「私は、その戦争で知った。彼の正体も、なぜあの日あの地獄が生まれたのかも」
第五次聖杯戦争。
彼が明かした。彼にとってのターニングポイントとも言うべきそれ。
そう衛宮士郎という男が生まれたきっかけ。
「私を救ってくれた彼は私が幼少のうちに亡くなってしまった。まだ30半ばぐらいのうちに………幼いうちはよく分からなかったが、彼の痩せ細りかたは以上だった。それは、呪いにかかったように。だけどそれのおかげで彼の本当の正体を知ることも出来た。彼は「魔術師殺し」と呼ばれた存在だった。そして、あの戦争の参加者であり、唯一と言ってもいい勝者だった」
「そんな………あんまりだろ……」
震えたその声は誰のものか判別できない。
「つまり、エミヤンは、戦争の張本人である男に救われたというわけなんか?」
彼の口から出るそれはあまりにも残酷なものだった。
彼を救った存在が彼を、彼の大切な人たちを死に至らしめた。あまりにも残酷で悲しい。
だけどそれは言葉では言い表せない。
「彼の目的は、誰もが幸せな世界だった。そのためになら、自らが悪になると言ったらしい。そして、彼は幸せな世界を作るために戦い続けた。人々を苦しめた存在を殺し、魔術師によって、人外にされた人々を殺し、それを行った魔術師の自分の父親を殺し、多くの人を救うために、自分を育ててくれた師をも殺した。殺し続けたその末に彼は聖杯を望んだ。何もかもを叶える聖杯を。だけど、それすらも裏切られた」
「裏切られたって…………だって、唯一の勝者だったんでしょ?なんで?」
甘い話には裏があるとどこかで聞いたことがあった。それをいまの話は体現しているかのよう。
「聖杯は、いつからか歪んだものとなっていたらしい。
願いの裏を取る。そう例えば、すべての人の救済を願うなら、人類そのものを消滅させる。そんな風に歪んだ」
彼は、聖杯が歪んだものとなっていると気づき、破壊した。しかし、完全に破壊出来ず、その後遺症があったのか。先ほど話したような結果になったらしい。
救いなどない。いつだっただろうか?そんな文を見たような気がする。その言葉を体現している。
まさにそれそのもの。
男の生い立ちすら血生臭いもの。
大切なものが一つ一つ消えていく。願ったものは、どこにでもあるはずの幸せだったはずなのに。
それじゃあ彼はどうなのだろうか?
衛宮士郎はどうなのだろうか?
「私は、最初から逃げ道などなかったのかもしれない。
私が見たのは赤い閃光と青い閃光がぶつかりあう姿だった。そして、私は戦争に巻き込まれて行くことになった。いや、自らその戦いに身を捧げたと言えば良いのか。
彼女と出逢ったのは、必然だった。
私はマスターとして彼女を召喚した」
一つ、また一つと記憶が蘇る。
それは、かつて私の記憶にある彼が聞いたものと一致していく。
彼が師匠と慕っていた彼の言葉のひとつひとつが蘇る。
「正義の味方」それは、衛宮士郎にとって呪いの言葉。
彼の過去を聞き、覇王と呼ばれた少年は唇を噛み締めた。
聖王と呼ばれた少女は涙した。
神様という存在がいるのなら、それはあまりにもひどい人だね。
そんな風に言っていた。
いま話しているのは、まだ彼の始まりの話でしかない。
そうこれは彼の悲しき運命の始まりに過ぎない。
それを思うと胸が痛くなる。彼が歩んで来たその道はあまりにも残酷なもの。
「私はマスターとしては、三流にもなれない。そんな存在だった。だけど、彼女と師匠となってくれた少女のおかげで生き延びることが出来た。それは、奇跡としか言いようがなかった。今のように剣を扱えたわけでもなかったのに………
クーフーリンやヘラクレスと戦って死なずに済んだのだから」
「エミヤン?!ヘラクレスと戦ったやて?そんな化け物と戦って死なずに済んだ?嘘やろ?なあ、ジョークに思えへんで」
「奴はその理性すら失った存在になっていた。それだけで本能としてしか動けない。その分勝機があった。まあ、それでも限りなくゼロに近いものではあるがね。それに、師匠のサーヴァントであった男が捨て身で傷を負わせていたこと、それに彼女という存在が大きかった」
彼女の正体。
彼女がヘラクレスという化け物と渡り合うほどの存在であるのは明らかだ。
ならば彼女は何者なのか?
「彼女は誰なんや?」
少し目を瞑り、悩むような素振りを見せ答えた。
「地球には、数多くの物語がある。その中でも、人々を魅了し続ける伝説がある。彼女は、剣に選ばれ、王となった。そして、誰もが褒め称える騎士でありつづけた。
彼女は、アーサー王。騎士王と呼ばれた存在だった」
円卓の騎士。その物語は、永きに渡って人々を魅了し続けた。
騎士というものの例として挙げられるひとつであろうそれ。
アーサー王のその人生は、人々を魅了し続けた。
「アーサー王?男じゃないのか?」
「信仰されていくうちに、真実が覆い隠されてしまうことはよくあることだ。そして、彼女もそうだった」
「彼女は、私にとって、剣の師である。そして私の実力はいまだに彼女には遠く及ばない。彼女は、自らその手に剣を取り、戦乱を駆け抜けた本物の英雄。私など足元にも及ばない」
それは、事実上の負けを意味する。
この場にいる誰よりもエミヤは戦い慣れている。
本能か勘か?だが、それを感じたのは間違いじゃない。
そのエミヤですら勝てない相手。
絶望を感じざるおえなかった。
「彼女がなぜこの世界にいるのか。それについてひとつだけ思いつくものがある。それを潰すことができれば、彼女の存在を消滅させることが可能かもしれない」
そうエミヤは、つぶやいた。