翌朝、第二庁の地下へ下りる階段は昨夜よりも明るかった。
壁へ埋め込まれた源石灯の数が増えたわけではない。地上階の高窓から差し込む朝の光が、螺旋階段の上端を白く縁取っているだけだった。それでも、人間は出口の位置が見えるだけで、同じ暗闇を少し浅く感じるらしい。
リヴィオは昨夜と同じ段を踏み、同じ灯りの下を通った。
前を歩くベアトリーチェの法衣の裾が、床石をかすかに擦っている。そのさらに前では、第二庁の庁務継承官が鍵束を持ち、一定の速度で階段を下りていた。
第五庁からはリケーレ、第一庁からはニコラが立ち会っているが、オレンの姿はなかった。彼は第七庁の旧機密記録に関する審査へ呼び戻され、後から合流するという連絡だけが届いていた。
昨夜、彼らが閲覧できたのは、廃止官署と権限移管に関する記録だけだった。今日、第一庁の緊急許可によって追加されたのは、沈黙計画第三実験班の構成員名簿と、事故後の処分概要である。
事故そのものの記録は、まだ開示されていない。誰が処分されたかは読めるが、なぜ処分されたのかを確かめるための資料は封じられている。その情報の出し方の順序に、リヴィオは嫌な予感を覚えていた。
庁務継承室の扉が開く。古い紙と革の匂いが、昨夜と同じように廊下へ流れ出した。
書庫は朝になっても墓所のようだった。地上で陽が昇ろうと、地下に並ぶ官署が生き返ることはない。
継承官は、沈黙計画合同監査室の棚から薄い台帳を取り出した。
表紙には『最終処理関係者名簿』と記されている。
「閲覧許可の範囲を確認します」と継承官が言った。「氏名、当時の役職、事故後の職務上の処分、権限停止および移管記録。医学記録、詳細な教理審査、供述調書は対象外です」
「氏名の横に罪だけ書いて、根拠は読ませないわけですね」リケーレが言う。
「罪とは限りません。あくまで処分の概要です」
「読む側には同じように見えますよ」
「見え方を管理するのは、第二庁の職務ではありません」
継承官は台帳を机へ置いた。
ニコラが閲覧開始時刻を記録すると、乾いた頁がゆっくりとめくられた。
最初に現れたのは、合同監査室の責任者たちだった。
監査官、教理顧問、第七庁の機密立会人、医療担当者。そしてその下へ、法定記録官の名が続く。
『マティアス・ロッシーニ』
当時三十一歳。現在のリヴィオと同じ年齢だった。
署名権限の欄には、実験記録の公証、監査記録の分類、資料封鎖への立会いとある。三十二年前のマティアスは、まだ使徒公証官ではない。決定する者でも、命令する者でもなく、命令された内容を適式な記録へ変える者だった。
その署名が、後に隠蔽を法的事実へ変えることになる。
継承官が次の頁を開く。それは第三実験班の技術職員名簿だった。
音響技師、源石回路技師、鐘律測定員、保守担当者と並ぶ中、上から三人目に、赤い付記を伴う名があった。
『音響源石技師 ルカ・ヴィアンキ』
リケーレが僅かに身を乗り出した。
名前の横には、通常の黒い文字とは異なる赤いインクで、事故後の処分が追記されている。
『事故時に無許可発砲』
『重大な法違反および教義違反の疑い』
『公民資格審査へ移送』
さらに下には、別の日付で短い一文があった。
『堕天認定。国外追放処分』
書庫の空気が冷えたように感じられた。地下の気温は一定に保たれているはずだから、変わったのは空気ではなく、その場にいる人間の呼吸だったのかもしれない。
「テオ・ヴィアンキとの関係を照合してください」
ベアトリーチェが言った。
継承官は別の台帳を開き、古い人事番号を中央記録へ照会した。淡い光の文字列が、机上へ浮かび上がる。
『ルカ・ヴィアンキ』
『ラテラーノ居住資格停止』
『国外追放先――イベリア北部教区』
その十四年後、国外教区から一件の出生登録照会が届いていた。
父、ルカ・ヴィアンキ。母、マリア・ヴィアンキ。子、テオ・ヴィアンキ。
