「
凛とした眼差し、正義感の表れのような明るい金髪。そして初冬なのに寒くねーのかと思うくらいパッツパツの騎士(?)装束。あとどこがとは言わんがデカい。
「私はラウラ。かつて我が国の十二英雄譚に連ねたペルセイアの名を姓に持つものだ」
おお、見事に綺麗な直角九十度のお辞儀。まあ霊廟域で警戒しすぎることは悪いことではないし、それだけ十分に全てを疑いかかっても一般的な生還率はたかが知れている。
故にラウラとやらの見るもの全てを狩り尽くさんとする勢いは正解だ。間違いがあるとするなら、今こうして超綺麗なお辞儀をし続けていることだろう。
再三言うようだが、ここは霊廟域だ。レヴナントが活発になる異常区域であり、何が起こるか分からない不確定の温床の中にいる。
私はラウラの後ろに迫り来る二体のレヴナントを消し飛ばして、彼女の肩を上げさせた。こちらからごめんなさいを所望しておいて最悪なことを言うが、謝罪Lv100すぎるわボケぃ。
それに私としてもここで互いに謝り倒している猶予なぞない。霊廟域に閉じ込められたともいえるこの現状は、ある一つの良くない事柄を想起させる。
エレオノーラと私をわざと離れ離れにしている何者かがいる。思惑を推察するには些か情報が足らないが、ろくでもないことであるのは間違いがないだろう。
「ラウラ。あなたの言う通り、手っ取り早く霊廟域を沈静化します。力を貸してください」
「……! 承知した。微力ながら、貴殿の力となろう」
てってれー。ラウラ・ペルセイア が なかまに なった!
「ラウラ、あなたから見て斜め右……二時の方角から三体接近してきています。やれますか?」
「任せろ。私の雷槍が悉くを討ち滅ぼす」
これは愚痴なのだが、霊廟域を探索している際の絵面ってマジでつまらないのだ。彩度が奪われた景色を淡々と歩いて、レヴナントが来たら倒すか『転化』するかして安全なところに寝かしておく。
そしてまた探索を再開してレヴナントが来たら……という繰り返し。前世『冥魂』でも同じくらい味気なくて公式アンバサダーの配信者がリスナーを逃さないために過激なキャラ批判とかで炎上していたくらいだ。
私はそんな配信者と同じ轍を踏むのは御免なので、魔素溜まりに到着するまでの間、原作第二章の舞台であるケリュドアナについて話しておこうと思う。
ケリュドアナはフォロス大陸の最北端にある。雲龍が歴史を貴ぶ国だとするならば、ケリュドアナはさしずめ伝説を貴ぶ国とでも言えばいいだろうか。
目の前で紫の魔素を自在に操り、新月級のレヴナントの上半身を跡形もなく消し炭にしているラウラ────『冥魂』では姓として名乗ったペルセイアとして実装されている彼女が良い見本かもしれない。
本名はちなみに今知った。あなた、ラウラっていうのね!
私たち他国の人間から見てケリュドアナの人々は魔素の扱い方からして独特なのだ。他国の魔法使いたちはある程度の
しかし、ケリュドアナの戦士たちは幼少から伝えられてきた数々の伝説の中、その再現を彼女たちは追求する。いわば、有り得ない空想を現実にしようとするのだ。よっぽど魔法使いらしいと言えば魔法使いらしい。
例えば、身体能力の向上という一点において、力を司る黄魔法に比肩する他の色は無い。故に、黄魔法使いを除くどの魔法使いも身体強化という分野は程々に修了して諦めるのが当たり前となっている。私は例外だけど。
「嵐の中であっても絶えず英雄は駆け抜け……輝かしい勝利を運ぶッ!」
が、紫魔法の使い手であるラウラは魔法の世界に蔓延るその常識をぶち破った。黄魔法の使い手よりも疾く戦場を駆け抜け、膂力に優れた黄属性の戦士よりも破壊力のある紫電の鉄槌を下す。
ケリュドアナ陣営特有のゲージ、『英雄の
「フーッ……
美人寄りの顔立ちなのに言ってること物騒すぎるだろ。白い息もなんか怪獣が吐く息みたいだし……。
ふぅ、さっきまで自分が残念な美人筆頭だと落ち込みかけていたが、私よりも様子のおかしい美人はこんなにも近くにいたじゃないか。なーんだ、安心安心♪
それに、
「あんのバカ……帰ってくんのがおっそい! いったいどこほっつき歩いてんのさ!」
かれこれ一時間……一時間だよ!?薪拾うのにそんな時間いるかなぁ!?……いや、なんとなく読めた。レアって変なところで運が悪いっていうか、死ぬほどワケの分からないドジをするんだ。
もしかすると薪拾いに夢中になりすぎてデカい木にでもぶつかって気絶でもした?それともなんだろうな……むしろ上ばかり見すぎて数少ない崖からすっ転んだとか?全部ありえそうで怖いんだけど!
しっかたない……ボクの方から探しに行くか……?あー、するとエレオノーラが置いてけぼりになっちゃうし……ああもう〜!ボク難しいコト考えるの苦手なんだけどな〜!?
「んむぅ……もう、たべられないぃ……」
ていうかいつまで寝てんのさこのねぼすけはぁ!!!!
