人里、ゴミ捨て場にて慧音先生と僕は現状に相違の感情をこもらせていた。
一人は驚きながらも時を経て圧倒的な力を手に入れる事ができ、喜ぶ青年。
もう一人は、人々を救う英雄の姿にその青年と重ねる者。
慧音は真っ先に問いかけてきた。
「リヨって⋯アグナの隠し子か何かか⋯?」
「えっ?!」ギクッ
まさかの父さんと知り合い?!僕がまだ寺子屋に通ってた頃は授業参観や家庭訪問で親と担任が顔を合わせる機会があっても同伴は母さんだけだったんだけど⋯!
いや⋯ここは僕の今の現状を垣間見て父さんに結びついたと簡単に考えるべきだ。
でもどうする⋯?子供の頃お世話になってもらった先生に嘘を付くとか悪いし⋯。
「え、えーと⋯」
「⋯⋯言いたくない事情があるのか」
「う、はい⋯」
「まぁ今の反応で、なんとなく察しは付く。だが仮にそうであったとしても、昔世話をした可愛い生徒を売るような真似はしない」
「⋯あぁはい」
慧音先生の言葉を聞いて、少しだけ緊張が解れた。
「すいません、もう要は済んだので僕はこれで⋯」
「わかった。一人で大丈夫か?」
「はい。さっきよりかは空を飛べるかもしれません」
「あ、嗚呼⋯」
地面からほんの浮く程度の微弱なものだったけれど、今なら行けそうな気がする。
どんどん自信が湧き上がる感覚に満たされていくと、踏ん張る感じで足を広げた構えを取った。
父さんはどんな風に飛でたんだろ?僕のように初めて飛ぶ時とはだいぶ慣れていたようだし、機動力は修行で身に付けていくような感じだろうか?とりあえず空を飛ぶ!と意識すれば割と簡単に⋯!
そう思い込んだ瞬間だ。地面を勢いよく足で押すようにして、飛び立つ。そう飛んだのだ。
跳び上がった地点から衝撃で砂埃が舞い上がってしまった為、先生に砂が掛かってしまう。が今は余りの興奮に謝る余裕なんて無かった。
目の前の状況に対して反応するのに精一杯だ
「すげぇぇえええ!!!!」
飛んでるよ!飛んでるぞ僕!
次々と建物の上をすんなりと通り過ぎ、森の範囲に突入する。歩いているときと違って沢山の向かい風が僕に当たってくる。
空には障害物が存在しないのだから、物凄い量の風が押し寄せてくる。
父さんは空を飛んでる時、こんな感覚だったんだろうなとも思う。
「あっ、もう家に着いたのか」
思っていたよりも早かった
まだこの世界を上から観光したかったけど、もう夜も遅いし親に心配掛けてしまうのだからそういうのは明日で持ち越しかな。
ふふ、僕が力を発現したこと母さんたちはどんな反応するのかな〜!楽しみだな〜⋯!
『素晴らしいぞ!それでこそ我が息子だ!いや⋯素の息子も息子として愛しているという事も含めてだ!』
なんて言われちゃったりして〜!
なんて妄想で一人感情に振り回されながらも榛原家の玄関へ向かっていくリヨ。
しかし地面に近づいてきた所で違和感を感じ始める。
「あ、あれ。なんで⋯と止まんないッ!?」
どうしてだ?!さっきは割と簡単に飛べてたのに⋯力の発動はなんとなくわかってたけど⋯!止め方が⋯とりあえずさっきみたいに逆に意識していけば⋯!
で、でもだめだ!考える暇すら⋯!
