全身は実体というよりは霊体のように薄くぼやけていて、追体験のように今もまだ動いているリコリッタの過去を透過して映し出している。
「ふーん、自分でも言ってましたが口だけは達者なんですねぇデュオニスって」
「なんでそんなくつろいでいられるんだい……? って、聞き逃さなかったよ、今デュオニス様をバカにしたね!?」
そりゃあこの現状が自分じゃどうにもならんからだが。こちらの一存では物事が動かせないときは、頭をからっぽにして流されるのが一番!
ブラック企業でよかれよかれと資料作成したらクソ上司に怒られた経験、皆もあるよね?よしんば怒られなかったとしても、今度はふざけた量のタスクを押し付けられたこと、あるよね!?
下手に頭使うよか、どー転んでも脳死がいいんだって。ほら、リコリッタもこっちに来て横になって寝っ転がりなよ。私たちが移動しなくても勝手に場面転換するみたいですよ、このシアター。べんりー。
「……アタイとしては過去が赤裸々にされてむず痒いったらありゃしないんだけどね、能天気を貫けるのはアンタにゃ他人事だからかい?」
「そうでもないですよ。『転化』は私の“魂”の欠け
「へぇ。……いや、ちょっと待ちな。じゃ、じゃあ、アタイがデュオニス様に……どんな感情を抱いているのかも、わかって……?」
ここでね、言葉にして肯定の意を示しちゃうとなんかセンスないよね。努めてふてぶてしい無表情を作り、死ぬほどウザいピースサインをお見舞いだ。
いえーい、ぴーすぴーす。リコリッタちゃんみってるぅー?リコリッタちゃんの初々しい恋心、リアルタイムで感じまくってるよぉ〜(笑)
「……人に戻ったら一発ぶん殴ってやるから」
「え、戻ったらとか言ってますけど絶賛現在進行形で殴りかかりましたよね? あっぶな……よかった私たち実体が無くて」
拳に頼りすぎると時代に取り残されちゃうって。平成初期のアニメヒロインじゃないんだからさぁ〜。ん?道端で結構な頻度ゲロ吐いてるお前も大概なゲロイン(笑)だぞって?
一旦おまえらそこに一列にならべ。一思いにころしてやる。
というかコレはいつになったら上映終了するんだ?このシーンとか要らなくないか。過去のリコリッタさん、協界員になって初めての報酬で、デュオニスに可愛いと思われたいから似合いもしない乙女ちっくなフリルスカートを試着してるけど。
「あなたはどちらかというと美人寄りの顔立ちですし、カジュアルに着こなせる服装が良いと思いますよ〜」
「人の恥ずかしい過去に難癖つけやがってぇ……」
「ほら店員さんの笑顔も引き攣ってますよ。あなたが満更でもなさそうだから言うに言えない感じ出してますけど」
あっやべ。いじりすぎたら怒りを通り越して涙を目尻に溜めだしちゃった。怒ってくれるうちはまだこう、ね?健全なのだけど。
これじゃあ私が悪いみたいじゃないですかぁ〜〜!リコリッタ、普段から「アタイ」とか言うから姉御系かと思ったらふつーにメンタリティは女の子なの予想外なんだけどぉ?
「ご、ごめんなさい……イタズラが過ぎましたよね? え、えっと……今度機会があったら一緒に服屋を見て回りましょう? ねっ?」
「なに傷口に塩塗りこんでんのさアンタ。さては本気で謝る気……ないね?」
「あ、ありますよ……? ほら、私の申し訳なさそうなこの顔を見てください」
「ふてぶてしく眉を八の字に歪めてるだけじゃないか!」
なんかなぁ。存在意義がグラついてからといもの、元々のレア・オルテンシアに気を遣う必要が無くなったというか。
つーか私自身も見て見ぬふりしてただけでそもそも最初から存在意義は無いようなものだったんですけどね、ははっ。
なんの悲劇も経験していなくて、ただの冴えないまま人生を終了した、おっさんだった精神のだる絡みが楽しくてしかたないんだよな。これはおっさん要素というかただどシンプルに前世の自分の性質でしかないけども。
まあなんというか、控えめにしておいてやろうと思っていた前世の精神をフルスロットルで開放しているのだ。あ゛?そんなに最初から控えめではなかった?……確かに!だは!
