――明治四十五年。
「おい巫女鬼。そっちの木材、なんか逆じゃねえか?」
「そうですか? どっちも似てますよ?」
「アホか! 似てるから目印をつけてるんだろうが!」
隠れ里ではこの日、住民総出の大事業――氷室の制作が行われていた。
最終的には同じく木材と藁などを利用した屋根を作ることで、冬の間に
時間が有り余っている『あやかし』たちがどうしてここまで急いでいるのか。
それは単に、藤襲山に雪が降る季節がまもなく終わってしまうからである。
「ったく、そこで休むな、邪魔だ、出てけ出てけ!」
「わあ、横暴です」
「み、巫女鬼様、さすがに私たちが手伝えることはなさそうですから、大人しく引っ込みましょう」
「哀愁……力なき巫女は、氷の館から追放されるのね……」
「うー、なんだか悔しいです」
小さな七歳の身体で頑張って木材を運べば違うと言われ、疲れて休んでいれば邪魔だと言われ。
哀れ巫女鬼は首根っこを掴まれ、作業現場から追い出されてしまうのだった。
「まあまあ巫女鬼様。私たちは大人しく向こうで休んでましょうよ」
「そうですね。あいすくりんのためにも、今は英気を養っておきますか」
「……氷の冷たさは、心の温かさと紙一重……」
何故、いままで氷室など必要としてこなかった隠れ里に、今になって氷室を作ることになったのか。
それは単に、『あいすくりん』もしくは『アイスクリーム』という冷たいおやつに、花枝が興味を持ったからだ。
明治四十五年ともなると、山の神への捧げ物――という体で、産屋敷家が花枝たちへと支給してくれている荷物には、いわゆる若者向けの雑誌というものが混ざり始めた。
艶やかな色合いで描かれた絵に、明治の街を舞台にした様々な物語や特集記事。産屋敷家はいったい『あやかし』たちに何を見せたいのかと疑問に思わなくもないが、それらは明治という時代を知るにはうってつけの本だった。
そしてそれを読んだ花枝が、どうにかして食べられないかと言い出したのが、あいすくりんやアイスクリームといった氷菓子である。
つまり花枝は、自分のわがままのために里の鬼たちを働かせ、作業現場で邪魔をして追い出されたのだ。
「ところで巫女鬼様。この前の最終選別は驚きでしたねえ。巫女鬼様を襲おうとして、手鬼に一撃で吹っ飛ばされた子」
「ああ、いましたね。『お、丁度いいくらいの鬼がいるじゃねえか、こんなガキの鬼なら俺でも殺れるぜ』でしたっけ」
「……慧眼。巫女鬼様の弱さを見抜く目だけは、本物だったわ……」
行くあてもない三人は、自然と花畑の東屋に向けて歩き出す。
カナエを交えてカレーを食べて以降、あの東屋はこの三人が集まっては雑談に花を咲かせる女子の園となっていた。
その中でも、基本的には代わり映えのない日々が続いている隠れ里なので、最終選別で見かけた剣士たちの噂話は楽しみの一つだった。
それぞれが、それぞれの目撃した剣士について語りはじめる。やれ本物の忍者がいただの、やれぷりぷり怒り続ける少女がいただの、やれ鬼以上に荒れ狂った若者がいただの。個性的な剣士というものは雑談に花を咲かせてくれる。
「けれど……巫女鬼様も、気をつけないといけないわね。いつ、鬼殺の刃が届くか、分からないのだから……」
「ええ、あの時は手鬼にも怒られちゃいました。でもあの男の子、本当に気配を消す技術だけはかなりのものだったんですよ。めげずに剣士になってくれているといいのですが」
そのときだった。
最終選別で、花枝をガキ呼ばわりした少年の話で盛り上がっている最中。
「そうですねー。反省して、鬼を外見で判断しなくな……れ……ぐふっ」