検証する前に、僕は地面にぶつかる直前だ。
「うわぁああああああ!!!まずい!ぶつかるぅううう!!!──」
一方で向き合うように椅子に座り、たそがれていた榛原夫妻。薄暗い部屋の中で二人の間を照らすロウソクの火がロマンチックな雰囲気を醸し出している。
「覚えてるいるかしら?私たちが初めてであったあの日」
「あぁ、今でも忘れるはずがない」
「あの時の貴方、物凄くカッコ良かったわ」
「⋯ふん」
妻はいじらしく視線を向けてくるので、むず痒かったのか恥ずかしそうに私は目を反らしてしまう。
「照れちゃって⋯」
「照れてなどいない」
「嘘つき」
「むっ⋯─!」
ドゴォォォン!
私が言葉をハッキリと言い終えた瞬間だ。玄関方面から突如爆発音が響き、家内全体が激しく縦に揺らされ始める。丸で地震が起きたかのようで、私はそれに身に覚えを感じた。
「ちょっとなに?!」
「ここで待っていろ」
妻を机の下に避難させ、少し体を浮かした状態で玄関まで赴く。扉に耳を当て、耳を澄ます。
「⋯⋯」
特に誰かがいる気配は無さそうだ。
私は恐る恐るゆっくりと引き戸を開ける。
開かれた引戸の隙間から煙が入り込んでくる。
「⋯⋯」
ガタンッ!
「─⋯なっ⋯⋯リヨッ!大丈夫か!?」
玄関の前に広がっていたのは、地面に深いクレーターが出来上がった中心に息子のリヨが倒れていた光景だった。一体何があったというのだ。
私は息子を抱え、心臓が健康に動いているかどうか感じ取ろうと研ぎ澄ます。
「よかった⋯。気絶しているだけのようだ」
しかしこれほどのクレーターはかなりの威力を現している。もし上空から降りてきたのなら、もう少し息子の頭上から血を流していてもおかしくはない⋯少々砂埃が肌に張り付いている程度だ。
ならば考えられる原因は一つ。
「⋯⋯」
「あなた?」
引戸の隙間から顔をひょこっと出してくる舞子。心配な面持ちで何が起きたのか目の前の状況を把握しようとしている。
私は淡々と口を開く。
「⋯息子が気絶している」
「え?!」
「心配無い 眠気に先ほどの衝撃が上乗せされ、眠りについてしまっているだけだ 寝床で体を休ませておけば明日には目を覚ますだろう」
「そう⋯何があったのかしら それに大きい窪んだ穴は⋯」
「私が何とかしておこう。お前は息子を頼む」
「わかった」
───
⋯小鳥のさえずりが聞こえる。
「んぅ⋯ん〜⋯。スンスン⋯⋯ ん?」
寝床をまさぐるように体を動かす。横向きに寝かせていた上半身を起き上がらせると、寝床がギシッと一点に体重が乗っかる。
同時に変な匂いがした。
「なんだこの匂い⋯砂⋯?」
それよりも空を飛んでいた筈なんだけど、いつの間に部屋で寝ていたんだ?早めに家に着いたからそのまま⋯。
僕は思い出すように深呼吸をして頭を掻く。
「そうか⋯そういえば止め方がわからなくてそのまま墜落したんだよな⋯」
「起きたか」
「うわなに?!」
いきなり扉の隙間から父親の声を掛けられたので体をビクつかせる。父親もどうやら張り上げた息子の声にびっくりしてしまったようだ。
「すまない⋯驚かせるつもりはなかったんだ」
