「彼は何者なのか?」
強く、優しくて料理が上手な人。今までは彼をそう見てきた。
だけど、彼は何者なのか?
彼は言った。私は魔術師だと。
彼という人間がどんな人間なのか?
それについて今まで目を逸らしてきた。彼の過去を知らなかった。いや、知ろうともしていなかった。
彼が自分のことを話さないことをいいことに知ろうとさえしなかった。
いや、ただ一人。一人だけ彼を知ろうとしたものがいた。
それは、自分たちよりも幼い少女。
聖王と覇王の記憶を持つという稀有な存在。
彼は彼女を信頼している。それも、私たち以上に。
私の記憶の中の彼はいつも一人だった。
友がいた、師匠である女がいた、仲間もいた。
それでも彼は一人だった。
彼の始まりは地獄。
そして終わりは訪れない。永遠に………
永遠を望む人がいる。だけど、それは終わりのない地獄。
それを彼はいまだに歩み続けている。
いまだに彼は彷徨う。絶望を知り、望みを持ち、希望を見つけ。
だけど、本当の意味で彼は一人ぼっち。
なら、私は彼に何ができるだろう?私は彼を支えることができるだろうか?信じ続けることができるだろうか?
それは、そのときにならないと分からない。
それでも今は彼を信じ、支え続ける。
「すまないが、話の続きをしようと思う。時間を取らせてしまって申し訳ない」
アインハルトちゃんとともに部屋に入ってきた彼は初めにそう告げた。
「さて、これから話すことはあまりにも現実離れしているものだが、全て事実だ。そして、私のことについても全て話そうと思う」
何時もの口調。聞き慣れたその落ち着いた声。だけど、少し後悔するような声音。
「まず、聖杯戦争というものについて説明しておこう。さきに述べたように魔術師の戦争だ。しかし、彼ら自身が戦うわけではない。彼らはサーヴァントという使い魔を呼び出し戦う」
「使い魔?それはどうゆう存在なんや?動物とかそうゆうのなんか?」
「いや、違う。サーヴァントは人間だったものだ。それもある特殊な人間だったもの。それはかつて英雄と呼ばれた存在」
「英雄」
その言葉にあの本の主人公が浮かび上がった。
だけど、それはあり得ない。
「エミヤさん。その英雄っていうのは、ギリシャ神話とかの英雄のことですか?」
地球出身の私やなのはちゃんにとっては聞き慣れたその神話。だけどそれはほとんど創作のようなそういうものだったはず。
しかし、エミヤンの答えは私の考えを裏切るものだった。
「そう、そういうものに出てくる英雄だ。実際、ギリシャ神話のヘラクレスが戦争に呼び出されている。創作であろうとなんであろうと人々の信仰の対象となっていたものは、実際あることになる。まさしく聖書の神と同じように。そして、それが今回あの騎士が現れた原因ひとつなのではと考えたがね。まあ、限りなく可能性は低いと言えるだろう」
驚きの声が上がるのも、仕方が無いことだった。ギリシャ神話のヘラクレス。それは、誰もが聴いたことのある英雄。少なくとも地球にいたことのある機動六課のメンバーに驚きの声が上がっている。そして、あの騎士の現れた原因の一つかもしれないこと。
「それじゃ、そんな超常現象を形にしたようなものを使役して戦い合うんか?そんなことがあったら、街が滅ぶで!」
「ああ、実際被害が出たこともあったそうだ。だが、魔術師は、人々に見られないようにするという暗黙の了解があった。そのため表立った被害は出なかった………
まあ、表向きはだがな。実際被害が出た際は、通り魔やガスによる爆発などと説明されていた」
苦々しくそう呟く。
それほどまでして魔術という存在をないものにしようとしていた。
「さて、なんでも叶う願望機を巡る戦争をなぜ私が知っているか?さっきはやてに言ったように普通は知る由もないことなのになぜ私は知っているのか?」
一旦区切る。その間があまりにも重くのしかかる。
「私は、幼少の頃その戦争に巻き込まれたからだ」
やはりとでも言えば良いのか、何と言葉にすれば良いのか。ただひとつ言えるのはその事実に納得してしまったということだった。
「私は、幼少の頃ある街に住んでいた。しかし、その街はその戦争の舞台になってしまった。第四次聖杯戦争。そう呼ばれているその戦争の舞台となった。そしてそれは起きた。街は地獄へと変わり、空には黒い太陽が昇った。辺りはまさに地獄。昨日ともに遊んだ友が死んでいた。優しかったお姉さんが死んでいた。毎朝会っていたお爺さんが死んでいた。そして、家族も、誰もいなくなった」
その言葉を聞いてなぜか私はそれを知っている。そう思ってしまった。それは、あの本の主人公の過去。そして、夢に出たあの青年の過去に重なっていたから………
だけど、それは、そう、あり得るはずのないこと。
「私も既に限界だった。辺りは一面火。黒い太陽からは泥のようなそんなものが流れ出ていた。目を閉じようとしたとき、頬に水滴が落ちるのを感じた。目を開けると男がいた。全身ボロボロのスーツの男が俺の手を握っていた。
「良かった、生きてる」そう言って俺を抱きしめてくれた人がいた」
そう私の、俺の理想と出会ったのはあの地獄。
全てが死に絶えたあの場所で俺を救ってくれた正義の味方。
「私はそこで救われたんだ」
静まり返ったその部屋に彼の声は響く。
彼の声が大きいわけではないのに、そう感じさせる。
「私は、彼の養子となった。あの戦争のせいで、私は私の名前以外の何もかもを失っていたから」
「私にとって、彼は正義の味方だった。あの地獄のなかで俺を救ってくれた正義の味方。だけど、彼は「正義の味方になりたかったけど、なれなかった」と否定していた。それでも、私は彼のようになりたかった」
正義の味方。
よくある戦隊モノに出てくるその存在。
悪と戦い人々を守る。
具体的なようでいて、その存在というのはあまりにも抽象的だった。
何が悪かも分からない。そもそも悪なんであるのか?
何を持って正義だと言うのか?
「私は正義の味方というものに憧れた。だけど、分からなかった。彼が憧れた正義の味方がなんだったのか?どうすれば正義の味方と言えるのか?わからないままだった。
だから、彼に教わったことを繰り返し続けた。彼に教わった魔術を………」
「魔術……それじゃその男の人は魔術師だったんですか?」
「ああ、しかしだけど彼も私と同じように魔術を使うものであって、そうじゃなかった」
その言葉を聞き、なぜか安堵してしまう。
彼の父親がそんな人を殺すような存在に思えなかったから。いや、思いたくなかったから。
「そして、私は何も見出せずにいた。その戦争が始まるまでは………」
その戦争………その言葉だけで何が起こったのかいやでもわかってしまった。
「第五次聖杯戦争。私はそこで師匠と呼べる人と出会い、そしてあの少女と出逢った」