「え……?」
百合鬼が大量の血を吐き出し、ゆっくりと倒れていく。
「え? 百合、鬼……?」
隣を歩いていた花枝の巫女装束に、百合鬼の血がねっとりとこびりつく。
呆然としている花枝の横で、すぐに動いた風見鬼が百合鬼を抱きかかえた。
百合鬼はどうにか呼吸をしているが、その様子は尋常ではない。見れば、まるで腹部を怪我したかのように、彼女の衣装がじわりと赤く染まっていくのがわかる。
「ゆ、百合鬼……や、やだ、百合鬼! 百合鬼っ!」
「巫女鬼……様……カナ……エちゃ……上弦、と……」
「ああ、血、血がっ! そんな、待って、百合鬼! しっかり!」
百合鬼が何か呟いているが、しかし混乱してしまった花枝には聞き取れない。花枝はただただ、顔面を蒼白にして百合鬼にしがみついている。
その場に花枝と百合鬼だけでなく、冷静な風見鬼がいたのは僥倖だろう。彼女はすぐに風を仲間たちに送ると、花枝の肩を強く叩き、無理矢理に冷静さを取り戻させる。
「巫女鬼様……! 巫女鬼様は……百合鬼に力を注ぎ続けて。私は、皆を呼ぶから……!」
「え、ええ! わかった……わかった! わかりました!」
花枝は、風見鬼が言うとおり百合鬼に手をあて、意味があるかどうかもわからないままに、とにかく必死で浄化の力をそそぎ込む。
それでも百合鬼の身体からは血が吹き出て、黄昏に照らされた地面を赤黒く染めていく。四肢の先から、少しずつその肉体が灰となり崩れていく。
花枝が、百合鬼の身に何が起きているのかを理解したのは、この後。
血相を変えた里の仲間が、東屋へ到着した頃のことである。
血鬼術『命花ノ契』。
それは、契りを交わした対象が危機に瀕したときにのみ発動する。
命を繋ぎ、護り通す。なにより深い、慈愛の術だった。
◆ ◆ ◆
――同時刻。とある人里で。
「今夜はいい夜だなあ。若くて可愛い女の子の柱に殺されかけた上、こんな素敵な技を沢山見せてもらえるだなんて」
その鬼は、にこにこと屈託なく笑い、穏やかに優しく喋っていた。
その鬼は、冷たく輝く、鋭い対の扇を武器としていた。
その鬼は、頭から血を被ったような容貌をしていた。
その鬼は、文字が刻まれた両の瞳を持っていた
『上弦 弐』
その瞳に刻まれたその文字は、彼が何者なのかを表していた。
鬼舞辻無惨直下に位置する最強の鬼たち――上弦。その二番手が、いま。
胡蝶カナエの命の灯火を、にこやかに笑いながら、消し去ろうとしていた。
「くふっ……上弦……!」
「俺のことは童磨と呼んでくれと、さっき言わなかったっけ? 俺は君ともっと仲良くなりたいんだけどなあ」
胡蝶カナエは、鬼殺隊の柱だ。
数多の剣士たちの頂点に立ち、『悪鬼滅殺』の彫られた日輪刀を所有することを許された、最強の剣士の一人だ。
彼女は、一時は圧倒的に不利な相性差をひっくり返し、その刃を上弦の弐の頸の半分まで食い込ませた。
そこに居合わせたものたちを、誰一人死なせることなく守り切った。
上弦の弐ですら知らぬ新たな型の数々によって、あと一歩のところまで追い詰めた。
けれど、現実は残酷で。その力は上弦の弐――童磨には及ばなかった。
腹を貫かれて、口からは止めどなく血を流しながらも、カナエは日輪刀を振るう。その軌跡は美しく月光を弾き、その場に咲き乱れる花々の幻影を生み出していく。
鬼の周囲を囲み、その動きを封じる剣舞。そしてそこから流れるように、美しい百合のつぼみが開く様を彷彿とさせる、六重の放射状の軌跡へと移行する。
だが、童磨は、その両の扇で容易くそれを弾きとばしていく。
