ソードアート・オンライン CHOSE the start Over 作:鉄血
走る。走る。走る。
私達は崖と谷を踏破しながら懸命に走った。
「クソッ!サーユの奴!早まんじゃねえぞ・・・!」
道中にいるモンスター達を蹴散らし、そしてまた走る。
ずっとこれの繰り返しだ。モンスターを無視して突っ切ろうと最初は考えたが、もしそんな状態で他のプレイヤーに遭遇してしまったらそのプレイヤーまで命の危険に晒してしまう。だからこそ、なるべく最低限の戦闘を繰り返してきたのだが、先に私達の方が限界に来た。
「はっ・・・!はっ・・・!はっ・・・!」
「ま、待ってくれよ!」
ユーリとワイズマンさんを除く私達が先に限界が来たのだ。
第一層ボス攻略から戻ってすぐのこの騒動。先のボス戦時に急いで向かった事もあって、仮想世界の筈なのに足が震えている。
それに気付いたユーリが少しずつ距離が離れていく私達を見て、ワイズマンに言った。
「ワイズマン、先にサーユのとこに行け。俺達は後から行く。二人がもう限界だ」
「・・・すみません、ユーリ。二人を頼みます」
「おう。そっちも、俺の代わりにサーユを頼む」
「・・・はい」
そんな短いやり取りをしてユーリはワイズマンさんを送り出してから、私達のもとへ駆け寄った。
「大丈夫か?二人とも。俺が見張ってやるから休んどけ」
「・・・悪ぃ。足手まといになっちまった」
「・・・私の事は良いから先に行って、ユーリ』
そう言う私達にユーリは言った。
「馬鹿言え。二人がそんな状況で何が先に行けだよ。ワイズマンに後から行くって言ってあるんだ。口動かす元気があるなら少し休んでろ。また走る事になるからな」
「・・・ごめんなさい」
謝る私にユーリは首を振る。
「俺の事は良いんだよ。それより問題はサーユのことだ。アイツ、昔からなんかあったらいつも速まる癖があるからヤバい事になってないといいが」
「そのサーユってヤツのこと、随分知っているんだな」
ザッシュのそんな質問にユーリは頷く。
「ああ。
「・・・・ぇっ?」
始めて聞くその話に、私の顔から熱が引いた。
ではあの時、私達の前で飛び降りたサーユさんを見て、ワイズマンさんが心折れたのも───
目の前で
一気に自分の身体が冷たくなるのを感じ、私は立ち上がる。
「だったら余計に急がないと!」
「だから休んどけって。今、そんな状態のお前等を連れて行っても・・・」
ユーリがそう言い終わる前に、私は口を開いた。
「多分、クラークさんはもう死んでる。私もベータテストの時は知らなかったけど、このデスゲームで死んだらフレンドリストがログアウト状態の灰色になるの。もし、ワイズマンさんのフレンドリストにクラークさんの名前がその状態になっていたら・・・」
「サーユもヤバい状態ってことか。クソッ、なら尚更急がねえといけねえじゃねえか。ザッシュ、立てるか?」
「ああ。さっきよりは全然マシになった」
そう言うザッシュにユーリは頷いて私を見る。
「イオリ、ナビは頼む。俺とザッシュで戦闘をこなすから最短でサーユのとこに行くぞ」
「分かった。なら、この先にある滝を抜けたらショートカット出来る道があった筈」
そう言う私にユーリは頷いて前を見る。
「決まりだな。じゃあ、行くぞ!二人とも!」
「うん!」
「おう!」
◇◇◇◇◇
『ブオオオオッ!』
巨大なイノシシが広場を縦横無尽に駆け巡りながら私に向かって突進してくる。
「・・・・ッ!やああああッ!」
私は左手に持った盾でその突進を思い切り受け止めて、隙だらけとなったその顔に片手剣ソードスキル《バーチカルアーク》を叩きこむ。
『ピギィィィィィッ!?』
甲高い悲鳴を上げ、ガシャーン!と無数のポリゴン片となった巨大イノシシには目もくれず、私は言った。
「この先にワイズマンさん達がいると思う!急ごう!」
そう言って私達は坂を走り抜けて目的地の場所へとついた。
白い花と青い花。二種類の花が咲き乱れる花畑の中でワイズマンさんが座り込んでいた。
「ワイズマン!」
ユーリがワイズマンさんのもとへ駆け寄る。私達も彼のもとへ駆け寄ろうとしたが、ふと違和感があった。一緒にいる筈のサーユさんの姿はどこにもない。
「・・・・・・ッ!!?」
その事実に私は理解するのを拒んだ。そう。あの時とは違い、私は
後ろでへたり込む私に対し、ユーリはワイズマンに急かすように肩を掴み、彼を揺すった。
「ワイズマン!サーユはどこだ!アイツは何処にいるッ!」
そう言うユーリにワイズマンは掠れた声でユーリに言った。
「ユーリ・・・僕・・・もうやめる・・・こんなの、ゲームじゃない」
「ッ・・・!?おいお前、まさか!?」
その言葉の意味を悟ったのだろう。ユーリはサーユは死んだのだと理解する。そしてワイズマンがこれから何をするつもりなのかを問いただした。
「お前も彼奴等の後を追うわけじゃねえだろうな!お前の両親はどうする!お前まで死んだら、俺はあの人達の前でなんて言えばいいんだよ!」
そう言うユーリにワイズマンは心ここにあらずといった状態ではあっだが、彼はユーリが目の前にいるからだろう。彼はユーリに言う。
「違う・・・死なないよ・・・行って。一人に・・・させてくれ」
そう言って彼は花畑の中、まるで懺悔するかのように額を地面へとつける。
そんな彼にユーリは無言で立ち上がって、へたり込む私に手を伸ばし立ち上がらせた後、もう一度ワイズマンさんを見る。
「・・・一人にさせればいいんだな」
ワイズマンからの返事はない。だが、ユーリはそれを肯定と受け取り、身を翻した。
「・・・しばらく一人にさせてやる。絶対に帰って来いよ」
そう言った後、ユーリは私とザッシュに言った。
「・・・行くぞ」
花畑から去っていくユーリの背はどこか、寂しそうに見えた。