『……特異点をゴミ溜めに放り捨ててきたけど。ボスにしちゃあ珍しいね。約束の時間を過ぎるなんざ』
「……これは、まさかアタイの……」
私みたいにウザさマックスの絡みをすると人によって本当に絶縁されてしまう可能性があるから気を付けよう!という前置きを差し込んでおいて。
意外にもリコリッタも楽しそう(主観)なのでセーフなのだが、リコリッタの人生鑑賞会の映像がどうやらここ数時間前の状況に切り替わったらしい。
言動から推察するに、デュオニスの煽りにガチ効きした私が隙を突いてやられ、ゴミ溜めにポイ捨てされた後の事だろう。
「なんかムカついてきましたね。もっと丁寧に捨てられませんでした?私ゴミに挟まれて身動き取れなかったんですけど」
「アタイとしちゃその時点でくたばってくれたら嬉しかったよ。アンタにこんな辱めを受けることもなく、理性の
悲しいことを言うなぁ。やっぱりレヴナントに成るだけあって、人に戻って俗世に身を置いて生き地獄を歩むのは真っ平御免なのだろうか。
怪物に成るだけの強い感情、執着は基本的に厭世から来るものが多いし。……ま、リコリッタがレヴナントに成る直前に抱いた執着が未だ何なのかは明らかではないが。
追体験のリコリッタは待たされていることに少し苛ついているのか、つま先で決まったテンポを保ち、地面を叩いている。
「待ち人がデュオニスであろうことは容易に察することができるのですが……デュオニスはルシーラを回収しに?」
「ああ……アンタはデュオニス様に全てを話してもらってないのか。そうだね。デュオニス様は【太陽】が奇襲をしかけたペルセイアの屋敷に向かっていた」
「ふむ……デュオニスはルシーラの容態に大きなショックを受けた。そして、若干の心神喪失にあったのでしょうね。枯れるほど泣き腫らして、ルシーラを抱きかかえていましたし」
とすると、その間にリコリッタはレヴナントに成っている。私がデュオニスに遅れをとって気を失っていたのが2、3時間ほどだとすると十分に有り得る……か。
私がゴミ溜めに捨てられたのと並行してデュオニスが【太陽】と接触するとして、そう長くはかからんだろうから……さてはあの顔だけ男、リコリッタと落ち合うことも忘れてバカほど大泣きしていたな?
どんだけ泣いてんだよ、卒業式意を決して高3の先輩に告白し、あえなくフられた直前の高2女子じゃねーんだからさ……。あ、私は教室の隅で冷笑する陰キャでしたよ?もちろん!
「……まあ、アンタが今時系列を整理してたどり着いた考え通り、かなりアタイは待たされたのさ」
『……いくらなんでも遅すぎやしないかい!?』
「ちょうど過去のあなたからも言質を頂きましたとも。……なんとなーく読めましたよ展開。ここにあの場掻き乱し狂人の【太陽】が来ますね?」
頭は冴えてんだよなぁ、頭「は」。たはー……!元のスペックが良いからね、6周年記念キャラは伊達じゃないね。前世は誰も祝ってくれるやつおらんで0周年だったけど。
よく分かったね、と冷や汗を垂らして少し笑みを零すリコリッタ。えっへん、もっと褒めて私の優秀さに戦慄……したから冷や汗垂らしたんじゃないな、コレ。
『────んしょ、っと。お〜……?あらあらァ……【
『アンタは、何もんだい……!?』
「……“魂”に刻まれた記憶を再現しただけと言っても、怖いですか? 常識の外にいる存在、
「っ、ああ。怖いよ……見た目は人間そっくりで、話す言語も同じのはず。なのに、全く分かり合える気がしない。……デュオニス様がこんな化け物相手に力を分け与えてもらえたなんて、今でも信じられないくらいさ」
そうだよなぁ……晦級でさえ普通に暮らしてる人々からすりゃ絶望モノだっていうのに、新人類って知性と理性を保ったまま晦級かそれ以上の力を有してる化け物だもんね。
このリアクションが普通なんだよ。新人類に対してお前を救ったる!とか言い出す
『……へぇ? 珍しい魔素してんネ、お前。5大魔素の枠組みに入ってないんだ』
『……ハッ! そう言ってくれると希少性がありそうだけどね、生憎とアタイの魔素は風を操ることしかできないありきたりなモンだよ……っ!』
『あー……別に能力が強いとか弱いとかは関係ないんだ。知ってるか?人間ってサァ……未知に……知らないものに恐怖するんだヨ』
記憶の中の【
つまり、上手く善戦したのだろう。全貌の見えないエレオノーラ側の事情に安堵が込み上げる。こういうときだけ元々のレアも安堵してやがる。この箱入り娘!私に押し付けてばかりいないで出てこいやぁ!!