「今のは参ノ型『白百合牢』からの、伍ノ型『聖花開帳』かな? ところどころに花の呼吸の技も混ぜ込んで、とっても綺麗だねえ」
パキリ。凍りついた地面が踏み抜かれ、音を鳴らす。
「でも……さっきはそれで頸を半分以上は斬られたけど、今回のは大分威力が落ちちゃったねえ」
カナエの繰り出した連撃。それらはもう、童磨にとっては目新しい技ではなくなっていた。
初見時には大きく童磨の身を斬り裂き、あわや頸を落とせるかというところまでいった百合の型は、すでにもう、童磨にとって既知の技と成り果てた。
知識は力だ。童磨はすでに、カナエの繰り出す『百合の呼吸の型』を知り尽くしてしまった。
「はぁ……はぁ……ぐっ……」
カナエの呼吸音はもう、全集中の呼吸ではない。いや、すでに肺への損傷が大きく、通常の呼吸をすることも難しい。カナエはそれでも、真っ直ぐに、日輪刀を構え続ける。
上空を旋回しているのは、カナエが上弦の襲撃から守り通した鎹鴉たちだ。今は彼らがこの戦いを見守っている。彼らがまだ、上弦の鬼の術を覗き見続けている。
少しでもこの上弦の鬼の力を引き出し、鎹鴉を通じてその情報を鬼殺隊へ伝えること。
それこそが、柱として果たすべき、最期の役目だ。
「可哀想に。そろそろ呼吸が難しそうだねえ。初見にしては随分と耐えたけれど、もう苦しくて立っていられないんだろう?」
「まだ……私、は戦えます……!」
童磨は、まるでカナエの苦境をともに悲しむかのように、その目から涙を流しながらカナエに語りかける。
だが、カナエはただ、油断なく真っ直ぐにその鬼を見据えていた。
「誇っていいんだよ。君はここにいた足手まといを全員守り通し、一人の死者も出さなかった。俺の術に一番長く抵抗し、俺の頸に刃を届かせた。うん、間違いなく君は、今まで見てきた中で一番強い柱だったよ。でも――」
この鬼の血鬼術は、あまりに危険すぎた。どのような距離でも致命傷を与えられる自在の氷と、一瞬にして全てを凍らせる冷気。そして、大気中に散布される目に映らぬ氷の粉塵。きっと、この鬼が遊ばずに本気で戦っていれば、とうにカナエは物言わぬ躯になっていただろう。
だが、まもなく朝日が昇る。カナエがここまで耐えられたのは、過去にも一度、大気中に目に見えぬ術を散布する相手から教えを受けた経験があるからだ。
あと五分。
いや、あと三分。
それだけ耐えれば、カナエの勝利だ。鬼は朝日に耐えられない。
だというのに。
「可哀想に。俺の方が少しだけ強かったねえ」
限界が訪れる。
損傷を受けた肺がごろごろと異音を発し、咳とともに大量の血液が口から流れ出て、カナエの意識を朦朧とさせる。腹部の傷跡からは、止めどなく赤い血が流れ出している。
カナエの脳裏に、様々な想いがよぎる。悔しい。もっと多くの人々を救いたかった。皆を救うための薬を完成させたかった。愛する妹の幸せを見届けたかった。
そして、またあの里の人々に、会いたかった。
『――大丈夫。カナエちゃんは、私が守ってあげるから』
意識が途切れかけたそのとき、誰かが優しく、カナエを包み込んでくれた気がして。
カナエは安堵とともに、その優しさに、その身を預けることにした。
「じゃあ、面白い技を沢山見せてくれたお礼に、急いで君を骨まで食べて――」
ヒュン
童磨の腕が落ちた。
「あれ……?」
ヒュン
童磨の喉が切り裂かれ、血飛沫が飛び散った。
「なん……だ? これ」
切り裂かれた彼自身、何が起きたのかを理解できていない。一瞬で再生させた腕で自らの喉を触ると、どろりとした血液が指を汚す。
彼はすぐに喉の傷を再生させ、周囲をうかがう。
「どういう……ことかな?」