「事故の十四年後ですね」ニコラが記録を読み上げた。「テオは父親の追放後、国外で出生しています」
母親は、国外教区の救護施設へ派遣されていたラテラーノ市民だった。ルカとの婚姻は現地教会へ届け出られている。しかし、テオの出生から二年後、母子だけがラテラーノへ帰国した。ルカの再入国申請はない。
国外追放処分を受けた者が聖都へ戻るには、教理上の再審査と公民資格の再確認を受けなければならない。だが、ルカがその手続きを求めた記録は一度も残されておらず、その後の所在も不明だった。
「テオは、父親が追放されてから生まれた」リヴィオが言った。「事故を見ていないし、父親と同じ職場に立ったこともない」
「父親と暮らした記憶も、ほとんどないでしょうね」リケーレが出生記録へ目を落とす。「二歳で帰国しています」
継承官は、さらに一件の記録を表示した。
テオが神学校への推薦を受けた際の身分調査だった。学業成績、教区活動、鐘楼管理所での奉仕歴、素行評価。どの欄を見ても、重大な問題は記されていない。
保留理由だけが、短い一文で残されていた。
『父系身分記録について、追加の教理照会を要する』
「本人に問題がなくても、父親の記録で止まるわけですか」リケーレが言った。
「神学校は、公民資格と教理上の身分を確認する義務がありますから」とベアトリーチェが答える。
「その義務が、父親の行為を息子へ継承することまで正当化しますか」リヴィオが尋ねた。
「正当化はしません」
「しかし現実には、入学が保留された」
「審査の結論が出ていない以上、保留せざるを得ないと判断されたのでしょう」
「審査はいつ終わる予定でした」
ベアトリーチェは記録を確認したが、回答欄は空白だった。追加照会を出した日付だけがあり、その後の処理は存在しない。
「また未了ですか」リケーレが乾いた声で言った。
誰も答えなかった。
ルカが国外へ追放された後も、その記録はラテラーノへ残った。息子が国外で生まれ、父親を知らないまま聖都で育ち、神学校への推薦を受けるまで成長しても、身分調査の際には同じ赤い文字が読み返されたのだ。
記録は人間より長く生きる。権限だけではない。罪も、疑いも、誰かが選んだ分類も、書いた本人より長く残る。そして、ときには本人が会ったこともない子供の人生へ先回りする。
「三十二年前の事故記録を見せてください」ベアトリーチェが言った。
継承官は首を横へ振った。「許可範囲外です」
「現在の殺人事件と直接関係する可能性があります」
「その判断を、第一庁の機密審査官から得てください」
「ルカ・ヴィアンキが無許可発砲をしたという概要は読めるのに、何へ撃ったのかも、なぜ撃ったのかも読めない?」
「詳細は事故記録に含まれます」
「処分だけを先に見せるのですか」リケーレの声に苛立ちが混じった。「名簿は権限継承記録です。事故記録は封印された個人情報と教理記録を含みます」
「同じ棚にあるのでしょう」
「同じ部屋に存在することと、同じ権限で閲覧できることは別です」
リケーレが言い返そうとしたが、リヴィオが先に口を開いた。
「閲覧を拒否した事実と、拒否の法的根拠を記録してください」
ニコラの源石筆が動く。
「事故記録の緊急開示を申し立てます」
「正義促進官室も共同で申し立てます」とベアトリーチェが続いた。
リヴィオは彼女を見た。
「弁護側と共同で?」
「真相を確認する利益が一致する範囲では」
「アウレリアに不利な内容が出ても?」
「それが証拠であれば、確認します」
「テオに不利な内容なら?」
ベアトリーチェは、ルカの名の横にある赤い付記へ目を落とした。
「同じです」
「父親の記録を、最初から事実として扱わないでください」
「扱っていません」
「赤い文字は、読む人間に先入観を与える」
「だから根拠を確認するのです」
