みょん柱。 作:みょん!
東京府には、知る人ぞ知る貢がれ屋が存在する。
遊郭とはまた別の形、意外と身持ちが固く、一緒に食事を摂るだけなのに、彼女の沼に嵌まる者は多かった。聞き上手で話し上手、貢がれた分だけ甘えさせてくれる事もあり、仕事と家庭に疲れた者達が彼女に癒しを求めて貢ぎに行く。彼女は自身を悪女と称するが、貢がれ過ぎると相手の懐事情を心配し、破産する程に貢ごうとすれば、貢ぎ拒否して説教を始める隠し切れない善性が男を沼に突き落とす事を彼女は知らず、無自覚に御節介を焼く。
上弦の壱が横浜の地に降り立つ三日前の話、貢がれ屋を贔屓する十数人居る男の一人と食事の約束をしていた時の事である。
貢がれ屋の依神女苑は、待ち合わせの五分前に現場に辿り着いた。
遠目に相手が来ていない事を確認する。相手が来ていれば、待ち切れなくて、と姿を現し、相手がまだ来ていなければ、相手の顔を立てる為に近場をぐるりと回って時間を調節する。今回、相手はまだ来ていなかったので時間丁度にもう一度、まだ居なかったので五分後にもう一度、出直した。しかし待っても待っても相手が来ず、待ち合わせ場所で待ちぼうけになった女苑は、苛立ちよりも先に心配が来た。
女苑は自分に自信を持っている。
故に相手が意図的に約束を破ったとは思わず、来る途中で事故か何かに巻き込まれたのではないかと考えた。四半刻が過ぎて、女苑は待ち合わせ場所を離れて相手を探しに出る。
そして路地裏で倒れる貢がれ対象を見つける。
極度の貧血状態、首筋に牙で噛まれた痕があるのを見て、彼が何者かに襲われた事を察する。その後、女苑は彼を彼の家まで担ぎ込んで、翌日、回復するまで御粥を用意したりと世話を焼く。他の男の約束を断ってまで、ちなみに今回の様な事は一度や二度ではなく、家庭の持たない男が風邪を患っては看病する事は多々あり、埋め合わせを提案してくれる所まで分かっているので拗れなかった。なんなら埋め合わせをしなくても良いと遠慮する者ばかりである。
女苑に貢ぐ事は推し活なのだ。
喜び勇んで財を投げ売って推しに貢ぐのだ。
女苑の好みな男性の性格は、貢いでくれる人だが、もう少し深掘りする自制心があり、無理をせず、末永く貢ぎ続けてくれる男性になる。
そんな彼女が自分の男を横から傷付けられたのだ、許せるはずがない。
故に探す。縄張りを荒らされたと騒ぎ立て、疫病神の沽券に関わると息巻いて、だけど、彼女の怒りが親密な相手に傷付けられた事に起因する事には無自覚で、遂に見つけた仇に我慢が効かず、小銭でパンパンに肥えた蝦蟇口財布を思い切り投げ付けた。
状況が緊急的だったのもある。
だけど一言も声を掛けず、先ず財布を投げた事に彼女の怒りは伺い知れよう。彼女はキレていた。どうしてくれようかと考えていた全てが仇の顔を見て吹き飛んで、財布を投げたのだ。
五指に付けた戦闘用のゴツい宝石の付いた指輪。片手で指を鳴らし、握り込んだ拳で飛び掛かる。
ステゴロである。
◆
疫病神の乱入に吸血鬼娘は困惑、彼女は彼女で自分が吸血した相手の事なんて覚えていない。
だけど心当たりしかなかったので否定も出来ず、身体能力に任せて抗戦する。そんな彼女の様子を横目に黒死牟は小さく息を零す。
しかし、と次々と集まる一筋縄ではいかない敵対者を一瞥する。
