どぉも、戦場カメラマンの……わた〇べぇ、よう〇ちでぇす。いや、違うけど。
ああでも、現状第三者として戦場を観測しているという点では定点カメラみたいなところありますね、私。
目の前で重々しく腕を振り上げている巨大な石膏像のようなレヴナント。私の後ろですやっすやで寝てやがるロリおばさんが言うには、デュオニスとルシーラの二人の成れの果てだそうで。しかも名は【恋人】なのだとか。襲名制だったんかい、これ。
しっかし人の何十倍もある体躯って、それだけで脅威ですよね。わりかし非常識なことができる魔法という概念がある今世でも、そういうのは変わらない。まあだからカンタレラにももふもふ鴉モードがあるわけで。
幸いなのは、この化け物に知性は付随しなかったことだろうか。ざんねん!晦級に至る新人類の彼らに一歩及ばず。二人分の“魂”をもってしても良くて満月級くらいってのは皮肉と言っていいのか。英雄に憧れていたデュオニスはこの散々に対して泣く権利があると思う。死んでるから泣けるか分からないですけど。
んな分析もほどほどに済ませると、【恋人】は足元を見下ろして、ちょこまかと鬱陶しい蟻を叩き潰すかのごとく振り上げた腕を落とした。
凄い風圧だ。レヴナントとなった木っ端のケリュドアナ人たちが面白いぐらい吹き飛んでいく。さて、みんなはどうしてるかな〜?お姉さんが抜き打ちチェックをしてあげましょう!
ラウラはぁ〜……?おお、紫電を巧みに操って逆に【恋人】の眼前に近寄ってら。あのまま一発お見舞いする気でしょうか。
ナルシアは絶賛レヴナントである自前の膂力を使ってなんの策も講じず佇んでいる。贅沢だこと。
……んや?その横の
カンタレラは【被虐者の愛】による副次効果の血の操作を用いて、すぴすぴ寝てる瑛璻を守ろうとしてますねぇ。よっしゃ、いい子だ!
アンナとリコリッタは私の服の端を掴んで吹き飛ばされないように頑張ってる。……だは、必死すぎて顔がおもしろい。
「……たったの、
「────やる気十分ですねぇ、さすが主人公」
では最後。
エレオノーラが呟いた、「たったのそれだけ」という一言。比べてるのは、今や見る影もない【隠者】時代のカンタレラ、あの時強烈に漂っていた死の空気感だろうか。
下手をすれば、死ぬ。少しでも一手を読み間違えたら、死ぬ。初梅がこっそり耳打ちして教えてくれた当時の所感。「私がそうだったのだから、エレオノーラもそう感じたに違いあるまい」とかなんとか。
「ま、
晦級は周りの被害とか、自他を省みない狂気性のある者にしかなれない領域だ。それも、人間と意思疎通ができる知性を宿していながらも、ってところを忘れちゃいけない。
そんな狂気に身を委ねたことのあるカンタレラとナルシアは人間の側につくと決めた。守るものができてしまったのだ。
【恋人】にカウンター喰らわして手の甲ぶち抜こうとしてるナルシアはまだちょっと化け物側かな?みてーなところあるけど、まあギリ人間サイド。常識からは逸脱してるけど、ギリ人間サイド。レヴナントの身体まんべんなく利用してっけど、ギリ人間サイド。
反してカンタレラなんかもう、ねぇ?聖女的には嬉しいですよもちろん。めちゃくちゃ私たちに情が移っててもうこのカラスちゃんたら〜!って感じですけど、異能の使い方が守護する者のそれになっちゃってる。
体液を毒性のものに変えて、その毒の指向性を思いのままに操作することができる……。異能の効果だけ聞けばンだその無法って感じなんだけど。如何せん、「対人間」特化な異能ですよねぇ。
中途半端に痛覚が残ってるのなんか、雑魚か【太陽】みたいに痛みが気持ちイイ!ってタイプのドMレヴナントくらいしかいないんで。「対レヴナント」って焦点だと、カンタレラって弱いんだよな〜。よくできてるわぁ、タイプ相性。
「……毒って、さ。腐食性の液体も、捉えようによっては毒だよ、ねッッッ!!?」
ゆらり。身体をゆっく〜り揺らしたエレオノーラは、それを助走の合図として、すぐさま駆け出した。並行して、自らの血液から射出した毒を【恋人】の腕へと突き刺した。
小さな弾痕のような穴が石膏の表面にできる。滑らかな白い肌が、次第に黒ずみを作っていき……じわじわと広がっている。
「……あは。なんだ、硬そうなのに……案外脆い、ね?」
その穴と、穴から広がった腐食を抉るようにして、エレオノーラは先ほどのラウラがしてみせたように紫電を用いて空を蹴り跳躍した。
