ソードアート・オンライン CHOSE the start Over 作:鉄血
二○二二年 十一月六日。
私は《ソードアート・オンライン》にログインした。
世界初のフルダイブ型MMORPG───頭に機械を装着して仮想世界に意識ごと飛び込んだ。
冒険の舞台は百層もある巨大な城《アインクラッド》。
最初は信じられなかった。ずっとずっと夢見てた世界が目の前に広がっていた。
現実の私は・・・私じゃなかった。ずっと作り笑顔で息をするのも苦しくて・・・でも、この世界は違うと思っていた。誰も知らないだから自由に、ただ、私として生きられる。
・・・そう、思っていた。
《これはゲームであっても遊びではない》
茅場晶彦のあの言葉。
この世界で死んだら、本当に死ぬということを私は知っている。痛みも恐怖もリアルでどこにも逃げ場はない・・・
ベータテストに参加して一度死んだ私でさえ、茅場の真意は分からない・・・。
・・・・・・。
一人は、怖い・・・。
信じ合える仲間が欲しい・・・。
そして──私は見つけた。
ザッシュにスティーナ。ムソウさん。そして
だからこそ、今度こそ失いたくない。
目の前でユーリ──貴方を失った時、私は目の前が真っ暗になった。
皆が心折れそうになる中で、貴方だけがずっと私を後ろで支えてくれたから。
──もう逃げたくない。だから・・・今は前を向いて歩こう。
◇◇◇◇◇
あの正式サービスからひと月。二千人のプレイヤーが死んだ。外部からの救援はなく、日々暮らすためのお金を外で稼ぎながら細々とユーリ達とくらしていた。
私達は宿屋の二階にある部屋でサーユさんとワイズマンさん、そしてユーリの四人で集まった。
「あれからもうひと月ですか・・・この先、どうするかですけど・・・」
一向に外部からの救援がないことに不安を積もらせるワイズマンに私は口を挟む。
「あの・・・その前に、すみません」
「あん?どうしたんだよ?あらたまって?」
ユーリがそう言って私を見る。
それはワイズマンさん達も同様だった。皆が不思議そうにして視線を向ける中、私は言う。
「私が男のアバターを使ってた件、ずっと気になってて・・・あれは騙そうとしてたわけじゃなくて・・・」
そう言って頭を下げる私にワイズマンは不思議そうな表情をした。
「なんで謝るんですか?MMOではよくあることです」
「私も気にしてないよ。口調も変わるんだって思ったくらい」
気にしていない二人に私は顔を上げる。
ユーリの方に私は顔を向けると、彼も壁に背中を預けながら言った。
「俺も気にしてねえよ。まあ、イオリが俺よりも歳下っぽいてのには驚いたけどな」
そう言って笑う彼に私は安堵の息をつく。
「よかった・・・」
安堵する私にワイズマンさんは気にするどころか、歓迎するような口調で私を迎えいれてくれる。それが今は何よりも嬉しかった。
「見た目より中身ですよ。あのナナボシを捕まえようとする強気な性格大歓迎ですし──」
そう言うワイズマンにサーユは会話に割り込む。
「それより、これからどうすんのって話だよ!」
このデスゲームが始まってから一ヶ月。何一つ音沙汰がない。焦るのも当然だ。
そんな彼女にワイズマンは頷いた。
「そうです!まずはいち早く強くなるべきかと思います」
「それは俺も賛成だ」
ユーリも彼の言葉に頷く。
だが、サーユだけは別だった。
「攻略のために?此処に入れば安全じゃん」
そう言う彼女にワイズマンはサーユに理由を説明する。
「いえいえ、自己防衛です。この先、何が起きるか分かりませんから」
「どういう意味・・・?モンスターに殺されたくなかったら街に入れば安全でしょ?《圏内》だから死なないし・・・!」
彼女の言葉も一理ある。確かに圏内に入ればモンスターが中に入ってくることはない。だが、ずっと安全かと言われれば話は別だ。
「じゃあ、もし茅場が《圏内》を無効化したらどうするんだよ。あの男は世界を
ユーリの言葉にサーユは驚いたように彼に詰め寄った。
「は!?待ってよ!じゃあ、ワイズマンやユーリはモンスターが街にの中に入ってくるかもって言いたいの!?」
「もしもです!もしも!」
ユーリに詰め寄るサーユにワイズマンは割って入る。
少し落ち着いたサーユはユーリから離れると、そのまま近くのベッドに腰を降ろした。
「それに・・・こういうデスゲームで怖いのはモンスターだけじゃないですし・・・」
「・・・罠とか?」
そう答えるサーユに私はワイズマンさんが言おうとしている事を口にした。
「プレイヤーですね」
その言葉を聞いてサーユは取り乱す。
「ちょ、それ襲ってくるってこと!?」
そう言うサーユに私は小さく頷いた。