「いいよ別に⋯それと聞きたいんだけど、僕お風呂は入ってないよね?」
「ああ」
「うわやっぱりかよ⋯!」
「地面の上に倒れていたからな⋯⋯無理やりさせてしまうのも悪いと思い自室へ戻したんだ」
寝床から立ち上がり引き出しに入れてある服やらタオルを取り出す。
「⋯何をしている?」
「見てわかんない?風呂に入るんだよ 体中砂と皮脂だらけで気持ち悪い⋯」
僕は父さんの横を通り過ぎた瞬間、突然腕を掴まれた
「待てリヨ!」
「な、なに⋯?」
思ったよりも握る力があり、腕の血管が圧迫されている。反射的に嫌な表情を向けたが、父さんは直ぐに手を離した。
「す、すまない。昨日何があったのか、父親として知っておきたいと思ったんだ」
「ああ、うん⋯⋯力が発現したんだよ」
とさりげなく伝えた。
食卓の間でもう少し特別感あるように伝えたかったのだけど、まぁ聞かれたからには仕方ないよね。隠すことでもないのだし。
さて肝心な父さんの反応は⋯
「⋯⋯」
チラ見する程度で父さんの顔へと視線を向けた。
そこには僕が想像していたよりも、真逆の反応であった。眉間にシワを寄せながら何か⋯思い詰めたような顔だ。でも分かっていたかのように心構えてはいたけど、いざ事実を直面しても心じゃ受け取りきれていない感じが父さんから感じた。
な、なんだ?この空気⋯。
「⋯⋯そ、そうか!素晴らしいぞリヨ。ようやく一歩前進したのだな!私の息子として誇らしいぞ!」
「あはは⋯はぁ⋯──」
けど結局何もわからずじまいなのだし、父さんの秘密に踏み出そうとも思わない。変に詮索してもめんどくさい事になるだけだ。
とりあえず今は父さんのノリに合わせてお互い口調を震わせながらも その場を切り抜けた。
「──ふぅ、いい湯でした⋯」
人生で初めての風呂キャンを終え、1日ぶりの風呂を味わった僕は服を着替え終えた後、首後ろに掛けていたタオルで頬や額に垂れていた水を拭きながら浴室から出る。
すると 扉の横で壁に保たれていた父さんが待ち構えていた。威厳を感じさせるように顔を下に向け腕組みをしている。
素直にカッコいい。
「まだなんか用?」
「何を言っている?お前も分かっているはずだ」
「⋯あ~。でもまだちょっと早くない?」
有無を言わさぬように半ば強引に外出させられる。
困ったな。運動用の服じゃないんだけど、寝間着に使う服だし。風呂上がりの運動はどーしても懸念が⋯。
しかし今の父親には言えるような雰囲気では無かったので、渋々湖の前に辿り着いた。
まだ朝日の太陽が山の麓から顔を見せた程度の時間帯、早々の朝で父さんをはじめとした力の扱い方をご享受させてもらうことになった。
「ぐぇ⋯湖の近くは湿気が多くて蒸し暑いんだよな⋯」
「弱音を吐くでない」
父さんは足を地面から浮かばせたまま平行移動で僕の正面に立つ。
「知っての通り私の故郷、バルマウの使命はこの強力な力を他の惑星の為に振るう事」
「お前にもついにその時が訪れたということだ。力が開花し、お前にとってより私という理想像に近付ける第一歩になる」
「うん!」
なんかワクワクするな!