「────あ〜! やっと追いつきました〜! あなたがカンタレラちゃんですか? ……まぁ!おしゃれでかわいいですね〜!」
「えっと、あんた……だれ??」
声のする方へと振り返るとエレオノーラより拳一つ分くらい背の低い……女の子?が手を大きく振り上げてボクらに走り寄ってきていた。
青に近い翡翠玉みたいな髪をショートにして、頭の上にはちょこんと触角みたいなアホ毛が伸びてる。一応規格の打刀を携えてるっぽいけど、身長の低さもあってアンバランスな印象だ。ここまで観察しておいて、思い当たる人物がボクの記憶の中にいない。
ボクが見当もつかずはてと首を傾げていると、女の子はショックを受けたのか口を手で覆い隠して目を見開いた。なんだか、悪いことした気分だ……。
ボクが知ってるやつは
「も、もしかして……瑛璻って有名じゃなかった〜……?」
「……瑛璻? 龍緋が未だに勝てないって言ってる剣のお師匠さんのこと?」
「ふぇっ?……あらまあ!!龍緋くんったら、まだ瑛璻に勝とうと思ってるんですか〜!? きゃー、嬉しい〜!」
ん……?その言い方、なんだか引っかかるな……?まるで自分自身が伝説の僧兵、瑛璻であるかのような……いや、まさか……まさかねぇ?
「……もしかして、キミがその瑛璻なの?」
「はいっ! 何を隠そうこの瑛璻こそ、瑛璻ですよ〜!」
えっへん!と言いたげ……というかもう口で言ってる瑛璻。幼児体型すぎて子供の見栄っ張りに見えるから、見た目って大事なんだなってしみじみ感じさせられる。
「ハハッ……うっそだぁ! そんなちんまくて本当にレヴナント狩れるのぉ?」
「むぅ〜……心外ですね〜!」
やっば、怒らせちゃったかな!?……なんて目を瞑って少し背を屈めていたら、どうやらボクの後ろにいたレヴナントを一太刀で沈めてくれたみたいだった。
……べっつにぃ、油断とかしてないし。最近は魔素探知とか常にする必要がない所に居たから、忘れてただけだし?
「龍緋くんによれば、レアちゃんの瑛璻貸し切り権はまだ有効らしいです! 雲龍のことは後輩の初梅ちゃんに任せて……瑛璻、張り切って走って追いついてきちゃいました〜!」
「……ハハ。た、頼もしい限りだよ……」
高低の激しい雲龍とは違い、ケリュドアナ近辺の地形は基本的になだらかだ。だからといって視界が開けているかといえば、やはり高くそびえ立つ針葉樹の数々が阻んでお世辞にも良いとは言えない。
つまり、どこからレヴナントが来るのかが読みにくい。魔素探知には二種類ある。滞留している魔素の残滓を辿って大元を突き止める方法と、ソナーのように波形に広げた自らの魔素によって近辺周囲の物体等を調べる方法だ。
しかしながら霊廟域は全域が魔素で充満されている空間であるから、前者の方法で魔素溜まりを特定することは難しい。磁気が散乱していて磁針が狂うコンパスに似ているだろうか。
なので、選択する魔素探知の種類としては後者。ソナー方式である。……が、先の通りここら一帯は原生林によって障害物が多い。沈静化するにはあまりに相性の悪い場所に霊廟域が産まれたといえる。
「悪戯な霊廟域ですね……魔素溜まりを特定しにくいことこの上ない」
「うむ……それにだ。どれだけレヴナントどもを狩り尽くしてもキリがない」
レヴナントが多すぎる。それもまた私たちの霊廟域破壊RTAの足止めをしている問題だった。どれだけ倒しても湧いて出てくるレヴナント。視界の悪い地形。消耗するだけの魔素。
実は初手にこのレヴナントに『転化』を試したとき、人間に戻ることがなかった。普段の通りレヴナントを倒した際と同じく、さらさらと“魂”を起点に消滅してしまったことが確認できている。
これに似た個体が『冥魂』のフィールドボスで登場していたことを私は記憶している。レベル上限突破の素材周回でお世話になりました。ありがとうございます。
その成り立ちはまさにケリュドアナの厳しい冬を乗り越えねばならない風土に似た、豊穣や実りに結びついた『繁殖』に強い執着を持って“魂”が欠けた者のそれ……。
「収穫祭のレヴナント────ですか」
「……このレヴナントの特徴を知っているのか? なにゆえその情報を得た?……貴殿は何者だ?」
頭ん中で整理してるつもりが、口が滑った。本来辿り着くはずのないレヴナントの個体名を合ってようが合っていまいが言えるというのは中々に奇怪に映るよな……やっべー、なんて言い訳しよう。
いやまあ、このガバの前に『転化』を試そうとしているところを見られて訝しげな顔を向けられていたので、時間の問題だったのだろうが。
ええい、こうなったらヤケっぱちじゃ!こういう時に役立つおっさんスキル、その三!すげぇ情報量で捲し立て、それっぽい理論を即興で組み立てるのだ!そんで誤魔化す!
「────倒しても倒しても湧くレヴナントの顔つきが、思い返すと全て似た顔ばかりでした。つまり、これはレヴナントが異能で生み出した
ここで一息。ちょっと凄いこと気付いちゃいました風を装うためのエッセンス。少し冷や汗かいておくと臨場感UP!
「便宜上これらの複製体を『子』と呼びますが……本体はきっと別のどこかで延々と『子』を産んではけしかけ、産んではけしかけと繰り返しているに違いありません」
そしてラウラに目配せ。ここまで言ったらどういうことか分かるよね?という自然な誘導。ふは、私聖女業が立ち行かなくなったら詐欺師にでもなろーかな!!美人局かなんかかっつーの!だはは!
「子宝に
「はい。そして、『子』が盛んに湧き出る場所こそが……魔素の最も濃い地点、魔素溜まりである可能性が高い」
希望が見えてくると人間って些細な違和感よりもそちらを優先してしまうものだ。よっしゃ、私の前世由来の知識による怪しさは後回しだぜ!
聖杖が「ええ……それでいいんスか……?」みたいな呆れを自らの影で演出しやがってるが、うるせーやい!終わり良ければ全て良しなんだよ!まだ事は終わってないけど!