人権ヒーラー(︎︎♀)に転生おじさん   作:春に木漏れ日

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11話

 はぁっ……はぁっ……。す、すごく疲れた……!ヒョロガリに走らすな。挙句の果てに埒が明かねぇ!と思い、ズルで飛翔魔法使って空にも逃げたもんね。鴉も当たり前に翔んできてあえなく追われたけど。

 

 汗だくだくで聖女がやっちゃいけない顔をしてるのを見ればわかると思うが、先の見事な排骨湯アタックにより、びっちょびちょとなったカンタレラのガチギレ魔法を受け、私は真夜中から陽が昇るまで延々と追いかけっこをさせられることとなった。

 

 おいなぜなんだ。龍緋と戦って消耗してるはずだろうが。なんでそんな出力で異能使えるんだよ。聞いた話だと片腕欠損に火傷まみれだって言ってたのに!

 

 その名残もなく綺麗さっぱり治ってんじゃんか。レヴナントって再生能力とかあったか?プレイヤーの私は記憶にないんだが?

 

「あの……誰でもいいのでこの悪戯娘をとっちめてくれませんか?」

 

「プッ……アッハハハ! 綺麗な顔がぐちゃぐちゃになるくらい息を切らして……いい気味だねぇ?」

 

「されるだけのことをしとるからの……自業自得としか言えぬよ」

 

 まったく……役に立たない君主だ!こんなに心清らかな美女が眉を悲しげに歪めて懇願してるってのに聞き届けないなんて。

 

 ……あ?どこにいるんだそんな美女?って辺りを見渡すな。居るだろうが、ここに。ほら。節穴か?目ん玉。

 

「……そーいえば。キミもボクを見て怖がらないんだね。龍緋が変わり者だっていうのは元々知らされてたけど、キミもなの?」

 

 なんだその真面(まとも)か変わり者しかこの世にいないみたいな枠組みの狭さは。たしかに私は超優秀なので普通ではない。……が、龍緋と同じ区分に分類されるのだけは如何ともしがたい。

 

「変わり者は龍緋だけですが、そうですね。私にはあなたを怖がる理由がありませんので」

 

「……それ、ぜったいにヘンだよ!ほら、よく見てボクのこと!露出するはずのない“魂”!人のカタチをしていない影!キミとは違う()()()()なんだよ!?」

 

「あー、あー……!! ゆ、揺すらないでくださいっ、まだ酸欠で気持ち悪いんですよ!!う゛っ……吐くから、吐いちゃいますから!!」

 

 唐突だが、みなは【隠者】のタロットカードの正位置と逆位置、それぞれに対応する意味をご存知だろうか。

 

 主に【隠者】の正位置は『慎重』・『精神』、逆位置は『陰湿』・『誤解』などが意味として挙げられる。

 

 カンタレラの過去は壮絶なものだ。彼女の心に刻まれた傷は深い。レヴナントに成ったことなんて捨ておいても、()()が歪んでもしょうがないと思えるほどに。

 

 性的虐待児に見られるケースとして、人の優しさに触れたとき、それを受け取る心の土壌が育ちきっていないが故、逆に()湿()な態度を取り()()を招いてしまう場合があるという。

 

 彼女はまさにその典型である。歪んで、捻くれて、嫌われる。自愛なんてできるはずもない環境だったから、自分さえ自分を嫌う。どんどん心と身体が摩耗していく、悪循環。

 

 どうして自分は上手く立ち回れないのか。

 どうして自分は家族に見捨てられたのか。

 どうして自分は死んだのにのうのうと生きているのか。

 

 弱すぎる。酷く脆い本心は、隠さなければ。

 

 なんでボクを怖がらないのかと、そう問うたのは私を試しているからだ。下手に優しくされて、後で見放されたら自分の心を保てなくなるから……()()に人を試している。

 

「本当に怖がる理由なんてないんです……なんて言っても信じれませんよね、あなたは」

 

「うん。現にボクはバケモノで、キミらとは違うのは変わることのない事実だから」

 

 もとより容姿は十五、六の幼げな少女のそれであるし、背丈は低いのだが、その小さな体躯をより一層背を丸め小さくなっているカンタレラ。

 

 本当は怖がらないでほしいと、そう素直に言えば良いのになんて天邪鬼な子だろうか。

 

