人権ヒーラー(︎︎♀)に転生おじさん   作:春に木漏れ日

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5話

「面倒をみてくれるなら初めから言ってください」

 

「早とちりして先走ったのは其方だろうが。雲龍を愛してくれる者を俺は無下にせん」

 

 雲龍城、城内警備を任された上級僧兵が利用する屋外訓練場。食い気ばかりでは生きてはいけんとエレオノーラに説教という名の懇願をした私は、手っ取り早く日銭を稼げる方法を彼女に提示した。

 

 フォロス協界は大災禍が起こった後、各国の治安維持を目的に発足された中立組織である。彼らはどの国家に傾倒するでもなく、また行き過ぎた善行・悪行に加担するわけでもない。

 

 その絶妙なパワーバランスを保って数十年続いていることから、どこぞの国の財閥が私的に支援してるのでは?なんて噂もあるくらい背景が謎めいた組織だ。まあ、『冥魂』においては『協界レベル』とかいう報酬を手に入れるためのシステムでしかなかったが。

 

 さてそんな協界だが、今世ではそれらしい所を挙げればいわゆる冒険者ギルド的な立ち位置として成り立っている。レヴナントの脅威区分の制定、そこから実力に応じた協界員のランク付け。

 

 そして、霊廟域が無くとも疎らに存在し続けるレヴナントや、今や数は少なくなったが目撃情報はゼロではない魔物の討伐依頼など……協界の定めた規則は多岐にわたる。

 

 これらの討伐依頼には報酬金がある。もちろん主人公であるエレオノーラはピカイチの潜在能力(ポテンシャル)を持っているため、下手に中華屋の看板娘なんてするよかこっちでバカスカ化け物退治でもしたほうがいい。

 

 ここまで説明して、気になるところだろう。うまく突如現れた期待の新生協界員!的な活躍ができたのか。答えはノーだ。

 

 レヴナント時代の強さはどこへ行ったのか、へっぴり腰のへなちょこ協界員として依頼も達成できずに帰ってくることになった。構えた武器はすっぽ抜けてぶっ飛ぶ、子供でも少しは扱える魔素の操作もガタガタ。

 

 なによりまずいのは、レヴナントという敵を前にして恐怖で足が竦んでしまっていること。危うく殺されかけ、何度私が間に割って入ったことか。

 

 エレオノーラは私の期待に応えられないことに半泣きになりつつこちらを窺い。私はあれ?もしかして人に物事を教える才能なくね?と付き添いとしての適正が皆無であることにショックを受けて。

 

「二人して辛気臭い顔をしとるのぉ? どうした、俺に聞かせてみよ、ほうら」

 

 雲龍市民憩いの場、噴水公園のベンチにて黄昏れていたところを龍緋に拾われて今に至る。やはりがきんちょ、君主たる人間が下界に降りてくるとかいう破天荒ムーブは流石の私も肘付いていた足がガクンと落ちて、足首を挫きかけた。

 

 斯く斯く然々と、一部始終を聞き届けた龍緋は黙して頷き、少し逡巡して結論を出した。流石雲龍君主、自身の決めたことには責任を負おうとする気迫、並大抵のものではない。ただ金無し共が一攫千金を狙ったが、何も得れずに帰ってきたよ!という相談内容でしかないのに。

 

「地力が無いというのなら、まずはその地を固めるところからだろう。エレオノーラとやら。少々其方の根気が試されるが、着いてこれるか?」

 

「……大丈夫、です。 レアさんに恩を返したいから……私、頑張ります」

 

「その心意気や良し! では、我が雲龍城に参ろうか!」

 

 そして、私は冒頭の愚痴を零すのだった。

 

 

 

 龍緋は『冥魂』でプレイアブル化がなされなかった稀有なネームドキャラなのだが、まあ少し考えれば分かるクソシンプルな理由だったりする。

 

 ヒントだけ出して答えを言わないゴミ出題者です。どうも。まずヒント1。雲龍とは『冥魂』の第一章の舞台である。次にヒント2。雲龍陣営として実装されているのは龍緋の血の繋がらない妹、芽龍(メイロン)である。

 

 以上、各自各々で考察しまくってほしい。あ、これはヒントでもなんでもないが龍緋は私の次くらいに強い。暇だったので汗を流しながら鍛練しているエレオノーラの横で殺り合っているが、実装されていたらこいつも人権アタッカーであること間違いなかっただろう。