ベアトリーチェの声は変わらなかった。しかし右手は、机の端を強く掴んでいた。
彼女にとって、共感は共同体が弱者を見落とさないための恩寵だった。その恩寵を失ったと記録された者。堕天者。事故を起こしたとされた技師。そして、その男が追放された後に生まれた息子。
赤い付記は、時間も場所も事情も無視して、それらを一本の線で結んでいた。だが、その線を引いた者が何を根拠にしたのかは、まだ封じられている。
第二庁の地上階へ戻ったところで、リケーレの端末が震えた。
短い警告音が人気のない廊下へ響く。彼は窓際で足を止め、表示された文面へ目を走らせた。朝の光が高窓から差し込み、顔の半分を明るく照らしている。
「第五庁の鑑定室からです」
ベアトリーチェが振り返る。「制御柱から回収された弾体の照合が終わりました」
鐘楼では、二つの発射波形が記録されていた。二発目はアウレリアの登録守護銃から発射されたが、一発目は制御柱へ撃ち込まれた別の弾丸だった。
「結果は?」リヴィオが尋ねた。
「一致です」リケーレは端末を見たまま答えた。「制御柱内の弾体は、テオ・ヴィアンキ名義の登録守護銃から発射されたものと認定されました」
廊下が静まり返った。
「同型の別銃ではない?」
「排除されています。銃身内部の固有加工痕、源石回路の励起によって弾体へ残る結晶配列も同じです」
「発射した人物は?」
「弾体からは特定できません」
「現場の装置の干渉ですか」
「可能性はあります。アウレリアの銃も、発射時の使用者認証が大きく乱れていましたから」
「では、確定したのはテオの銃が使われたということだけです」
「そうです」リケーレは端末を閉じた。「ただし、テオ本人も登録銃も、現在所在不明です」
三十二年前、ルカ・ヴィアンキは発砲したと記録された。そして三十二年後、同じ設備の制御柱へ、息子の守護銃から弾丸が撃ち込まれた。
並べれば、一つの物語になる。父親と同じ行為を繰り返した息子。事故を起こした血筋。追放された堕天者の後継者。だが、その物語が正しいことを示す証拠は、まだ一つもなかった。
「三十二年前の事故でも、制御柱が撃たれたのでしょうか」リヴィオが尋ねた。
「事故記録を見なければ分かりません」とベアトリーチェが答える。
「マティアスは知っていた」
廊下の奥から声がした。オレンが外套を翻し、足早に近づいてくる。
「第七庁の封印目録に、第三実験班の事故図面が存在した記録があります。内容はまだ読めませんが、ロッシーニ公証官は事件前に閲覧を申請している」
「許可されたのですか」
「一部だけ。事故後の設備配置と、封鎖対象の一覧です」オレンはリケーレの端末を見た。「制御柱が含まれていたかもしれない」
「だから同じ場所へ戻った」リヴィオが言った。
「父親と息子が、同じ理由で同じ場所を撃った可能性もある」リケーレが言う。
「あるいは、まったく違う理由で」ベアトリーチェが続けた。「どちらも、事故記録を読むまでは推測に過ぎません」
***
アウレリアとの面会は、昼の医療観察が終わった後に許可された。
拘束区画の面会室には窓がない。天井の白い照明は、朝でも夜でも同じ明るさを保っている。机も椅子も、壁に埋め込まれた記録灯も変わらない。
アウレリアは机の向こう側に座っていた。額の傷には新しい保護布が貼られている。金色の髪は整えられていたが、目の下には眠れていないことを示す薄い影が残っていた。光輪は消えていない。ただ、白い照明の下では輪郭が薄く、時折、灯りそのものが揺れたように見えた。
「何か分かったのですか」
リヴィオが座る前に、彼女が尋ねた。
「なぜ、そう思うのです」
「あなたは、良い知らせだけを持ってくる人ではありませんから」
「良い知らせを持ってきた覚えもありません」
「では、予想は合っています」
