「……あの、なにこの空気。私ってどんな表情で聞いてればいいの?」
「なんかこのふたり仲悪そうだなーって思っててくれていいですよ」
「おっけわかった。ナカワルソウダナー!」
いきなりのデュオニスお出ましに内心も外面も激冷え対応を取っちゃった聖女こと、レア・オルテンシアです。どーも。言っちゃったもんは仕方ないし、ここでドンパチしてやろーかなと思ってたり思わなかったりしているよ!
ジェレミア領の出身ではないが、狭い国土で外聞が広まりやすいというのは本当らしく、脇に抱えられたままでいるアンナは死ぬほど泣き腫らして美貌が台無しのデュオニスを見て、こんな顔してたんだ……と目を丸くして驚いている。
……いや、それだけじゃなくデュオニスにくっっそ嫌悪感丸出しの私の態度も驚きの理由の一つだろうけども。ごめんな、ついさっきこいつに凄い嫌なことされたばかりなんだ私は。顔を見ると反射的に嫌味を言いたくなる人間って人生に数人いるでしょ?それ。
「随分な嫌われ方をしたなぁ……というか、僕が【太陽】の眷属だったこと、気付いていたんだね」
「気付くというか……私が下手を打って無力化されているというのに、あなたが殺されておらず目の前にいる。それだけで十分に不自然でしょう」
「はは、それもそうだね。……僕はね、望みを叶えたんだ。ケリュドアナが……願った通りにぐちゃぐちゃに壊れていく。凄い景色だね、国を覆えるほどの大きさをした霊廟域というのは」
そう言う癖に、ちっとも嬉しくなさそうじゃないか。なんだ?それを口に出して聞けばいいのか?
あの戦闘時にデュオニスの口から放たれた「人を信じるというのならば、俺の願いも叶えてくれないのか」を受けて薄々思っていたが、察して察してアピールキツいんじゃガキコラ。
「さっさと胸の内を吐き出しなさい。時間が無いのですよ。私はカウンセリングをするためにここに留まっているわけではないですから」
「……手厳しいな。僕は、ルシーラが輝ける舞台を用意したかっただけなんだ。……そのためなら、僕が悪役になって彼女に討ち倒されてもかまわない。
彼女の素晴らしさを一向に気付きもしない、ケリュドアナのわからず屋どもに……見せしめたかった」
ともすると、彼女が脚光を浴びるのならばケリュドアナでなくてもよかった。どこか遠くにでも連れ出して、息苦しくない穏やかな踊り子としての生を歩んでも。そう言い終えて、目を伏せるデュオニス。
ぽつぽつと、どうやらこの「ぐちゃぐちゃ」はお望みではなかったことを遠回しに伝えてくる。ほう、なるほどなるほど。きっとデュオニスはいつの日かにルシーラの昏くも眩い、復讐心が宿った覚悟の瞳に心を釘付けにされたのだろうな。
助けたいと思うだけの共感する過去がデュオニスにもあったのだろう。こういった方法しか思いつかなかっただけの育ちと境遇でもあったのだろう。ああ、それくらいの背景は察せるとも。察せるからこそ……ダメだ。
「────どこまでもあなたは独善的で、自分のことばかりを優先しているのですね」
「…………なんだと?」
「彼女が……この子がなぜこのケリュドアナに留まって、踊り子を続けているのかを知ろうとしたことはありましたか?
あなたはあなたの理想とするルシーラ・ペルセイアを見ている。あなたは真に彼女の心に寄り添ったことなど、一度だってない」
ルシーラはたしかにデュオニスの言うように自らに目もくれないケリュドアナの人々に辟易している。しかしそれだけならば、彼女はとっくの昔に踊り子などという役目を放棄しているに決まっている。
そうはしないのは、彼女を拾ってくれた祖父への愛があるからだ。そして、愛する祖父は移ろいゆくケリュドアナを自らの一部のように愛していた。
そのケリュドアナを棄てるということは、愛する祖父を棄てるということと同じ。ルシーラにできるわけがなかった。
そこまで頭で分かっていながらも尚拭いきれない人々への嫉み憎しみに苦しんで苦しんで、心を擦り減らした結果が「祖父の愛したケリュドアナ、その聖冬の祈りで踊り切ってみせる」という歪んだ復讐の形。
デュオニスはルシーラの心にあるものを理解した気でいるが、その実本質の
「……好き勝手言ってくれるね。僕が……独り善がりだって?」
「もう一度言って差しあげましょうか?
