアンタ達がベータテスターだってことを隠してたのは責める気はないんで。これまで一緒にいてベータの知識で悪さしようって感じも見ていてなかったし」
「・・・ありがとうございます」
そう言う私にザッシュは苦笑いする。
「いや、もう済んだ話だし。それに俺もボス部屋での話を聞いてユーリの言い分に俺も賛同できるからさ。それより、これからどうすんの?」
「そうですね・・・ユーリが自分がベータテスターだって事をバラしちゃいましたし、ほとぼりが収まるまで隠れようかと」
「・・・お前等を巻き込んじまったのは悪かったよ」
「私、ユーリがあんなふうになるなんて始めて見たかも」
前世ではそういった一面を見せなかった彼に、ワイズマンは眉間を抑えながら溜め息をつく。
「ユーリは昔から気に食わない事があるとすぐに首を突っ込みますからね・・・僕達がどれだけ苦労したことか」
「・・・悪かったって」
バツが悪そうにそっぽを向いた彼に私は苦笑したその時だった。
ゴウゥゥゥン!!
と大地が揺れた。
「地震・・・!?」
揺れを感じたザッシュが驚いたように辺りを見渡す。
「この世界にも地震が───」
驚く二人に対し、私とユーリはそれどころではなかった。
「がッ!?なんだッ!?」
「あ、う・・・ッ!」
猛烈な頭痛と共に瞼の裏にノイズがかった兎の姿が見える。
「なッ・・・大丈夫ですか!?2人とも!?」
ワイズマンさんの声が遠くなっていく。
それと同時、私は目の前が真っ暗になった。
◇◇◇◇
目を開けると目の前に赤いソレが立っていた。
私を殺したモンスターにしてユーリを殺した憎い敵。
「──────ッ」
ソレを見た瞬間、胸の内にドス黒いナニカが猛るのを感じた。
剣を手に取る。
ああ、殺さないと。ころさないと。コロサナイと。
コイツは。こいつだけは───。
・・・アイン・・・ラッド・・・
頭の中で少女らしき声が頭に響く。
煩わしい。
「はあああああッ!!」
私は剣を振るった。
レベル差が圧倒的にあろうそのモンスターのヒットポイントバーが減ることはない。それどころか時間をかける度にその数は増していく。
《死の神》が・・・ふっか・・・
聞いていてイライラする。
「ああああああッ!!」
剣を振るう。盾で守る。ただがむしゃらに振り続けた。
・・・《聖域》で・・・《伝説の武器》を・・・
うるさい!
そう口にしようとしたその時────
「
「─────ッ!?」
その声に私はハッと目を覚ました。
「ユー・・・リ?」
いるはずが無い。だってここは私は一人だけだった筈なのに
「逃げるぞ!こんなヤツに構ってる暇はねえ!」
そして彼は
「ぁ───」
私が挫けそうになったあの時のように。
私達は暗い闇の中を走った。奥に見える光へただひたすら真っ直ぐ。
《生命》──・・・壊し・・・さもなくば・・・終わり・・・
・・・死が・・・全ての者に降り・・・
少女の声が途切れ途切れで聞こえてくる。だが、私達は走る足を止めなかった。
そして光の向こうへと足を踏み入れた瞬間───
私は───
崩壊するアインクラッド───ではない。
代わりに見えたのはユーリがポリゴン片となっていく姿が──
「いやああああああああああああああッ!!?」
───望みは 潰えた。
クエスト《救世の剣士》を受注しました
◇◇◇◇◇
「・・・ハッ!?ハッ、ハッハッ・・」
永遠にも感じたその光景に私は一歩、二歩と後ずさる。
「・・・クソッ。なんだ、さっきのは・・・」
それはユーリも同様だったようで彼もまた頭を押さえていた。
そんな私達にザッシュが不思議そうに話しかけてくる。
「どうした?」
「二人とも・・・顔が引き攣ってますけど・・・それにイオリさんは顔もそんなに青くして・・・どうしたんです?」
ワイズマンの問いにユーリが私よりも早く口を開く。
「変なウサギが・・・」
「・・・ウサギ?」
顔を見合わせるザッシュとワイズマンにユーリは頷いた。
「ああ。急に目の前が真っ暗になって変な場所に行ったんだよ。そこにヤバそうなモンスターがいて、イオリが戦っていたから引っ張って一緒に逃げていたら、アインクラッドが崩壊するっていう映像を見せられたんだよ」
「・・・・え?」
動揺するワイズマンさんに対し、ザッシュは私を見る。
「てことは・・・・イオリも同じ・・・?」
「私、は・・・ユーリが、目の前であの真っ暗な中にいたモンスターに殺されて・・・死んでいった他の人達みたいに目の前で・・・」