「・・・考えたくないですけど、一万人もいたら中にはそういう人も・・・PKまではしなくても剣で脅してアイテムを奪うくらいには・・・ねえ」
私はユーリを見る。
「・・・そうだな。イオリの言う通りだ。サーユだってベータの時、クラーク達と一緒に襲われただろ。あんな奴等いる以上、避けられねえ問題だ」
ベータテストの時、私とユーリは襲われた事があるのだ。PKの二人組に。そしてサーユ達もそれを経験している。
「・・・もうやだ」
しゃがみ込むサーユにワイズマンは励ますように言った。
「でも、皆さん。僕たちは他のプレイヤーを一歩リードしているんですよ。ベータテストの情報と経験が僕たちにはあります。それを活かすんです」
そう言ってワイズマンさんは私達を見る。
「だからクエストが混み合う前に〈ホルンカ〉で強い武器を手に入れませんか?」
そう言うワイズマンさんに私は───
「・・・でも、それじゃあ他のプレイヤー達に良く思われない可能性がありませんか?」
「どういうことだ?イオリ?」
私の言葉にユーリが聞いてくる。
「理由を聞かせてもらえませんか?」
問い詰めてくる二人に私は言った。
「ワイズマンさんが言う〈ホルンカ〉のクエストって《森の秘薬》のことですよね」
「そうですね。一層で手に入る片手剣の中ではかなり強力な《アニールブレード》が手に入りますから」
頷くワイズマンさんに私はユーリ達を見る。
「今のこの状況で私達が先に強くなったとして・・・他のベータテストを体験していないプレイヤー達からしてみれば、私達はズルをして強くなっているって思われるかもって・・・」
「・・・そう、ですね。もし、それでベータテスター達と他プレイヤーとの間に溝が出来る可能性もあります」
ワイズマンさんは私の言おうとしていることに察したのだろう。頭を悩ませるように、手を顎にやる。
そんな重苦しい空気の中、ユーリが口を開いた。
「でもそう悩んでいる暇はねえだろ。仮に初心者を連れていくとして、一人や二人ならともかく、それが五人、十人にもなったら俺達も自分の身を守り切れるかどうか怪しい。違うか?」
「それは・・・」
ユーリの言葉は間違っていない。
私達《桜花騎士団》のメンバーも私とユーリ、スティーナはベータテスターだったとはいえ、ザッシュとムソウさんもかなりの実力者だった。
そんな私達でさえ《救世の剣士》クエストの最後でユーリは私を庇って────
「お、おい!イオリ、大丈夫か!?顔が青いぞ!?」
ユーリが慌てたように私の顔を覗き込む。
「だ、大丈夫。大丈夫だから・・・」
私はそう言って心を落ち着かせる。
「では、《ホルンカ》への行き方ですが・・・」
「ごめん!」
ワイズマンがそう言いかけたところでサーユが頭を下げた。
「私、どうしてもクラークに会いたい!どうするかはそのあと決めるのでもいい?」
サーユのその返事にワイズマンは頷いた。
「わかりました。クラークによろしくお伝えください」
「うん!皆気をつけてね!」
そう言って部屋から出ていくサーユさんを見送り、私達は《ホルンカ》へどう向かうかを話あった。
「では《ホルンカ》への行き方なんですが・・・僕はこっそり行くべきだと思います」
ワイズマンさんはそう言いながら理由を説明する。
「これは考えすぎかもしれませんけど・・・揃って移動するとベータテスト未経験の人達に変に疑われそうなので・・・」
「つまり、それぞれ別れて向かい、村で合流ってことですね?」
そう言う私に、ワイズマンさんは申し訳なさそうな顔をする。
「いやあ、他のプレイヤーを信じないなんて僕自身、どうかしてるんですかね・・・」
「そんなことはないと思います」
この状況、人を疑うのは当然だ。生き残る為には疑う事も大切だとユーリやムソウさんから教えてもらっている。
「ああ、でもユーリさんは誰かと一緒の方がいいかもしれませんね。ベータテスターで腕は立つとは言え、プレイ時間はかなり短い筈でしたし」
「・・・そうだね。ユーリ、私もそうした方がいいと思う」
「別に俺は気にしてないけどな。まあ、二人が心配だっていうなら俺は二人の言う事を聞いておく」
そう返事をするユーリにワイズマンは言った。
「なら、ユーリさんはイオリさんと一緒に行動してください。流石に女の子を一人にするのは危険ですから」
「言われなくてもそうするっての」
そう言ってユーリは私の方に視線を向ける。
「そう言う訳だイオリ。俺がお前を死んでも守ってやるから道案内役、よろしく頼むぜ」
「死んでもは駄目だよ。死んじゃったら終わりなんだから」
そう答える私にユーリは笑って───
「それもそうだな。じゃ、背中は任せたぜ。イオリ」
「・・・うん。私も
今度こそ───絶対に。