 

 赤属性の魔素を手の平で凝縮し、緋い魔素へと昇華させている龍緋。それを握り潰したかと思えば、訳の分からない方法で顕現させた頭のおかしい長さをした大太刀を既に構えていた。

 

「遊びにしては随分本気じゃありませんか? 訓練場(ここ)、壊れません?」

 

「この程度で崩れるような牙城であれば崩れてしまえよ。仮にそうであったならば、寧ろそんなものを受け継いできた歴史が恥ずかしくて仕方ないのう」

 

「ふふ、それは確かですね。崩れないように祈っておくといいのでは? 負け星にそれまで増えたら嫌でしょうし」

 

 龍緋がその大太刀の刃を右へ左へ逸らす度、その軌跡が陽炎のように揺らめいている。彼の技量もそこに上乗せされているだろうが、あれは大太刀が超高温で()えているから起きている現象。

 

 触れればたちまちその熱によって断ち斬られる。本来赤で留まるはずの魔素が緋という固有の魔素へと昇華したことで、お互いの出力勝負では勝ち目が無くなった……と普通の人間は思うだろう。

 

「いいでしょう。火力勝負といきましょうか、龍緋」

 

 残念ながら私は最強である。未知の緋属性?知ったことか。こっちだって白属性とかいう反則持ちだわ。

 

 聖印による展開で緋色を中和しながら貫くことのできる白属性の槍を演算する。押し合いに勝った方が勝ちの頭の悪きプライドバトルじゃあ!

 

「それでこそ友よ!」

 

 龍緋の期待通りの対応を見せたことで、嬉々として詰め寄ってくる。寄るって表現正しいか?瞬間移動だろもはや。

 

 まあもちろんぶつかり合うよ。そういう態度取りましたもん。でも忘れていないか?私はあくまでヒーラーで、攻撃は他任せだってこと。

 

 遠隔で演算していた聖杖の先が白く煌めく。自律(オート)で動いていることを初見で見破れるやつはいない。ので、その認識のズレをありがたく利用させていただく。

 

 がら空きの背中目掛けて、白の奔流をぶっ放す。このままだと構図的に私も喰らう羽目になるので、乗り物酔い以来改良した飛翔魔法で空に避けることも忘れずに。

 

「正々堂々なんてやるわけないでしょ。嫌だなあ」

 

「俺は嫌いじゃないがのぅ?」

 

 …………人力チートが。そのバカ長いリーチと身を翻した回転エネルギーを使って、白の奔流を大太刀の腹に沿わせて逸らしやがったな。

 

「普通この高さまで人は翔べないんですよ? 分かってます?」

 

「それは知らなんだ! では、俺も其方も人でなしということで違いないなァ!?」

 

 小手先の猫騙しは通用しなくなった。だりぃことこの上ないぞこの戦い。巧い返しをすればするほど喜んでボルテージが上がるし。

 

 できるだけ自前の……『転化』による恩恵無しで戦うのが筋だと思っていたが、使わないと負けるか……?

 

 やろうと思えば龍緋のように単色を更に濃い色へと凝縮することだってできる。晦級の一つ下、満月級にそういう異能持ちのレヴナントが居なかったわけじゃない。

 

 ん……?というか何をムキになっているのだろうか私は。別にここで良い感じに負けてヘラヘラと賞賛の言葉を取り繕ったって良いはずだが。

 

 あーあ、もう負けちゃおっかなぁ〜?不貞腐れた私はそんなことを思って展開していた聖印を解除し力を抜こうと、ふと訓練場の下────エレオノーラに視線をやると、目が合ってしまった。

 

 彼女のあのキラキラと宝物を見つけたような無垢な翠の瞳。あれは憧れの眼差しだ。私は知っている。前世とか関係なく……今世で同じものを。

 

 茨の聖女ドロテア・オルテンシアの……母のその神聖を目の当たりにした幼い私に似た、「私もああなりたい」と想う純粋な────。

 

「──ぐうっ!? なにが、起こった……!?」

 

「──初心に帰った気分です。私がなぜ聖女たらんとこの道を選んだのか。その源泉に」

 

