杏寿郎、小芭内、そして炭治郎の三人は、猗窩座を追いつめていた。
彼らの会得した『透き通る世界』。そこには殺意も憎しみもなく、ただ心を無にした"武の神髄"があるだけだった。
それは、彼らがこれまでに経験した全ての"武"の賜物だった。
彼らが人生を捧げ、何度も、何度も鍛え上げてきた純粋なる型だけが、そこにあった。
敵の闘気を読みとり戦ってきた猗窩座にとって、無の心で戦うそれはまさに、天敵だ。
今の猗窩座がそれでもなお頸を刈られずに耐えきっているのは、直前に鬼舞辻無惨に与えられた大量の血の恩恵でしかない。
ただ、ただ、超常的にまで強化された鬼の身体の強さを以て、今なお、しつこく生き長らえているだけだった。
武人としての猗窩座は、とうに――敗北していた。
「何故だ! 何故、何故俺は、その領域に至れない……!! どうして貴様等だけが……!!」
「猗窩座。それは、君がいつも、別ななにかを見て戦い続けているからだ」
闇雲に放たれた猗窩座の破壊殺を、拳を、蹴りを。杏寿郎は冷静に受け流していく。
その淡々とした杏寿郎の声が、猗窩座の心をより追いつめていく。
「そんなことはない! 俺は、俺は! 倒すべき敵を見ている! 人間という弱者を、弱者を――!!」
猗窩座が、破壊殺・終式の構えをとる。
人間の反射速度では決して捉えられぬ、百を超える打撃の乱れ打ち。
だが。
『蛇の呼吸 伍ノ型 蜿蜿長蛇』
『炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり』
『日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光』
透明の世界で猗窩座の動きを理解した剣士たちが、その終式を的確に斬り落としていく。
全ての衝撃を殺せたわけではないにしろ、炭治郎たちへと届いた衝撃はすでに、とてもではないが終式を名乗れるようなものではなくなっている。
特に伊黒は身体中に致命傷とも思える大きな怪我を負っているというのに、決してその型が鈍ることはない。猗窩座にはそれが、伊黒までもが不死の肉体を持っているかのように思えた。
「俺の武術では、お前たちに勝てないのか……」
炭治郎の耳に、力なく呟く猗窩座の声が届く。
「俺は、その領域に至ることもないまま、終わるのか……」
猗窩座の視線は、どこか遠くを見ている気がした。
「俺は……何の為に、誰の為に……百年以上も……」
猗窩座からは、絶望と哀しみの匂いがした。
「猗窩座……」
「気を緩めるな炭治郎。鬼に共感するな。鬼に同情するな。隙を見て頸を刈ることだけを考えろ」
伊黒の声で、炭治郎はハッと歯を食いしばり、日輪刀を握り直す。
炭治郎の目の前で、終式までをも無効化された猗窩座はいま、力なくうなだれているように見えた。
赫刀で切り刻まれた裂傷が猗窩座の肉体の至る所に残っており、もう、戦う力も残されていないように見えた。
その闘気すら、今にも消えてしまいそうだった。
「俺は……何も、できない、何の役にも立てない……」
◇ ◇ ◇
遠くから、決して聞きたくはない声が、猗窩座の魂へと直接飛び込んでくる。
『――さんが首括って死んじまった! 死んじまったよォ!!』
猗窩座の記憶に、聞き覚えのない誰かの声が響きわたる。
心臓がぞわりとする。
臓腑が握りつぶされるような冷たく不快な感覚が襲う。
『誰かが井戸に毒を入れた! ――ちゃんまで殺された!!』
猗窩座の記憶に、誰かの絶叫が響きわたる。
魂が否定する。この声を聞いてはいけない。これ以上、考えてはいけない。
その名を、思い出してはいけない。
誰かが並んで横たわっている。
後悔が、絶望が、猗窩座の記憶を支配し、己を責め立てる。