出来うる限りの火力をぶつけてやるつもりなんでしょうね、ラウラの紫電と初梅の花の香のブレンドエンチャントしてる。殺意たけ〜、全力で振りかぶってて。
「……ふっ、でかした! エレオノーラ嬢!」
「あら、残念。黒鳥に花を持たせたかったのだけど」
「気を抜くのは早いんじゃないですか?年長組さんたち」
付け根からぶっ壊せたと思った?実際ぶっ壊せたのはそうですね。でも、レヴナントですよ?今の今まで【恋人】がしてきたことってデカい図体にかこつけて、ただ腕を振り回してただけじゃないですか。
魔素由来の異能があるに決まってんじゃん、ねぇ?どうやらそれは核として使われたルシーラの黄色によるものらしい。思いっきり断たれた腕。小さな石屑の一つも落下してこないのは、なぜか浮いているから。
在るということに対しての、不可侵。【恋人】は分かたれることがない。二人で一つであるように、その身体全てが無くなることも。まあ、極大解釈をすれば……司る力の領分からは外れてはいないな。
つまり、地面を揺らすだろう堕ちゆく【恋人】の手はエレオノーラの一撃では止まらない。確定した事象のように、私たちを叩き潰そうとしてくる。
「あーあ、黒鳥の溜めを解除するからぁ。私たちぺしゃんこになっちゃいますよ〜?」
「私に嫌われたいのかしら?あなたの言う通りであれば、ぺしゃんこ寸前の死に際で?……おもしろい遺言ね」
「なら笑ってくださいよ。おもしろいと思ってないのにお世辞はやめましょ、ねっ?」
「笑わせてくれないのはあなたでしょう……」
晦級の連中に比べたら、この【恋人】がまあ弱いっていうのはなにもエレオノーラだけではない。私にだってそれは当てはまっていて、こうやって指を鳴らして聖杖を翳すだけで堕ちてくる巨大な手は自壊する。
なんでリコリッタには苦戦したのかって?そりゃマルチタスクに不調も重なってりゃあ、さしもの聖女も腕が鈍るってもんですよ!それともなにか?君らは私に代わってできるんですかぁ!?やってみそづけよ、ぺっ!
「貴殿が規格外であることは身に染みて理解しているつもりだが……むちゃくちゃが過ぎるだろう、これは……」
「この聖女さんのことを考えたら際限がないわよ。存在自体も、ふてぶてしさも、あらゆる全てが特異点だもの」
「おおっと、ナルシア殿の言う通りだな!私は私のできる事をするまでだッ!」
いいな〜。空を自在に駆けるたびに紫色の稲妻が走るのかっこいいな〜……。私も飛翔魔法使う時エフェクトでも発生する聖印を組み込もうかな?小さな白い光がさ、降り落ちてくるエフェクトとかどうすか?
え?風呂キャンも相まってそれはフケみたいだ?
…………。ふ、ふーん、言うようになったじゃん、やるね。ん゛んっ、とりあえず私の白色の魔素にあるパッシブ効果みたいなやつ。相手の魔素を中和する機能が働いて、存在への不可侵が保てなくなった。
これでもう片方のでけぇ腕は使えなくなったし、これと同じことをもう片方の腕にやっちゃってぇ……!って、ありゃ?
「気を抜くのはまだ早い、だっけ〜? レアレア、ボクにも言ってよソレ! ……いや、今のレアのほうがぴったりか! アハハ!」
「……あ、あー!よく鳴く鴉だなぁ!?……っあー、デュオニスって死んでもめんどくさい男なんですねぇ、ほんっともう!」
「これだったら、壊さない方がよかったね。燃え盛る火の腕は……切り刻んでも無くならなさそう」
やだなぁ。二属性持ちとかそういうのありなんですか?やめようよそういう希少性の押し売りは!エレオノーラだけで十分なの!複数属性を扱えるのは主人公の特権なの!
私は中和で私の身体に触れた瞬間デュオニスの火は霧散する。あんま関係ない。
私に次いでレヴナント組もちょっとあちいなくらいで大したダメージじゃない。ここもあんま関係ない。
「どーすんのさ、レア。ボクらはいいけどラウラとエレオノーラにはけっこーな負担だぜ?」
「じみ〜に戦力外のアンナたちにも影響あるんですよね、どーすっかなぁ……」
頭の中の『転化』恩恵リストを漁ってるけど、いまいちイイ感じの異能無いんだよなぁ。ここら一帯にまた膜張るように白魔素で覆っちまえばずっと中和し放題キャンペーン開催するんですけど……。
「聖杖」
迎撃支援してたのにわざわざ戻ってきてくれてありがとうね、よしよし。え?さっさと要件を伝えろ?なんなら聖印を通じて遠隔で操作できるだろ?うわっ、誰に似たのかふてぶてしっ!