鬼殺隊ではない、衣服に統一感もない。
妖怪退治の事も知っているが、全員が全員、妖怪退治という訳でもなさそうだ。なんなら妖怪が混じっている、あの首なしは間違いなく妖怪だ。死神は、妖怪として扱っても良いものか。吸血鬼娘と抗戦するハイカラ娘は、人間とも、妖怪とも違った気配を纏っている。
黒死牟は、今しがた斬り裂かれた着物に手を触れる。
傷は既に治っている。好ましい剣筋だ、愚直で、真っ直ぐ。三日月の余波を生み出す月の呼吸の様に捻くれた要素もない。ただ一人の天才に及ばぬ凡夫の剣、一方で女剣士もまた凡夫。妬ましい程に素直な剣である。
黒死牟は、無言で強さの質を一段階上げる。
このままでは埒が明かない。
鬼殺の剣士まで来れば厄介だ。
あまり目立ちたくはないが致し方なし、短時間で決着を付ける事を優先する。
何時からか、剣を握るのは苦痛だった。
◆
異形の侍の纏う雰囲気が変わり、彼と対峙する全員が気圧される。
妖夢は刀を握る手が震えるのを感じ取り、小兎姫は口元を引き攣らせる。小町は息を飲み込んだ。赤蛮奇は、青褪めた顔で歯を食い縛る他にない。吸血鬼娘と抗戦する女苑が思わず、手を止めて振り返る程の威圧感である。
全員の脳裏に過ぎった、「死」の一文字。
吸血鬼娘は全員が動きを止めた一瞬の隙を縫って、異形の侍の背後に飛び込んだ。そんな事を気にする余裕がない程に、全員が異形の侍が放つ存在感に飲み込まれた。
赤蛮奇はガチガチを奥歯を鳴らし、それでも、場の空気を振り切る様に叫んだ。
「あと三分、三分だ! 三分間だけ、堪えるんだ!」
赤蛮奇の言葉に一早く反応したのは、異形の侍。制限時間が設けられた今、力を出し惜しみする理由が失われた。
独特の呼吸音。
全集中の呼吸は惡鬼滅殺の剣、人非ざる者を斬る為に過剰なまでの威力を求めた技である。
故に溜めが長く、隙も大きい。
初速で負けても、妖夢の方が初動が疾い。
現世斬では、威力が足りない。
冥想斬では、溜めが長い。
地獄極楽滅多斬りでは、仕留め切れない。
雨を斬り、空気を斬り、そして時を斬る。
妖夢はまだ未熟であり、十分に空気を斬る事も出来ず、奥義は未完成。それでも放たずには要られなかった未来永劫斬。祖父は言った、道を究めるという事は最終的に世の理を超越する事に辿り着く。未来永劫斬は過去、現在、未来を同時に斬る技。妖夢は、目を伏せる。極限までの集中、時を超えて同時に斬れねば、未来永劫斬は単なる連続攻撃に成り下がる。限界まで圧縮した時の中に十を超える斬撃を繰り出す事が未来永劫斬である。
死に直面した、走馬灯に似た集中力が妖夢を更なる極致に誘った。
「瞑斬」
放たれた技は、一撃。剣に導かれた正しい剣筋は、魂魄流の骨子から離れる。
「楼観から弾をも断つ心の眼」
黒死牟の胴体が、逆袈裟に斬り裂かれる。
反応が出来なかった。瞳に捉えていた、無数の瞳が女剣士を見つめていた。しかし、彼女が剣を振る一瞬、存在が消えた様に錯覚する。闘気、殺気、剣気が忽然と消えて、残されたのは一振りの刀。奥義開眼、それは確かに剣を振り続ける者にとっての極致の一つである。
それは黒死牟の無数の目でも捉える事が出来なかった。
否、見ていたのに反応できなかった。
黒死牟は、困惑する一瞬。小兎姫が駆け出す。