口先ばかりで、何一つ成し遂げられない。何の為に生きてきた。
役立たず。役立たず。役立たず。
もう、いい。
猗窩座の心は――猗窩座となった男の心は、ただ、ただ、諦念に流されていく。
どうでもいい。
至高の領域など、もはや何の意味もない。
全て、どうでもいい。
けれど、全てを投げ捨てようかと思ったところで。
最後に。
まるで魂を握り潰してくるような、あの声が届く。
――ならばせめて、最期くらいは私の"役に立て"。猗窩座。
◇ ◇ ◇
「そうだ……俺は、俺は、役立たずではない!」
ふいに、猗窩座の殺意が爆発した。
殺意の矛先は、鬼舞辻無惨が一番警戒していた日の呼吸の使い手、炭治郎へと向いている。
「炭治郎、避けろ!」
それは小芭内の声か、杏寿郎の声か。
その声が届くよりも、その殺意は疾かった。
それは武人の動きではなく、ただ、鬼舞辻無惨の呪縛のままに動く破壊人形としての動きだった。
肉体がその動きに耐えきれず、捻じ切れるのも厭わない。次の瞬間には自身が滅びても構わない。それほどの、何もかもを犠牲にした故の、疾さだった。
炭治郎の視界に、その光景が、ゆっくりと映り込む。
猗窩座が、空気を破裂させるような音とともに、炭治郎目掛けて踏み込み――。
「お兄ちゃん!!」
瞬間。
炭治郎を庇うように間に入ったのは、禰豆子だった。
それはまさに、刹那の情景だ。
猗窩座の拳は、炭治郎を庇おうとする禰豆子を目掛けて振り抜かれる。
杏寿郎の手は届かない。小芭内は刀を振るうが、間に合わない。
猗窩座と禰豆子の視線が、その瞬間、交差する。
そして。
禰豆子を粉砕する寸前で、目の前の少女を認識した猗窩座の拳は。
――ぴたりと、静止した。
炭治郎の時間が戻ったそのとき。
彼の目の前にあったのは、目をぱちくりとさせる禰豆子と。
日輪刀を振り抜いたままの姿で、呆然としている小芭内と。
そして、どさり、という音をたて。
禰豆子の足下へと落下する、猗窩座の首だった。
◇ ◇ ◇
「猗窩座。君にもきっと……大切な女性がいたのだな」
杏寿郎が、床を転がる猗窩座の首に近づきながら、ぽつりと呟いた。その言葉にはどこか、やり場のない哀愁が漂っている。
だが、消え逝こうとする猗窩座の首の前へと歩み寄る杏寿郎を手で制したのは、禰豆子だった。
「杏寿郎。大丈夫です。わたしに任せてください」
「む……」
「禰豆……子?」
炭治郎の前で禰豆子はしゃがみ込み、優しく、猗窩座の頭を抱き上げる。
杏寿郎を名で呼ぶその姿はまるで、禰豆子ではない誰かのように見えた。
「猗窩座でしたか? あなたはきっと、自分を呪ってしまったのですね」
禰豆子が猗窩座へと語りかけている。
ぽんぽんと、猗窩座の頭を撫でるようにして、優しくその手をあてながら。
「何があったのかはわかりませんが、あなたの背負う『呪い』の根源は、自分自身に対する憎しみでした。あなたはずっと、自分を許せなかったのですね」
「……なに……を……」
「ねえ、猗窩座。あなたは、やり方を間違えました。けれど――」
猗窩座は信じられないものを見るように、己を抱く禰豆子を見ている。
いや、それは猗窩座だけではない。
杏寿郎も。小芭内も。炭治郎も。驚きの表情のままに、言葉もなく、動きをとめていた。
気づけば、猗窩座の瞳からは。
鬼舞辻無惨が刻んだ呪いの文字が、消えていた。
「ほら。そこにいる彼女はきっと、自分のために戦ってくれたあなたのことを、許してくれますよ。ずーっと、あなたを見守ってくれていたんですから」
禰豆子はそう告げて、何もないはずの空間を猗窩座に指し示す。炭治郎たちの目には、そこには何も映らない。そこには誰もいない。
けれど、猗窩座だけは、違った。
