リヴィオが返書を封筒へ入れ終えるより先に、リケーレの端末が鳴った。
警報ではない。公証人役場の内部連絡に使われる、短く控えめな呼出音だった。それでも室内にいた全員が一斉に顔を上げた。
机の中央には、テオから届いた手紙が透明な保全袋へ戻されている。その隣には、リヴィオが今しがた書き終えた返書があった。
『あなたの発砲より前に、装置が異常を起こしていた記録を確認しました』
封筒の表には、宛名だけが記されている。届ける相手がどこにいるのかは、まだ分かっていなかった。
リケーレは端末へ表示された文面を読み、一度だけ瞬きをした。
「第九休憩所の現場班からです」
「何か見つかりましたか」ベアトリーチェが尋ねる。
「テオ・ヴィアンキ本人です」
リヴィオは、まだ封を閉じていなかった返書を見た。
「どこで?」
「休憩所の礼拝室です」
「逃げたのではないのですか」
「管理人によると、昨夜からいたようです」リケーレは端末を閉じた。「長椅子の一番後ろで眠っていたそうです」
誰もすぐには動かなかった。
第五庁は夜のあいだ、教区宿舎、鐘楼管理所の倉庫、公用車両の発着所、巡礼者向けの簡易宿泊所を捜索していたが、テオはそのどこにもいなかった。
一方で、彼が手紙を置いた休憩所には、捜索班が夜明け前から出入りしている。危険物検査、管理人への聞き取り、周辺街路の確認、封筒を発見した長椅子の保全。それらが行われている間、テオはずっと同じ建物の礼拝室にいたのだ。
「現場班は、礼拝室を調べなかったのですか」オレンが尋ねる。
「調べています」リケーレの声は平坦だった。「最初の確認時には誰もいなかった。管理人が朝の清掃を始めた後、祭壇脇の聖具収納部から毛布が一枚なくなっていることに気づき、もう一度礼拝室を見ると、最後列の長椅子の下に眠っていたそうです」
「長椅子の下?」
「巡礼者用の外套を身体へ掛けていたため、外から見れば荷物が置かれているようにしか見えなかったそうです」
「見事な逃亡ですね」オレンが言った。「人間が同じ場所を二度見ないことだけを利用している」
「本人に抵抗は?」ベアトリーチェが尋ねる。
「ありません。守護銃は祭壇の前へ置かれていた。弾倉を抜き、薬室も空にした状態です」
「欠落文書は?」
リヴィオが問うと、リケーレは一瞬彼を見た。
「持っています」
部屋の空気が変わった。
マティアスが鐘楼へ持ち込んだ四冊目。ルカ・ヴィアンキの異議申立書である可能性が高い、唯一の原本。三十二年前の事故の順序を、当事者自身の言葉で記した文書。それをテオは持っていた。
「開封されていますか」ベアトリーチェが尋ねる。
「封緘は切られています」
「本人が読んだ?」
「そう供述しています」
リヴィオは机上の返書を手に取った。まだ封をしていない。だが、もう第九休憩所へ置いてくる必要はなかった。
「向かいましょう」
大聖堂東巡礼路は、諸聖徒広場から離れるにつれて道幅を狭めていく。
広場周辺の建物は白い石と金色の装飾で統一されているが、巡礼路へ入ると壁の色も屋根の高さも不揃いになった。菓子工房、小さな宿屋、祭具を修理する職人の店、国外から訪れた巡礼者向けに各地の言葉で祈祷文を印刷する写本店。建物の間には細い路地が走り、洗濯物と祝祭用の旗が同じ紐へ干されている。
昼の鐘が鳴る前だった。窓からは焼き菓子の匂いが流れ、店先では昼食用の包みを買う者が列を作っている。大聖堂前で殺人事件が起きていても、街全体が仕事を止めるわけではない。事件を知らない者は珍しいが、それでも腹は減り、パンは焼かれ、砂糖は煮詰められる。
第九休憩所は、巡礼路が二つに分かれる場所に建っていた。二階建ての小さな石造建築で、正面には公共の水場があり、壁際には荷物を置くための長い台が並んでいる。入口の上には守護銃を抱えた聖徒の浮彫があり、その下へ各国語で同じ言葉が刻まれていた。
『疲れた者は、名を問われる前に休んでよい』
建物の周囲は第五庁の執行人によって封鎖されていたが、物々しい規制線は張られていない。巡礼者の不安を煽らないよう入口を閉鎖し、二人の執行人が通常の施設点検を装って立っているだけだった。外から見れば、水道設備の故障か清掃中にしか見えない。
