私は夢を見た。
黒い太陽が昇り、地獄が広がっている、そんな夢。
今まで色々な場所を見てきた。
戦闘によって破壊された野原や市街地。
しかし、それらとは、一線を画する。
まさしくそれは地獄。
夢であるはずなのに、焼け焦げた肉のような、錆びた鉄のような…そんな匂い。
黒い太陽が嘲笑うかのように輝く。
辺りを覆う泥のようなものに魔力を感じる。いや、感じるどころのものではない。感じるのは、死。あれに触れて生きていられるものはない。
既に、これが現実なのか否かわからない。
私は、局員として、人の死を見たことがあるけど、これほど多くの死体を見たことは無い。
生きていたとしても、それはもう死にかけ…
それに、あの泥のようなに触れていたならば救いようがない。
私は、夢の世界を歩き続ける。
生き絶えた人の合間を縫って歩く。
ああ、まだこの地獄に生きている人がいた。
一人だけ…ただ一人だけ生きていた。
赤褐色の髪をした子供が一人。
だけど、その少年も遂には、力尽きて倒れてしまう。
私の身体は、金縛りにあったかのように動かない。
助けたい…
だが、無情にも私の身体は動かない。
そう思っていると、男の人が現れた。
黒いスーツの男の人………
もうすでに服はボロボロ、あちこちからの出血で、黒くくすんで見える。
男は、少年の手を取り涙を流す。
「よかった生きてる」
涙ながらにそう叫ぶ。
その叫びは、地獄に響き渡る。
その姿を私は見ていることしかできなかった。
次の瞬間景色が変わる。
さっきまで見ていた二人が並んで座っていた…
あれから何年か経ったのだろう。男の方は、痩せこけていた。
「士郎。僕はね、正義の味方になりたかったんだ」
男は不意にそう言った。
「諦めたのかよ?」
ほんの少し怒気をはらんだ口調で少年は言った。
「ああ、そうだね」
なんとも言えない表情で、男は呟く。諦めなのか、安堵なのか………その言葉に含まれたものはわからない。
「仕方ない。俺がなってやる。じいさんが諦めた正義の味方に俺がなってやる」
男は、驚きながらも、
「ああ、安心した」
そう言って、目を閉じた。私には、男がなぜ安心したと呟いたのかわからない。
なぜ最後にそんなことを言ったのかわからない。
そして、また景色が変わる。
そこには、赤い外套の男と、赤褐色の髪をした少年、そして、金髪の少女がいた。
赤い外套の男に見覚えがある。だけど誰なのかわからない。顔が見えない。
男は、目の前の少年に向けて、魔力を孕んだ剣を投げる。
目で追うのも難しい速度でそれは、少年に向かう。
私たちの訓練のときとは、全く違うものだった。
確実に殺すために………
その剣を、途轍もない魔力の塊を持っている少女が叩き落す。
それは、まさに戦場。私の体験したことのないもの。
一撃でも喰らえば死が訪れる。そんな戦い。
目の前にいる男と少女は、私が太刀打ち出来るような相手じゃない。ならば一般人であるはずの少年が勝てる見込みなどない。
「士郎………逃げてください!」
少女の悲痛な叫びが辺りに響く。
それでも、彼は逃げない。
なぜか?あまりにも理解不能だ。
目の前にいるのは、本当の意味で化物。
普通ならば逃げるはず。逃げても誰も責めるはずがないのに………
「セイバー………これは俺とあいつの戦いだ」
いつの間にか、その手には、剣が握られている。
あの剣には、見覚えがある。私たちと共に戦ってくれるあの青年の剣だ。
「やはり、貴様は貴様のままということか………
ならば、ここで死んでもらおう。正義の味方という幻想を抱きし愚者よ」
男の手にも、剣が現れる。青年のあの剣と全く同じものが………
「貴様を殺す」
男のその声は、あまりにも悲しげだった。
私には、何がなんだかわからない。
そこでまた、景色が変わる。
次は、砂漠。
そこにいたのは、白い髪をした少年。
銃弾の飛び交う戦場を走り続ける。
少年の戦い方に見覚えがあった。
少年の戦い方は、エミヤさんのそれと全く同じ。
そして、彼は、人助けをし続け、人を救い続ける。
時間が経っていくごとに、その少年の後ろ姿は、エミヤさんに似ていく。
これは、何なんだ。
そう私は叫びたかった。
少年はいつしか大人となっていた。
男は、人救い続け、「化け物」と呼ばれ、絞首台へとのぼった。
そこで夢は終わる。
これは、何なんだ。何なのか分からない…
しかし、男が絞首台に登るそのときの後ろ姿があまりにも、そう、あまりにも彼に似ていた。
それは、かつて親友が貸してくれたあの物語の主人公の生き様にあまりにも似ている。
気がつけば、また彼は戦っている。死んだはずの彼は戦い続ける………
多くの人間を敵に………
赤褐色の髪の少年と………
化物のような存在達と………
戦って、戦って、戦い続ける。
そして、世界が変わる。
出逢ったのは少年。
「君が誰かを救いたいなら、力を貸そう。
私は誰かって?なに、君と同じように誰かを救うために戦ってきた男の一人さ」
男は、少年に手を差し伸べる。
それは、あの物語の始まりのように。