 狡い真似はしない。それこそ『転化』で得た他人の笠を着るような狡い真似は。

 

 私の憧れたかつての母は自らの力で隣人を救おうとしていたではないか。では、私もそうあらねばならないだろう。

 

「……ふはっ! 訓練場を覆うほどの聖印! ここら一帯を其方(そなた)の魔素回路として用いる気か!?」

 

「ええ。そうでもしないと、あなたに勝てないので」

 

 認めよう。龍緋は私と同じ領域に人でありながら踏み入っている。だからこそ認めがたい。

 

 私は我が父がレヴナントに成り、私たちの元から消え去ったあの日……聖女として、そして一人の母として壊れてしまったドロテア・オルテンシアを超えねばならないと決意したのだ。

 

 普段はゴミみたいな性根で、何故だか知らんが今は貧乏修道女として情けない生活を送っているが────それでも私は(れっき)とした聖女なので。

 

「…………すごく、きれい…………」

 

 私が全身全霊を込めて演算した白魔法の領域に、そう漏らすエレオノーラの呟きが響いた。見ていなさい、エレオノーラ。

 

 右も左も分からない。自分の名前すら思い出せない。そんな少女が、見ず知らずの世界で喜楽ばかりを感じているわけがない。先の見えない不安に押しつぶされないわけがない。

 

 そんなあなたが、私の姿に憧れを抱いた。暗い暗い道のりに、一つの光明を見出した。それを……それを、そんな幼気(いたいけ)な希望をっ……!

 

 

 ────私の都合で、(かげ)らせてはならんだろうが!

 

 

 私の感情に呼応した白の領域は赤よりも緋い龍緋の大太刀さえ呑み込んで、無に帰す。それでもずば抜けた身体能力で徒手空拳に持ち込もうとする龍緋をすかさず白い聖輪で抑え、淡々と歩み寄る。

 

 悪ノリした私にも責任の所在はあるので、彼ばかりを責めるのはお門違いではある。しかし、ここには私を含めたバカ二人を咎めてくれる者は存在しない。なので、一つの大人のけじめとして私の手によって龍緋の頬を引っぱたいた。

 

 紅葉のように赤く腫れた頬。見る人によっては怜悧な印象を受けるだろう彼の目が大きく見開かれた。彼の頬を叩くのはこれが初めてではない。

 

 龍緋と芽龍。兄妹の仲が引き裂かれそうだったあのときも、周りを顧みず突き進もうとした龍緋を止めるために。

 

「エレオノーラの成長が目的であるのに、私たちが遊びすぎです」

 

「…………む。一理ある、な」

 

「エレオノーラ、今日はゆっくり休みましょう。また後日、改めて龍緋にこの場を借りさせてもらいますから」

 

「う、うん。……でも、レアさん。私、ほったらかしにされても嫌じゃなかった、よ?」

 

 きっと、それは嘘ではないのだろう。でも、本当でもないと思えてしまう。夕日が反射して、様々な濃淡を見せる金の髪を優しく手で梳く。

 

 あなたは寂しさを寂しさと呼べるだけの情緒を育めていない。親愛をあなたに示してくれたかつての家族(ホムンクルス)さえ、あなたは忘れてしまっている。

 

「…………いい子ですね、エレオノーラは。でも、私は私のしたことが嫌で仕方ありません。あなたを疎かにした。許されざることです」

 

 エレオノーラを抱きしめると、その細さが感触で伝わって胸が苦しくなる。年頃の女の子にしては栄養が行き届いていない。あれだけ食べ盛りなのも、これまでに与えられなかった栄養を得るための跳ね返りなのだろう。

 

「レアさんって、良い匂い。ぽかぽかして、あったかい」

 

「ふふ。エレオノーラ、鼻が詰まってますよ。私の匂い、絶対良い匂いじゃないですから」

 

「ん?其方まさか未だに湯を浴びさえしてな────んむっ!?」

 

 余計なことを言いそうになった龍緋の口を魔法で塞ぎ、エレオノーラにバレないようにさっさと帰ることにした。純真無垢な穢れを知らないエレオノーラのお陰で、私の風呂キャン聖女卒業は間近である。




ランキングに載れて嬉しいです。拙文ですが気張りすぎず、でも丁寧に物語を積み重ねていけたらなと思っています。頑張ります。
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