さすがの童磨もこの状況は予想外であり、対応が後手に回る。
気付けば彼の周囲には白い花弁がいくつも漂い、百合の芳香が広がっていた。異物が体内に入り込み、血の巡りを鈍らせているのがわかる。人里の中にいたはずだというのに、周囲は見知らぬ花畑になっている。目の前にいた柱の少女が消えている。
即座に童磨は分析する。花弁による斬撃と、花粉による毒。そして、香りによる幻覚。
これはどう考えても、人間である鬼殺隊士が使う技ではない。
これは、かなり強力な――血鬼術だ。
『鬼』が、死にかけだった柱の少女を守っている。朝日が昇る直前だというのにもかかわらず、この場で上弦の弐に刃向かおうとしている。
童磨がそれらの事実に気づいたときにはすでに、周囲を漂う花弁が鋭い刃となり、高速で飛び交い始めていた。
そこには強い殺意と、憎しみと、覚悟が垣間見えた。
「どこの鬼だかわからないけど……今は、少しばかり……静かにして欲しいなあ」
『血鬼術 結晶ノ御子』
『血鬼術 散り蓮華』
『血鬼術 凍て曇』
『血鬼術 寒烈の白姫』
複数の氷の像が童磨を守るように現れ、主の代わりに戦い始める。花弁には花弁を。花粉には氷粉を。芳香には冷気の風を。
童磨はこれまでとは違い己の血鬼術を連続で発動していく。
相手が鬼殺の剣士ならばともかく、日の出まで秒読みというこの段階で正体不明の血鬼術と戦うわけにはいかない。いかに上弦の鬼と言えど、日光を前にして足止めでもされては命の危険が伴う。
だからこそ、童磨はここまで温存していた氷の使役人形『結晶ノ御子』を披露せざるを得なかった。
上空を飛び交う鎹鴉たちに能力が目撃されているのは痛手だが、仕方ない。
だが。
戦いはあっけなく終焉を迎えることとなる。
地面から生えた幾つもの植物に絡み取られていた結晶ノ御子が、光を浴びて植物ごと砕け散る。
砕けた氷の結晶が、山間から差し込んできた光をキラキラと反射している。
暖かな光が闇を照らし始めた。
山間から姿を見せたのは、太陽だ。結晶ノ御子は全て、輝く太陽の光に晒され溶け墜ちた。童磨を包み込んでいた百合園の幻覚もまた、朝日とともに消え去った。
童磨はもとより、胡蝶カナエの胸の傷から顔を出している一輪の百合――血鬼術の本体もまた、太陽の光を浴びれば消えてしまうだろう。
二人はそれぞれが建物の陰に隠れるようにして対峙しているが、その中間には太陽の光が差し込み、互いの身体を隔てている。
「その身体は、そこに咲いている血鬼術が代わりに動かしているのかな? まさか、逃れ者が鬼殺隊の柱と懇意の仲だなんて、あの方に知られたら、どうなっちゃうだろうね」
カナエの出血は止まっている。
童磨はカナエではなく、その百合の花に話しかけた。身体の所有者であるカナエの瞳はすでに朦朧としており、戦える状態でないのは明らかだ。
その花の向こうに、胡蝶カナエの肉体に寄生し、自分の邪魔をしてきた鬼がいるはずだと、彼は確信している。
「ああ、でも……安心してよ! 君のことはあの方には伝えないであげるからね。あの方は俺の心を読むのをどうしてか嫌っているから、きっと隠し通せるよ!」
朝の光が強くなる。
上弦の鬼も、百合の花も。太陽光という壁に阻まれ、目の前の相手への手出しは完全に不可能となった。
だから、上弦の鬼は語り続けた。機嫌よく、愉しげに。そして、カナエの身体に咲く百合の花を分析するように。
「昔、あの方に正直に情報を伝えたお陰で食べ損なっちゃった子がいて、そのときにちょっとだけ反省をしたんだよ。慶応四年だったかな? 世にも珍しい『呪いを浄化する女の子』が噂になっていてね」