「これからは力を使ったより本格的な鍛錬を行う。力に目覚める前とは違って更に厳しく指導する事になるだろう」
「覚悟するんだ」
「はい父様!」
「と、父様⋯?まぁいい」
父さんは軽く咳払いをする。そして浮かんでいた父さんの移動先は湖の水面上へと向かっている。
「着いてこいリヨ」
見向きもせず丸で僕が飛んでくることを確信しているかのように待っている。
「ちょっと待って父さん 慣れるまで⋯っとと⋯」
「⋯ああ」
父さんから言われた通りに体を浮かしはじめる。昨日と同じような感覚を思い出しながら、飛ぶことを意識し続けた。
「あ、あれ?」
しかし昨日と違ってなぜかコントロールが乱れてしまう。微かに湖の水面上へゆっくりと移動し続けてはいるものの、宙に浮いていた体が逆さになったり、体の向きが中途半端にあらぬ方向へと向いていくばかりである。
「⋯⋯」
「あ、あれぇ?昨日はできてたはずなんだけど⋯」
「んぶぅえ──?!」
体が逆さになった事で顔が水中に浸かってしまった。
足をばたつかせながら必死に上昇しようとする。
見るに堪えなかった父親が瞬時に息子の足を掴んで引き上げた。
「ゲホゲホッ!⋯ご、ごめん父さん⋯」
「いや良い 力を初めて扱う者によく現象だ」
ハハハ⋯なんかお世辞にしか聞こえないな⋯。
「リヨ 力が発現したという事についてだがその確信を持てたきっかけは何だ?」
「足がちょっと浮かんだくらいかな⋯」
「⋯力を意識して使おうとしたのは?」
「それは、空を飛ぼうと考えた時」
その言葉を聞いた父さんは少し目を反らしたまま考え込む。
父さんは水の上にただ浮かんでいるだけなんだろうけど、力に目覚めた僕がようやくスタート地点に立てた今だからこそわかる。
よく見てみれば一切のブレが無くて、未だに空中を回転し続ける自分と違って余りにも力の制御の差が大きいと自覚した。
丸で地面に立っているかのように自然と浮かび続けている。それを見た僕は、凄いなと思った。
「リヨ 空を飛ぶ。とは決して今の状況を同一だと考えてはならない」
「⋯⋯」
「飛行の練度を高める為に必要な物。即ち己の心だ」
「どこに向かいたいか、高さはどのくらいが丁度良いのか。心に一貫性を持ち、常に考える事が重要なのだ」
「それに伴い、より空中で自由度の高い動きを再現する事が可能になる」
リヨは逆さの姿勢で自分が映っている水鏡を眺めている。
「⋯魚だ〜」
「聞いているのか?」
とこちらの声掛けに反応した。
「ごめん、魚が横切ったからさつい」
逆さの状態で横に回転しているリヨ、余りのシュールな絵面にアグナも鼻で笑いそうになるがそれを必死に抑える。流石はバルマウの戦士
「⋯要はもっと"飛ぶ"っていう意味合いのバリエーション増やせって事なんだよね?」
「間違ってはいないが、ほんとにわかっているのか?」
「えーっとだから⋯」
僕なりの考えと実践を平行して行う。
つまり父さんのようにブレのない飛行を再現したいなら、"飛ぶ"という曖昧な言葉だけではなく"空中で静止する"と詳しく考える事が大切。
「ふむ⋯」
父さんの口角が少しだけ上がり、感慨深そうに見つめる。
先ほど空中でろくに留まる事も出来なかった僕は、徐々に安定した姿勢へと戻していった。そして等々、直立姿勢になる事に成功した。
個人的に力の成長って言ったら、やっぱり飛行速度とか力の強さが極端に上がる事なのかと考えてたけど意外とそうでもないんだな。
「はじめてにしてもこのくらいは出来て当然だが、上出来だ。若年は物覚えが早い」
「意外と難しかったんだけどこれでもまだ簡単な方なのか⋯」
「丁度良いくらいだ。そんなに気負いするな」
「うん⋯ごめん父さん。それじゃ続けてお願いします!」
「もちろんだ」
その瞬間視界がくるりと回転した。
「─ぶわぁっ?!」
張り切っていたリヨがコントロールを誤って再び顔面が水中に埋もれてしまった。水しぶきが辺りに飛び交う。
父さんは呆れるようにジト目でこちらを見つめている。可笑しいな、顔は水中で見えないはずなんだけど何故か容易に姿が浮かぶ。想像と現実を混同してしまっている幻の光景なのだろうか。できればそうであってほしい
「はぁ⋯リヨ。飛行する際は常に考えなければならない。他の事を考えるのなら飛行の意識は頭の片隅に置き続けろ。些細な動きでさえ意識がチグハグになっている。それだけでコントロールは乱れてしまうのだ」
なんて説明をされながらまたも足を掴まれ引き上げられる。
「要は頭の中で保存しろ」
「ゴホッゴホッ⋯ずびません──」
そんな感じで今日から本格的な力の訓練が始まるのだった。
続く