片足の激痛を堪えて、伸ばした片手に握り締めた十手剣が異形の侍の剣に触れる。
「失礼」
瞬間、黒死牟の視界が回転する。
何度も受けた感覚、何度受けても抵抗が出来ない。
小兎姫の技は理の極致。
相手に触れた瞬間に発生する筋肉の反射を捉えて、投げ飛ばす。
無意識の利用、理論上可能実現不可能と呼ばれ続けた小兎姫流の基本技である。
「貴方個人に恨みがあるって訳じゃないけど」
女苑が逆さまになる黒死牟の前に躍り出て、懐から札束を取り出すと周囲にばら撒く。
「まあ飼い主責任って事で、セレブリティバーン!」
パチンと指を鳴らす。
均等に宙を舞う御札が急に燃え出して、黒死牟の視界を妨げる。
だが、と何度も受けた事で重力の反転には慣れた。
炎を目眩ましに女苑が駆ける。
黒死牟が刀を構えて、擦れ違い様に振り抜く。
手応えは、なし。
それどころか、刀も握り締めていなかった。
「手癖が悪いって? 残念、財を奪うのが疫病神の矜持ってもんだ」
奪っておいて「うわ、気持ちわる!」と女苑が無数の目が付いた刀身を見て声を上げる。
黒死牟は小さく深呼吸、刀など幾らでも再生可能。
新しく刀を生み出そうとした時、ふと脳裏に過ぎる有名な言葉。
──刀とは、侍の魂である。
幾らでも再生出来ると簡単に奪われて、これが侍の姿か? 侍の矜持か?
疑念に動きが止まる。
一瞬の間、誰も間合いが詰める事が出来ない一瞬の気の迷い。
だが此処には、距離を一瞬で零に出来る者が居た。
「頸を刎ねれば、死ぬんだって?」
死神の鎌が頭頂部が地面に触れる直前の黒死牟の喉元に添えられる。
「余命幾許も無し」
自身と黒死牟の距離を操作し、一瞬で背後から首に添えた鎌を引き抜いた。
だが、響いたのは金属音。小町の手に届いたのは肉と骨を断つ感触ではなく、手が痺れるほど硬い金属に刃を当てた感覚。死神の鎌と黒死牟の首の間に新しい無数の目の付いた刀身が滑り込まれている。
黒死牟は、鎌の反動を利用して、身体を更に半回転。上下が反転し、地面を踏み締める。
「まずっ……!」
小町が能力も使って咄嗟に距離を取る。
「逃さぬ」
しかし複数ある全集中の呼吸の中で圧倒的な制圧力を誇る月の呼吸。自身が元鬼狩りであり、血鬼術を駆使する鬼との戦闘経験が豊富な彼は、一瞬で伸縮出来る距離に限界があると呼んで追撃の技を放った。
「月の呼吸・漆ノ型、厄鏡・月映え」
放射線状に放たれる地走りの斬撃。黒死牟の周囲に集まっていた敵対者を牽制して、距離を取る小町に襲い掛かる。小町も空白期間があるとは云え、一端の死神。地走りの斬撃は回避、しかし三日月の余波までは躱せず、脇腹を切り裂かれて鮮血が地面を濡らす。崩れ落ちる死神に黒死牟が追撃を加えようとした時、またしても立ち塞がるは小兎姫。脚の出血は酷く、額を汗で滲ませる。
「お前とは、もう斬り結ぶつもりはない」
月の呼吸・陸ノ型、常夜孤月・無間。
一瞬の溜めから近中距離を制圧する無数の斬撃、無数の余波。
質よりも量、加えて密度。
物理的に対処出来ない数の斬撃が小兎姫に襲い掛かる。
「冗談」
だが、なおも小兎姫は笑みを崩さず、十手剣を前に翳す。
◆
「初代小兎姫の異名は、二つある」
晩秋、冬眠する前の妖怪の賢者が親友である冥界の管理人に言葉を綴る。
