ソードアート・オンライン CHOSE the start Over 作:鉄血
──朝。
わたしは宿屋のベッドで目が覚めた。
今日、あの洞窟へと向かう予定だ。私とユーリ、そしてカルの三人で潜ったダンジョンであり、私達の運命を変えたあのブローチを手に入れたあの洞窟。
あのブローチを手に入れたのはスティーナのように偶然だった。けど、あのブローチは《桜花騎士団》の皆と出会うきっかけにもなり、同時にこの世界で・・・ううん。私の人生の中で大切な人を私から奪った。
ベッドから降り、鏡の前に立つ。
栗色の髪に青い瞳。そして誰もが振り返るような容姿。嫌になるくらい見慣れた現実の自分だ。
そんな自分が私は嫌いだった。
誰も本当の私を見てくれない。
歌姫としての作り物の私しか、誰も見てくれなかった。
本当の
だから逃げた。現実から。責任から。
ライブの当日の日。ファンやスタッフさんの皆の期待を裏切って、私は逃げた。
逃げた私は通信制の高校に入って、現実逃避をするように家に閉じ籠もってゲームばかりやっていた。
そんな状況の中で、私は《ソードアート・オンライン》のベータテストに当選し、リアルから逃げるように仮想世界へのめり込んだ。
ゲームに熱中し、本気になる私に誰もついていけないと言って私の元から離れていく中、ベータテスト最終日、私はユーリと出会った。
本当の私を否定しないで笑って受け入れてくれたユーリに、私は始めて誰かに自分を受け入れてくれたと感じた。
ユーリ。貴方のおかげで私は、心の底から信じられる仲間が出来たの。そして今まで逃げ続けた現実からもう逃げたくないって勇気も貴方が背中を押し続けてくれたおかげで持つことが出来た。
貴方と一緒なら何処にだっていける。《救世の剣士》クエストをクリアしたら私のこの思いを彼に伝えよう。そう、思っていたのに。
ユーリが死んだ。
私を庇って──目の前で。
あの瞬間をあの光景を私はきっと忘れる事はないだろう。
だから今度は絶対に死なせない。ユーリも。カルも。サーユさん達も。
大切な人を仲間を───失うのはもう、イヤだから。
◇◇◇◇◇
宿屋から出ると、外にユーリが暇そうに私を待っていた。
宿屋の出入り口にいる私に気付いたユーリは笑みを浮かべると手を上げる。
「イオリ!こっちだ!」
「お待たせ、ユーリ。待った?」
「いいや、そんなに長く待ってねえぜ。ワイズマンの奴もそろそろ来るはずだ」
そんな会話をしていると、道具屋の方角からワイズマンが走ってくる。
「お待たせしました。皆さんも準備はもう出来ましたか?」
「うん」
「おう、準備万端ってな!」
そう言う私達にワイズマンさんは頷くと、私達を見た。
「では行きましょう!イオリさん、道案内役をお願いします」
「はい。任せてください」
目的地は《青い雫の洞窟》。
あそこは《ホルンカ》からはそう遠くない。
ボスもそこまで強いという訳ではないが、洞窟の入口にいる狼が麻痺攻撃を使ってくるのでそこは対策をしなければならない。
油断せずにいこう。
◇◇◇◇◇
《青い雫の洞窟》入口──
「・・・首が無くなっても動く狼ってなんだよ」
ユーリがゲッソリとした様子でダンジョン入口にあるセーフティポイントに座り込む。
「油断しないで正解だったね。あの狼、やっぱりベータの時と変わってた」
ベータテストの時は首が無くなったらそのまま消滅していたが、今回は首が無くなっても首無し狼として私達を襲ってきた。
私は一度、体験しているのでさほど驚きもしなかったが、ユーリに関しては初見殺しの体験だっただろう。
「だな。となると、ボスも何らかの変化があるのは間違いない、か」
「そうだね。もしかしたらボスも変わってるかも」
確かボスの鼠男もシーフからクイーンに個体そのものが変わっていた。一度デスゲームの場を体験している私がユーリを守らないと。
「でも、ユーリもすごく強くなったよね。一人でボスのHPを半分以上削っていたし」
「おう。イオリから貰った剣がすっげえ役に立ってる」
「そっか。役に立って良かった」
プレゼントした剣が彼の役に立ってくれたのなら、プレゼントした私としてもとても嬉しい。
少し休憩した後、ユーリは立ち上がった。
「んじゃ、このまま最深部まで行こうぜイオリ。勢いがあるうちに」
「確かに勢いは大事だし・・・このまま行っちゃおう。先に行ったワイズマンさんも待ってるかも知れないし」
そして私達は洞窟内へと向かった。
この時、この瞬間だったのかも知れない。私の知る未来が変わり始めたのは。