リヴィオは椅子へ腰を下ろした。
アウレリアの右手が、机の縁をゆっくりとなぞっている。一定の拍子も、意味のある順序もない。考え込むときや不安なときに出る、ただの癖らしかった。
「旧区画を開いた方法が分かりました」
指が止まった。「誰だったのですか」
「ロッシーニ公証官です。三十二年前に使われた携行式の監査印を持ち込み、旧認証盤へ使用した」
アウレリアはしばらく黙っていた。言葉の意味を、一つずつ手の中へ置いて確かめるような沈黙だった。
「では、あの方は知っていたのですね」
「何を?」
「床の下が開くことを」
「少なくとも、開く可能性を知っていたと考えるべきでしょう。ただし、開いた後に何が起きるかまで理解していたかは分かりません」
「私には、古い設備の状態を確認したいとしか言わなかった」
「監査印については?」
「何も」
「三十二年前の事故についても?」
「何も聞いていません」
アウレリアは目を伏せた。
「説明すれば、あなたが作業を拒否すると思ったのかもしれない」
「私は、拒否したでしょうか」
「私には分かりません」
「たぶん、開けたと思います」
「なぜ?」
「大聖堂の鐘に異常があったからです。それが危険な設備と関係しているなら、技師として確認しなければならない」
「説明されていれば、安全措置を取ったのでは?」
「はい」アウレリアの声が硬くなった。「鐘を止めた。制御回路を切った。第三庁の技師を追加で呼んだ。管理所を退避させた。少なくとも、試験打鐘と同時に床を開けたりはしなかった」
それは怒りに近い声だった。以前のアウレリアなら、相手の不快感を感じ取った時点で内容を問わず先に謝罪していた。今、リヴィオには感情が届かない。だからこそ、怒りを途中で引っ込めず、言葉にできたのかもしれない。
「ロッシーニ公証官は、あなたに必要な情報を与えなかった」
「はい」
「三十二年前にも、同じ設備で事故が起きています。第三実験班の技術責任者は、ルカ・ヴィアンキでした」
アウレリアが顔を上げた。「テオの父親ですか」
「そうです」
「でも、テオは事故の後に生まれています」
リヴィオはわずかに眉を上げた。「知っていたのですか」
「国外出生です。管理所の身分確認書で見たことがあります。父親が追放されてから、ずっと後に生まれた」
「父親とは暮らしていた?」
「二歳になる前までだと聞きました。本人は、顔もほとんど覚えていないと言っていました」
「本人から?」
「神学校への入学が保留された日に、一度だけ」アウレリアは机へ目を落とした。「父親について質問されても、知らないことは答えられないと言っていました」
「どのような様子で?」
「怒っていました」彼女は言った後、わずかに迷った。「……そう感じました。でも、怒りだけではなかったと思います」
「理由までは分からなかった?」
「はい。共感で伝わるのは感情だけです。何を考えているのかまでは分かりません」
「重要な区別です」
「以前の私は、分かったつもりになっていたかもしれません」
「サンクタは皆そうなのですか」
「知りません」アウレリアはわずかに唇を歪めた。「今の私は、もう確かめられませんから」
面会室の外で、護送員の足音が過ぎていく。
白い照明が、机上に二人分の影を落としていた。リヴィオの影には羽の形があり、アウレリアの影の頭上には光輪が映らない。光そのものである光輪は、照明の下へ黒い影を作らなかった。
「もう一つあります」リヴィオは言った。「制御柱から回収された弾丸が、テオの登録守護銃から発射されたものと確認されました」
アウレリアの唇がわずかに開く。「確認された?」
「銃身の固有痕と、源石回路の残渣が一致しました。銃の特定については、ほぼ争う余地がありません」
「テオが撃ったのですか」
「発射した人物までは分かりません」
「でも、あの場所にいた」