だが善戦のしわ寄せがリコリッタに及んだ。ゴキブリみたいにしぶとい【太陽】は原作でも国家規模で対応されて捕まっては逃げ、捕まっては逃げを繰り返していた。
ツラがいいイケメンなもんで、人気も相当にあったが……同情する余地も無いチンピラみたいな過去しかなかったから、コミュニティでアンチスレみたいなのも乱立していた記憶がある。
あとバージョンが重なりに重なってメタが煮詰まった『冥魂』において終盤に出張しまくるボスだったから、体力高いわ本当に終わってる特殊能力を盛られるわで屈指のクソボス扱いされてもいたね。
『お前の能力って、常人にとっては
『く、来るなっ……! ァ、アタイに近づくなぁっ……!』
『アッハ! かわいいもんだ……怯えて口では生意気言うくせ、実力では敵わないって理解しているから下手に魔法を使わないで……後退ることしかできないんだネェ?』
力でねじ伏せることもせず。人が蟻を見てわざわざ踏み潰すことをしないように。リコリッタ程度なら手負いとはいえ余力で殺すこともできただろうに。
カルナはただ静かに、恐怖で腰に力が入らずどうにかして足を曲げ伸ばしして距離を稼いでいるリコリッタに近づくのみ。悪趣味な悪魔が持っているのは……あれは魔素溜まりに近しいモノか?
『は、離せぇっ……アタイに何をっ、んぐっ!? ん゛ーっ!! ん゛ーっ!!』
『暴れんなって。コレはそんな怖いものじゃないヨ。【世界】の力の一欠片サ』
顎を鷲掴み、中々長身のはずのリコリッタが足を浮かすほどに持ち上げた。自然と顔を空を見上げねばならず、呼吸もままならないのだろう、苦しさからカルナの腕に爪を立てるなり引っ掻き傷をつけるなり、訴えかけている。
「無感情に殺される方がマシなくらい、尊厳を踏みにじられた弄ばれかたをしていますね」
「圧倒的な実力差に、敵としても見られてなくてこのザマさ……正直、もうアタイは
さて、先ほどコイツは【世界】の力の一欠片とか言っていたな。あの片割れ大好きサイコロリの異能は、二つある。
一つは任意の場所に霊廟域の発生源である魔素溜まりを創造する力。簡単に言っちゃえばどこでも霊廟域生成〜!である。
二つ目は、ディメルコードの研究者たちが我が身を滅ぼしてでも望んだ“魂”の抽出。……の、副作用を悪用したもの。
抽出された“魂”の持ち主をレヴナント化させる力。【世界】は抽出した“魂”に興味なんて微塵もないので律儀にお返ししているようだが……そんな優しさどーでもよくなるくらいふざけた異能である。
『んむっ……ごほっ!? がっ……あ゛ぁ゛ぁ゛っ──!?』
『【世界】の説明によると、霊廟域で人がレヴナントに成り果ててしまうのならァ……体内に小さな霊廟域を埋め込んだら簡単にレヴナントになれちゃうと思わない?だってサ!!』
『い゛……やだっ……! アタイはっ、アタイはまた独りぼっちでっ……!』
『大丈夫ぅ。いずれこの世の人間すべてがレヴナントになるんだからさ、独りじゃないヨ』
『ウァ、ア……デュオ……ニスさ……ま……タす……ケ……』
……おっ、記憶はここで終わりか。ここから先はレヴナント、生物としての構造が変化するわけだから、脳みその記憶領域に残されてるのはここまでってことか。
「映像作品ってやっぱり最後まで見る価値ってあるもんですねぇ。実は映画とかエンドロールを飛ばす派なんですよ、こう見えて」
「……っ……ふうっ。こう見えて、の意味が分からないけどね。……なにか得られるものでもあったのかい?」
記憶を追体験させるためにこんな長く拘束されたのかっていうと違うと思うけどね。あれでしょ、バックアップをもう一度復元するときに一回全部裏で実行してるみたいな、そういう意味合いでしょこれ。
ちゅーことは、復元は終了したということ。リコリッタという人間としての構造はこの世にもう一度存在できるようになり、この精神世界とはおさらばできるわけだ。
現実時間と精神世界の時間……どれほどのズレがあるかは知らんが、早く戻りたいところだな。悪いニュースが採れたてホヤホヤって感じだから。
「得られるものですか。そうですねぇ……収穫といたしましては、【太陽】がまだすぐ近くにいそうってことくらいですかね?」
【太陽】の欲しいものリストとしてはルシーラ、ついでにデュオニスも「おもしろそうだから」殺しそうかな。
初手の対応全部ミスったせいでこうもずっと相手方に先手取られまくってるのダルいなぁ……。
治癒性のドームも元凶を叩かない限り埒が明かないし。……そう考えるとあっちから来てくれるのは得か?
確かに確かに、鴨が葱をしょって来たようなものか。おっ、なんかやる気出てきたぞ……よーし、リコリッタを人間に戻せたし、小さなことからコツコツと、やね!
主人公サイドがジワっと好転するたび、俺の望みは叶えられんのか?と不安になる
叶えられるように結果は確定させてあるんですけどね、リアルタイムで俺も楽しんでっから(イケメンスマイル)