あなたは、独善的で、自分のことばかりを優先する、なんとも女々しい御方ですと言いました」
据わった目付きをして勢い良く立ち上がり、私の首を片手で強く掴むデュオニス。肩で荒く息をしながら、それ以上喋ったら首を絞めてやると言外に表情で伝えている。
……前世で、貴重な二十代の後半をブラック企業で費やしたくなかった自分が、恐怖心を利用して辞職を取り消させてくる上司にブチ切れた時と同じ感情が湧いてくる。
強い態度を取ればこちらが折れてくれると思ってるだろ?……ふざけやがって。お前たちはいつもそうだ。自分の非を改めず、他人のせいだと喚き怒鳴り拳を上げる。
そういうやつがいっちゃん嫌いやねん私。相手の上行けばいいと思ってるんなら、こっちも更に“上”に行くまでやぁ……!!
「……言い訳をしたいならしなさいよ。あなたが大事そうに抱えていた彼女のその亡骸は、誰が招いた結果だと言うの?その説明をあなたは果たせるの?」
「っ、だから!! そんなはずじゃなかったってっ……!!」
「あなたはルシーラと話し合える機会が幾らでもあったわよね!? それに、新人類の【太陽】にも命を差し出せるほどの覚悟もあった!
ジェレミア領とペルセイア領の境をその足で跨いで会いに行くことがそんなに難しいことかしら!?『君の助けになりたい』って、ただ一言声をかけるだけでよかったのよ!?」
「……僕はっ! 僕のこの見た目がルシーラに悪い影響しか及ぼさないって確信があったんだ!だから直接的な関係を築くことをあえてしなかった!」
ああ知ってるよ。外に出るだけで淑女の目を奪うその容姿は、ルシーラと関わればよからぬ痴情のもつれを引き起こすことだろう。お前にハンカチを渡された時、たったそれだけで大衆の目に晒されたものな。……が、それもそもそもの話だ。
「あなたが確固たる意志を持って、ルシーラとはなんの恋愛感情も無いこと、そして噂を立てる淑女たちを御せばいい話でしょう!!」
「それはっ、僕は彼女が……す、好きだから……嘘は、つきたくないっ……!」
「めんっっっどくさいことを言うな! ともかく、その美貌に付き纏う不祥事はあなたの意志次第でちゃんとコントロールできるでしょ!?」
重要なのはビビってるくせに努力をした成果が他者から見えないことだ。幼い頃にその見てくれで何の不和があったのか知らんが、ケリュドアナの人々含め私たちはその時の当事者じゃねーんだわ。トラウマ抱えてないで寛解を目指して流石にもう努力する段階だろう。
「……はっ! 君がそれを言うの? 自分の状態にも目を背けて耳ざわりの良い言葉しかのたまう気のない君が?」
あ、言ってくると思った!こっちは予想してたからダメージないもんねーだ!やーいバリア〜!べろべろば〜!……はあ、虚しくなってきた。
「私が半分レヴナントと化している事実に目を背けていると言いたいの?気付いていないわけないでしょ。隠すまでもなくレヴナントと成った私を人に戻したのは私自身なんだから。
……私の動揺を煽って話の本題を有耶無耶にしようとするつもりだったのでしょうけど、そうはいかないわ。私はあなたがしたことの罪深さを突きつけ続ける」
お陰ですっげぇ嫌な過去も思い出す羽目になったしな、アンナと出会って少しは持ち直したメンタルだがそれでまあまあやられてんねんこっちは!
