僕の名前は榛原リヨ。
そう。僕の名前は榛原リヨ。父さんが僕に名付けてくれた 名前だ。里の繁栄に大きく貢献してくれた偉大なる父が授けてくれた名前。そしてその偉大さは次の世代へと紡がれていくように、僕へと伝播する。
「あら、おはようリヨ。ご飯できてるわよ」
「おはよ母さん」
食卓の近くに見える台所に母さんの背中を見る。
榛原舞子、僕を産んでくれた大切な母親。17年も昔の事を覚えてもいない僕にそんな事を気にする素振りなかった。
そして僕は食卓の椅子を引き、腰を下ろす。
「おはよう息子よ」
「おはよう父さん」
見た目は屈強な体と武骨で厳つくて少々怖そうは顔付き、そして整った無情髭を生やしている。
「味噌汁とお魚、そして白米か。今日も妻の作る朝食も美味そうだ」
そう言って父さんは向かい合わせに座る。
その隣には空いていた一席があるが母さんの分だ。最後に舞子が座れば、客観的に見て普通の家族としての光景が広がっていることだろう。
だけど、この家族には普通ではない物が存在する。
僕の父さん。榛原アグナ。彼はいわゆる"異星人"でバルマウという星からやってきたようだ、そして父さんから見た僕たちは地球人として扱われている。バルマウ、人口の数は地球よりも遥かに上回り約5倍の数。
僕が子供だった頃、父さんと一緒に縁側で座っていた時の話だ。
『お父さん なんでこの里にやってきたの?』
『それは里であるからよりも この美しき自然や人々の馴れ合い、全ての厄災から地球を守るために来た』
『私の故郷であるバルマウは、私のように空を飛び大岩を持ち上げるという生まれながらにして強力な力を持ちながら 他の惑星を救い共に共存していく使命があるのだ』
『たすけるんだ〜…!いいな〜!僕もお父さんみたいになりたい!』
僕は立ち上がり、空に向かって手を差し伸べる。
『僕も空飛んで!人間を助けたい!』
父さんは横で僕の様子を腕組みをしながら眺めていたが、口元が覆われていた髭越しに微かに口角が上がるような錯覚を感じた。見えていないはずなのに。
『うわっ?!』
突然父さんは僕の正面に立ち、両脇に手を入れて持ち上げる。空を飛びながら。
『お前なら、きっとなれる』
『⋯!うれしい! よぉーし!父さんみたいになるぞー!』
『ふっ』
そのバルマウにいる全ての人たちは皆、父のように"超常的な力"を宿らせているのだ。
カチャッ
「ご馳走様でした。器直しとく」
母さんは口に含んでいたようだったからそのままコクリと頷く。
父さんはいつもみたいに眉間にしわ寄せて、それ見えてるのかってくらい目を閉じながらご飯を食べてる。
口には何も含んでいなかったけど結局何も言われぬまま僕は自分の部屋に戻った。
「んよしと⋯」
いつも通り、"超常的な力の発現!"の朝練を頑張るぞ!
僕は朝起きて朝食を摂った後、日課のパワーを発現するための練習を朝に行っているのだ。とはいえ、イメージとか屋根の上に移動して空高く飛ぼうと考えたりするのが練習なのだけれど、客観視してみてもやはり僕は子供心を絶やせない青年になっていることだろう⋯。
今の青年は、叶わぬはずのない夢に向き合う年頃なのだ。けど出生の話じゃ状況がわけが違う。僕はアグナの息子であり、バルマウ人の遺伝が、父さんの力が子である僕に伝わっていくはずなんだ。
父さんは学童期ぐらいが力の発現に目覚める頃合いだと話してくれた。
『お前はバルマウ人の血と地球人の血が混ざり合った特別な個体だ。我々の遺伝子は他の惑星の種族と比べて強力だが、私のようなバルマウ人同士の間に生まれた者と他種族との間に生まれた者ならばもちろんバルマウの血は弱まり、発現の頃合いは遠くなる』
『だが力はいずれ開花する。気長に待てばいい』
とはいえ、もう17年。純血の父さんが力を発現させたのは学童期、つまり4歳ぐらいかな。早く発現させようと稗田阿求から取り寄せたこの本⋯。んまぁ予想通りの内容だよ。
しょうもない⋯夢を見る者がいかにも興味を惹きつける内容。
とりあえず読んでみたけど、文字がズラーっぎっしり並べられてるところで辞めた。小さい頃から読み書きは苦手だし、こうしてわざわざ借りてきた本読めてない。
何をしたいんだ俺は。
黙々と坐禅を組んで精神統一(煩悩込み)しながら、力の発現を待つ。坐禅組んでも別に力が目覚める保証は無いはずなのにね。
「はぁ⋯やーめた。」
諦めるように屋根の上で手足を広げながら仰向けになる。
もう、とっくに夕方だ。時間の流れは早い。
「今日はいいや。明日の自分に賭けてみよう」
あやのはこうした練習を続け10年。青年期に入った頃から既に諦め状態で渋々続けていくような、ただ単なる義務で練習のために動いているような状態であった。バルマウ人の血の混ざった息子。力はあるはずの体に毎日、何の変化のない体なのだと自覚しなければならない夜の時間、日々。
半諦め状態で、殆ど駄目駄目なスペックを持つあやのでも、人々を危険から救い出す父の姿を見た時からその気持ちはずっと消えていない。
人を救いたいという信念は誰にも負けないほどに強固であった。