リケーレが身分章を示して扉が開くと、中から冷たい石と蝋の匂いが流れ出した。
休憩所の中央には受付台があり、その奥に簡易食堂と洗面所がある。礼拝室は建物の東側に設けられていた。
大聖堂の礼拝堂に比べれば、飾り気のない小さな部屋である。壁は白く塗られ、祭壇には簡素な燭台と、旅人の無事を祈るための銀鐘が置かれている。天井近くの細長い窓から朝の光が入り、床へ淡い長方形を作っていた。
テオは最後列の長椅子に座っていた。
鐘楼で働いていたときと同じ灰色の作業服を着ている。上着には粉塵が白く付着し、袖口の一部が黒く焦げていた。髪は乱れ、目の下には濃い影がある。頭上の光輪は消えていないが、疲労のためか光が薄く見えた。両手は膝の上に置かれている。拘束具はなかった。
彼の正面、祭壇へ続く通路の床には、守護銃が置かれていた。銃と弾倉は別々の透明な保全箱へ収められている。現場班がすでに安全確認を終えたらしい。
その隣には、古い革表紙の文書があった。
封緘は切られている。表紙の題名欄には、黒い墨で細い線が引かれ、その上から別の文字が書き加えられていた。
『第三実験班事故時系列に関する技術責任者異議付記』
テオは入ってきた一行を見た。最初にリケーレ、次にベアトリーチェ、最後にリヴィオへ視線を向ける。
「手紙を読みましたか」
彼が尋ねた。声は掠れていた。
「読みました」リヴィオは答えた。「返事も書きました」
テオの目が、彼の手にある封筒へ落ちる。「間に合いませんでしたね」
「あなたが見つかる方が早かった」
「隠れるのが下手だったので」
「隠れるつもりはあったのですか」
テオは少し考えた。「見つかりたくはありませんでした」
「同じことでは?」
「でも、聖都から出るつもりもなかった」
その違いを説明する言葉を、本人も見つけられていないようだった。
リケーレが祭壇前の保全箱を確認する。
「守護銃を置いたのは君か」
「はい」
「弾倉を抜いたのも?」
「はい」
「残弾は二発です。事件前の登録残弾数は三発。発射は一発で間違いないですね」
テオの指が膝の布を掴む。「撃ちました」
「誰が?」
「僕が」
礼拝室の空気が静まった。銀鐘の表面に、窓から入る光が細く映っている。
ベアトリーチェは、すぐに次の質問をしなかった。
「ヴィアンキさん」彼女はテオの正面へ立った。「今の発言によって、あなた自身が刑事上または行政上の責任を問われる可能性があります」
「分かっています」
「あなたは現時点まで、重要な事件関係者として捜索されていました。しかし、自ら守護銃を発射したと認めた以上、今後は被疑者として扱われる可能性がある」
テオの表情が僅かに硬くなる。「アウレリアさんと同じですか」
「同じ事件に関係していても、同じ立場とは限りません」
「でも拘束される」
「その可能性はあります」
「では、先に話します」
「いけません」
ベアトリーチェの言葉は鋭かった。
テオが顔を上げる。「なぜです」
「あなたには、自分の立場を理解し、権利擁護官へ相談してから供述する権利があります」
「相談している間に、また記録が作られる」
「相談せずに話せば、その言葉も記録されます」
「もう手紙に書きました」
「だから、これ以上増やす前に手続きを整えるのです」
テオはベアトリーチェを見つめた。
サンクタ同士の間では、言葉以外の何かが伝わっているはずだった。恐怖、焦り、疑い、あるいはベアトリーチェの側から伝わる慎重さ。リヴィオには、その内容は分からない。
やがてテオが視線を落とした。
「ベルナルディさんでは駄目ですか」
「私はアウレリア・セラフィーニの権利擁護官です」リヴィオが答えた。「あなたとアウレリアの利益が対立する可能性があります」
「僕は、あの人が撃っていないと話すつもりです」
「今はそうでも、事件の解釈によっては責任を押しつけ合う関係になるかもしれない」
「押しつけません」