「人間側からは江戸の守り人。恐れられるだけだった妖怪に愛嬌が生まれたのは、人に被害が出る前に彼女が片っ端から妖怪を退治して回ったのが理由の一つに上げられる」
ではもうひとつ、と賢者は言葉を続ける。
「赤い通り魔」
初代小兎姫の赤く長い髪は、当時の妖怪にとっての恐怖の象徴である。
妖死すべし慈悲はなし。を信条に異常な勘の鋭さで江戸に隠れる妖怪を見つけ出し、弁明も聞かず、とりあえず叩きのめしていたのが異名の由来。当時、江戸近辺に住んでいた妖怪は、肩身の狭い想いをしていたのだと云う。
勿論、大妖怪を相手取る事もあった。
だが江戸で妖怪が原因とされる事件が発生していない事から推測できる事実は、新聞の記事するほどの被害すら出さずに初代小兎姫が解決して来たという事である。
「最強の妖怪退治と謳われる程の彼女の特異な能力、例えるならばそう」
妖怪の賢者は妖艶な笑みを浮かべて告げる。
「ありとあらゆるものを受け流す程度の能力」
勿論、それは特殊能力ではなく、技術の範囲の話である。
「もし概念化に成功したら面白い事が出来そうじゃない?」
今はまだ。
◆
地面に無数の斬撃の痕跡、余波を含めて数百を超える。
黒死牟は、振り切った刀を構え直す。残心を心得るように無言で前を見据える。
自分が十二鬼月となり、上弦の壱になって幾百年。
一度の敗北もなく、研鑽を積み続けた。
月の呼吸の型は拾陸まで伸ばし、相手が鬼殺隊の柱であっても一息で細切れとなる。
弟は言った、私たちの才覚を凌ぐ者が今この瞬間にも産声を上げている。
居らぬではないか、誰も。
貴様を超える者など、何百年と過ぎようとも、一人とて。
鬼に身を堕としても超えられない。
嗚呼、何時からだ。
最初は違和感だった、剣を握るのに小さな息が零れる。
溜息が零れるようになったのは。
剣は重く、身体の節々が錆び付く様で。
お前だけが、我が剣を見切る事が出来た。
「無想天生」
斬撃の跡、不敵な笑みを浮かべた少女が一人。立っていた。
何故、立っている。
片足に傷を負った状態で、彼女は人一人分の隙間もない斬撃の嵐の中を耐え切った。
否、凌ぎ切る。
至近距離だった。一歩も動かず、少女は無傷で切り抜ける。
流派も、戦術も、武器も、まるで違うはずの彼女に、弟を幻視した。ありえない、ありえてはならない。弟は最強で、無敵で、誰も敵わず、誰の追従を許さず、弟は、弟は、日本一の侍なのだ。決して、二番目ではなく、日本一なのだ。
前に突き出した十手剣に罅が入り、パキッと折れる。
人類の限界を超えた動作に、少女の身体はふらりと傾いて「もうむり」と地面に崩れ落ちる。
「こくしー!!」
吸血鬼娘が叫んだ。
「奥義」
誰かの声が聞こえた。
「西行春風斬ッ!!」
桃色の閃光が弾けて、黒死牟の身体を切り刻んだ。
◆
赤蛮奇が残り三分と叫んでから二分が経過する。
幾度と見せた妖夢の俊足の居合抜刀術。瞑斬を経て開眼した知見を元に放たれる連続の俊足抜刀術による桃色の霊気を伴った余波が周囲を無差別に切り裂く。だが彼女が握り締めた楼観剣による一撃、一撃は的確に黒死牟の身体を捉えていた。腕を切断し、足を斬り飛ばす。再生する先からまた四肢を切断し、息も吐かせぬ連続攻撃に黒死牟は反撃の糸口を見出す事も出来ず、防戦を強いられる。
だが人喰い鬼の習性から首に届く斬撃だけは剣で受け止め切っている。
