そう、私は無力だった。
救いたい人がいても救えない。誰よりも強くなりたい、そう願ったわけじゃない。
もう誰かが泣くのを見たくなかったんだ。
もう誰かの悲しそうな顔を見たくなかったんだ。
嗚咽が聞こえる。幼い少女の泣く声が聞こえる。
また、またなのか………
また、私は誰かを泣かしてしまうのか………
誰かを悲しませたくない、そう言いながら本当に大切な人たちを泣かしてきた。
またなのか?
嫌だ。絶対にそんなことさせるわけにはいかない。
魔術回路は、悲鳴を上げ続ける。
身体からは剣が出ている。
それでも、私は………
「私は大丈夫だ。だから、もう泣かなくて良い」
彼女を安心させるために呟く。
ありえない。なぜ彼はそんなことができるんや?
「エミヤン!大丈夫なわけないやろ!早く治療せな!」
今だ身体中から剣が出ているという格好。
そんな人間が大丈夫なわけあらへん。今喋れていること自体奇跡だ。
かつてなのはちゃんが怪我したときよりも酷い。
………生きていること自体ありえない………
彼は本当に人間なのか?
頭に浮かんだそれは、こびりついた錆のように消えてくれない。頭に残り続ける。
今まで助けてくれた彼を疑うのか?
今まで共に戦ってきた彼を疑うのか?
「はやて、私は大丈夫だ」
不意に彼は言った。
それは、私の心を見透かしたように………
それでも、私のことをいたわるように………
なぜだろうか?
私は安心していた。
彼の言葉を聞いて、彼の声を聞いて。
「う、エミヤン!大丈夫なわけないやろ!その剣はいつになったら収まるんや!早く治療せなあかんやろ」
なるべくさっきと同じように言う。
たぶん心の何処かで感じたのだろう。
彼が大丈夫だと言うなら、本当に大丈夫なんだと………
剣が消えたのはそれから数分後だった。
最初から何もなかったかのようにそれは消え失せた。
そして、驚くべきことに傷すら消えていた。
それでも、身体にダメージがあるのか、その顔は苦痛に歪む。
「エミヤン!申し訳ないけど後でこうなった経緯聞くから」
私は、即座にシャマルに連絡を入れる。
機動六課もかなりの襲撃を受けたはずだ。
それでも連絡を入れておく。
「シャマル!緊急患者や!用意頼むで」
私の家族なら、彼の異常な状態もわかるはず。
それは、一種の希望的観測。実際は上手くいかないかもしれない。
それでも、それでも、最善策であろうそれを選ぶ。
もう彼はただの協力者じゃなかった。
共に戦う戦友で、私が守りたいとても大切な人だ。
「はやてちゃん………申し訳ないけど原因は分からなかったわ。ひとつ分かったことは、彼のリンカーコアはかなり損傷しているということ。だけど、それは最近のものではないわ。何年もずっと壊れ続けている」
「それを魔術で補っていた………本当に何者なんや」
私は上司であるはやてちゃんにそう説明する。
ひとつ分からないことは彼はいつから魔術で補っていたのか?ということ。
もしかすると………彼と初めて会ったときにはすでに………
それは推測のものでしかない。今の機動六課に、そんな推測でしかないことに構っている時間はない。
フォワード陣が日頃の訓練の成果を出してくれたおかげで、どうにか対処できたにはできた。
しかし、それすらも上回る最悪の情報が入ってきた。
ヴィヴィオちゃんが攫われ、魔法の効かないであろう敵に対して最強の戦力であったあろうシロウさんの離脱。
今の機動六課の現状は厳しいとしか言えない。
シロウさんを倒すほどの敵。それはあまりにも想像を超えている。
「エミヤさんまだダメです」
それは廊下から響いた。怒号いや、懇願するような声。
開けられたドアの向こうにいたのは、先ほど検査をしたばかりのエミヤシロウだった。
「私が交戦した敵について情報を与えたい。全員を集めて欲しい」
エミヤシロウが交戦中に負傷した。
それは瞬く間に機動六課に響き渡った。
私たちが幾ら束になっても敵わない、それが私たちの共通の認識だった。
私たちにとって彼は教え諭してくれる、そんな存在。
だけど、私たちは彼のことを知らなかった。
「いったい貴方は何者なんですか?」