「それは事実です」
「行方が分からない」
「はい」
「銃もない」
「はい」
「父親も、三十二年前に発砲した」
「そう記録されています」
「では――」
「アウレリア」リヴィオは彼女の言葉を止めた。「記録に書かれている順番を、そのまま因果関係にしないでください」
彼女は黙った。
「父親が発砲した。事故が起きた。だから父親が事故を起こした。テオの銃が発射された。マティアスが死んだ。だからテオが殺した。事実を並べるだけなら簡単です。ですが、その間に何が起きたのかが分からない」
「あなたは、テオを庇うのですか」
「いいえ」
「では、疑っている?」
「どちらでもありません」
「そんなことができますか」
「しなければならない」リヴィオは机上の記録灯を見た。「私はあなたの権利擁護官です。テオの弁護人ではない。彼が欠落文書を持ち去った可能性も、あなたの銃を動かした可能性も考えています」
アウレリアの顔がこわばった。
「でも、それをしたと決めてはいない」
「はい」
「どうして?」
「まだ証拠がないからです」
面会終了を知らせる記録灯が点滅する。扉の向こうでリケーレが二度ノックした。
「ベルナルディ権利擁護官。時間です」
リヴィオは立ち上がった。
「テオを見つけてください」アウレリアが言った。
「第五庁が捜索しています」
「そういう意味ではありません」
リヴィオは振り返った。アウレリアは薄い光輪の下で、両手を固く組んでいた。
「父親と同じ記録を、テオに作らないでください」
「何が起きたかによります」
「そうではなくて」
彼女は言葉を探した。以前なら、恐怖を直接伝えることができた。説明に失敗しても、少なくとも怯えていることだけは相手へ届いた。今は、一つずつ言葉にしなければならない。
「テオは、父親が追放された後に生まれました。事故を見てもいないし、父親から何があったか聞くこともできなかった。それなのに、最初から父親と同じことをした人間だと思って探さないでください」
リヴィオは扉の前で立ち止まった。
「それは約束できます」
「本当に?」
「父親が何をしたかも、まだ分かっていませんから」
***
拘束区画を出ると、庁舎の廊下には昼の光が戻っていた。
窓の外では、諸聖徒広場の抗議者が規制柵の周囲へ集まっている。掲げられているのは、アウレリアの名と写真だけだった。鐘楼にテオという補助員がいたことを知る者は少ない。第五庁は彼を重要な事件関係者として捜索しているが、その氏名も、父親の処分記録も、弾道鑑定の結果も公表されていなかった。少なくとも、今はまだ。
「テオの捜索指示書を確認しました」
リケーレが、薄い書類綴りをリヴィオへ差し出した。
「本人の氏名、年齢、身体的特徴、登録写真、勤務先、立寄先の候補。登録銃を所持している可能性があることも記載しています」
「父親の身分記録は?」
「記載していません」
「現場担当者への補足資料にも?」
「入れていません」
リヴィオは書類を開いた。父親が堕天者として国外追放されたことは、どこにも書かれていなかった。
「正義促進官室の判断ですか」
「はい」背後からベアトリーチェが答えた。「父親の記録は、テオ本人を発見するための特徴ではありません」
「抵抗や逃走の可能性を判断する材料になると主張する者はいるでしょう」
「父親が三十二年前に何をしたと記録されたかで、息子が今日何をするかを予測するなら、それは捜査ではありません」
「では、何です」
ベアトリーチェは窓の外を見た。広場では、アウレリアへの処罰を求める声が重なっている。
「物語です」
ニコラの源石筆が動いた。小さな音だった。
その一行によって、三十二年前の赤い付記が、ただちにテオを追う者たちの手へ渡ることは防がれた。記録そのものが消えたわけではない。第二庁の地下には残っているし、神学校の身分調査にも残っている。ルカ・ヴィアンキの名を照会すれば、これからも同じ文字が表示される。