上弦の鬼は話し続ける。
それにピクリと反応を見せたのは、胡蝶カナエの意思か、それとも、彼女の身体を守り続けている百合の花か。
「それ自体は世の中に腐るほどあるような噂だったけど、たまたま出会った鬼狩りに優しく聞いてみたら、その子の力は本物だっていうじゃないか。だから俺、あの方にも教えてさしあげたんだよね。そうしたら、どうなったと思う?」
童磨は一度問いかけ、そして続ける。
その視線は、胡蝶カナエを――百合の花を、じっと見据えている。観察し続けている。
「なんと、あの方は産屋敷家がその力に近づくのを恐れて、その日のうちに自ら出向いてその子を鬼にしてしまったんだ。もっとも、その子の反応はすぐに途切れてしまったらしいけどね。まだ七歳だったのに、可哀想に」
同情の涙を流し、悲しみの表情でそれを語った童磨は、彼女らの動揺を見逃さなかった。
だからこそ、悲しみを描くその瞳の奥は、正解を見つけた喜びに満ちている。
「ああ、俺が丁寧に食べてあげたかったんだけどなあ。浄化の巫女――
朝日の差し込む中で、沈黙が通り過ぎていった。
時間にすれば、その沈黙は僅か数秒のことだ。だが、百合の花を通じこのやりとりを見ていた者たちからすれば、その沈黙は、何年もの、何十年もの重みをもっていた。
遠くから、誰かの声がする。どうやら、鎹鴉がこの場所へ新たな鬼殺隊士たちを呼び寄せたようだ。
「……うーん、残念だけれど、今日はさようならだねえ。せっかく、百合を操る鬼の背後にいる『主』が誰なのか、目星がついたのにな」
カナエの妹である胡蝶しのぶがその場に辿り着くのと、日の届かぬ雑木林の奥へと上弦の鬼が消えるのは、ほぼ同時だった。
最後に、愉しげに一言だけ、言い残して。
「いつか、君たちは俺が見つけて食べてあげるよ。その日まで――花枝ちゃんによろしく」
胡蝶カナエの胸から咲いていた百合の花も、朝日に照らされ静かに消えていく。
あとには、体力を失い気を失った胡蝶カナエだけが。朝日の中に、ひとり横たわっていた。
◆ ◆ ◆
結論から言えば、百合鬼は消滅しかけ、本当にギリギリのところで一命をとりとめた。彼女の身体は胸元まで崩壊し、煤となり。しかしそこでどうにか、崩壊は止まってくれた。
朝日の中で彼女が戦っていたのは上弦の弐。鬼舞辻無惨の配下の中で二番手に位置する相手である。
だからこそ、住民たちは、かけがえのない仲間の帰還に喜んだ。
「巫女鬼様……私、カナエちゃんを……助け……られた……」
「ええ。わたしも見ていましたよ、百合鬼。あなたは頑張りました! カナエの命を守り通しました!」
花枝は百合鬼に浄化を施し続け、その間はずっと、彼女と『繋がって』いた。
だから、花枝もあの景色を見ていた。童磨の残した言葉を聞いていた。自分の家族を死に追いやった要因を知った。
でも今は、そんなことはどうでもいい。そう断言できた。
「でも、でも……アイツ、最後に……」
「いいんです。今は、あなたが生き残ってくれたことが、なによりも嬉しいんです……」
「はぁ、はぁ……うん、良かった、良かったよお……」
花枝は、横たわる百合鬼を抱きしめて。
十数年ぶりとなる『涙』で、百合鬼の胸を濡らすのだった。
◇ ◇ ◇
この年。
明治という長い時代が終わり、日本は大正という新たな時代に入る。
そして、明治という時代を隠れ過ごしてきた少女、御霊矢花枝は。
鬼によって。
鬼殺隊によって。
過去と現在を繋ぐものによって。
この大正という時代に。否応なく、表舞台に引きずり出されることとなる。
次話は明日22日(土)23時予定です