その表情は、悲しみと後悔に歪んでいる。その瞳からは、透明の涙が溢れ出ている。
「……恋雪……ご……めん、な……」
『―――――――』
猗窩座は、それだけを呟いて。
その瞳から、透明な涙を流したまま。
禰豆子の腕の中で、静かに消えていった。
腕の中が空になると、禰豆子は顔をあげて、呆然としている炭治郎たちを見上げた。
「あ、あの……」
「ごめんなさい。少し禰豆子を借りてしまいました。炭治郎、杏寿郎、小芭内。あと少し、頑張ってくださいね」
そして、微笑みとともにそれだけ伝えると。
禰豆子は、突然、目を大きく見開いた。
「わあ、お兄ちゃん! 私、いま、立ったまま寝てたかも!」
「あ、ああ……そうか、うん……よかった、よかったよ」
「お兄ちゃん? どうして、泣いてるの? 杏寿郎さんも、伊黒さんも、どうしたの?」
「なんでも、なんでもないんだ。禰豆子」
そうして。
言葉にならぬ、大きな感情を炭治郎たちに抱かせながらも。
上弦の鬼。猗窩座の討伐はここに、完了した。
◆ ◆ ◆
上弦の壱、黒死牟。
彼は、自分に何が起きたのかも把握しないままに、柱たちの猛攻の中で、その首を落とされた。
唖然としたままの表情で、黒死牟の首は地面へと落ち、崩れていく。
その間も、その瞳は目の前にいる時透無一郎――いや、そこに重なって視える弟、
「……何故……そこに……」
「兄上。私はずっと、悔やんでおりました。あの日、あなたに引導を渡してさしあげられなかったことを」
無一郎が黒死牟の首の前にしゃがみ込み、語りかけた。
黒死牟へとかけるその声は、間違いなく時透無一郎のものだった。けれど、それは間違いなく。
弟、縁壱の言葉である。
彼の語る"あの日"。
それは、鬼となった兄の前で、縁壱が先に天命を迎えてしまった日のことだ。
「だからこそ――今宵、ほんの一時だけ、この継国の血を引く剣士の身体を借り、兄上に引導を渡しに参ったのです」
「縁壱……何故、あの日……死んだのだ……どうして……」
「それは、私たちが人間だからですよ、兄上」
無一郎の声で、縁壱が答える。
その答えは、答えになどなっていないものだった。
けれど。
憎かった弟。疎ましかった弟。ずっと、記憶にこびりついて離してくれなかった弟。あの日、己に誉れ高き死を与えてくれないままに消えた、世界で一番残酷な、弟。
そんな弟を前にして、黒死牟は。
「く……くく……お前のような、人間が……いるも、のか……」
――笑いながら、崩れていった。
◇ ◇ ◇
気付けば。何もない世界で、彼らは対峙していた。
「兄上。では最期にもう一度、私と手合わせをいたしましょう。今度は鬼などではなく、人として」
「そうしてお前は、兄を苦しめるのだな。最期まで」
「私は……会話というものが苦手です。だからこそ、兄上と共に修行をし、互いの剣を交えるのが、何よりも大好きだったのですよ」
「そうか、私は逆だ。私はお前という存在を嫌っていたぞ、縁壱。誰より強く、神々の寵愛を受けながらも、自らを卑下し続けるお前をな」
「存じておりました」
二人の間に、無の時間だけが過ぎていく。
「……縁壱。知っているか。私はお前以外の侍には、一度たりとも負けはしなかった。勝ち続けてきたのだ」
「ええ。兄上は、私以外には負けませんでした。あなたは誰よりも強くあられた、自慢の兄でした」
「嫌みか」
「本心です」
そして二人。どちらともなく、笑みを浮かべる。
それぞれが、刀を手に構える。
「地獄に堕ちる前に、お前とこうして死合えるのならば――悪くはない」
何もない世界で。
こうして黒死牟――継国巌勝は、弟と最期に一度だけ、剣を交えることとなる。
その結末はしかし、誰も知ることはない。