 せめて私たちに無害であることを示すため、取った表現がただ縮こまることのみだというのが、私は悲しい。

 

「私の信じる龍緋があなたを殺さなくてもよいと判断した。それだけであなたを信ずるに値するのですよ。

 ────だから、全く怖くありません。そんなに縮こまらないで、胸を張りなさいな」

 

 私がその猫背気味な背中に手を回してさすろうとすると、びくっ!と怯えるように跳ねて身を引いてしまったカンタレラ。

 

 ボクに何をするの……?と私の顔を窺っているカンタレラ。目の色だけで伝わるとは思わないが、努めて柔らかな眼差しを心がけて彼女に微笑む。

 

「俺に熱く抱きついてきたのだ。もはや一人や二人に抱きついても、抱きつかれても、さして変わらんだろうに!」

 

「〜〜〜っ、うっさい! あの時のボクはどうかしてたの! それにまだボクら敵同士だっただろ!?」

 

「──じゃあ、今は敵同士じゃない、ね? ぎゅっ……ってすると、ぽかぽかしてあったかい……よ?」

 

 ……!?エレオノーラが私とカンタレラの隙間にぬっと顔を挟んできた。私は天才人権聖女なので当たり前に場に順応できるけれども、いくら主人公とはいえこの状況に順応しすぎじゃないか?遠くの初梅を見てみなさいよ。

 

 カンタレラと龍緋が和気あいあいとしているのを見て、下唇から血が出るほど噛み締めることで刃を納めているくらい納得いってないみたいだぞ。目元のピクピクしてる血管破裂しそう。めちゃくちゃ怖い?あれで最年少記録保持者なんだぜ。

 

「…………わかったよぅ。皆がそう言うなら、やってあげなくもないぜ?……でも、一瞬!一瞬だけだからな!」

 

 満更でもないくせに。このカンタレラとかいう少女、可愛いぞ。何が良いかってそうなった経緯を聞くとグロいのだが、ボーイッシュな身なりをしていてこのあざとさなのだ。

 

 ンな照れながら抱き締められ待ちみたいに手を伸ばす仕草、普通やらんぞ?どんなヒロインでもさ。ふふ、おじさんいつかセクハラ扱いされて捕まりそうで怖い。

 

 ちなみに少しは汁気を拭ったが全然カンタレラは排骨の匂いがこびりついている。臭……く、ないです。人の体臭、風呂キャン聖女が言えることではないですよ。ええ。

 

「一瞬ですね?わかりました……はい、これでおしまいです」

 

「……ぁ……! ふん……やっぱりキミも変わり者だね、こんなバケモノのボクとハグできるなんて!」

 

「────ね、カンタレラ……さん。ぽかぽかした? レアさんって良い匂いだったでしょ、ね?」

 

「ひゃあっ!! ……もうっ、ボクに聞くな! 良い匂いだったんじゃない!? し、知らないけどさ!」

 

 ちょっと待とう。私はここ最近頑張って一週間のうち二回は風呂に入ることを心がけている。しかしそれでもたったの二回。ぜってぇに良い匂いなどしない。

 

 ここでエレオノーラだけでなく、カンタレラにまで良い匂いと定められては困るのだ。エレオノーラの鼻の問題じゃなく、私の体臭が臭いすぎるってことじゃんそれ。嫌だよ、私。

 

 神経を研ぎ澄ませ私……!ここで話を逸らさねば、待ち受けるは物臭(物理)聖女としての二つ名を欲しいままにしてしまう未来だぞ!マジで嫌だ!!!!

 

「そうだ! レヴナントであることがあなたの枷ならば、私が人に戻して差し上げましょうか?」

 

「────『転化』……だっけ? ううん、大丈夫。今さら人間として生きようにも生き方を忘れちゃったし、ボクはレヴナントのままでいいよ」

 

 でもそうだな……この世が平和になりすぎたら、その時はお願いしようかな!と、そう笑う彼女は少しずつ自分の道を歩み出している途中なのだと思った。

 

 話を逸らすために持ち出したカスが言うのもなんだが、良いことだ。多くの人間の命を摘み取った罪を償って欲しさもあるが、それらを受け止める以前に彼女自身が救われねばならない。