「俺が死ぬ?オイオイ、何の冗談だよ・・・」
ワイズマンはユーリとザッシュに目を合わせる。
「何かの強制イベントですかね・・・?」
「だとしても、イオリが見たっていうやつが気になるな。俺が死ぬとかどうとか・・・ワイズマン、分かるか?」
「いえ・・・ただ、限定的なプレイヤー個人が死ぬというイベントは他のMMOでも聞いたことないです」
「・・・そうか」
首を振るワイズマンにユーリは溜め息をつく。
そしてそんなユーリと私の胸元にブローチが装備された。
「おわっ!?なんだ!?」
驚く私達の前にメニューウィンドウが現れる。
クエスト《救世の剣士》を受注しました。
「《救世の剣士》クエスト・・・一体なんだ?こんなクエスト、受けたことねえぞ?」
「そのブローチが関係ありそうですけど・・・ユーリ、イオリさん、ステータスとか変わってませんか?」
「・・・見てみます」
そう。これでブローチの名前が《古びたブローチ》から《聖大樹のブローチ》へと変わる。その筈なのに───
「・・・・ぇっ?」
私は震える声でそのブローチの名前を確認した。
《白聖大樹のブローチ》
どうして?と考える暇もなく、ユーリから声が上がった。
「俺のヤツ・・・《黒聖大樹のブローチ》だってよ」
違う。私が知っている未来と全然違う。
動揺を隠せない私を余所に、ザッシュとワイズマンは眉を歪めた。
「なんのことか全然わかんねぇ・・・」
「僕もです・・・クエストってなんですか?」
そう聞いてくる二人にユーリは言った。
「・・・さっきのイベントが関係してるんだろうな。アインクラッドが崩壊するってヤツ。それにイオリが言ってた俺が死ぬってのも気になる」
苦虫を噛み潰したかのような顔をするユーリに私はクエストの内容を復唱した。
「《死の神》が復活する・・・《聖域》で《伝説の武器》を・・・だったはずです」
「つまり、《救世の剣士》がアインクラッドを救う・・・みたいな話か?」
そう話の内容をまとめるザッシュに私は頷いた。
「たぶん・・・もし失敗したらみんな怪物に襲われて・・・」
そう言う私にワイズマンは眉を顰めた。
「話を聞くに、普通のゲームクエストではないですよね・・・嫌な予感がします。それにイオリさんが見たユーリが死ぬというのはどう言うことでしょうか?」
そう。それが分からない。
何故、ユーリ個人が私の脳裏に浮かんだのか?あの時は私も彼と同じ内容だった。
それにブローチの種類が違うのも気になる。
「とにかく、そのクエストはヤバそうです。すぐにキャンセルしましょう!」
「したいのは山々なんだがな・・・」
ユーリが険しい顔でワイズマンに言った。
「・・・キャンセル出来ねえんだよ」
「なんで!?そんなのおかしい!どうして!」
おかしいと叫ぶワイズマンに私は叫んだ。
「そんなの私が聞きたいですよ!でも、このままあの夢のような内容の事が起こるのだとしたらユーリが!」
「俺が死ぬってか?ったく、冗談じゃねえぞ・・・」
結局、このクエストをクリアしていくしかない。していくしか他に方法がないのだ。
「とりあえず、今は落ち着きましょう。焦っていてはなにも解決しません」
「そうだな・・・今日、明日死ぬわけじゃないみたいだし、とりあえずサーユ達と合流しよう。あっちはあっちで心配だ」
ユーリの提案に私達は頷いた。
「そうですね。クラークにメッセージを飛ばします」
そう言ってメニューを開いた時、メッセージの着音が鳴った。
「あっ、サーユからメッセージが・・・」
ワイズマンはそのメッセージを開いて、メッセージの内容を確認する。そしてその内容に驚愕した。
「えっ!?・・・ちょ・・・え?」
動揺するワイズマンにユーリが聞き返す。
「どうした?」
「・・・ユーリ、メッセージを転送する」
ワイズマンさんのその言葉に私は胸騒ぎを覚えた。
まさか────
ワイズマンさんから転送されたメッセージを私達は確認する。
SAAYU
クラークが死んだ どうしようどうしようどうしよう無理無理無理ムリムリむ
「────ッ!!」
私は口もとを押さえる。今日だけで色々な事が起こり過ぎて吐きそうだった。
「アハハ・・・じょ、冗談だよね・・・?」
震え声のワイズマンにユーリが叫ぶ。
「んなこと言ってる暇があるならさっさとサーユの所に行くぞ!もし、クラークが死んだんだとしたらサーユも同じ場所にいる筈だ!」
「フレンド追跡で確認したら街の北東にいる!急いで探そう!まだ間に合うかもしれない!」
──歯車が狂い出す