永遠に、永遠に。
たとえ彼が地獄に堕ちようと。
その誉れ高き記憶は、彼だけのものである。
◇ ◇ ◇
「と、時透さん……?」
崩れ落ち、消えゆく黒死牟を無表情で見つめている無一郎に向けて、恐る恐る玄弥が声をかける。
彼らは年齢も近く、立場の違いこそあれど、刀鍛冶の里での共闘以降は比較的親しい距離感の間柄となっていた。
「あ、あれ? 玄弥? 俺、いま何を……」
玄弥の声に気づいた無一郎は、はっと顔をあげて辺りを見渡している。どうやら、無一郎本人も、たった今し方の言動を覚えていないようである。
周囲の柱たちも、何とも言えぬ顔で、無一郎たちのやりとりを聞いていた。
ただ一人。
「だ、誰だよ……いまの、めっちゃヤバい人が憑依してたんだけど……」
魂の『音』で、継国縁壱という存在の強さを認識してしまった善逸だけが。
一人、上弦の鬼どころではない『とんでもないモノ』が存在していることに気づいてしまい、ただただ恐怖しているのだった。
――そうして。
難敵、上弦の壱の討伐は。
ここに、完了した。
◆ ◆ ◆
「そうか、猗窩座に続き黒死牟も消えたか」
無限城、最深部。
そこにいるのは、全ての鬼を生み出した存在。そして、全ての元凶――鬼舞辻無惨である。
彼の肉体はいま、巨大な肉の繭に入っていた。
四方の柱から伸びた糸のようなもので浮いた、巨大な肉繭。その繭の中で、彼はその体内に吸収された薬の分析をしていた。
それと同時に。その上半身だけが、外の様子を眺めるように肉繭の表へと姿を現していた。
漆黒だった髪は白く変色し、白い肌には血のように赤黒い紋様が浮き出ている。身体の至る所に捕食者じみた牙を持つ口が開き、背からは触手とも鞭とも言えぬ、何本もの器官が伸びている。それはすでに、人間とはかけ離れたものだった。
そんな無惨を、無限城の回廊から見上げる者たちがいる。
「ようやく辿り着いたぞ、鬼舞辻無惨!」
「あなたの、永く続いてきた運命も、ここでお終いだよ!」
「……無惨」
三人。
それは黒い隊服に羽織りを纏った、三人の男女だった。
「貴様等は……
水面を漂うような水色の瑞雲を映した羽織の女性隊士と、燃え上がる炎を反射する水面を思わせるような、橙に染まった瑞雲の羽織を纏う男性隊士。そして、中央で別々の柄が縫い合わされた、不可思議な羽織を纏った男。
部下たちの視界と記憶から、無惨もこの者たちのことは把握していた。鋼柱・錆兎。水柱・真菰。そして水柱の後継とも呼ばれる隊士、義勇。
この三人が、鬼たちの跋扈する迷宮を駆け抜け、一番速く鬼舞辻無惨の元へと辿りつくことができた。
肉繭から上半身を生やした鬼舞辻無惨を見上げ、錆兎が刀を構えたまま、声を上げる。
「お前の懐刀である上弦の鬼たちももういないのだろう? ならば、しつこくて結構。あとは何があろうと、俺たちが貴様の喉元に食らいつく」
「ふん、まあ今の私は気分がいい。普段ならば貴様等の集団自殺の相手などしていられないが、この日くらいは相手をしてやらんこともない」
三人を見下し笑う無惨に対し、錆兎の返答はない。
彼はすでに、呼吸を整えていた。攻撃に特化した、燃え上がるようなそれは、炎の呼吸。
『炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天』
頭上に浮かぶ肉繭目掛け、魂まで燃え盛るような炎の刃が飛翔する。焼け付くような熱を孕むそれは、並の鬼ならば、何をされたかを理解する前にその頸を失っていたことだろう。
それほどの技を錆兎は繰り出した。
だが――。
血飛沫を上げて吹き飛んだのは、錆兎の側である。