いやいや、聞いておくれよ聖杖くんや!呼び出したのにはワケがあってね?君いま施してある聖印いくつよ?そうだよね、三つだよね!だからこれをこうして……ちょちょいのちょいってして……!
「昔こーいう杖をイジって『わたしのかんがえた最強のつえ!』を作るゲームありましたよね」
「んぁー、ボクの時代はゲーセンしか娯楽がなかったからわかんない!」
「私はそもそもゲームなんて高尚なおもちゃがなかったわ」
「えぇ……」
一つの聖印に何個かの聖印をぶち込む。これを最大容量の五つまで創る。んでもって、各五つとも別々の効果を付帯させて、【恋人】の腕のみに注力して対応させる。
このおかげで聖杖に暴れてもらうんで、荒業みたいな膜張りメッセをしなくてもいいってことよ!くぅー、レアさんあったまいー!
「エレオノーラ」
「なに、レアさん」
「あんまり背負いすぎずに、気楽にやりましょうね」
幼い彼女の目が見開かれる。一応触れて欲しくなさそーだったので言及しなかったけど、なんつー痛々しい四肢の傷だっての。皮が乾きつつまだ完全に剥がれておらず、無理に千切ったことの証明に、筋肉の引き裂かれ方が一定じゃない。
こんなことを年頃の女の子がされて、立ち上がれるはずがない。誰かがした惨たらしい仕打ちではない。彼女自身が、そうせざるを得ないと考えて行った、自虐の痕だ。
そこに込められているのは、やるせなさからくる怒りだとか。こんな動乱を巻き起こした人間に向けての憎しみだとか。そういった類いの、幼い少女が持つべきではないものだ。
「ほら、ちょっとこちらへ」
「……おこったり、する?」
「まさか! しませんよ、いっぱい頑張ったあなたにそんな酷いこと」
エレオノーラの異能からなる魔法。カンタレラの異能の模倣によって維持されていた血の手脚を優しく中和する。バランスを崩したエレオノーラが倒れ込みそうになったので、クソ細いくせにでけぇ胸を貸しつつ腕で抱き留める。
最近ヒーラーらしいことしてなくね?しようよ、流石に。傷痕一つない綺麗な腕と、脚を彼女に与えなきゃね。まずは骨。そこから神経。それを覆うようにして筋組織。最後に皮。
「こんなに血が固まって、赤黒くなって……痛かったでしょ? やるなって釘を刺してやらない娘じゃないのは知っています。でも、あなたが傷ついて悲しくなる人もいるってこと……覚えておいてくださいね」
「……ん、ごめん、なさい」
やべ、怒る気ないよって言ったのにお説教みたいなことしちゃったじゃん!更年期のおばさんみたいなむーぶ!私はまだ二十五だ!アラウンドサーティ!?うっせーそんな流行語しらねー!
再生は完了して、一応はもう自力で立てるはずである。が、もう少しこのまま休んでなということで、エレオノーラに労いのなでなでタイム。どっちかというと、猫カフェでマンチカンに癒される限界OLに近く、私のほうが癒されに行っている。
血しぶきでぼっさぼさ、枝毛もできてしまっているエレオノーラの毛流れを手櫛で整える。お?ちょいとだけど梳かれた形跡があるな。カンタレラか?
目を瞑って、気持ちよさそうに身動ぎするエレオノーラは殺気をバカすか放っていたとは思えん姿をしている。大変かわいいね、うむ。社会的体裁を保つためにロリコン疑惑を払拭しようと思ったけれど、もう認めようと思う。
よくないか?だって私今世では女だもの。犯罪にはあたらないよ。それにさ、私ってば死ぬほど見てくれがいいし!めちゃくちゃな美女とめちゃくちゃな美少女がキャッキャウフフしてるだけじゃん、なぁ!?
「……レア、さん。あの、も、もう大丈夫だから」
「んー、それはどうでしょう?ふふ」
「うわぁ、多感なお年頃の女の子をひっかけちゃって……」
「あら、ひっけられたのはあなたもではなくて?」
「うるさいよ、ナルシア」
聞いてくれ、久しぶりに書いたら話が動かなくて草なんや