『事故時に無許可発砲』
『堕天認定』
『国外追放処分』
記録は人間より長く生きる。だが、長く生きているからといって、次に読む者が必ず従わなければならないわけではない。
誰かが、何のために読むのかを決める。どこまで次の判断へ渡すのかを区別する。父親の記録を、息子の現在へ勝手に継承させないと書き残す。それもまた、記録によってしか行えない仕事だった。
「見つかると思いますか」リヴィオが尋ねた。
リケーレは窓の外へ目を向けた。広場の向こうに、ラテラーノの街路が幾重にも伸びている。
教区宿舎、巡礼者用の休憩所、鐘楼管理所の倉庫、夜間も開いている菓子店、国外公用車両の発着所。十八歳の少年一人が身を隠せる場所は、聖都の地図に記された数より多い。
「見つけます」リケーレは言った。「被疑者としてではなく?」
「今のところは、事件の生存者としてです」
広場から、午前の鐘が聞こえた。短く、澄んだ音だった。
三十二年前の発砲も、今朝の二発の銃声も、その音の中には聞こえない。それでも第二庁の地下では、ルカ・ヴィアンキの名の横に赤い文字が残り、第五庁の鑑定室では、息子の守護銃から発射された弾丸が保全袋へ収められている。
父親と息子を同じ物語へ結ぶには、それだけで十分だった。二人を切り離すためには、まだ事実が足りない。
だからこそ、彼らはテオを探さなければならなかった。
父親の罪を継いだ者としてではない。今朝の鐘楼で、何かを見て、生き残った一人の少年として。
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TIPS 01 国外追放
ラテラーノにおける国外追放は、単に国境の外へ連れ出す刑罰ではない。
処分を受けた者はラテラーノ公民としての居住権を停止され、聖都への居住を禁じられる。守護銃の携行資格、公的施設の利用資格、官署への申請権なども、処分内容に応じて制限される。
ただし、国外追放を受けた者が直ちに無国籍となるわけではない。
国外教区の監督下で生活し、現地の教会やラテラーノ在外公館を通して、出生、婚姻、死亡などの身分記録を届け出ることはできる。そのため、追放後に婚姻し、子を持つことも制度上は可能である。
追放された者の配偶者や子に、処分がそのまま継承されることはない。
しかし、公職、神学校などの審査では、家族の身分記録が照会される場合がある。処分の理由が教理上の問題を含むとき、その照会が長期化し、本人に問題がなくても任用や入学が保留されることがある。
国外追放は、一人の身体を国境の外へ移す。
しかし、その者について残された記録まで、国境の外へ出ていくわけではない。
TIPS 02 教理審査
教理審査は、信仰の深さや日常の品行を採点する手続きではない。
光輪、光翼、共感、守護銃との適合など、サンクタの身分に関して、その状態が既知の教理上の分類に該当するかを調べるために行われる。
現在の制度では、身体や認知の状態を調べる医療鑑定と、教廷記録との照合を行う教理審査は区別されている。教理顧問は所見を提出できるが、単独で堕天認定、拘束、公民資格の停止を決定することはできない。
しかし、かつては両者の境界が明確ではなかった。
共感反応の消失、光輪の減衰、守護銃認証の不調、重大な法違反といった複数の事実が、一つの「教理上の異常」として扱われることもあった。その結果、医学的な障害と信仰上の身分変化が、十分に区別されないまま記録された例も存在する。
また、神学校や一部の公職では、本人だけでなく近親者の教理記録が照会される。
これは「教理上の異常」が血によって継承されると定めているからではない。少なくとも、制度上はそのように説明されている。