 

 容姿やその精神年齢こそ幼いが、彼女がレヴナントとなったのは五、六十年も前のことだ。罪状を読み上げようにも帯となって読み切れん。少しずつ善い行いを積み重ねて贖罪に充てればよい。

 

 あ、今回一番の余談なのだが。カンタレラよりも容態の酷いはずであった龍緋……先の会話に参加していたように、私の治癒無しで傷はすべて完治済みであった。

 

 カンタレラの異能、【被虐者の愛】による毒は反転して良毒……つまりは薬としても効果を発揮するようで。解毒薬かつ回復薬として与えられた彼女の血によって馬鹿げた回復力を見せぴんぴんとしていた。

 

 おい、ヒーラー職が被ってんだが。しかもカンタレラの方は毒によるデバフもできるときた。あれ、御役御免ですか?これ。『冥魂』でも実装されていない壊れキャラばかりが周りに多くて、本当に人権ヒーラーなのか私は自信を失いそうである。

 

 

 

「────ねえ、ボク、もう少しくらい雲龍でまったりしたかったんだけどぉ?」

 

 もふもふ、ふわふわ。まっくろくろすけのでっかい八咫鴉状態のカンタレラがそうボヤく。あの運命的な出会い(排骨湯アタック)から一ヶ月ほど経過した。

 

 新人類(オルター・エゴ)の幹部であったカンタレラが提供してくれた情報と、こちら側にカンタレラがついたことを知る【恋人(ナルシア)】を放置はできないこと。

 

 それらが重なって、現在私たちは彼女を追いかけるため、ナルシアが滞在しているとされる国……ケリュドアナへ向かっていた。

 

 そうなるまでに実は涙無しでは語れない紆余曲折のストーリーがある。私たちは悩まされていたのだ。雲龍からケリュドアナまでの距離遠すぎ問題に。

 

 ただでさえ雲龍領だけでもクソ広く移動がめんどくさかったのに、『冥魂』らしい言い方をすれば新エリアともなるともう足が何本あっても足りない事態に直面した。

 

 困り果てた私と、ふんす!と鼻息を荒くして着いてくるつもりのエレオノーラ。救いの手を差し伸べたのは我らが聖女ーズ(クソダサネーミングセンス)の新入り、カンタレラであった。

 

「ボクがキミたちを乗せてケリュドアナまで連れて行ってあげよっか?ボクもナルシアとは話したいこと、いっぱいあるしね〜」

 

 そうと決まれば、思い立ったが吉日。閑静な街の外れとはいえ、一応居住区であるここに晦級のレヴナントがいきなりどーん!と現れるのはテロでしかない。

 

 腕を引っ張られ目を丸くしながら連行されるカンタレラを無視し、街の外に出てレヴナント化ハラスメント、通称レヴハラを敢行。泣く泣く八咫鴉となったカンタレラに乗せてもらったというのが顛末である。

 

 どうだろうか。(カンタレラの)涙無しでは語れない紆余曲折のストーリーであっただろう。秋を過ぎて冬に入ったこの時節、寒風避けもなにもないこの方法。

 

「……っくしゅ! 私もそう思ってますよ、カンタレラ。冬を越して、春が訪れてから動けば良かったと後悔しています」

 

「さ、寒い……カンタレラさんのふわふわな羽毛が、頼り……!」

 

 寒すぎんのだ。どーしてノープランで動きがちなのだろうかおっさんって。前世からの悪癖で、予め緻密に計画を立てるのをダサいと思ってしまうんだよな。ほんと、冷笑だけでなく逆張りも性質として有しているとは、さすが人権(笑)である。

 

「じゃあさ、結構遠くまで来たし……地上に降りてキャンプファイヤーでもしない? ボクも翔んでばっかで疲れちゃったよ」

 

「いいですね、そうしましょうか。では……あの辺りがよいかと」

 

「オッケー! 降下するとき、ちょっと揺れるからボクの羽に掴まっててね」




 もしもカンタレラが人のまま人生をまっとうしていたら、本編の今頃は65歳くらいのおばあちゃんでした。
 彼女は生前15歳の地獄をレヴナントに成って50年間、精神を成熟することもできず、延々と脳内でフラッシュバックし続けていたことになります。
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