あの女剣士の攻勢が長く続かない事は、傍から見る赤蛮奇にも分かった。
彼女は限界を超えている。
一秒でも長く、と祈る思いで見守るも、超えた限界の終わりは唐突に迎える。
速度が僅かに衰える。
黒死牟が身を捩って妖夢の剣を回避すれば、妖夢は空振った自分の身体を制御し切れず、地面を滑る様に倒れ伏す。
小兎姫は倒れた、妖夢も敗れた。
小町は脇腹に重傷を負って、片膝を着いている。
動けるのは、赤蛮奇と女苑の二人だけ。
「……あは、あはは、アーハッハッハッハッ! 勝負あったわね!!」
先程まで、黒死牟の背中で頭を抱えて地面に蹲っていた吸血鬼娘が高笑いを上げる。
「どーよ! これが私達の力、これが上弦の壱の力!! 二身一体、私と黒死牟様の勝利よッ!!!」
吸血鬼娘の勝利宣言に黒死牟は溜息を零し、剣を握り締めたまま地面に倒れる小兎姫に歩み寄る。赤蛮奇には、彼を止める実力がない。女苑も同じだ、更に言えば義理もない。だから赤蛮奇は腕っ節ではなく声を上げた。
「バーカ、時間は十分に稼がせて貰ったんだよ!」
「なにぃ!?」と、くるみが憤る。
「誰が馬鹿正直に本当の時間なんて言うもんか!!」
本当に必要な時間は二分程度。赤蛮奇が時間制限を口にした時、既に行動は始まっていたのだ。
「見てみろ、あれが勝利の狼煙だ!!」
赤蛮奇は精一杯の虚勢を張った笑みで夜空を眺めた。
彼女の言動に黒死牟もまた空を見上げる。
白い煙が上がっている、まるで火事のようだ。
そして周囲に喧騒、人の気配。此処に人が集められている。
「……ふむ」
黒死牟が視線を落とす。
ならば、と人が来る前に始末しようと考えた。
だが、黒死牟の視界を写り込んだのは、目一杯の紫色だった。
紫色の唐傘である。
「う~らめしやァーっ!!」
黒死牟は斬った。唐傘の少女を、無慈悲に。
「ぎゃーっ!!」
女子の気の抜けた叫び声、黒死牟に彼女を斬った感触はない。
唐傘と共に大きく後方に吹き飛んだ彼女が胸元に構えるのは杖、切れ目から刃が垣間見える。杖による仕込み刀。咄嗟とはいえ、斬る事も、折る事も出来なかった。良い刀だ。生首が咥えていた小刀も同じ製作者だろうか。
成程、自分の身体を刺せたのも納得だ。
「物の怪は、物を作るのが得意なのか?」
黒死牟は独りごちる。
「小傘ァッ! 何やってんだ、危ないだろッ!!」
「ひ、ひぃ~ん! わきち、頑張った、死ぬかと思った!!」
「狼煙は良くやった! 人の呼び込みも良くやった!」
小傘は泣きべそを掻きながら唐傘で風に乗り、家屋の屋根まで飛び乗った。
黒死牟は、改めて周囲を見渡す。
足元の十手剣の娘が居ない、女剣士の姿もない。
ステゴロ娘もだ。
全員が、死神の女の傍まで引き寄せられていた。
「……厄鏡・月映え」
無造作に放った地走りの斬撃。通常であれば、死神娘まで届く距離。
だが斬撃は、彼女達の元に届く前に勢いを失って霧散する。
「はッ! 十分な距離があれば、これくらいの事は出来るんだよ!」
彼女の言葉に、黒死牟は目を伏せる。
一秒、二秒と。此処で敵対者を始末する事は出来る。
だが時間が掛かる。
自分の役目は、吸血鬼娘の回収であり、此処で騒ぎを起こす事ではない。
要は、してやられたのだ。
「……くるみ、帰るぞ」
「へ?」
鳴女、と黒死牟が呼べば、ベン、と琵琶を弾く音が響いた。