「あなたがそう思っていることと、法的な利益が対立しないことは別です」
テオは納得していない顔をした。「では、誰に話せばいいのですか」
「別の権利擁護官を呼びます」ベアトリーチェが言った。「到着するまで、本人確認と健康状態の確認以外の質問は行いません」
「でも、文書は」
テオの視線が祭壇の前へ向いた。革表紙の異議付記。
「証拠として保全します」リケーレが答える。
「取り上げるのですか」
「君が持ち出した時点で、すでに事件の証拠です」
「また封じる?」
「封じます」
テオが立ち上がりかけた。入口の執行人たちが僅かに姿勢を変える。しかしリケーレは守護銃へ手を伸ばさなかった。
「封じるのは、隠すためではない」彼は言った。「誰も内容を変えられないようにするためだ」
「三十二年前も、同じことを言ったはずです」
「その可能性はある」リケーレは否定しなかった。「だから今回は、誰が封印し、誰が閲覧でき、いつ複写されるかを全部記録する」
「でも、僕には見られなくなる」
「君が読んだという事実も、君が持っていた状態も、封緘が切られていたことも残す」
「父の言葉は?」
「内容の真正性が確認されれば、事件記録へ開示を求めます」
テオは文書を見つめた。
三十二年間、誰にも読まれなかった父の言葉。本人が二歳になる前に別れ、その後の記憶もほとんどない父親。身分調査の紙では、堕天者であり、国外追放者であり、無許可発砲をした技師だった。だが文書の中では、それとは違う声で語っていたのだろう。
「読みましたか」リヴィオが尋ねた。
「質問はしないのでは?」テオの返答には、疲労の中へ僅かな警戒が混じっていた。
「その通りです。撤回します」
「読みました」テオは自分から答えた。「全部ではありません。途中までです」
ベアトリーチェが目を閉じ、短く息を吐いた。「それも記録されます」
「構いません」
「構うべきです」
「父は、発砲する前に遮断レバーを三回引いたと書いていました」
誰も質問していない。それでもテオは話し始めた。止めればよいのか、続けさせるべきか。リヴィオが迷うより早く、ベアトリーチェが片手を上げた。
「ヴィアンキさん。今はこれ以上、事件について話さないでください」
「でも、父は――」
「あなたの父親の名誉を守るためにもです」
その言葉で、テオは口を閉じた。
ベアトリーチェはニコラへ視線を向ける。この場には機密記録官ではなく、第五庁の現場記録官が立ち会っていた。彼は今の自発的な発言を、一言ずつ記録している。言葉は、口から出た瞬間には戻せない。だからこそ、これ以上続けさせないことが必要だった。
「当番の権利擁護官は二十分ほどで到着します」リケーレが端末を確認した。「その間、第六庁の医療員に診察させます。食事と水も」
「拘束するのですか」テオが尋ねた。
ベアトリーチェは答える前に、リケーレを見た。捜査を行う第五庁。公訴を判断する正義促進官。自由の制限を決める第一庁。今この場で、誰がどこまで決められるのか。
「武装状態は解消されています」リケーレが言った。「逃走の意思については?」
「ありません」テオが答える。
「そう言うだけでは足りません」
「では、どうすれば信じますか」
「信じるかどうかではなく、確認できる状態を作るのです」リケーレは礼拝室の入口を示した。「第五庁庁舎まで同行を求めます。現時点では任意同行です。ただし、途中で離脱しようとした場合は、証拠保全と安全確保のため緊急拘束を検討します」
「拒否できますか」
「できます」
「拒否したら?」
「ここで第一庁へ拘束令状を請求します」
「同じでは?」
「手続きが違う」
テオは笑わなかった。だが、泣きそうな顔で僅かに息を吐いた。
「アウレリアさんも、同じようなことを言っていました」
リヴィオは、彼女が第六庁の検査前に口にした言葉を思い出した。法的な理由が違っても、閉じ込められる側には同じなのだ。
「同行します」テオは言った。「その前に、一つだけいいですか」
「事件に関する供述でなければ」ベアトリーチェが答える。
テオはリヴィオを見た。
「返事を読んでもいいですか」