「やれやれだ。私がせっかく気分良く話してやっているというのに、やはり鬼殺隊という連中は人の話を聞かない。自分たちが正しいという思い込みだけで生きている」
「錆兎っ!」
「怪我はっ!?」
「大丈夫だ義勇、真菰さん、かすり傷だ」
無惨がその背に生えた管を軽く振るうと、そこにこびりついた錆兎の隊服の破片が宙を舞う。今の一瞬、無惨本人は一切動くこともなく、その管だけを操り錆兎を叩き落としたのだ。
憎々しげに無惨を見上げる三人を後目に、彼は一人、語り出す。
「そもそもだ。貴様等は何かと私のことを目の敵にしているが、少しは考えたことはないのか? この日本という国について」
無惨は、笑うでもなく。怒るでもなく。
ただ淡々と、無表情で語り始めた。
「鬼たちが人間を食らい続けてきたところで、この国の人間は絶滅などしていない。むしろ社会は豊かになり、人口は増えていく一方だ。貴様らは鬼がこの国を滅ぼすかのように言うが、そのような事実はない。それは何故かわかるか?」
無惨が三人の隊士に問いかける。もちろん、適切な答えなどは求めてはいないだろう。
「それは、この私が共存共栄の道を選んでやったからだ。人間を滅ぼすことなく、社会の営みを邪魔せず、なんなら時には人間に紛れて文化の発展に貢献してやっているくらいだ」
共存共栄。
鬼舞辻無惨の口から想像だにしない言葉が飛び出し、真菰たちは目を丸くする。
目の前の男が何を言っているのか、理解ができない。そして、理解したくない。そんな顔をしている。
そんな彼らを見下ろしたまま、無惨は言う。
「この国の人間は、私に感謝すべきだ」
堂々と、当然のことのように。無惨は言ってのけた。
錆兎も、真菰も、義勇も。それを理解するのに数秒の間を必要とした。
彼らは今までに、数々の悲劇を見てきた。数々の嘆きを聞いてきた。
家族を失った子供たち。愛するものを食われた者たち。人間としての尊厳を奪われ、人喰いの鬼畜へと堕とされたものたち。
元は人間として幸せに生きてきたもの同士が、殺し合う世界。
「感謝? 感謝だと……?」
錆兎が、ギリギリと、憎しみを燃え上がらせる。
多くの悲劇を見てきた。だというのに、その元凶たる目の前の男が、彼らに感謝を求めるなどとは。
とても、許せる話ではない。
「貴様のせいで、どれだけの人々が、どれだけの命が嘆き哀しんだと思っている! 全て、貴様が、貴様がっ!!!」
「錆兎っ!」
「錆兎! 冷静に……!」
義勇がすぐに錆兎の名を呼び、真菰がギリリと歯を食いしばりながらも、錆兎の手を引く。
怒りは生きるための原動力になる。けれど、今は、今だけは。決して感情に呑まれてはいけないのだ。
冷静さを欠いたものから先に死んでいく。それが鬼との戦いだ。
錆兎は鬼舞辻無惨と睨み合い――そして心を、赤熱する鋼のように熱く、静かに。冷たく燃やしていく。
「……そうだ、な。会話などしようとした俺が馬鹿だった。鬼舞辻無惨。貴様はただ、人の言葉を話すだけの化け物だ」
「気が合うな。私も人の言葉を話すだけの異常者たちと、まともに対話ができるなどとは思っていない。そういう意味では、我々は気が合うかもしれないな、鋼柱」
「もういい、黙れ」
無惨は相変わらず、肉繭から全てを見下ろすかのように、表情すら変えていない。
だが、空気は変わっていく。
真菰が。
錆兎が。
義勇が。
その心を研ぎ澄ましていく。彼らの視界から不純物が消えていき、鬼舞辻無惨の全てが透けて見えるようになる。
「やるぞ、錆兎」
「私たちが、悲劇の連鎖を終わらせる。その先鋒だよ……!」
「ああ、義勇、真菰さん。俺が、俺たちがこいつを、この世界から――抹殺する」
次話『閑話/あやかし大開拓』
明日10月10日(土)23時公開です。*空気を読まずに短めのコメディ話です