父ローグレディアスが母ドロテアを刺し、昏睡状態にまで陥らせて起こしたあの大虐殺の日、私は深い絶望に堕ちて死なずしてレヴナントと成り果てた。
その時に私が抱いた執着とは『あの温かな日々に戻りたい』だった。それに基づいた結果が、レヴナントを人に戻すことのできる特殊な性質を持つ白色の魔素に目覚めた、ということらしい。
レヴナントから人に戻す……つまり『転化』を行った際に彼らの異能を扱えるようになるのは、本来欠けているはずのない魂が半分欠けていて、その空洞に異能分の容量を詰め込めることができるからだろう。
チートだなんだと言っていたが、なんともまあ惨たらしい恩恵である。私は半分レヴナントで、人間の善性に縋りついていないと正気を保てないほどに不安定なのだから。
時々元々のレアの精神が不穏な状態になるのはその影響もある。もしかすると幼い頃のまま、彼女の時間は止まっているのかもしれない。
「あのさ……喧嘩してるとこ悪いんだけど。グロテスクな状態の女の子、まだ死んでないよ。いつでも喧嘩は出来るしさぁ、この子のこと先に治してあげらんないの?」
おずおずと、ヒートアップしてきた私たちを遮るようにアンナが声を出した。私たちが口喧嘩をしている間にも、アンナはルシーラに駆け寄り容態を逐一チェックできるようにしていたらしかった。
アンナは努めて中立的に、誰の味方になるでもなくアンナ自身の視点で疑問を口にした。その冷静に、つられて私も少しだけ頭がすうっと落ち着いていく感覚がした。
「この治癒性のドーム内にいる時点で、ルシーラ……彼女も治療対象です。ですので、実は先程から何度も治癒を試みてはいたんですよ」
「……というと?治癒魔法の学が無い私にも、もうちょい分かりやすく噛み砕いておしえて」
「治癒魔法はですね、簡単に言うと拒否が容易です。他者の魔素を体内に受け入れるかが治癒魔法のスタートラインなので、嫌だと思えば内包する魔素で弾けるんですよ」
「……意識がかすかにあるルシーラは、拒んでいる?」
そう。最悪なケースでルシーラの持つ才覚が知れた。彼女の“魂”は不可侵性を獲得して、無意識に全てを拒み続けているのだ。生命維持のメリットがある私の治癒魔法さえ跳ね除けるほどに。
聖冬の祈りはまだ終わっていない。彼女は踊り切ってみせると決意した。その強い意志が彼女を死なせることも、歪な執着としてレヴナントに成り果てさせることも許さない。
新人類の【世界】がナルシアをこの身体に乗り換えさせたかった理由はこれだろう。ルシーラの魂は奥底で沈んだままに、その不可侵性で何度身体を乗り換えても狂い続けるナルシアの症状を抑えるつもりだった。
「なので、現状手の施しようが無いんです。……だからって、ほったらかしにした事実は変えられないですね。反省します」
ちらとデュオニスに目をやると、やっと事の重大さに頭が追いついてくれたらしく、【太陽】と接点のあった彼は彼だけが持つ情報の数々を繋ぎ合わせてある結論に至ったようだった。
「まさか……じゃあ、【太陽】は最初からルシーラを見逃すつもりなんてなかったのか……!!」
その通りである。新人類……というか【世界】の思惑的には十中八九「全人類レヴナントになればめんどくさいいざこざ消えね?」というのが主目的だろう。
そこにナルシアから聞いた、新人類幹部はそれぞれが計画の重要なパーツだという情報から、推察するに【恋人】の役割はその膨大な保有魔素量を用いた人間電池といったところか。
ルシーラは計画が上手くいかなくてもとりあえずは手元に置いておきたいだろうから、逃がすなんて馬鹿なことをするわけない。そもそもあの戦闘狂の話を信じるなって話だが。
「ん〜っと、じゃあデュオニス様……?もレアも共通の敵がいるんじゃん。私は全然デュオニス様が何をしたのか知らないからさ、下手なことは言えないけど」
「……まあ、そうですね。ですがアンナ? デュオニスに『様』を付けるのに私にないのは何故ですか? 私って尊敬に値しますよね?」
「友達に『様』なんてつけないでしょ。それに、尊敬ってそんな
あ〜〜、キッくぅ……。さんざデュオニス女々しいんじゃボケ!と罵ってたが、こうやって敢えて普段なら気恥ずかしくて言えないことを素で言えてしまうアンナの善性を引き出すのやめらんねぇ〜〜……!
察してアピールと同じくらいキモ度の高い試し行為をしている自覚はある。まあ元よりヒョロガリ風呂キャン冷笑逆張り……なんだっけ、長くて忘れた。……だし、試し行為してても普段のキモさに敵わんだろ。がは!
「僕が……君たちと同行してもいいのかい?」
「話を聞いてましたか?私たちは共通して【太陽】が敵です。ならばお互いの
「はいはい、そーやってすぐ喧嘩を売らない。……まあでも、レアの言った通りだよデュオニス様。ここで立ち往生するよりは、レアの仲間のところに合流してそのヤバい……【太陽】?ってやつを懲らしめるのが先でしょ」
あれ?アンナの私への扱いがどんどん酷くなっていってる……?友達、だからだよね?これは別に蔑ろにしてるわけじゃないよね!?
話進まねーーーーーーーー